アメリカの州立公園「ケンタッキーホースパーク」にて 日本の馬事文化展示に『ウマ娘』が登場!

2026年1月4日まで、アメリカ・ケンタッキー州にあるテーマパーク「ケンタッキーホースパーク(以下、KHP)」にて、日本の競馬、馬術に関する歴史・文化を紹介する企画展示「Uma no Kokoro(馬の心:日本の馬術の歴史と文化を讃える展示会)」が開催中です。この展示では、日本の競馬に関するコンテンツの一つとして『ウマ娘 プリティーダービー(以下、ウマ娘)』も紹介されています。
サイマガでは、この企画展示の様子をリポートするとともに、KHP国際馬博物館の館長で『ウマ娘』ファンでもあるEmily Lozonさんにインタビューを実施。『ウマ娘』を取り上げることになったきっかけや展示のこだわり、企画に込めた想いについて聞きました。
ケンタッキーホースパーク公式サイト(英語のみ)ケンタッキーホースパークとは
「人間と馬の関係」に焦点を当てた総合公園
ケンタッキーホースパーク(KHP)はアメリカ・ケンタッキー州にあり、約495ヘクタールもの広大な敷地を持つ、馬に特化した州立のテーマパークです。1978年に開園し、「人間と馬の関係」に焦点を当てた大規模テーマパークの先駆けとして、馬に関する教育・文化・競技の国際的な拠点となっています。


園内の牧場では引退した多くの有名競走馬が繋養されています。その他、馬と人間の歴史的な関係を示す展示スペースがある「国際馬博物館」や屋外馬術競技場「ロレックス スタジアム」、乗馬体験施設など、馬に関わる様々なエリアが集約されており、年間の来場者は約100万人に及びます。
このうちの国際馬博物館にて、2026年1月まで開催されている企画展示「Uma no Kokoro」の中に、日本の競馬に関するポップカルチャーの一つとして『ウマ娘』が紹介されています。

日本の馬文化の多様性と奥深さを伝える
「Uma no Kokoro」展示リポート
本展示は「Uma no Kokoro」というタイトルが示すように、日本人と馬の精神的な繋がりを中心テーマに据え、精神性、文化、軍事、競馬など多面的な視点から日本の馬術と馬文化を紹介する企画です。展示は英語と日本語の二か国語でされており、国際的な来場者にも配慮されています。


■歴史セクション
展示の入り口には、福島県相馬市で行われ、国の重要無形民俗文化財にも指定されている祭典「相馬野馬追(そうまのまおい)」に関するコーナーが設けられており、野馬追の中心的役割を果たす相馬三社の神旗や騎馬武者が使用する兜が展示されています。実際の行事の映像や「神旗争奪戦」に関する説明もあり、来場者に日本の馬文化を強く印象づける構成となっています。

入り口から右手のコーナーでは、5世紀から18世紀にかけての馬と人間社会の歴史が紹介されています。埴輪(はにわ)の馬頭や江戸時代の屏風(びょうぶ)、木製の鞍や鎧などの展示を通じて、日本における馬の多様な役割が示されています。

■文化セクション
続いて、日本文化における馬の精神的側面を紹介するコーナーでは、「絵馬」という言葉の由来を通して、馬が神道や日本文化においてどのような精神的役割を果たしてきたかが説明されています。

また、日本各地の馬にまつわる工芸品のコーナーでは、福島県三春町の三春駒(みはるこま)や青森県八戸市を中心に作られる八幡馬(やわたうま)、宮城県仙台市の木下駒(きのしたごま)などの展示が。背後には浮世絵師・鈴木春信の作品が飾られており、かわいらしい工芸品と伝統的な浮世絵が、訪問者にレトロな親近感を与えます。

続いて、「伝統行事」に関するコーナーでは、馬の引き手が着ている半纏(はんてん)と共に、岩手県盛岡市の伝統行事「チャグチャグ馬コ(うまっこ)」の説明パネルが展示されています。また、パネルでは「八戸三社大祭(はちのへさんしゃたいさい)」や「流鏑馬(やぶさめ)」なども取り上げられ、日本各地の馬にまつわる祭りや伝統行事における馬の役割が総合的に紹介されています。

■競馬セクション
明治時代の西洋式競馬導入の歴史から現代まで、日本競馬の発展が紹介されています。メジロマックイーンの1991年天皇賞(春)優勝レイ、オルフェーヴルの日本ダービー優勝レイ、ジェンティルドンナの2012年オークス優勝の馬着やトロフィーなどの展示品が並んでいます。その他にも日本競馬の歴史を築いた名馬たちが紹介されており、競馬ファンの来場者にとって感慨深い展示となっています。


この競馬セクションの展示の一部に『ウマ娘』に関するコーナーが設けられ、英語版PVやキービジュアル、パネル、グッズなどが展示されています。このセクションでは、伝統的な馬文化と現代のポップカルチャーの融合が示されており、若い世代の来場者の関心を集めています。


展示会には多くの来場者が訪れ、特に『ウマ娘』のコーナーは他の展示物と異なる鮮やかなエリアとなっているため、多くの人が足を止めて説明を読んだりPVを観たりしていました。KHPがあるレキシントンでは、現地の人々も日本のアニメ文化に親しみがあるとのことで、特に小学生くらいの子どもたちが『ウマ娘』の展示に注目している様子でした。一部のお客さまに感想を伺ったところ、「このようなゲームは、新鮮で良いアイディアだと思う」といったポジティブなコメントをいただきました。

お気に入りのウマ娘はハルウララ
博物館館長・Emilyさんインタビュー
続いて、KHP国際馬博物館の館長であり、今回の展示内で『ウマ娘』を取り上げることになった立役者でもあるEmily Lozonさんにお話を聞きました。
- ケンタッキーホースパーク 国際馬博物館 館長Emily Lozon さん
- ケンタッキーホースパーク「国際馬博物館」の館長として、展示・教育プログラム・収蔵品・アーカイブ・スタッフ・博物館の運営管理を担当している。
まずは展示について、「国際馬博物館」で『ウマ娘』に関する展示をすることになったきっかけを教えてください。
2023年、展示担当キュレーターであるNoaが日本の競走馬に関する展示を作りたいと提案してくれました。私たちはこの数年間、博物館全体の再設計に取り組んでおり、リニューアルしたスペースを飾る国際的な展示が必要だと考えていたんです。



私たちの使命は、世界中の歴史を通じて育まれてきた人と馬との絆をたたえることです。馬との深い関わりを持ち、世界中で多くのチャンピオンを輩出している日本に焦点を当てた展示は、我々の使命にぴったりだと感じましたし、新しい企画展としても完璧なテーマでした。
本展示では「馬がどのように日常生活に溶け込んでいるのか示すこと」を一つのテーマとしました。馬を所有したり、乗ったり、実際に見ることがなくても、人々は馬と繋がりを持っています。『ウマ娘』は、この考えを具現化する完璧な例です。競馬の世界を全く異なる観客層に紹介してくれるからです。
Emilyさんも『ウマ娘』がお好きだと聞きました。『ウマ娘』をどのようにして知ったのでしょうか。最初の印象はどうでしたか?
とても素晴らしいと思いました!最初に、先ほどお伝えした展示担当キュレーターのNoaが『ウマ娘』のアニメを紹介してくれました。私は当時、日本の競馬やアニメには詳しくありませんでしたが、Noaは熱心なゲーマーでアニメファンです。私も、『ウマ娘』のかわいらしいキャラクターと、そのキャラクターが実在の馬に着想を得ているというアイディアに惹かれました。
まず最初にアニメを観て、最近になって英語版のゲームをダウンロードできました。アニメはとても面白く、よく作り込まれていて、複雑で共感できるキャラクターたちによる素晴らしいストーリーテリングが魅力です。お話が非常に綿密にリサーチされていて、実際のレースにインスピレーションを得たストーリーやキャラクターが正確に反映されていることに感銘を受けました。
ゲームも覚えるのが楽しく、プレイするのもとても面白いですし、お気に入りのキャラクターたちに会えるのがうれしいです。『ウマ娘』は競馬を新鮮で独創的な方法で表現していて、幅広い人々に親しみやすい作品になっていると思います。

Emilyさんのお気に入りのウマ娘キャラクターとその理由を教えてください。
ハルウララが私の絶対的なお気に入りですが、ゴールドシップも好きです。
『ウマ娘』のアニメを見始めたとき、ハルウララの明るい性格と楽観主義が私に響きました。圧倒的不利な状況でも競い続け、希望を失わない姿は称賛に値します。彼女は本当に素晴らしいチームメンバーです。ゴールドシップの行動も面白いですね。彼女はアニメの背景によく紛れ込んでいて、見つけるのには細心の注意が必要です。
そして実在の馬を知ると、彼女たちがなぜそのような振る舞いをするのかルーツがわかります。アニメで実在感がとても巧妙に表現されていますよね。
博物館のスタッフや地元の競馬ファンは『ウマ娘』についてどう思っていますか?
スタッフ全員でアニメ『ウマ娘』を一緒に鑑賞し、それぞれお気に入りのキャラクターやエピソードができました。おそらく私以外のスタッフ全員がすでにアニメファンだったと思います。ポップカルチャーをこれほど大規模に展示に採り入れるのは初めてのことだったので、スタッフにとっても新しく、楽しい体験となりました。

地元の多くの方々はまだ『ウマ娘』に馴染みがないようですが、アニメ好きのコミュニティーの中では関心がある様子が見受けられます。博物館のお客さまの反応は良好で、ポジティブなフィードバックをもらっています。
『ウマ娘』のようなポップメディアが競馬文化の一部としてどのような役割を果たすことを期待していますか?
競馬がエリートや裕福層だけのものだという考えを打破し、より広い観客層に身近な文化として感じてもらえる可能性に期待しています。すでに『ウマ娘』を通じて、これまで競馬に興味を持たなかった新しいファンやサポーターの誕生を目にしています。また、サイゲームスさんが引退競走馬のための資金支援を行っていることは、非常に励みになります。このサポートが引退後の馬たちの福祉にも広がり、さらに支援が増えることを期待しています。
この展示で来館者に伝えたいメッセージはなんですか?
私の最終的な目標は、来館者が博物館を訪れた際に馬と人間の関係について新しいことを学び、記憶に残る何かを持ち帰ってもらうことです。特に、馬が日本とその歴史に与えた深い影響について、深く理解していただきたいと思っています。もちろん、楽しんでもらうことも大切です!

最後に、Emilyさんから『ウマ娘』ファンのみなさんに伝えたいことはありますか?
『ウマ娘』ファンのみなさんには非常に感謝しています!みなさんの情熱とコンテンツへの献身、そしてそれが生んだ人気のおかげで、私たちは展示に『ウマ娘』を加えることができました。この展示セクションは、『ウマ娘』ファンのみなさんと一緒に楽しむための空間です。みなさんがこの展示を私たちと同じように楽しんでくれることを心から願っています。ぜひ博物館に足を運んで、『ウマ娘』が競馬や馬の歴史の大きな文脈の中でどのように位置づけられているか、直接見て体感していただきたいです。

『ウマ娘 プロジェクト』から
最後に、今回の『ウマ娘』の展示担当スタッフにもお話を聞きました。
ケンタッキーホースパークからお声掛けをいただいたとき、どのように感じましたか?
当時、『ウマ娘』はまだ日本を中心としたコンテンツで、お恥ずかしい話ですが、担当の私も海外の競馬・馬事文化についてあまり知識がなかったので、「一体どういうところからお話をいただいたのだろう」と調べるところから始まりました。調べてみるとケンタッキーホースパークは1978年にオープンした歴史あるテーマパークで、広大な敷地の中に名誉ある国際馬博物館も設置されており、「すごい施設からお話を頂戴してしまった」と驚きに変わりました。『ウマ娘』の海外での展開を視野に入れていたこともあり、「展示していただけるならぜひお願いしたい」という気持ちで取り組みを始めたのを覚えています。
「どうして日本の『ウマ娘』を取り上げていただけるのか?」ということは疑問に思っていましたが、実際にEmilyさんのお話をお聞きし、日本で『ウマ娘』のグッズをご購入していただけるほどご興味を持っていただいていたとお伺いして、非常にうれしく思いました。
実際に展示を観てみていかがでしたか。
色々な意味でとても目立っていました(笑)。「国際馬博物館」では、競走馬の歴史(さらには競走馬になる以前の馬と人の歴史)から近代競馬の展示まで、様々な角度での展示がされているのですが、『ウマ娘』の展示コーナーはビジュアル的にも異色でしたし、デジタルなコンテンツの展示物なので他の展示とは雰囲気もガラッと変わっていました。展示ブースの上部壁面には等身大の3~4倍ぐらいはありそうなポスターも飾っていただき、迫力もすごかったです。
そのような掲示に驚くと同時に、これだけ他と違う内容にも関わらず、日本の競馬、馬事文化の歴史の中の一つとして取り上げていただけたのは、本当に名誉なことだと感じました。競馬業界のご協力はもちろんのこと、『ウマ娘』の開発スタッフが競馬史に対して誠意をもって作り上げたコンテンツだったからこそ、ここで取り上げていただくことができたのだと、感慨深く思っています。今回の企画展の中で一点大きな共通点も感じましたが、それはきっと馬への愛だと思います。
ファンのみなさんに向けて、メッセージをお願いします。
『ウマ娘』は、2025年6月26日に英語版の配信を開始いたしました。ここまでコンテンツが成長することができたのは、ファンのみなさまのおかげです。みなさまが『ウマ娘』を愛し、競馬という文化を愛し、盛り上げてくれたからこそ、『ウマ娘』は世界に羽ばたくことができます。『ウマ娘』チームはこれからも素晴らしい競馬の歴史をゲームという形に昇華させ、みなさまに楽しんでいただける、愛されるコンテンツを作っていきたいと思います。これからも応援いただけますよう、よろしくお願いいたします。

以上、ケンタッキーホースパークで開催中の企画展「Uma no Kokoro」についてお届けしました。
本企画展示は2026年1月4日まで開催中です。また、常設展では馬の進化と人類との関わりを世界各国の文化や歴史を通して紹介しています。
日本から簡単には行けない距離かもしれませんが、ケンタッキー州に行く機会がある方はぜひ「国際馬博物館」にお越しください。
企画展「Uma no Kokoro」開催概要
■開催場所
アメリカ・ケンタッキー州レキシントン
ケンタッキーホースパーク 国際馬博物館
■開催期間
~2026年1月4日(日)
※営業時間や定休日などは公式サイトをご確認ください
■入場料
ホースパークの入場料で展示も閲覧可能
メインシーズン:2025年3月19日~11月2日
大人(18~61歳):$28 / シニア(62歳以上):$23
学生(5~17歳):$14 / 子ども(5歳未満):無料
※11月3日以降はウィンターシーズンの料金となります。詳細は公式サイトをご確認ください