『ドラガリアロスト』メインストーリー完結!シナリオライターと振り返る人とドラゴンを巡る旅
人とドラゴンが共存する世界を舞台に、ドラゴンと契約する特別な力を持つ主人公が冒険していく『ドラガリアロスト(以下、ドラガリ)』。数々のドラゴンや仲間たちと出会いながら紡がれてきた物語は、2022年7月に最終章の後半を公開しました。メインストーリー完結を機に、担当のシナリオライター3名とこれまでのストーリーを振り返りつつ、最終章の見どころを聞きました。
※記事内にネタバレを含みますのでご注意ください
- シナリオ本部長ショウゴ
- フリーランスのシナリオライターを経て、2017年合流。運用タイトルでシナリオを執筆後、『ドラガリアロスト』の開発段階からシナリオのリーダーとして第9章まで携わる。
- シナリオチームユタカ
- フリーランスで小説家として活躍後、2017年合流。『ドラガリアロスト』の開発段階からイベントやキャラクターストーリーを手掛け、第9~12章、第21章以降のメインストーリーを担当。
- BlazeGamesムネユキ
- 中国や日本のゲーム会社でディレクターやプランナー、渉外業務を経験し、2021年にBlazeGames合流。『ドラガリアロスト』のメインストーリー第13~20章を担当。
「兄弟対決は時代の交差点」
「新アルベリア王国」建国まで
ショウゴさんはリリース前からシナリオライターのリーダーとして『ドラガリ』に参加していますね。参加当時、物語の世界観をどのように作り上げていったのでしょうか?
ショウゴ 自分がリーダーとして入ったときは大体の設定はできていて、誰もが楽しめるカジュアルなアクションRPGという方針が固まっていました。私はまず、世界観の細かい設定を肉付けしていくような感じでしたね。
当時はシナリオライターのリーダーとして、若手ライターたちの育成もやっていました。メインストーリーのシナリオライターというよりシナリオ全体のコーディネーターとして駆け回っていた記憶があります。
ユタカ 確かにショウゴさんは初期の頃、ほとんどデスクにいないイメージでした。
ムネユキ 初期の頃のメインストーリーで印象に残っているのはどこですか?
ショウゴ 第4章「輝竜の山脈」で主人公のユーディルとエミュールが、輝竜ユピテルとの契約をかけて戦うシーンですね。ユーディルは割と今っぽくない主人公と言いますか。王子様で欠点が特にないような完璧タイプです。反対に、エミュールは王家に生まれながら劣等生で、優秀なきょうだいたちに対してコンプレックスを感じながらも頑張ろうとしています。そんな、昔と今の主人公像がぶつかり合うような展開が時代の交差点のように感じたんですよね。
ユタカ 確かにユーディルは優等生過ぎる感じがありましたが、第4章あたりから徐々に彼自身の中にも芯があることがわかり始めましたよね。
ショウゴ 第4章で出てきた輝竜は契約のために兄弟同士を戦わせるような曲者でしたし、そのような伝説の竜からどのようにして認められるかはストーリーとして説得力を持たせたいなと。そこで竜を上回るくらい徳を持ったユーディルの人間性を描きました。
ショウゴ 余談ですが、伝説の六竜の一体であるマーキュリーの名前がなかなか決まらなくて、300案くらい考えていました。
ユタカ 最初は完全オリジナルの名前だったのですが、水属性なのがわかりにくいということで色々議論を重ねた結果、最終的にマーキュリーになったんですよね。
ムネユキ このあとの第5章「封じられし者」では、さらわれていたヒロインのゼシアが魔神に操られて敵になる展開が印象的でした。これまで少年マンガのような王道ファンタジーが続いてきた中、いちユーザーとして驚かされました。
ショウゴ この展開は私がプロジェクトに参加した段階から決まっていました。さらわれたゼシアの奪還が難しくなり、このあとユーディルが「新アルベリア王国」の建国を宣言して物語が大きな区切りを迎えます。ゲームシステムにも「建設」という、城の周りにキャラや竜を強化する施設を配置できる機能があるので、ストーリーとしても主人公たちの拠点になる場が欲しいと思い、建国する展開を考えました。
きょうだいが全員敵に?
個性豊かなロイヤルファミリー
既に登場したエミュールに加え、第6章からは王家のきょうだいたちが次々と登場します。ムネユキさんは、第三位王女のシェスが登場する第9章「Let’s Party!」が印象に残っているそうですね。
ムネユキ はい。特に第9章最後の「…Shall We Dance?」はシェスの食えないキャラクターと言いますか、一筋縄ではいかない感じの個性がよく出ているように感じました。シェスのキャラクター性で先が読めない展開になっていて、この話のおかげでシェスのイメージが確立したように思います。当時はまだユーザーの立場でしたが、シナリオライターとしてシェスの行動に迷ったときは、いつも第9章を読み直していました。
ユタカ 第9章からメインストーリーを担当したので、僕もシェスは印象に残っていますね。最初は贅沢やパーティーが好きなお嬢様といった感じだったのですが、もっと政治家タイプにしていこうと今のかたちになりました。
ショウゴ きょうだいたちはユーディルの壁として立ちはだかるのですが、敵役にもそれなりの正義があって行動しているという描き方をしていますよね。現代的な敵役は「ただの悪い奴」という描かれ方はされなくなってきていますから。敵役にも共感してもらえるようにバランスを取るのが難しいところです。
「敵役」の描き方について、第10章「魔神再誕」では、きょうだいたちがみんな魔神側に加担して敵になるという展開がありましたね。
ユタカ ここはなぜそれぞれのキャラが魔神側につくのか、第6章から彼らなりの信念を描いて第10章でまとめるかたちでした。
ムネユキ 第10章の終盤できょうだいたちが1人ずつユーディルへの裏切りを表明していく場面は「みんな寝返るの!?」とユーザーとして衝撃でした。魔神の復活やアルベリウスとの別れなど、この章は濃密な出来事が詰まっていますよね。
ユタカ 第10章以降、きょうだいたちとの決戦に向けてユーディルの衣装も変わり、大きな区切りを迎えました。
ショウゴ きょうだいたちとの決戦の中でどれが印象に残っていますか?
ユタカ 第12章「戦火の覇道」でのレオニードとの決戦ですね。スクリプトチーム(※)の協力もあり、見応えのある場面にできたのではないかなと。レオニードは「覇道こそ正義」というキャラだったので、ユーディルとの戦いを通して、両者の価値観がぶつかり合うような展開にするのに苦労しました。
※キャラクターの会話シーン作成に特化したスクリプト言語を使って、キャラクターの動きや表情の変化、場面演出を設定する役割を担う
ムネユキ レオニードの話で言うと第16章「新しき絆、進むべき道」が印象に残っていますね。特にユーディルへの国民の反発が強まったとき、レオニードが颯爽と駆けつけて暴徒を沈めていく場面です。武力に頼らずに人を導く、頼もしい長男の姿を描けたように思います。これも第12章での決戦があったからこそできた展開だなと。
ユタカ あのときのレオニードのセリフかっこ良かったですね。
ムネユキ 僕は次男なんですけど、「こんな兄がいたら良いな」と想像して書いていった感じでした(笑)。
「ドラガリアロスト」とは?
最終章の見どころ
第15章「光を覆う影」で、ユーディルが王家の出身ではないことが発覚しました。きょうだいが全員敵に回ったとき以上の逆境が主人公を襲っているような展開でしたね。
ムネユキ ディレクターの岡田佑次さんの構想でした。私自身もこの展開を聞いたときは驚きましたね。ただ、元々欠点がなく、王家の人間として民のことを第一に考えるユーディルの特徴が根幹から覆るような事実が発覚したら、彼の内面をこれ以上ないほどに深く描けるのではないかとも感じました。ユーディルが「自分自身は何者なんだ」と葛藤していく様子を描いていこうかなと。
ショウゴ そこからユーディルをどう奮起させていくかは、どのように発想していきました?
ムネユキ ユーディルの出自については周りにいる仲間たちも一緒に悩んで、お互いに支え合って成長していく感じにしたり、異なる世界線から来た父・アスラムと出会ったり……ユーディルが王子という肩書を失ってもみんなから愛されていて、1人の人間として見てもらえていたことに気付いていく話を書こうと意識していました。
ユタカ ユーディルが一国の王子に留まらない、世界的な規模で重要なポジションのキャラになっていく展開になりましたよね。
ムネユキ そうですね。岡田さんとも話したのが、例えば仕事が上手くいかなかったり、自分がなりたいものになれなかったりしたときに、何か新しいことを見つけて立ち直っていく感じをテーマにしようということでした。ユーディルが王子ではなく1人の“人間”として再出発していく姿を見て、ユーザーのみなさんが共感したり励みにしたりしてくださったら良いなという想いでした。
最終章となる第26章「ドラガリアロスト」が公開されました。最終章はどのような想いで手掛けましたか?
ユタカ できるだけ多くのキャラが、その内面を全部吐き出せる話にしたいなと思いました。ユーディルはもちろんそうですし、仲間たちや最後の敵であるゼノスについても、彼らが何を考え、どんな想いで動いていたのかを伝えた上で綺麗に着地させたいなと。
物語を完結させたときの心境はどうでしたか?
ユタカ 『ドラガリアロスト』という物語がようやく1つの作品として完成したのだなと、ほっとした気持ちでしたね。
ムネユキ 物語を完結できたのも、最後まで応援してくださったユーザーのみなさんのおかげだと思います。
ショウゴ そうですね。『ドラガリ』の物語に一緒に歩んでいただいてありがとうございますという感謝の気持ちでいっぱいです。
第26章のサブタイトルは「ドラガリアロスト」になっていますね。最後に最終章の見どころを教えてください。
ユタカ 「ドラガリアロスト」とはどういう意味なのか、最終章はそこを一番に考えながら書きました。第25章「人と竜の契約の証」で世界が崩壊するような展開があるので、あれは一種の「ドラガリア“ロスト”」ですし、第26章は「ドラガリア(人と竜の契約の証)が失われた」という表現もしています。
いろんな意味でドラガリアがロストしている状態にはなっていますが、「ロスト」の「失う」というマイナスな感じで終わりにはしたくないなと考えました。何がロストして、その先に何があるのかに注目して最終章を読んでいただけるとうれしいです。
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