大阪モーションキャプチャースタジオ 異業種出身スタッフたちが技術を結集し日々進化中!

サイゲームスはビジョンである「最高のコンテンツを作る会社」を目指し、積極的に開発設備への投資を行っています。以前最新鋭のスタジオとして社内設備特集Vol.5でご紹介した「大阪モーションキャプチャースタジオ」も、日々進化していく最新技術を取り入れ、さらなる体制や設備の強化が行われています。その取り組みについて、2023年10月に公開された新PVや11月末に行われた「CEDEC+KYUSHU2023」の公演内容を基にご紹介。スタジオで働くスタッフの声と共にお届けします。

大阪モーションキャプチャースタジオとは

コンシューマーゲーム開発の拠点として設立された大阪サイゲームス。ハイエンドタイトルを開発するため、設立当初よりクオリティーの向上に努めてきました。モーションキャプチャースタジオは、社内部署との協力が得やすく、収録日から内容検討、素材のやり取りまでが柔軟に対応できるというメリットから設立。2022年3月から本格的に稼働しています。

2024年2月1日に発売された『グランブルーファンタジー リリンク(以下、リリンク)』のキャラクターの動きは、この大阪モーションキャプチャースタジオからも多く生まれています。
『リリンク』の通常攻撃、特殊攻撃、奥義などのモーションはキャラクターごとに異なっており、それだけでも1キャラクターあたり約30種類に及びます。また、すべてのモーションを含めると1キャラクターあたり平均約300種類ものモーションがあるというから驚きです。こういったアニメーションへのこだわりを最大限に実現するため、大阪モーションキャプチャースタジオと『リリンク』開発チームは強い協力体制の下で制作を進めてきました。

▲『リリンク』の主人公、グラン。 片手剣による近接攻撃を得意とし、サポート技も幅広く習得する対応力のあるキャラクター

【スタジオの基本情報】
・収録可能エリア:長さ10m×幅14m×高さ6m
・カメラ台数:168台
・フェイシャルや音声を含めた「パフォーマンスキャプチャー」対応
・リモート収録可

【設備】
・ワイヤーアクション用の天井鉄骨
・リモート収録用のピンマイクやハンドマイク
・収録エリア全体に響くスピーカー
・スタジオ内を調光できるライト
・大型プロジェクター
・収録同期のフルサイズ60fps収録のビデオカメラ3台
・収録投影用の大画面テレビ
・スタジオ内シャワー室

基本情報やスタジオマネージャーのインタビューは前回の記事にまとめていますので、こちらもあわせてご覧ください。

モーションキャプチャーとは

昨年11月末に行われた「CEDEC+KYUSHU2023」では、サイゲームスから大阪モーションキャプチャースタジオのスタッフ2名が登壇。下記の話を中心に講演を行いました。

  • モーションキャプチャーの種類や仕組み
  • 最近のモーションキャプチャー事情
  • 大阪モーションキャプチャースタジオで改善してきた取り組みと得られた効果について

モーションキャプチャーとは、端的に言うと、実在する人間や物体の動きをコンピューターにわかるデータに変換するシステムのことです。人の動きをモーションキャプチャーのシステムで収録してデジタルデータに変換することで、様々なキャラクターを実際の人間の動きと同じように動かすことができます。

▲左から、アクター、変換されたデジタルデータ、『リリンク』のグラン。アクターの動きがキャラクターの動きに反映されます

一言でモーションキャプチャーといっても、近年は様々な収録方法のものがあります。

【モーションキャプチャーの主な収録方法】
・たくさんのカメラで体に張り付けたマーカーの位置を計測するタイプ
・手足や頭にコンパクトなセンサーを付けて動きを計測するタイプ
・スマートフォンなどで撮影した動画をベースに、AIを使って体の動きを推定するタイプ

サイゲームスのスタジオで使われているのは、マーカーの位置を計測するタイプです。スタジオの中ではステージを囲うように赤外線を発する特殊なカメラが設置されています。アクターの着ている専用スーツには「マーカー」と呼ばれる球体が貼り付けられており、その表面に付けられた特殊な反射シートがカメラからの赤外線を反射。その位置を測定するという仕組みです。このとき、カメラとマーカーの間に障害物があると、マーカーの位置がわからず上手く測定ができなくなってしまいます。

エンターテインメント業界では、モーションキャプチャーは主に固有のキャラクターを動かすために使用されています。他業界では、スポーツや医療分野、技術継承、自動車の実験などにも活かされています。

大阪モーションキャプチャースタジオ
課題解決のための新たな取り組み

大阪モーションキャプチャースタジオ テクニカルエンジニアヨシヒサ
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国のスポーツ機関での研究職やスポーツメーカーの商品開発を経て、2021年にサイゲームスへ合流。現在は大阪モーションキャプチャースタジオのテクニカルエンジニアとして、スタジオの中にある様々な機材の管理やルール決め、システム全般の運営を担当している。
大阪モーションキャプチャースタジオ コーディネーターケンタ
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学生時代は特殊メイクの学校に通う。前職ではテーマパークの置物やTV番組で登場する小物などを3Dプリンターで出力し、加工する業務に従事。現在は大阪モーションキャプチャースタジオのコーディネーターとして、プロジェクトから収録依頼があった際の窓口やスケジュール調整、収録が終わった後の納品のやり取りを担当している。

ここからは、「CEDEC+KYUSHU2023」で実際に講演をした2人に話を聞きながら、大阪モーションキャプチャースタジオの環境改善への取り組みについて、大きく三つご説明します。

【環境改善のための三つの取り組み】
1、小道具を扱いやすくする3Dプリンターの導入
2、大道具の問題を解決するアルミフレームの導入
3、撮影の効率化を図るエリアプロジェクションの導入

2023年10月に公開された「大阪Cygames モーションキャプチャースタジオ PV 第2弾」でも、新たに導入された設備やスタジオでできるようになったことを中心に取り上げています。動画もあわせてご覧ください。

「CEDEC+KYUSHU2023」でもご紹介した新しい取り組みについて、聞いていきます。まずは3Dプリンターを導入した理由を教えてください。

ケンタ これまで、収録のためのプロップ(小道具)は木材やホームセンターで手に入る素材を元にスタッフが工作していました。しかし、重さや細かい形状がイメージしづらく、完成品も制作者の腕次第で、壊れたときに修復や再作成が大変だという課題がありました。そこで3Dプリンターを導入し、重さや細かな形状を含めて3Dプリンターで再現できるようにしたんです。より正確な武器を再現できたことで、それを使ったアクターさんの演技もよりリアルに近づけられるようになりました。

▲銃を3Dプリンターで出力している様子

出力するものの重さや材質も変えられるんですね。

ケンタ そうですね。ソフトウェア上でデザインを行えば精密なオーダーに合わせて小道具を作れますし、形状、重量、素材を選択できるので、同じ形状でも重さや重心位置、強度の違う物を作れます。データが残っていれば簡単に再出力できますし、変形ギミックも追加可能です。

▲銃は引き金やマガジンの出し入れの演技も可能に。ナイフは刃の部分を柔らかくすることで実際に突き刺す動きも収録できる

ケンタ リアルな小道具を使えるようになったことで、アクターさんも感情移入や細かい演技がやりやすくなったという声をいただきました。その他にもアクターさんの専用スーツに貼る「マーカー」の収納ボックスや、カメラなどの機材を保護するカバーなど、小道具以外も3Dプリンターで出力しています。マーカーのボックスはアクターさんの体に貼る個数そのままが片付けられるものなので、箱に余りがあったら貼り漏れがあるということがわかり、便利なんです。

▲マーカー収納ボックス
▲3Dプリンターで出力し制作された小道具を並べてみた。中には見たことのある武器のプロップも

アルミフレームはどのような経緯で導入したのでしょうか。

ヨシヒサ たまにプロジェクトから「9段の上り下りは撮影できるか」など、階段を使ったセットの問い合わせをもらうことがあります。過去に木製で9段の階段を組んだことがあったのですが、グラグラして怖いと聞いていましたし、木だと毎回ビス(ねじ)やベルトで階段同士を固定しなくてはいけないので、使い勝手が良くないなと。組む際は大道具の知識が必須になりますし、重くて持ち運びに力が必要でした。さらに、セット自体が大きな遮蔽物になってしまうため、カメラの死角が増え、アクターさんがセットに近づくと反射マーカーが隠れてデータの精度が落ちてしまう問題がありました。

▲従来の階段の組み方のイメージ

ヨシヒサ 工業用のアルミフレームを使うケースがあることは前々から知っていたのですが、知見のあるスタッフに相談して叶えることができました。
初めにソフトウェアを使用することで、事前に強度や重心位置を考慮した安全なセットのシミュレーションを行えますし、効率的な準備が可能です。ボルトとナットによる固定なので工具に慣れていないスタッフでも設営参加が可能で、人手も確保しやすくなります。スケルトン構造で死角が減るため撮影もしやすいですし、安定性も上がりました。

▲工業用アルミフレームを使ったアクション例

続いて、エリアプロジェクションについて教えてください。

ヨシヒサ 床面に目印や画像を投影するというものです。以前はプロジェクトから事前にもらった資料を元にゲーム内の空間やセットを採寸して、メジャーで測って床にテープで位置を示し、アクターさんの動線指示もテーピングで行っていました。
しかし、頻繁にセットを移動する場合やアクターさんの人数が多い場合、テープをたくさん貼るため事前準備の時間も長く、どれを参考にすべきか混乱が発生していました。

▲テーピングの一例。よく見ると円などの曲線にガタツキがある

ヨシヒサ 以前、『リリンク』の収録ではテーピングやプラスチックのチェーンを床に引いて収録していました。そんなとき、たまたま大阪サイゲームス代表と社長の渡邊が視察に来ていて、収録の様子を見て「プロジェクターを使ったらもっと早く効率的にできるでしょ」と言ったんです。それまでの準備ではスタッフ総出で床に向かってああだこうだとやっていたのですが、「映し出したら一瞬でしょ」というコメントに目から鱗が落ちましたね。

ケンタ テーピングした後に一回演技をしてみたら違う向きのほうがやりやすかった、ということもありますからね。そのたびに一回剥がして貼り直していたんですけど、プロジェクターなら反転させるだけでいいですからね。変更が簡単になりましたし、テープの使用量も8m、10m貼ることもざらでとても多かったので、資源の削減にも繋がりました。

▲アクターの動きやセットの配置指示も一瞬で切り替えることができる

異業種の専門家が集結
大阪モーションキャプチャースタジオの特徴

サイゲームスの大阪モーションキャプチャースタジオには、どんな特徴がありますか?

ヨシヒサ 設備からいうと、一つはやはり世界的にも屈指のスタジオを目指して多くのカメラ台数を設置したことと、一通りの収録ができる機材が揃っているという点でしょうか。

ケンタ そうですね。天井高が6mと高めなので、ワイヤーアクションが撮影できるのは強みですね。実は演技を早めに相談するためにアクターさんに常駐してもらっていて、そのアクターさんがワイヤーチームなども繋げてくれたんです。結果、かなり本格的なワイヤーチームの手配や、アクション、ダンス、殺陣などアクターのコーディネートもスムーズに行える環境が整っています。

ヨシヒサ 実はワイヤーアクションって空中での挙動が難しいらしく、普通に吊られてもあんなにきれいな姿勢キープはできないらしくて。常駐のアクターさんはワイヤーアクションを撮影するためのスタッフも一緒にコーディネートできる方なので、ワイヤーアクションの中でもかなり幅広く、難しいとされていることでも対応してもらえます。

スタジオのメンバーについてはいかがでしょうか。

ヨシヒサ 現在大阪モーションキャプチャースタジオのチームは約10名で、ゲーム業界以外から合流したスタッフが多く在籍しています。例えば、元々モーションキャプチャーのスタジオスタッフと同時に大学の先生をしていた方もいますし、自動車業界から合流した方もいます。男女も半々ですし、スタッフのエンジニアとアーティスト系の比率もバランスが取れています。半数は20代なので、情報感度が高くて新しいトレンドに関心が高いスタッフが多いですね。

ヨシヒサ 将来の伸びしろを期待して未経験者を採用することもあって、ケンタさんもその枠で入ってきています。自動車業界出身のスタッフは、こういうことやりたいなと先にスタジオで考えていたら、ちょうど良い方と巡り合ったケースでした。その方は元々プログラムが書ける方で、前の業界でやっていたことが今も活きているという感じですね。

ケンタ 様々な経験を積んだ各業界のスタッフが集まっていろんな意見を言い合うことで、3Dプリンターの導入やヘッドギアの作成など、面白い挑戦がどんどんできるのは大阪モーションキャプチャースタジオの特徴だと思っています。

ヘッドギアの作成というのはどんな取り組みですか?

ケンタ 顔の動きを収録するときにアクターさんの頭に被せる機器です。先端にカメラが付いていて、動きと同時に表情が撮影できます。サイゲームスで独自に開発していまして、その開発にも3Dプリンターを活用しています。

ヨシヒサ より頭にフィットしてカスタマイズも自由なヘッドギアを作りたいなと思い、開発を始めました。業界的には既存のメーカー製品を使用していることが多く、自社で開発している企業はそんなに多くないと思います。

ケンタ ヨシヒサさんによるアドバイスを元に、CADを扱える自動車業界出身のスタッフが設計を引き、私が3Dプリンターを使って試作品や付属パーツを作り、メーカー代理店の出身スタッフがフィッティングして、スタジオ運営経験豊富なスタッフがフィードバックする……といった、それぞれの強みを生かした協力体制で開発を進行しています。

これまでに一番やりがいを感じた業務はなんですか?

ヨシヒサ シネマティクス室と一緒に収録したVol.2のスタジオ紹介PV動画はスタジオでできることを詰め込んだので、段取りも多くて大変でしたし、やりがいもありましたね。

ケンタ 私はどうしても外部の方とのやりとりが多いので、スタジオの窓口として、コミュニケーションに一番気をつけて仕事をしています。このスタジオを使って良かったと思ってもらえるよう、ホスピタリティを大事にしています。それはスタジオがきれいというだけではなくて、スタッフとのコミュニケーションを取っている中で、「大阪スタジオの人ってすごく雰囲気が良いな」と思ってもらいたいなと。私自身もコミュニケーションを取るのが好きなので、そこに一番やりがいを感じています。

▲シャワールーム
▲控室

さらに新しい視点を取り入れたい
スタジオのこれから

チームがどんどん強くなっていると思います。新規の合流者ですと、どんな方に来てほしいですか?

ヨシヒサ 知見が豊富な経験者が合流してくださるとうれしいですね。長年モーションキャプチャーに携わって様々な経験を積んだ方は、いろんなノウハウを知っていると思うので。そうでない場合は、逆にスタジオ未経験の方が面白そうだなと思います。基本はOJTで教えれば基礎はなんでもできるようになりますから。ただし、できれば何か特技のある未経験者が良いなと思っていますし、プログラムが書けると強いですね。

「私もこれができます」というよりは、全く違うところから新たな知識があると良いなと。同じ界隈の出身者が複数名いても、やり方や考え方が一緒だとなかなか広がりがないと思うんです。例えば映画業界から来てくださる方がいれば、ゲームとは全く関係がなくても、「映画ではこういう撮り方をしています」という共有で新たな視点が身に付きますし、その方にも新たなことを知ってもらえてお互いに成長していけるなと思います。

ケンタ スタジオの業務はチームプレイが多くて、1人で何かすることはほとんどありません。外部の方も来ますし、コミュニケーション能力は必要ですね。人としゃべるのが得意という意味ではなく、細かい報連相ができる、円滑に連絡が取れる、細かな気遣いができる人などは活躍できると思います。

▲サイゲームスの衣裳室が制作したスタジオの専用ユニフォームは、ポケットが使いやすい位置にあるなど機能性の高いデザイン

今後はどんなスタジオにしていきたいと考えていますか?

ヨシヒサ 世界有数の環境を活かした「世界一のモーションキャプチャースタジオ」を目指しています。現在は他部署と連携した取り組みを始めていて、例えば社内の研究機関であるCygames Researchと共同でモーションキャプチャー関連の新技術確立に向けた取り組みを始めました。成果が出た際には国際カンファレンスでの発表を行いたいと考えています。

ケンタ やはり施設の環境も整っていて、異業種からの人材が多いというのは大阪モーションキャプチャースタジオの大きな特長です。様々なバックグラウンドを持つ各業界の経験者が肩を並べて、面白い手法や技術開発、新しい機材の導入などをどんどん提案していける環境は他のスタジオにはない強みだと思いますし、その特長をさらに伸ばしていきたいですね。


以上、「CEDEC+KYUSHU2023」の公演内容を基に、大阪モーションキャプチャースタジオの特徴と新たな取り組みについて紹介しました。

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