親への復讐心から卓球を!?『スリースター』【ヨミコミ!サイコミVol.9】
サイゲームスがお届けしているのは、ゲームだけではありません。マンガ配信サービス「サイコミ」にて、数々の作品を連載しています。サイコミ編集部がおすすめするマンガの魅力に迫る連載「ヨミコミ!サイコミ」第9回は、過酷な英才教育を受けた主人公が親への復讐心から卓球に向かうスポーツマンガ『スリースター』をご紹介します。担当編集者に作品の見どころを聞きました。
※記事内に作品のネタバレを含みますのでご注意ください
【あらすじ】
「僕にとっての卓球は、復讐の道具となった」。親の期待を一身に背負い卓球に没頭する日高司。しかし、その期待はいつしか強圧的になり、父は毒親化。プレッシャーに耐え、卓球を続ける司。迎えた小学生最後の大会。過酷な練習により蓄積された疲労が爆発し左足に大ケガを負う。それでも卓球を続けさせようとする父に母は激怒。父が選んだ道は離婚だった。未だ卓球に支配される父へ、司は卓球での復讐を決意した――。
卓球は父への復讐道具
英才教育の光と影
『スリースター』は主人公の司が父への復讐のため卓球に向かうので、いわゆる「スポコン」とは異なる作品に見えます。編集者として、このマンガの第一印象はどうでしたか?
「普通」のスポーツマンガではないなと思いました。子どもの頃のケガで卓球から離れていた高校生の司は、家を出ていった父が全国レベルの高校で卓球部の監督をしていることを知ってしまいます。
父のチームに勝つことで、父の卓球人生を否定する。そんな闇深い気持ちで動く司を、いち読者としてなぜか応援したくなるんですよね。作者の加治佐 修先生は「ストーリーの構成力」と「感情の表現力」が豊かな作家さんで、第1話がよくできているからこそ読者が司に感情移入できるのだと思います。
第1話「15の春」で印象に残っているシーンはどこでしょうか。
司の幼少期の回想で、行き過ぎた英才教育をする父親が「卓球やりたいって言ったのはおまえだからな?」と司に高圧的に迫るシーンです。司が卓球を始めたのも父の影響ですし、子どもの意思とあまり関係ない感じは英才教育のリアルなのかもしれないなと思いました。
確かに絶対的存在な父親が怖くて、自然と司に寄り添った目線で読んでいました。英才教育の光ではなく、影に注目したような作品ですね。
そうですね。世界で活躍した卓球選手が子どもの頃に泣きながら練習している映像を見たことがある人も多いと思います。
良い悪いではなく、卓球の英才教育にはスパルタな面もあるのかなと。ただ、厳しい訓練をしても脚光を浴びる選手はほんの一握りで、努力が報われずに日の目を浴びない人もいます。
『スリースター』は加治佐先生が卓球経験者で、そういった卓球の影の部分も描いていこうと始まりました。
「日高司」と「水野司」で葛藤
復讐と楽しさの板挟みに
司は卓球に復帰するため手術を受けるものの、リハビリでずっとプレーができません。卓球マンガなのに、100話近く主人公が公式戦に出ないところが『スリースター』の特徴ではないでしょうか。
それは編集者としても思いますね。練習試合っぽく少し打ち合う場面はあったものの、よく主人公に卓球させずにここまで連載できているなと(笑)。編集者の目線からいうと、第二の主人公ともいえる白金が読者のみなさんを飽きさせない存在になってくれていると感じます。
司は自分がプレイできなくても、白金に指南することでコーチングの面白さに目覚めていきます。司にとって白金は、初めて「卓球が楽しい」と思わせてくれた存在ですよね。
その通りですね。白金は復讐心に燃える司を光のほうへ引っ張っていく存在です。今後もますますそんな存在になっていくと思います。
白金に関して印象に残っているシーンはどこでしょうか。
白金のデビュー戦です。第22話と第23話で、苦戦している白金に司が客席から声をかけ、白金の調子が戻っていくシーンがあります。コーチとしての司と、プレイヤーとしての白金が相互に絡んで共に成長していく場面なので印象的でした。
卓球部に所属し、司は純粋に卓球を好きになっていきます。ただ、前向きになればなるほど「復讐」という本来の目的を思い出そうとするので心が痛いです……。
そうなんですよね。実は加治佐先生と打ち合わせするとき「日高司」と「水野司」を差別化しています。父への復讐心に燃えているのが旧姓の「日高司」、卓球を好きになっているのが「水野司」という感じです。
部活をしながら司が純粋に卓球を楽しいと思い始めているタイミングが、「水野司」のピークなんですよ。そのあとは母親が倒れて司が精神的に追い込まれ、再び父への復讐に向かう「日高司」になっていきます。
司が公式戦に復帰
司 VS 白金
復讐心に雑念が入るため、司は卓球部を去ります。公式戦に復帰し、白金と対戦する展開が「熱い」ですね。
第90話で、部活を去った司に白金から宣戦布告をしたので、読者のみなさんも「この2人は戦う運命なんだな」と薄々感じてくださっていたのではないかと思います。
「日高司」をどうやって「水野司」に戻すかは加治佐先生としっかり話しましたね。並大抵のことでは司の考えを変えられませんから。
白金との試合中、司は過去のトラウマがよみがえって父親の影に怯えます。第109話で、そんな司を対戦相手の白金が救い出してくれる場面は胸を打たれました。
復讐に向かう司を母でも止められなかったし、もう誰が司を救うかといったら白金しかいないんですよね。
どうやって司を心変わりさせるかについて、加治佐先生との打ち合わせで「前の白金との会話に絡めますか」という話になりました。そこで挙がったのが第7話で司が白金を卓球部に勧誘する場面でした。白金にボールを投げて、「星は見えた?」と司が問いかけていたので、今度は白金から投げ返そうと。あそこから、司は自分を取り戻していきます。
司と白金戦は特に、読者の方々からの反響を楽しみにしながら作っていたそうですね。
はい。サイコミのコメント欄を拝見すると、司を応援している方と白金を応援する方に分かれていて興味深かったですね。司派は「白金を倒して復讐に向かってほしい」、白金派は「闇落ちした司を救ってあげて!」という感じで、読者のみなさんも盛り上がってくれていたのでうれしかったです。
2年生に向けて
新キャラが登場?
司と白金の試合に決着がつきました。今後の展開は?
試合を終えて司がどういった選択をするかはまだ言えませんが、2年に向けてみんな練習に励むことになるでしょうね。新キャラの登場にご期待ください。
あとは司が復讐を忘れられるのか、白金とどんな関係を築いていくのかに注目していただきたいです。
読者のみなさんにメッセージをお願いします。
担当編集者として、「最高の卓球マンガ」だと思っています。老若男女を問わず楽しんでいただける内容なので、友達や家族におススメしてもらえるとうれしいです。
また、サイコミのコメント欄を加治佐先生も私も拝見していて、いつも励みにしています。今後も「面白かった」「このキャラが好き」など、応援よろしくお願いします。
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