CEDEC2024 カンファレンス運営委員会に聞く サイゲームス講演の見どころ

サイゲームスでは、毎年8月に開催されるゲーム業界の技術交流会「CEDEC」を業界発展に繋がる重要な場と考え、毎年積極的に参加して講演を行ってきました。今年のCEDECでは、2024年2月に発売した『グランブルーファンタジー リリンク(以下、リリンク)』の開発を支えたスタッフによる各種講演をはじめ、AI技術に関するものなど全10講演を予定しています。

今回は、そんなサイゲームスの各講演概要や見どころについて、社内のカンファレンス運営委員会に聞きました。

■CEDEC2024 サイゲームスの講演一覧

・『GRANBLUE FANTASY: Relink』最高の「没入感」を実現するカットシーン制作手法とそれを支える技術

・『GRANBLUE FANTASY: Relink』開発からリリースまでを支えたCI/CDの取り組み

・『GRANBLUE FANTASY: Relink』クオリティと物量の両立に挑戦したフェイシャルアニメーション事例 ~カットシーンからランタイムまで~

・『GRANBLUE FANTASY: Relink』乱戦を制するミックス ―Ambisonicsと動的音量制御と掛け合いボイス―

・『GRANBLUE FANTASY: Relink』ソフトウェアラスタライザによる実践的なオクルージョンカリング

・『GRANBLUE FANTASY: Relink』キャラクターの個性にlinkした効果音表現

・『GRANBLUE FANTASY: Relink』専任エンジニアチームで回す大規模開発QAサイクル

・『GRANBLUE FANTASY: Relink』キャラクターの魅力を支えるリグ・シミュレーション制作事例

・AIを活用した柔軟かつ効率的な社内リソース検索への取り組み

・高品質なフォトグラメトリデータを取得するためのハードウェア&ソフトウェア開発

様々なジャンルの講演ラインナップ
『リリンク』開発で培った技術を紹介

今年のCEDEC2024におけるサイゲームス講演は、『リリンク』に関する多くの講演が予定されていますね。

そうですね。『リリンク』は2016年に制作を発表して以来、長い期間をかけて丁寧に開発したタイトルです。ユーザーのみなさんをお待たせしてしまいましたが、ついに今年、リリースすることができました。

『リリンク』はスマートフォン向けゲーム『グランブルーファンタジー(以下、グラブル)』の世界を舞台に、ユーザーが騎空士となってフィールドを歩き回り、冒険や戦いを追体験できる3Dグラフィックのゲームです。完成に至るまでには、開発に携わったスタッフたちの様々な試行錯誤や創意工夫がありました。最新技術もたくさん使用されていますので、ゲーム業界発展のために今年のCEDECでは『リリンク』の開発過程で得た知見やノウハウをぜひ公開したいと考えました。また、CEDECで自ら知見を発信したいと熱意を持っているスタッフが多いことや、様々な職種の方のニーズにお応えしたいという考えから、『リリンク』関連で八つの講演を行うことになりました。

それぞれの講演で、どのような点が注目ポイントでしょうか。

まず映像に関するものでいうと、「『GRANBLUE FANTASY: Relink』最高の「没入感」を実現するカットシーン制作手法とそれを支える技術」の講演では、カットシーンなどのシネマティクス(※)の分野で「没入感」と「映像美」を生み出すため、エンジニアの視点で開発をどう支えていったのかを詳しく解説します。

※シネマティクス……ゲーム内で流れる、CGによってリアルタイムで描写される動画またはその技術を指す

『リリンク』ではユーザーのプレイアブル部分からシネマティクスに切り替わるシーンでも、ゲームへの没入感を損なわないようにシームレスに遷移させており、本講演ではその手法やこだわりについてご紹介します。CEDECではシネマティクス分野の講演は多くないので、ご注目いただきたいですね。

次にキャラクター関連でいうと、「『GRANBLUE FANTASY: Relink』クオリティと物量の両立に挑戦したフェイシャルアニメーション事例 ~カットシーンからランタイムまで~」の講演があります。この講演では、『リリンク』の特長であるハイスピードなバトルや奥義のカットイン演出など、いつどのタイミングで見ても魅力的なキャラクターを実現するために盛り込んだ、多様なフェイシャルシステムについてご紹介します。『リリンク』は原作である『グラブル』のイラスト再現や大勢のキャラクターによる豪華な演出のなかで、同時に大量の会話シーンを成立させる必要がありました。その実現のためのアセット制作とランタイム処理(※)の両面の工夫などについて触れます。

※ランタイム処理……プログラムを実行するときの処理のこと

『リリンク』は原作の2Dイラストの世界観を損なわずに3Dで表現することを目指しました。「『GRANBLUE FANTASY: Relink』キャラクターの魅力を支えるリグ・シミュレーション制作事例」の講演では、3Dキャラクターの動きから原作の世界観を感じさせるための工夫について触れます。衣服の風揺れの表現をはじめとした技術的なポイントはもちろん、膨大な作業を限られたリソースの中で進行するためのフロー構築のお話など、多岐にわたる内容をお届けします。

他にも、グラフィックス開発におけるゲームエンジンの処理高速化というテーマに対して、Intel社の「Masked Software Occlusion Culling」を使用した点について解説する「『GRANBLUE FANTASY: Relink』ソフトウェアラスタライザによる実践的なオクルージョンカリング」の講演があります。これは、グラフィックス上で他のオブジェクトに遮蔽されて見えないオブジェクトのレンダリングを無効にし、グラフィックスの描画を高速化する「オクルージョンカリング」という処理を行うために導入したツールや手法に関するお話です。専門的で難しい内容になりますが、海外でも「Masked Software Occlusion Culling」の導入事例は少ないため、グラフィックス開発の最適化技術に興味があるエンジニアの方にはぜひご覧いただきたいです。

なるほど、ゲーム内のアート部分に関連した講演が充実していますね。『リリンク』はサウンド面にも力を入れたタイトルですが、そのこだわりを紹介する講演はありますか。

『GRANBLUE FANTASY: Relink』乱戦を制するミックス ―Ambisonicsと動的音量制御と掛け合いボイス―」の講演では、イマーシブオーディオ(※)への取り組みとして、ミックス時の様々な手法や工夫などをご紹介します。立体音響を再現するためのテクノロジーである「Ambisonics(アンビソニックス)」の活用や、「Sound xRTM」の導入に関する知見などに興味のあるサウンドデザイナーやエンジニアの方にぜひ聞いていただきたいです。また、作中には20以上の操作キャラクターが登場します。それぞれの個性を表現するための効果音制作について解説する「『GRANBLUE FANTASY: Relink』キャラクターの個性にlinkした効果音表現」の講演も、ゲームサウンド開発に携わる多くの方に聴講いただきたいです。

※イマーシブオーディオ……縦・横・高さの全方向から音が聞こえる立体音響のこと

ここまでのお話だけでも、『リリンク』は様々な分野の技術や工夫が詰まった大規模な開発だったように感じます。

そうですね。実際、本当に多くのスタッフが開発に携わりましたし、膨大な作業を経て完成したタイトルですね。エンジニアリングの面でいうと三つのプラットフォーム(PS5®/PS4®/Steam)でリリースしたこともあり、扱ったプログラムコードやデータファイルなども膨大な数に及びました。日々、あらゆるデータの差し替えや修正が入るので、安定した開発体制を維持するためのCI/CD(※)の構築が欠かせませんでしたね。また、QA(※)の観点でも膨大なテストとそのレポートが発生しており、QAの専任エンジニアチームを設置して対応にあたりました。今回のCEDECでは「『GRANBLUE FANTASY: Relink』開発からリリースまでを支えたCI/CDの取り組み」や「『GRANBLUE FANTASY: Relink』専任エンジニアチームで回す大規模開発QAサイクル」の講演で、こうした大規模開発に必須の知見や体制づくりについてご紹介します。

※CI/CD……「Continuous Integration(継続的インテグレーション)/Continuous Delivery(継続的デリバリー)」の略。ソフトウェア開発においてビルド(構築)・テスト・デリバリー(提供)・デプロイメント(展開)を自動化し、継続的に行うこと

※QA……「Quality Assurance(品質保証)」の略

最高のコンテンツを目指すための技術開発
AI、フォトグラメトリ関連講演の見どころ

昨年に引き続き、今年もAIに関する講演がありますね。

昨年のCEDECでは、ゲーム内の会話パートでキャラクターの表情作成をアシストするAIツール開発についてご紹介しましたね。今年の講演はまた少しジャンルが変わりまして、ゲーム開発に必要なデータ管理にAIを導入した事例の紹介です。
昨今のゲーム開発では、開発時に必要な資料やアセットの数が膨大になっており、その管理方法が課題となることが増えてきました。「AIを活用した柔軟かつ効率的な社内リソース検索への取り組み」の講演では、AIを活用して資料やアセットの検索を効率化した事例をご紹介します。

フォトグラメトリに関する講演はどのような内容でしょうか。

サイゲームスでは最高のコンテンツを作るために自社で様々な設備を導入しています。「高品質なフォトグラメトリデータを取得するためのハードウェア&ソフトウェア開発」の講演では、その中でもボディスキャナー、フェイススキャナーといった設備や、関連するソフトウェアについて紹介します。フォトグラメトリとは写真から3Dモデルを生成する技術で、昨今のゲーム開発で写実的な映像を扱う際には非常に有用です。本講演では設備の紹介にとどまらず、3Dモデルのクオリティーアップのための適切な撮影手法や機材と被写体の選び方、独自に開発したハードウェアを使ったデータ取得手法やツールなどを紹介します。フォトグラメトリの専門家はもちろん、サイゲームスのゲーム開発環境に興味がある方であれば幅広くお楽しみいただける講演内容となっています。

以上、CEDEC2024に登壇予定のサイゲームス講演について、カンファレンス運営委員会からの見どころ紹介でした。


サイゲームスでは、昨年のCEDEC講演をYouTubeで公開しています。

「AIによる自然言語処理・音声解析を用いたゲーム内会話パートの感情分析への取り組み」では、今年のCEDECでもご紹介するサイゲームスのAIに関する取り組みについて取り上げています。

また、「『グラブルミュージアム蒼の追想』MX4Dシアターのサウンド制作事例 ~ゲームの世界観とアトラクション体験の両立に必要なこと~」では、リアルイベントの場で作品世界への没入感を高めたサウンド面の工夫を紹介しています。

本記事とあわせて、ぜひご覧ください。

サイゲームスではこれからも業界発展に向けた知見共有を推進していきます。