サイゲームスでは海外の方々や、日本に住む外国の方々向けに『Shadowverse』、『プリンセスコネクト!Re:Dive』、任天堂株式会社と共同運営中の『ドラガリアロスト』、『グランブルーファンタジー』などのタイトルを、日本語以外の言語で展開中です。

世界に広がるサイゲームスコンテンツ! アジア事業部に聞く”運営の現地最適化”の記事では、アジア事業部の仕事についてご紹介しましたが、今回はコンテンツを海外に向けて最適化するローカライゼーションチームに、業務内容の詳細をインタビューしました!

ローカライゼーションチーム立ち上がりの経緯と
果たしている役割

サイゲームスでローカライゼーションチームが立ち上がった経緯を教えてください。

きっかけは、『神撃のバハムート』英語版である『Rage of Bahamut』の開発のために翻訳者が必要になったことでした。その後、他のプロジェクトや言語でもローカライズをすることになり、部署として専門性を高めつつ、管理をしっかりしていったほうが良いという判断でチームが立ち上がりました。

ローカライゼーションチームの体制はどのようになっているのでしょうか?

2020年7月現在、チームでは70名近いメンバーが働いています。英語、韓国語、繁体字、簡体字、フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語にそれぞれネイティブの翻訳者とLQA(テキストの品質管理・デバッグ担当)がおり、コーディネーターと呼ばれる職種のメンバーが進行管理を担当しています。基本的に担当プロジェクト制をとっていますが、複数のタイトルを兼任している場合もあります。

ローカライゼーションチームは、コンテンツ制作においてどのような役割を担っているのでしょう?

言語の翻訳はイメージが付きやすいと思いますが、コンテンツをその地域・言語での最適なものとしてリリースするという意味では、各言語版でのクリエイティブな部分を総合的に担当していると思います。言語の変換に加えて、そのコンテンツやPR素材が展開される地域の文化や流行、そこで生活をしている人たちの好みに合わせたようなものに味付けをしていく「カルチャライズ」と呼ばれるような作業もローカライゼーションチームが担っていますね。

なるほど。何かカルチャライズの具体例はありますか?

例えば8月にリリースされた『Shadowverse』の新しいシナリオの舞台はアメリカの開拓時代を思わせる西部劇のような世界なのですが、英語版ではより説得力のある演出にしています。カウボーイ映画に出てくるような表現を多数使用していたり、台詞の言い回しに特徴的なアクセントを採用したりと細かい描写にも力を入れました。
例えば、メインキャラクターの1人であるバロンが「愚者は貧する。賢者は富める。それが道理と謳うは良し――。」と語る台詞があるのですが、意味そのままで英訳をするのではなく、より南西部の雰囲気を感じていただけるような喋り方にアレンジしています。具体的には本来は名詞であるfoolという単語を形容詞的に、また、本来は目的語であるthemという単語を主語にするという特徴的な口語表現が採用され、「思う・考える」という動詞はthinkの代わりにその地域の日常会話で頻用されるreckonが使われています。また、rags(ぼろ布)とsilk(絹)で貧富を表現しているのは、このような色鮮やかなたとえ表現が好まれて使用される文化を反映させたものです。

▲英語版での該当シーン

また、日本語版に関しても、よりその時代・その地域らしい味わいが出るように、使用する単語や設定についてシナリオチームにいくつかフィードバックを出しています。

▲バロンの別名「亡霊」は当初≪ファントム≫と読ませる予定でしたが、ローカライゼーションチームの提案でより世界観に合った≪スペクター≫に変更になりました

現在、コロナウィルス感染拡大の影響で英語版ボイスの実装が遅れてしまっているのですが、近い将来にそちらのリリースも予定していますので、ぜひ楽しみにお待ちいただければと思います!

「ダジャレ」に「4コマ」
ローカライズ作業は困難だらけ!?

コンテンツがローカライズされた地域で話題になった事例について教えてください。

最近の例ですと、『グランブルーファンタジー(以下、グラブル)』6周年イベントの「こくう、しんしん」の次回予告ポップアップの英語翻訳が話題になりました。原文では十天衆にちなんで、数字の1から10の音を使った書き出し+仏教用語が多く使われています。英語版でも同じように数字に関連する単語を盛り込み、かつ西洋宗教を想起させるような用語を多く使用しました。そうすることで、元々の古めかしく荘厳な雰囲気を壊さずに言葉遊びの要素もカバーでき、普段英語版をプレイしていただいている方々だけでなく、日本のプレイヤーのみなさまからも多くの注目を集めました。

▲英語版の「こくう、しんしん」次回予告ポップアップ。赤い四角で囲った箇所が数字に対応する箇所です
▲英語版の文面を和訳したもの。赤字の部分が英文で赤い四角で囲われた箇所です

別タイトルの例で言うと、『ドラガリアロスト(以下、ドラガリ)』について、アジアのローカライゼーションをサイゲームスが担当しているのですが、繁体字版で「クーガー」というキャラクターが話題になったことがありました。

繁体字版では、このキャラクターの名前には「庫豹」という文字を使っているのですが、「鬼かっこいい」というような意味の「酷爆」という言葉と発音が似ているので、うまくダブルミーニングになっているとプレイヤーさんからも好評でした。これは日本語の発音をそのままローカライズするのではなく、「意味を消化して一番適切な漢字を探す」という工程の中で生まれたものです。

これまででローカライゼーションが特に大変だったエピソードを教えてください。

これはどのプロジェクト・言語も共通なのですが、ダジャレや言葉遊びには悩まされることが多いです。一番楽なやり方は、日本語をそのまま直訳して補足を括弧付けで説明することですが、それだとせっかくの構造上の醍醐味がなくなるため、できるだけ知恵を絞っています。
具体的な例でいうと、『ドラガリ』の4コママンガ『ゆるがりあ』の218話で、「トライツ」というキャラクターが「トライ」をするというダジャレがありました。このときに簡体字では「トライツ」の簡体字翻訳である「德莱茨」の発音をもとに、発音が似ている単語からさまざまな組み合わせを試し、長い推敲の末に「トライ」の意味に近い「得来几次」(何回かやってみる)にたどり着いてそれが採用されました。小さいネタであっても産みの苦しみが毎回大きいのですが、ユーザーの方々が理解してくださって、ご好評をいただけたときにはやはり達成感を感じます。

▲『ゆるがりあ』218話日本語版(左)と簡体字版(右)

また、テキストだけでなく、4コマのようにイラストと一緒に表示される場合はその絵に合った展開にしなくてはならないので、対応がさらに難しくなります。
例えば『グラブル』の4コママンガ『ぐらぶるっ!』の1162話でモニカがモナカを食べているシーンがあったんですが、4コマとしてのテンポを考えるとモナカをウエハースなどの欧米人に馴染みのある別のお菓子に訳すのも手だったと思います。しかし結局モナカは据え置きにし、モナカの説明を漫画内に記載しました。その後1440話で今度は八ツ橋が登場し、モニカと和菓子のコンビネーションが徐々に浸透し始めたので、その流れを英語版でも壊さずに乗っかることができました。『ぐらぶるっ!』では、登場する何気ない台詞や絵が後々、キャラの設定として定着することがよくあるので、新しい言葉を翻訳する際には影響範囲を広く見積もるようにしています。

▲『ぐらぶるっ!』1162話(左)と1440話(右)

どうしようもないときに、苦渋の決断で英語版だけ絵を変えてもらうこともありましたが、基本的には「お題」をもらった感覚でできるだけ英語で表現できる最適なものを探すようにしています。

言葉遊びのローカライゼーションは非常に大変な作業だということがよくわかりました。

あと、こちらもプロジェクト共通の課題ですが、言語により、日常で表現される情報量が全く違うという問題は常にあります。いわゆる高文脈・低文脈文化問題です。日本語は世界の言語のなかでもトップレベルの高文脈(※1)な言語とされています。その日本語が原文になった場合、低文脈(※2)な言語に翻訳すると、情報が圧倒的に足りないケースが多々あります。

※1 短い文言で多くの情報を伝えることができること
※2 伝えたい情報が具体的に言語化されること。英語や欧州言語はこれに当てはまる

両者の一番わかりやすい違いは主語や目的語を明示することかと思います。日本語ではそれらを常に明示すると説明的で不自然になってしまいますが、低文脈文化の言語では、常にその文言が「誰を主語にして誰に対して発せられているのか」という情報が不可欠になります。省略されている単語をまず正しく理解していくところから翻訳作業が始まるので、書かれていないテキストもローカライズしている、と言えばわかりやすいでしょうか?

▲例えば日本語の「どこ行ったの?」という単純な文章にも、多くの翻訳の可能性が含まれています

ローカライズするにあたって、気を付けていることを教えてください。

ローカライズする上で「これが正解」というものはありません。しかし「適切でない」ものはあります。その1つが、「意図と異なる、別の意味にとられる可能性があるもの」です。私たちの仕事が単なる翻訳と異なるのは、元のテキストやデザインなどの“意味”のみを別言語に変換するのではなく、それらが持つ“意図”を正確に伝えるという点にあります。意味としては正しい翻訳であっても、意図が正しく伝わらないのでは、ローカライゼーションとして「適切」ではありません。どの言語においても、理想は全世界のどのユーザーさんにもオリジナル版と変わらぬ体験をしてもらいたい、という一言に尽きます。
他には表現方法の問題も挙げられます。日本国内でも最近は「コンプライアンス」という言葉が広く認知され始めていますが、例えば政治・歴史・宗教・人種・性別や性、外見に関わる表現の許容ハードルは、日本国内ではまだまだ低い印象です。その他の面でも、単一の文化から発信しようとするとどうしても偏った表現になってしまう恐れがあるものを、海外言語翻訳という違う文化のフィルターを通すことでリスクが明らかになる場合があります。そういったリスクをプロジェクトや他チームに事前に共有したり、翻訳時に伝え方を変えるなどの方策をとることで、不用意に人を傷つけたり不快にしたりする恐れがある表現の芽を摘み取ることができます。

「最高のコンテンツで世界に楽しさを」
ローカライズの今後の目標

最後に、ローカライゼーションチームの今後の目標を教えてください。

全社的な海外展開の先には、引き続き「サイゲームス」という会社、そして各タイトルの知名度を世界レベルで上げていくというゴールがあります。ローカライゼーションチームの目標としては、その後押しをすべく、「いかに最高のコンテンツを最高のまま、もしくはそれ以上のクオリティーで世界中の方に楽しんでいただくための環境づくりをしていくか」ということに尽きます。
毎日暮らしていく中で、どうしても不安を抱えたり、気持ちが落ち込んでしまったりすることは、誰にでもあると思います。そんなときに、5分でもいいのでゲームをプレイしてその世界に没頭して気分を変えていただければ、次の展開を楽しみにリリースを待っていただければ、そんなかたちで世界中の人たちの人生に少しでも関わっていければと願っています。