マンガ『怖れ -令和怪談-』作者と担当編集に聞く “令和”を舞台にしたホラーはどうやって生まれたのか?

マンガ配信サービス「サイコミ」で連載中のオムニバスホラー『怖れ -令和怪談-(以下、怖れ)』。CBCテレビで放送中の実写ドラマも好評で、毎週視聴者のみなさんの背中をゾクゾクさせているようです。今回は『怖れ』の作者・川上十億先生と、担当編集にインタビューを実施。「令和のホラーマンガ」が生まれたきっかけや、原作マンガと実写ドラマそれぞれの見どころ、制作中のエピソード、そして今後の展望などを聞きました。

作者川上十億
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宝塚大学東京メディア芸術学部卒業。エキセントリック小学生バンド4コマ『ギグガキ』(双葉社)でデビューした後、『踊る! 狂気のJKカーリーちゃん』(新潮社)、『だらけハヤブサとだらだら生活』(小学館)、『絶頂武闘伝バルト-バカでもなれる人類最強-』をリリース。現在、「サイコミ」にて『怖れ -令和怪談-』を連載中。
漫画事業部担当編集
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2018年、サイコミ編集部に合流。
『怖れ -令和怪談-』、『TSUYOSHI 誰も勝てない、アイツには』、『今どきの若いモンは』、『真説ゲームクリエイター伝』などを担当。

作品情報:『怖れ -令和怪談-』

令和を象徴するテーマを扱った現代オムニバスホラー。パパ活、SNS、ハラスメント、毒親など近年話題になっている事象をテーマに、どこにでもいる「普通」の人々が不意に遭遇する、身の毛もよだつストーリーが展開する。

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なぜ令和特化のホラーなのか?

まずは、あらためて『怖れ』のコンセプトや物語について教えてください。

川上 サブタイトルに「令和怪談」とあるとおり、令和ならではのホラーマンガがコンセプトです。ストーリーの中に令和のエッセンスを取り入れ、今の時代ならではのリアリティーを追求しています。

担当 オムニバス形式にしているのは、オチがあったほうが怖くなると考えたからです。川上先生と話し合って、毎話オチを付けることで満足度の高い作品を目指しました。

▲令和ならではのトピックを盛り込んだホラー作品『怖れ』。川上先生の公式Xで第1話を公開中です
▲第2話「踊る影」より
▲ 第47話「電動キックボード」より

どんなきっかけから本作が生まれたのでしょうか?

川上 どんな作品を描くか全く決まっていない最初期の段階で編集さんと打ち合わせをしているときに、アイディアの一つとしてホラーが出てきたんですよね。当時はまだサイコミでホラー作品がなかったので、挑戦したいと話したのがきっかけだったと思います。

担当 そうでしたね。川上先生は元々ギャグ路線の作品が多かったんですが、その話を聞いて何かピンとくるものがあったので、試しに怖い絵を描いてきてくださいとリクエストしたんです。そうしたら、期待以上の絵が出てきたので、ホラーでいこうと。

川上 ちなみに、そのときに描いた試し書きのカットは、単行本1巻~3巻のあとがきに載っています。

担当 そうですね。試し描きで終わらせるのはもったいないクオリティーだと思ったので、使わせてもらいました。

川上 作画についても、コミカルな路線ではなくリアリティーを追求するようにしていて、実写映画やドラマなどをたくさん見て作画に落とし込んでいます。なるべくマンガ的な誇張表現などは避けていて、背景の人の表情を描くときも崩さないように気を付けています。

▲連載開始のきっかけとなった試し描き。左から、1巻、2巻、3巻の単行本のあとがきにそれぞれ掲載されています

ホラーマンガが多々ある中でも、令和の社会に特化した作品は珍しいですね。「令和のホラーマンガ」として描いた理由はなんでしょうか?

担当 実は、最初から「令和」に絞っていたわけではないんです。ただ、ホラーマンガ自体は定番のジャンルなので、何か面白い工夫ができればとは思っていました。それで色々と考えた末、サイコミの『明日、私は誰かのカノジョ』や『私がわたしを売る理由』などでもテーマとして扱われている「パパ活」を取り上げて第1話を描いてみましょうという話になったんです。

そして連載の企画が通って、作品のタイトルをどうしましょうか、という話になって。すごく悩んだのですが、第1話の「パパ活」に合わせて「令和のホラー」というコンセプトに決まり、『怖れ -令和怪談-』が誕生しました。

川上 後にそのコンセプトがネタ探しの縛りになって、自分たちの首を絞めることになったという(笑)。

▲「パパ活」をテーマにした第1話

トレンドを取り入れるため
打ち合わせはニュースの話題から

『怖れ』にはパパ活や動画配信者、SNSなど、令和ならではのエピソードが次々に出てきます。こうしたテーマを描いていくにあたり、どのように情報収集をしているのでしょうか?

川上 ニュースやX(旧Twitter)のトレンドなどから着想を得ることが多いです。

担当 打ち合わせのときも、ニュースやまとめサイトなどを見ながら「今は何が流行っているのか」みたいな話から始まりますよね。

川上 そうですね。トレンドとして上がってくるものの中でも流行り廃りがあるので、その中から使えるネタを選ぶことに結構苦労しています。

担当 このネタは今話題になっていても、掲載する頃には沈静化しているんじゃないかとか、このネタは最近よく聞くようになったけど、流行りというにはまだ弱いのではないかとか。以前「盛らないSNS」のネタが候補に挙がったこともあったのですが、まだ知らない人が多いだろうということで、不採用になりました。

川上 正解はわからないですけどね。例えば睡眠ゲームアプリを取り上げた際は、掲載される頃に流行が終わっているかもしれないと思い、「ちょっと前に流行った~」という表現にしたんです。でも予想と違い流行が続いていて、読者のみなさんからは「今も流行っているだろう」というツッコミが入りました……(笑)。

担当 同じテーマを取り上げることはあまりないのですが、まれに複数回取り上げることもあります。第2話「踊る影」と第39話「友情」は同じショート動画共有アプリの話で、第2話は謎が明かされないまま終わっていたこともあり、第39話でその続きを描いていただきました。

川上 『怖れ』は基本的に1話完結なので、同じキャラクターもあまり出てこないのですが、読み続けてくれている方だけが気付ける要素として、過去に登場したキャラクターをひっそりと別の回に登場させることもあります。チラッと見えるポスターに映っているとか、本当にサラッとですけど(笑)。

担当 実は私も配信前には気付いていなくて、読者の方のコメントで初めて気付くこともあります(笑)。

あと、「ヤマカズ」だけは何度か主役で登場しています。彼はなぜか読者のみなさんからの人気が高いキャラクターなんですよね。

▲ヤマカズ(第5話「暴露系配信者」より)

原作で思い入れがある、または印象に残っているエピソードはありますか?

川上 第1話の「パパ活」はやっぱり思い入れがありますね。あとは、フリマアプリでの心霊現象をテーマにした第22話「令和都市伝説」が好きです。フリマアプリでとある出品手順を踏むと心霊現象に遭遇するという物語で、掲載後に思い立って検索してみたら実際にそのやり方で出品していた方がいて衝撃でした。これほど影響があるなんて、と思いましたね。

担当 私は宣伝トラックをテーマにした回ですね。いっとき足を使ってネタを探そうと思い、川上先生と新宿に繰り出したことがあって。ちょうどホストの宣伝トラックとすれ違って、これをネタにしようと話してできたエピソードです。短編のルポマンガのように仕上げていただいたので、思い入れがあります。

▲第22話「令和都市伝説」より
▲ルポ①より

お二方は怪奇現象と遭遇したことや、恐怖体験をしたことはありますか?

川上 別の取材でもこの質問を受けたんですが、私は霊感ゼロなんです(笑)。だから、ご期待に添えなくて申し訳ないですが、全くないです。

担当 私もそんなにないですが……。あ、でも呪物の展覧会に行ったことがあるのですが、その後、かなりひどく体調を崩したというのはあります。関連があるかどうかわかりませんが(笑)。

そういえば、以前、深夜の公園で川上先生と肝試しをしたことがあるのですが、そのときも幽霊じゃなくて虫と遭遇しましたね。ちなみに、チャットAIを使って肝試しをしていて、そのときのエピソードもマンガに登場しています。

▲第42話「肝試し」より
肝試しのコラム記事もサイコミで掲載中!

マンガ執筆中の思い出やハプニングエピソードがあったら教えてください。

担当 一つは、先ほど出てきたフリマアプリのエピソードですね。あとは……ハプニングではないですが、川上先生にお子さんが生まれて、連載中に生活スタイルが大きく変わったことでしょうか。

川上 確かに変化がありましたね。あと、印象に残っているエピソードで「お布施コメント」があります。

担当 ああ、ありましたね!「サイコミ」にはコインを付けてコメントを投稿し、作品を支持できる「応援」機能があるんですが、その機能を使って「お布施」とだけコメントを残していく方がいたんです。

川上 一時期怖いくらいの数のお布施コメントが付いたことがあって。応援なのか悪ノリなのかわからなくて、謎めいた行動がホラーマンガっぽくて面白いと思いました。

主人公が転生
オリジナルストーリーで展開するドラマ

続いて、実写ドラマについての質問です。ドラマはどのようなストーリーなのでしょうか?

▲ドラマ「怖れ」キービジュアル。主演を務めるのは若手実力派俳優・莉子さん

川上 原作は1話1話が独立した、主人公も各話で異なる完全なオムニバスですが、ドラマは主人公が転生しているという設定で、各話が繋がる構成になっています。莉子さんが演じる主人公・マユが、色々と怖い出来事に巻き込まれて死亡・転生を繰り返すというストーリーです。

第1話の映像を拝見したのですが、想像以上に怖く仕上がっていました。上手く実写ドラマらしい演出も入れてもらっていると思います。個人的にも今後の展開がすごく楽しみです。

担当 ドラマの展開はオリジナルの部分が多いのですが、ヤマカズやユクスルたちVTuberをはじめ、原作の要所要所をドラマに取り入れていただいています。

川上 リアリティーについては原作と近いものが表現されていると思います。救いのない世界観を意識して作られていると感じますね。

原作サイドとして、実写化にあたりこだわったポイントはありますか?

担当 こちらからはリクエストは特に出しておらず、完全にお任せしています。我々としてはドラマ化していただけるだけでうれしいので。
実はマンガも終章が始まったところでして、せっかくなのでドラマとマンガで連動して最終回のタイミングを合わせて、相乗効果で盛り上げていければと思っています。

川上 連携という意味では、マンガで過激なことをやってドラマサイドに悪影響があってもいけないので、あまり尖りすぎたネタは使わないようにしています(笑)。

マンガとドラマ
今後の展開はどうなる?

原作マンガについて、今後の展開や現在考えているテーマについて教えてください。

担当 今ちょうど終章を描いてもらっているところで、人気キャラクターのヤマカズがメインで登場します。とにかく最後まで怖い話にしたいと思っています。

川上 終章は『怖れ』では初の長編になるんですよ。ホラー好きな方に共感してもらえそうな要素をちりばめているので、楽しんでいただけたらと思います。

担当 長編なのでこれまでと違って毎話オチをつけられるわけではないのですが、毎話、何かしら怖い出来事を入れたいと思っています。先ほどお話ししたように、ドラマと同時に連載も終わる予定なので、ヤマカズに華を添えてもらう感じにしようかなと。

川上 ちなみにヤマカズは元々、とある暴露系YouTuberをイメージして描いたキャラなんです。ドラマ版では髙木雄也さんに演じていただいています。

担当 「サイコミ」のページでヤマカズが登場するエピソードに「髙木くんだ」のようなコメントをくださる方もいて、俳優さんの力ってすごいなとあらためて感じましたね。

▲髙木雄也さん演じるヤマカズ

最後にファンの方へメッセージをお願いします。

川上 原作を読んでいる方は、原作がドラマにどのようなかたちで活かされているか、どんなオリジナル要素が追加されているかが楽しめるポイントだと思います。ですので、その辺りをじっくりと、怖がりつつ楽しんでいただければ幸いです。私自身もいち視聴者として、読者のみなさんと一緒に楽しみたいです。

担当 そうですね。マンガとドラマを両方見て、相乗効果でより楽しんでもらいたいですね。あとは、終章でヤマカズがどうなるか、期待していただければと思います。

川上 ドラマもマンガの終章も、ヤマカズに注目いただきたいですね(笑)。ぜひ最後までお楽しみください。


放送情報:「怖れ」

マンガ『怖れ -令和怪談-』を原作に、パパ活やAI、ASMRなど令和を象徴するテーマを描く。主人公の溝口マユ役は、若手実力派として注目の俳優・莉子。演出を「Google Pixel」や「ユニクロ」など数々のCMやMVなどを手掛ける小山巧氏が担当し、アーバンスタイリッシュなホラー作品に仕上がっている。


■放送日時 :2024年8月15日(木)より、毎週木曜0時58分~1時30分(全10話)
■放送局 :CBCテレビ
■製作著作 :「怖れ」製作委員会(エイベックス・ピクチャーズ CBCテレビ)

ドラマ「怖れ」公式サイト

© Juoku Kawakami / Cygames, Inc.

© 「怖れ」製作委員会

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