個性豊かな『ウマ娘』会話シーンを実現する「スクリプター」の仕事とは?
ゲームのアドベンチャーパートは、ストーリーだけでなくキャラクターの個性や感情を伝えるゲームの重要な要素です。『ウマ娘 プリティーダービー(以下、ウマ娘)』では、「ストーリー」「育成会話」において、それぞれのウマ娘に合わせた動きや表情でリアルな会話シーンを実現しています。個性豊かなウマ娘たちにより愛着を持っていただくため、どのように会話シーンを制作しているのか。スクリプトチームのリーダーに聞きました。
- プランナー スクリプトチームリーダーマサキ
- ゲーム会社でスマホゲームの運用プランナーとしてシナリオやイラストの発注などを担当し、2018年にサイゲームスに合流。『ウマ娘 プリティーダービー』スクリプトチームのリーダーとして、会話シーンの制作や監修を担う。
1500種類以上のモーションから
会話シーンを演出
まずはスクリプターがどのような役割を担っているのか教えてください。
スクリプターは、シナリオ、キャラクター、モーション、サウンド、イラストなどの要素を組み合わせて、キャラクターがしゃべったり動いたりする「会話シーン」を制作するのが役割です。『ウマ娘』の開発チームでは会話シーンと呼んでいますが、ゲーム業界では「キャラ劇」や「アドベンチャーパート」といった呼び方をするプロジェクトもあります。
スクリプターの仕事は、料理人に近いと思っています。シナリオというレシピがあって、それに合わせてキャラクターやモーションなどの材料を組み合わせて一つの料理を作り上げていくといった工程が似ているためです。
会話シーンを通して、トレーナー(※)のみなさんにウマ娘一人ひとりを知っていただき、より愛着を持ってもらいたいという想いでスクリプトを制作しています。
※ トレーナー……『ウマ娘』では、プレイヤーの方が「トレーナー」となってトレセン学園に通うウマ娘を育成します
スクリプトチームは、どのような体制になっているのでしょうか。
職種はプランナーとなります。それぞれのプロジェクトにプランナーがおり、その中でも主にスクリプト制作を担当するメンバーをスクリプターと呼んでいます。『ウマ娘』のスクリプターの場合、実際にスクリプトを制作するスタッフ、スケジュール調整や担当の割り振りなど制作管理を行うスタッフ、スクリプトの演出を監修するスタッフがいます。
会話シーンができるまでの流れを教えてください。
まずシナリオライターからシナリオを受け取ったら、その会話シーンで必要になるモーションの案出しや発注を行います。同時にボイスデータ収録が行われていますので、全ての素材が揃ったら会話シーンのスクリプトを組んでいく流れになります。
会話シーンが一通りできたらスクリプターの監修者が演出のクオリティーをチェックし、最終的にはシナリオチームにもチェックしてもらっています。実際にシナリオを書いたライターにも確認してもらうことで、執筆時のイメージにできる限り近い演出を目指しています。この他、並行してデバッグも進行しており、不具合の対応等も順次行われます。
モーションは1500種類以上あると聞きました。既にあるモーションの組み合わせだけで会話シーンが完成しそうな印象ですが、実際のところはどうですか?
もちろん既にあるモーションでも制作は可能です。しかしウマ娘との物語は千差万別なので、シナリオに合わせて新たにモーションを追加することが多いです。また、ウマ娘にはそれぞれ専用のモーションがあるので、新たなウマ娘が登場するたびに、その子に合わせたモーションも制作しています。
どんどんモーションは増えていっているわけですね。普段、どんな部署や職種のスタッフと連携していますか?
スクリプトに関わるすべてのスタッフと連携を取る必要があるので、かなり幅広いです。シナリオライターやプランナー、3DCGアーティスト、イラストレーター、エンジニア、デバッガー……この他にも、『ウマ娘』のメインストーリーは、アニメのようにカメラワークをつけるので、アニメーションデザイナーともやり取りがあります。スクリプト自体がゲーム内のあらゆる要素を集約して作るものなので、おのずといろんなスタッフと関わることが多くなります。
直感的なスクリプトを可能にした
会話シーン専用エディタを開発
『ウマ娘』の会話シーンは、メインストーリーやウマ娘ストーリーのような横画面で展開するものと、育成イベントのような縦画面のものがあります。横画面と縦画面のスクリプトを作る上で違いはあるのでしょうか?
縦画面の育成イベントは、そのまま「育成会話」と呼んでいます。『ウマ娘』は育成ゲームなので、ゲームのテンポを悪くしないよう、育成会話は最低限の演出を心掛けています。横画面のメインストーリーやウマ娘ストーリーは、物語をより丁寧に描写し、ウマ娘それぞれに寄り添った演出を目指すため、自由度を高めて制作しています。
ウマ娘ごとに固有のモーションを発注しているとのことでしたが、特にトレーナーのみなさんから反響が大きかった事例はなんでしょうか。
最近だと、ネオユニヴァースを話題にしていただきました。腕を上げながら宇宙と交信しているようなモーションは彼女固有のものです。ウマ娘たちと会話できるホーム画面でもネオユニヴァースは宇宙と交信しているポーズをしているので、「腕を上げているだけで面白い」といった声をいただきました。
ネオユニヴァース独特の動きに彼女の個性が出ていますね。新しいモーションはスクリプターから提案するのでしょうか。
そうですね。シナリオライターから「このウマ娘はこんな性格で…」といった話を聞いたり、場合によってはウマ娘ストーリーのシナリオにも目を通したりして、そのウマ娘に似合うモーションをこちらから提案しています。
会話シーンを作る中で、いつも意識していることはなんですか?
『ウマ娘』のスクリプターとして意識していることの一つは、リアリティーとアニメらしい表現の両立です。スクリプターは、演出を用いて、ウマ娘たちの「実在感」を高めることを目指しています。
画面の前の自分と同じように、ウマ娘たちは息をして、悩みながらもそれぞれの思いを抱えて走っている。その様子をトレーナーのみなさんにより鮮明に伝えたいと思っています。極端な例になりますが、おどおどして弱気な性格の子があいさつをするとき、大きく元気に手を振っていたら違和感を抱く人もいると思います。
日常生活でそこまで考えることはあまりありませんが、私たちが普段無意識に行っている動作を、ゲームの中では意識的に演出すること。それが「実在感」に繋がると考えています。スクリプトを制作するうえで、その点は非常に気を配っている部分です。
それと同時に、ウマ娘たちはアニメ調の可愛い容姿をしているので、アニメチックな表現も非常によく似合います。例えば「うまぴょい伝説」中に流れる目が横一文字になるような表情や、くの字型の目などが該当します。「実在感」を高めるためのリアルな演出を基本としながら、アニメや漫画っぽい表現を用いた演出も取り入れることで、ウマ娘たちのいろんな表情を魅せることも、スクリプターが目指しているものの一つです。
『ウマ娘』の会話シーンができる流れは前段で聞きましたが、具体的にはどのように制作しているのでしょうか。
『ウマ娘』の場合、サイゲームスが独自に開発した「会話シーン用エディタ」を使っています。このツールで、モーションや表情、背景、BGM、エフェクトなど、会話シーンにおけるすべての演出を設定することが可能です。
元々、スクリプトは専用のコードを書く必要があり、画面上でどんな演出になるかは想像力が求められました。しかし、専用ツールを使えば動画編集ソフトのようにタイムライン上で直感的にスクリプトを制作することができますし、設定した演出をリアルタイムで映像として確認することもできます。専用ツールがあることで、未経験者の方でもウマ娘たちの魅力を最大限に引き出せる環境になったのではないかと思います。
ウマ娘に愛着を持って
スクリプターに求められるもの
スクリプターに必要なスキルや、求められる資質はなんでしょうか。
スキルについては、恥ずかしながら合流当初の私は専門的な知識や技術を持っていなかったので、未経験の方でも心配せずに挑戦していただきたいと思っています。
求められる資質については、私自身も常に意識している点を3つご紹介させていただければと思います。一つはアニメや漫画、ドラマや映画など、エンタメにアンテナを張る姿勢を持つことです。スクリプターとしては、広く浅くでも良いので、色々な性格のキャラクターを知っているときっと役に立つと思います。
二つめは、素直さです。表現に正解を出すのは難しいので、目指す演出の方向は十人十色です。ものづくりの現場において、意見がぶつかることはよくあります。そんなとき、「自分はこう思うから」と頑なになってしまうと、その時点で表現の幅は本来目指せるものより圧倒的に狭くなってしまいます。他人の考えを尊重しつつ自分の目指したいものも達成する。その方法を模索できる素直さは非常に重要だと考えています。
最後は、いろんなことを掘り下げる姿勢です。一つめの「エンタメにアンテナを張る」と少し関連するのですが、物事に対して、更に一歩踏み込んで考える力…と自分は考えています。例えば好きなキャラクターに出会った時に、もちろん漠然と『好き』の感情を持っているのでも十分なのですが、「自分はなんでこのキャラクターが好きなんだろう」、「自分はどこに惹かれたのだろう」と一歩踏み込んで理由を掘り下げるだけで、そのキャラクターへの理解度は格段に変わっていくと私は考えています。
『ウマ娘』のスクリプターは、1500種類以上のモーションからそれぞれのウマ娘に似合う動きを選んで演出を付けなければいけません。そのとき「どうしてこのウマ娘にはこのモーションが似合うんだろう」という考え方や、逆に「このモーションはこういう理由からこのウマ娘に似合いそうだ」という発想ができるかどうか。些細なことに疑問を持って理由を掘り下げていく姿勢が、演出の可能性を広げていく鍵になると思っています。
『ウマ娘』のスクリプターは、どんな経歴を持ったスタッフが集まっていますか?
デバッガーやプランナーなど、元々ゲーム業界にいたスタッフが多いのですが、逆に前職でもスクリプターをしていた人は珍しいです。ゲーム業界以外だと、銀行員や警備機器の点検・設置を行っていたスタッフ、あとは地盤調査をしていたスタッフもいます。
未経験の場合、研修など育成の場はあるのでしょうか。どのように現場に入っていくのか、合流後の流れを教えてください。
どの職種でも、サイゲームスの会社全体に関することをお伝えする研修があります。その後、『ウマ娘』のスクリプターに関しては、会話シーン用エディタの使い方を覚えていただくのが最初の業務になると思います。それから実際に『ウマ娘』のスクリプト制作に入っていきます。
具体的にお任せするスクリプトはご本人の希望と適正に応じて変わることもありますが、縦画面の育成会話から作成していただくことがほとんどです。育成会話を作ることで、モーションや表情といったウマ娘の個性を掴むことができ、スクリプト制作が実践的に身に付いていきます。
スクリプターには、どんなキャリアパスがありますか?
職種としてはプランナーになるので、スクリプターからプランナーとしてキャリアを積んでいく人が多い印象です。他にはスクリプト制作の経験を積み、ゆくゆくは監修者やリーダーになるという、スクリプターとして突き詰めていく道もあります。私自身、プランナーとしての経験を積んでみたいと思いつつ、スクリプトを作るのが好きなので悩みどころではありますね(笑)。
あらためて、どんな方にご応募いただきたいですか?
一番はウマ娘たちに愛着を持って、ウマ娘それぞれの個性を表現したいという気持ちの強い方です。私自身、元から専門的な知識や技術を持っていたわけではありません。それらは後からでも身に付けることができるので、まずはやっぱりウマ娘を好きでいてほしいですね。
トレーナーのみなさんに愛着を持っていただくためには、ウマ娘にどんな魅力があるのかをスクリプターが知っていなければなりません。自分自身も一人のトレーナーとしてウマ娘を好きになることから、スクリプターの仕事が始まるのだと思っています。
以上、スクリプターのインタビューをお届けしました。
サイゲームスでは、一緒に働く仲間をお待ちしております。興味を持っていただいた方は、ぜひ下記のリンクをチェックしてください。
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