「ウマ娘と二人三脚で夢を叶える喜びを」 アートディレクターが語る「ウマ娘の実在感」の描き方

アニメやマンガ、音楽などさまざまな展開を行ってきたクロスメディアコンテンツ『ウマ娘 プリティーダービー(以下、ウマ娘)』。ついにリリースされたゲームの開発秘話を、アートディレクターに直撃取材!“ウマ娘”という存在を輝かせるためのこだわり、「競馬」という競技に対する開発陣の想いなど、さまざまな話を盛りだくさんでお届けします。

『ウマ娘 プリティーダービー』 アートディレクタータクム
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2014年入社。『プリンセスコネクト!Re:Dive』の開発を経て、2018年から『ウマ娘 プリティーダービー』のプロジェクトに参加。現在はゲーム全体のアートディレクションを手がける。

開発の軸は「実在感」
ウマ娘と一緒に成長する、胸の熱くなるタイトルを目指して

実在の競走馬をモデルにした女の子たちが、全速力のレースを繰り広げる本作。プロジェクト全体で大切にしていたコンセプトはありましたか?

色々ありますが、「実在感」をしっかり表現することを念頭に置いていました。

「実在感」ですか。それは一体どういうことでしょうか?

『ウマ娘』は、ウマの耳と尻尾を持つ女の子が実名のレースを走ったり、ライブで歌って踊ったりという設定や見た目が特徴的なコンテンツですが、その裏に存在する彼女たちの友情や努力といった日常を丁寧に作り込んでこそ、『ウマ娘』ならではのドラマチックで壮大な世界観を描けると考えています。
そのためには、「このキャラクターの魅力を更に引き出す手段はないか?」と常に考え続け、どんな些細なシーンであっても手を抜かずに描き切ることが必要になってきます。そうすることによって、レースやライブに全力で挑むウマ娘を見たときに「これは自分が育てたウマ娘なんだ……!」とリアリティーを感じてもらえると考えています。

よりウマ娘たちを身近に感じてもらいたかった、と?

はい。開発チームとしては、トレーナー(=プレイヤー)の方が二人三脚で同じ目標に向かって成長するワクワク感や、育てたウマ娘がレースで必死に走る姿を見たときの熱狂感、ウマ娘の夢を叶えたときの喜び、そして達成感を味わってもらえるゲームにしたいと思っています。そこで必要となってくるのがウマ娘たちの「実在感」です。耳と尻尾を持つ女の子であるウマ娘をどれだけ「身近な存在」としてとらえてもらえるか、という目標のようなものですね。

その「実在感」を出すためにアートディレクターとしてこだわっていたことは何でしたか?

「キャラクター一人ひとりの個性を大事にする」ということです。
3Dゲームの仕組み上、すべてのキャラクターを汎用化して同じポーズや表情の演出を作ることでコストを抑えるという手段も取れますが、『ウマ娘』ではできる限りキャラクターごとの魅力を個別に表現できるシーンをたくさん作りました。その積み重ねによって、ふとした瞬間にキャラクターの個性が垣間見えて、「もっとこのキャラクターを知りたい」という循環が生まれると考えています。

初めてゲームを開いてオープニングムービーを見てすぐ、キャラクターたちの活き活きとした姿が強く印象に残りました。

そう思ってもらえたらうれしいです。まさにオープニングムービーは「個性」と「実在感」をテーマにして作ったものです。前半部分は、目覚まし時計を止めて早朝からみんなとジョギングに行き、友達同士で談笑しながら食事をし、勉強をして放課後はトレーニングをして……そんな楽しい日常をダイジェストで見せつつも、後半にはライバル関係や継承、レース前の焦燥感といった比較的シリアスなテーマを盛り込んでいます。扱っている題材の重みを感じてこそ、見る側がそこに熱狂できるというこのタイトルの構造を体現したのがあのオープニングムービーですね。

▲ウマ娘たちの生活のさまざまな様子が描かれるオープニングムービー

あとは、冒頭の「やっとみんな会えたね」という歌詞が特徴的ですが、まさにここからがゲーム版『ウマ娘』の幕開けで、数年分の想いを乗せて一歩を踏み出してほしいという気持ちで絵コンテを描きました。

ゲーム内のレースシーンは本当に迫力がありますよね。

共に切磋琢磨するウマ娘たちの魅力を最大限引き出そうと、シナリオ、コンテ、3D、エンジニアが連携し、一丸となって制作に取り組んでいます。育成パートのレースとはまた異なる、ドラマチックなカメラアングルや力強い3Dキャラの描写に注目していただければと思います。
育成パートに登場する実在のレースも、育成の仕方次第で史実とは異なった展開を楽しむことができます。ゲームだからこそ味わえる、面白いレース展開を楽しんでいただけたらと思います。

レースに入賞すると見ることができる「ウイニングライブ」も特徴的です。

ライブと『ウマ娘』は切っても切り離せないものだと考えています。
『ウマ娘』自体、TVアニメが放送される前から積極的にリアルイベントでライブを行い、当時からこのコンテンツを支えてきてくださったファンの方たちがたくさんいらっしゃいます。「ウイニングライブ」はその方たちの期待にもお応えするべく作ったもので、なによりも耳と尻尾がついている女の子たちが走って踊る『ウマ娘』という象徴を形作っている大切な要素のひとつです。

▲「winning the soul」のウイニングライブ動画ショート版

UIにもキャラクター性を補完するようなこだわりがあると聞いたのですが、こちらはどういったところを工夫されたのでしょうか?

キャラクターたちをもっと身近に感じてもらえるような要素を入れたくて、UIとしてできることはないか?と考えた小さなこだわりがぎゅっと詰まっています。
ゲーム中にプレイヤーとウマ娘が1対1で向き合うことが多い『ウマ娘』だからこそ、気が付くとちょっとうれしい小さなこだわりを意図的にちりばめているんです。例えば、細かい部分ですが育成中のボタンが担当のウマ娘に変わっていたり、UI全体の色が育成中のウマ娘をモチーフにしたテーマカラーに変わっていたりするんですよ。

▲育成画面を並べると、画面の配色の違いがお分かりいただけるかと思います

あ、本当ですね!なぜそういった工夫をしたのでしょう?

最初の話に戻りますが、これもゲームの中にキャラクターそれぞれの個性や特別さを感じられる場面をもっと増やしたいという考えに基づくものです。
あと、「何をしたらユーザーの方々に喜んでもらえるだろう」と悩んでいたときに、これまで自分がゲームをプレイしていて、ひっそり込められた裏設定や普通なら気付かない遊び心のある要素を見つけられたときに、まるで宝探しをしているような気分になってうれしかったな、ということを思い出したんです。そうした感覚も細かいギミックが生まれるもとになっていますね。
見つけたらちょっとうれしい小さなこだわりがゲーム内にはたくさん詰まっているので、ぜひプレイしながら探してみてもらえるとうれしいです!
その他にも、2Dのスチルイラストやサポートカード、デフォルメキャラクターなど、キャラクターの魅力や可愛さが引き立つ要素がぎっしりと詰まった幕の内弁当のようなゲームなので、ぜひプレイしながらキャラクターごとの個性や魅力を楽しんでいただけたらと思います。

競馬とアニメファンそれぞれが楽しめるゲームに
随所に込められたさまざまなこだわり

開発時に最もこだわったポイントはなんでしょうか?

開発初期から一貫して変えていない姿勢としては「実際の競馬へのリスペクト」です。そもそも『ウマ娘』は競馬という競技がなければ成立しません。歴史のある題材でもあるので、競馬史や競走馬についてはもちろん、過去のレース展開やレース当日の天気、競走馬の状態に至るまで資料や映像で徹底的に調べて企画・開発を進めていました。

TVアニメをはじめ、さまざまなコンテンツにその姿勢は表れていますね。

そうですね。TVアニメでは、競馬史と連動したキャラクターの描写が大きな魅力になっています。
TVアニメの『ウマ娘』が好きという方にもゲームを楽しんでもらえるように、ゲームのメインストーリーではアニメに負けないくらい力を入れて、ウマ娘たちの葛藤と成長のドラマを織り交ぜながら史実のレースを再現しました。
メインストーリーで描かれる91年の天皇賞(春)や有馬記念はメジロマックイーンの成長物語と絡めた熱いレースとして登場します。また、92年の京都新聞杯や菊花賞を通して、ライスシャワーの底知れぬ実力を描く場面も登場します。

▲メインストーリー冒頭ではオグリキャップの引退レースが描かれます

アートディレクターから見た『ウマ娘』の開発
アートができるまでの過程と想い

開発を進めていくにあたり、プロジェクト内の各セクションとの連携が必要だったと思いますが、プロジェクト内はどのようなチーム構成になっているのでしょうか?

『ウマ娘』の開発チームはサイゲームスの中でもかなり大所帯なのですが、そのうちの半分近くがアーティストです。3Dだけでもキャラモデル、背景、モーション、エフェクト、カットシーンに分かれており、2Dもキャラクター、背景、デフォルメイラスト、UI、演出などさまざまなセクションによって構成されています。さらに、開発をバックアップしてくれるテクニカルアーティストや制作管理と多岐に渡ります。

アートディレクターとして企画や監修を主に行っているとのことでしたが、具体的にはどんな企画をされたのでしょうか?

先ほどの「実在感」にもつながる話ですが、キャラクターの魅力を引き出すためにこういった機能を作りたい、こういった見せ方をしたらどうかという構想や企画をディレクターやプロデューサーにいくつも提案して、「ぜひやろう!」と言ってもらえて実現に至ったものがたくさんあります。

例えば、レースシーンで発動できるスキルのカットイン演出では、ゲームの中にキャラクターの個性を感じられる場面をもっと増やしたいと考え、ウマ娘たち一人ひとりに寄り添った特別な演出になるよう企画を練りました。具体的には、スキルカットインを「7秒尺のキャラPV」と考え、テンポ感や気持ち良さは大前提として、各キャラクターの性格をしっかり反映させた演技、演出にこだわりながら、ウマ娘のバックボーンとなる実馬のエピソードをさまざまなアプローチでビジュアル化しています。
スキルカットインは、固有スキル発動時という展開として熱いタイミングで流れるものなので、例えばターフの最終コーナーを回った最後の直線で自分の想いを乗せたウマ娘が一番輝いている瞬間を見られたら……という場面を想像しながら企画を構想していきました。
このようなアイディアはアーティストやプランナーの密な連携により生まれるだけではありません。それ以外のセクションのスタッフの「こういったものがあったら面白いかも!」という提案からスタートして実現した企画もたくさんあります。

▲PV「ご紹介」篇より。キャラクターのスキルカットイン演出は十人十色!

そこから仕様が作成され、アートの制作に入り、最後に監修という流れですね。

そうですね。各アートの基本的な制作や監修はそれぞれのチームのリーダーがしっかりと高い水準で行ってくれるので、アートディレクターとしての監修は、それをまとめたときに「1つのゲームとしてしっかりと成り立つかどうか」という総合的なバランスを特に気を付けて見るようにしていました。

ゲーム全体のバランス感覚が鍵
開発における課題を乗り越えるまで

先ほど「バランスをとる」というお話を聞いていて、すごく難しそうだなと思ったのですが、実際はいかがでしたが?

まさに開発で一番苦労したことがそれで、開発全般において各要素のバランスをどう取るかということが常に課題としてありました。競走馬×女の子というこれまでにないジャンルの組み合わせということもありますし、育成やレース、ライブなどゲームとしての要素も多く、「どの要素をどの割合で組み合わせるか」というバランスを掴むことがすごく難しかったですね。

なるほど。アート面で特にバランスが難しいと感じたことはありますか?

アートでいうと、3Dモデルと2Dイラスト、デフォルメキャラもいる中で、それらをどう組み合わせていくことが最もキャラクターを魅力的に見せることができるのか、とても悩みました。均等に採用するべきなのか、3Dか2Dどちらかだけに特化するべきなのか……選択肢はたくさんありましたが、何が正解なのかはなかなか想像がつきませんでした。

実際の開発ではそれをどう乗り越えたのでしょうか?

常に悩みながらも、日々開発を進めていく中で、ウマ娘の3Dには3Dの、2Dには2Dの良さがあるという部分が見えてきました。
3Dは細やかな表情やモーションの変化、状況に応じたカメラワークにより多彩でドラマチックでリアリティーを感じられるシーンを描くのが得意です。
2Dイラストは1枚の絵の中でシーンを完結させることができるので、ユーザーの方々に想像の余地を作ってあげることでキャラクター同士の関係性を示したり、コミカルな掛け合いを表現したりといったことができます。さらに、第三の表現方法として随所にデフォルメキャラクターを差し込むことによって、ゲーム内をよりコミカルで鮮やかに彩ることができます。

これらすべての要素をスタッフ一人ひとりが妥協することなく細部まで作り込んでいるからこそ、さまざまなシーンに合わせた表現が可能になり、最終的にウマ娘「らしさ」に繋がっていると感じています。

3Dも2Dも「見たい!」と思うグラフィックで表現されているなと感じていましたが、そういった住み分けがあったんですね。3Dに関して、今回表情も豊かだと感じたのですが、工夫されたことはありますか?

フェイシャル(表情)は3Dだからこそ詳細に表現できるところでもあり、それゆえにどこまでもこだわれてしまうので大変な部分でした。ある程度のパターンは存在するのですが、やはりシーンによってはそれだけでは賄いきれず、シチュエーションに合わせて細かいニュアンスを調整している箇所もたくさんあります。

どこまでもクオリティーを追求する
チームで作り上げた『ウマ娘』

グラフィックの他にも、メインストーリーの会話シーンは豪華な印象です。チームの熱量が伝わるエピソードはありますか?

開発当初はもっと簡易的な演出で制作していたのですが、ある日スクリプトチームから「ここまでやれます!」とデモ映像を見せてもらったんです。それが本当にすごくて。
会話内容に合わせてフレーム単位でモーションとフェイシャルが細かく切り替わっていて、キャラクターが生き生きとしていて……。その場にいた全員が「一度これを見てしまったら絶対実現したいよね!」という流れになり、結果的にそれを実現してしまうところがサイゲームスらしいエピソードですね(笑)。

また、メインストーリーの開発では、その後アニメ業界出身者も多数参画し、シーンごとにレイアウトを切ってカメラワークを入れたことにより、より没入感の高いストーリー体験ができるようになりました。

そんなに膨大な量の開発を、どうやって行うことができたんでしょうか?

基本的にはスクリプト・カメラワークは手作業で制作していますが、自社ツールにより多数の効率化が図られています。例えば、それまではエクセルベースで作成したデータをUnity上でプレビューしていたのですが、エンジニアの協力によって『ウマ娘』専用のタイムラインツールを開発したことにより、即時修正・即時反映が行えるようになったためイテレーションが急激に高速化しました。
また、よく使う項目はプリセット化するなど、ツール自体も「誰でも触れるように」ということを念頭に置きながら、UIや操作性の改善を日々繰り返しています。

▲会話シーンの開発ツール。このツールの導入でリアルタイムで修正内容が確認できるようになり、開発の効率化に大きく繋がりました

専用のツール開発による効果も大きかったのですね。

クオリティーを妥協せずに細部まで作り込むためには、作り込みをしやすい体制や環境を作るということも非常に大切です。『ウマ娘』は規模が大きく、難易度がとても高いプロジェクトでしたが、ここまで作り込めたのもそういった下地の積み重ねがあってこそだと感じています。

ここからが“出走”
今後にかける想いと展望

最後に、ゲームリリースを待ち望んでいたユーザーのみなさまに向けて、伝えたい見所や今後の展開など、メッセージをお願いします。

『ウマ娘』はかなり長い時間をかけて開発されたゲームです。ユーザーのみなさまの中には、リリース前から展開していた音楽やマンガ、アニメでファンになってくださった方や制作発表からプレイするのを楽しみにしてくださっていた方もいらっしゃると思います。長期間お待たせしてしまった分、必ず喜んでもらえると自信を持って言えるタイトルを沢山のスタッフの力をあわせて作ることができました!
その熱を今後は運営に注いでいきたいと思っています。最高に楽しんでもらえる自信があったとしても、実際にプレイしてくださるユーザーのみなさまの声や希望に添えなければ、最高のゲームとは言えません。今後も定期的にアップデートを行い、さらなる改善や進化を続けて他者の追随を許さないクオリティーにしていきます。
『ウマ娘』たちの物語は始まったばかりです。ここからが“出走”だと思っているので、今後もご期待ください!

『ウマ娘 プリティーダービー』公式ポータルサイト