『グランブルーファンタジー リリンク』フォトモード シンプルで美しい絵を目指した先輩×後輩エンジニアのこだわり
『グランブルーファンタジー リリンク(以下、リリンク)』では、キャラクターや風景を自由に撮影できる「フォトモード」を搭載しています。搭載後にはプレイヤーのみなさんが参加するフォトコンテストを開催。1000点を超えるご応募をいただきました。
本記事では、フォトモードの実装に携わったエンジニア2名にインタビューを実施。開発でこだわった点を聞きました。
- コンシューマーエンジニアアイコ
- 東京本社所属。ゲーム関連の学校にてゲーム開発全般を学び、2022年に新卒としてサイゲームスに合流。研修を経て『リリンク』のグラフィックチームに配属。フォトモード機能の実装の計画を知り、志願して開発に携わった。
- コンシューマーエンジニアカズチカ
- 大阪サイゲームス所属。ゲーム会社でUIやエフェクトの実装、シェーダー(※)の開発などを経験し、2021年にサイゲームスに合流。入社直後から『リリンク』でフォトモード機能開発の他、シェーダーの開発や最適化を担当した。
※ シェーダー……3DCGの描画処理を行うプログラムで、オブジェクトの色、質感、光沢、透明度といった外観を制御したり、ビジュアルエフェクトを作成したりするのに用いる
「フォトモード」概要
幅広いプレイヤーに楽しんでもらうためにシンプルに
最初に『リリンク』のフォトモードについて簡単に教えてもらえますか?
カズチカ ゲームプレイ中、カメラを操作してアングルを決め、スクリーンショットを撮影できる機能です。自由にズームや画角を調整したり、フィルタをかけたりすることで自分好みの写真に仕上げることができます。
アイコ それ以外にもキャラクターの豊富な表情やポーズ、カメラ目線のON/OFFなど、様々な要素を盛り込みました。一方で、ゲームに慣れていない方でも直観的に操作できるよう、機能を盛り込み過ぎないことを意識しました。
カズチカ フォトモードは クリエイティブディレクター・福原の発案で開発が決まりました。『リリンク』はアクションゲームの初心者から熟練者まで楽しめることを大切にして開発していたので、誰でも手軽に『リリンク』の世界を思い出として残せるように、シンプルな設計にしました。
アイコ 『リリンク』のグラフィックは、原作である『グランブルーファンタジー(以下、グラブル)』の美麗なイラストを3Dで再現するというテーマのもとに開発されましたからね。わかりやすい操作感でありながら、どの場面を切り取っても映える美しい画面を目指して開発しました。
フォトモードの開発が決まった後の流れを教えてください。
カズチカ 開発が決まった後は、ディレクターやプランナーが中心となって、要件やクオリティーの基準を詰めていきました。そのタイミングでは、誰がエンジニアとしてフォトモードを実装するかは決まっていなかったんです。それで、「誰かフォトモードを作りたい人いますか?」という話が出てきまして。
アイコ とても興味を惹かれましたが、その時点で私はまだ入社1年目だったので、やってみたいけど実力不足かなとも思っていました。でも、やっぱりどうしてもやりたいということを上司に話したんです。そうしたら、経験が不足している部分はカズチカさんにサポートしてもらいながらやってみたらいいんじゃないか、と背中を押してもらえました。
カズチカ 役割としては、コアとなるシステム部分を僕が設計し、実装はアイコさんと分担して行いました。アイコさんにはカメラ制御の部分を中心にお願いしました。
アイコ 当時を振り返ると、熱意を買ってもらえたのかなと思います。プログラミングだけでなく、仕様を決めるところから参加できたのは良い経験になりました。
開発を振り返って
入社1年目の若手とベテランのコンビで開発
開発にあたって工夫したこと・苦労したことはありますか?
カズチカ できるだけ早くユーザーのみなさんにお届けしたいという考えから、システム部分の設計を早期に組み上げる必要がありました。まずは最低限でも破綻が起きず、ちゃんと使えるものを実装して、後から機能を追加しやすい設計にしました。
アイコ オンラインとオフラインの2パターンでフォトモードを作ったのも工夫したポイントですね。
カズチカ そうですね。オフライン状態でフォトモードを起動するとゲームは一時停止します。一方、オンラインプレイ(マルチプレイ)の場合は他のプレイヤーのゲームプレイに影響しないよう、フォトモードを起動してもゲームは一時停止せず、そのまま進行する仕様にしました。
アイコ 元々、画面を撮影するならプレイを一時停止したいという要望はあるだろうなと思っていました。
手始めに、一時停止しないバージョンで作ってディレクターやプランナーに試遊してもらったところ、やはり「画面を止めたい」という話になったんです。それなら、オンラインでプレイを止めると支障があるので、オフラインのときだけ止めることにしましょうと提案しました。
カズチカ 2パターン作るということは、それだけ不具合が生じる箇所が増えることに繋がります。デバッガーさんと連携して、アイコさんが地道に修正を積み重ねてくれました。結果として、リリース後も不具合がほぼなかったのは良かったです。
ゲーム内で動いているものを全部止めて、かつ破綻のない絵(画面)にするには、色々な苦労がありそうです。
アイコ そうですね。止めること自体はいいのですが、いざ止めてみると色々と不具合が見つかるので、そこの対応をするのが一番大変だったかもしれません。
カズチカ 具体的には、キャラクターの体にカメラが埋まっているとか、装備が体を貫通しているとか、本来見えるはずのないものが見えているとか。
そういう現象がどうしても起こるので、一つひとつつぶす必要があります。元々デバッグ用にゲームを止める機能はあったので、それを参照しながら開発を進めていきました。
アイコ プレイ中なら少々の破綻は気になりませんが、そこで絵を止めて撮影すると違和感が出ます。『リリンク』はアートにこだわって作った作品なので、どのような場面でも破綻しないことを目指しました。
その他に開発でこだわった点はありますか?
アイコ 個人的にこだわったのは、カメラが壁に当たったときに固まって操作不能にならないようにすることと、極力滑らかに操作できるようにすることです。苦労したことは、カメラが壁や障害物にめり込んでしまう問題ですね。
あとは、オブジェクトの裏側など、カメラの位置によっては想定以外の部分が見えてしまうことがあって、この問題は当たり判定(※)の隙間にカメラを移動できないようにすることで回避しました。
とにかく実装して、不具合を発見しては修正してという作業を繰り返しました。
※ 当たり判定……ゲーム内でキャラクターやオブジェクトが衝突したかどうかを判定する仕組みのこと。貫通やすり抜けといった問題は、当たり判定が適切に処理されないことによって起こる
カズチカ フォトモードはどこでも起動できる機能なので、その分、デバッグで問題が見つかる箇所がすごく多かったですね。
アイコ デバッガーさんには細かい部分の不具合まで見つけてもらって、本当に助けていただきました。
カズチカ ビィを隠す機能もアイコさんの発案でしたよね?
アイコ はい。もちろんビィのことは大好きなんですけど(笑)。ビィはプレイヤーが自由に動かせない関係で、撮影したときにキャラクターに重なっていたり、ビィだけ別の方向を見ていたりすることがあって。プレイヤーのみなさんも気になるかなと思ったので、隠す機能を提案しました。
カズチカ なかなか大胆な提案ですよね(笑)。ユーザーのことを考えていないと出ないアイディアだと思って。
リリースしてみて、総じてプレイヤーのみなさんにはフォトモードを楽しんでいただけたと感じています。ネットにアップされている画像を見たら「あれ、ゲーム中こんな色味のシーンってあったんだ」みたいな、我々のほうが知らないことなどもあって、やり込んでくださっている方が本当にたくさんいるんだなと感じました。
アイコ 社内スタッフにも喜んでもらえて、社内チャットツールにフォトモードのチャンネルができて、みなさんが撮った画像をどんどんアップしてくれたのはうれしかったです。
開発に際して、他部署や他職種のスタッフとの連携が必要だったと思います。何か印象に残っていることはありますか?
カズチカ ある締め切りの1週間前に、キャラクターごとの目線の上限下限を設定できるようにしてほしいという相談が来たときは、フェイシャル(※)アーティストの方に助けられました。僕が急いで作ったツールを使って、1日もかからないうちに全キャラクターの調整をしてくれて、非常に速くて驚きました。
※ フェイシャル……3DCGにおけるキャラクターの顔の表情や動きを表現するための技術のこと
アイコ フォトモードの機能が増えるにつれ、「操作のためのボタンが足りないのでは……」と思っていました(笑)。ですが、プランナーさんのボタン配置やメニュー項目選定、メニュー遷移フローの構築が上手くて、とても使いやすいものになったと思います。
カズチカ UIエンジニア、UIアーティストの方も同様で、終盤の調整のタイミングで「これを表示したい」「あれを表示したい」と要求が増えるのをテンポ良くさばきつつ、その上でUIがうるさくならないようにまとめてくれたのはさすがでしたね。
アイコ 本当にそうですね。開発終盤に操作していてわかりづらい点にフィードバックがあった際も、すぐに改善案のイメージを共有してくれて、齟齬なく素早く決まっていったのが感動的でした。
新人エンジニアがフォトモード開発に手を挙げた理由
ここからは、お二人のパーソナリティーにフォーカスして話を聞きたいと思います。アイコさんは学生時代からグラフィック関連の勉強をしていたんですか?
アイコ 元々きれいなイラストやゲームのビジュアル・デザイン全般に興味があって、学生時代には関連の授業を受けて面白いなと感じていました。学生時代からシェーダーやレイトレーシング(※)なんかも、本当に初歩だけですが学んでいましたね。
※ レイトレーシング……光の動きをシミュレートして、リアルな反射、屈折、影などの効果を描画するレンダリング手法。非常に高品質な画像を生成できるのが特徴で、3DCGを用いたゲームや映画などで使用される
カズチカ そういえば、どうして今回フォトモードの開発に手を挙げたのかが気になりますね。
アイコ 私は元々、ゲームのフォトモード機能がすごく好きなんです。一年目で実力は本当に足りないと自覚していたんですが、この機会を逃すと大好きなフォトモードの開発に携わる機会は、この先訪れるかどうかわからないと思いまして。先輩にサポートしてもらえると聞いて、それならぜひと志願しました。
カズチカ サポート役だった僕が言うのも変かもしれないけど、実際にやってみてどうでした?
アイコ 楽しかったです。自分の手でカメラをはじめとした機能を実装して、どんどんフォトモードが出来上がっていって、実際に『リリンク』の世界を撮影できるようになったのがうれしかったですね。開発中もじゃんじゃん撮影していました(笑)。
カズチカ あらためて、大変だったところは?
アイコ すり抜けや貫通が起こってしまう場面が、想像以上に多かったことですね。カズチカさんに頻繁に相談して、実装のノウハウや上手な落としどころの見つけ方などを色々聞きましたよね。
私は東京勤務でカズチカさんは大阪勤務ですが、通話で「すみません、今話できますか?」と話しかけて困ったらすぐに相談させてもらっていたので、本当に助けられました。
カズチカ そうでしたね。密にコミュニケーションを取れていたので、拠点が離れていることによるハンデは感じなかったですね。
カズチカさんは、アイコさんをサポートするという部分で気を付けていたことはありますか?
カズチカ 自分が新人だった時に学んだのは、人間は不安になるとロクでもないことしかしないということ(笑)。だから何か不安に思ったら、どんなことでも話してくれとは言いました。一方で、苦労しているなと思っても、できる限り見守るスタンスでいましたね。
アイコ だんだんと私への仕事の振り方も変わっていきましたよね。そこも意識されていたんですか?
カズチカ 自然とそうなりましたね。最初は「こういう実装にしてください」ということを噛み砕いて説明していました。でもやっているうちに、1年目とは思えないくらいできることがわかってきたので、徐々に噛み砕くのをやめて、途中からある程度まとめてタスクを投げるようになりました。
だから支えるというよりは、自分で良いと思えるようにやってくれたら良いな、くらいの気持ちでした。
アイコ そうだったんですね。カズチカさんから見て、私の成長を感じた部分はありますか?
カズチカ 仕様というほどカッチリしたものがない、概要の状態のものを具体的な形に落とし込むことが少しずつできるようになったかなと思います。アイコさん自身は、今回の開発で達成感ややりがいを感じたことはありました?
アイコ やっぱりプレイヤーのみなさんが喜んでくださったことに達成感を覚えました。先日のコンテストも盛り上がったので、フォトモードをやって良かったと思いました。
フォトモード開発を終えた二人が
これから挑みたいこととは
お二人の今後の展望について聞かせてください。
カズチカ 僕は「あれやりたい」「これやりたい」という欲求が次々と湧いてくるタイプではなく、一つのことを極めたいタイプなので、依頼された仕事をいかに突き詰めて面白くするかを頑張りたいと思っています。
ユーザーのみなさん向けの機能もそうですし、社内のアーティストに向けてグラフィック関連のツールを作ることもあるので、アーティストの手間をどんどん削減して、クオリティーアップに貢献できたら良いなと思います。
アイコ 私も今後、グラフィックを突き詰めていきたいなと思っています。エンジニア側から良いグラフィック制作を支援して、最高のグラフィックと言ってもらえるゲームを作れるよう頑張りたいです。
また、現在新卒入社のスタッフのトレーナーをしています。自分もフォトモードをやりたいと言ってやらせてもらったので、後輩がそういう発言をしたときに、私もそれを後押しできるような先輩になりたいです。
サイゲームスでは現在もエンジニアを募集しています。お二人は、こんな人と一緒に働きたいという希望はありますか?
カズチカ クオリティーとスケジュールを両立しながら、きちんと製品のレベルまで持っていけるような人ですかね。一緒に最高のコンテンツを届けるために楽しめればなと思います。
アイコ 私はやっぱり、より良いグラフィック、良いゲームを作りたいという熱量が高い方と一緒に働きたいですね。良いものを作るためにどうするかを一緒に考えていけたら、すごく楽しいと思います。
以上、『リリンク』フォトモードのエンジニアインタビューをお届けしました。サイゲームスは一緒に働く仲間を募集しております。
この記事で興味を持った方は、ぜひ一度採用ページをチェックしてみてください。
最後に、社内スタッフがフォトモードにて撮影した画像をお届けします!