『ウマ娘』ウイニングライブができるまで 振付師・モーションアクター×3DCGアーティスト座談会

2023年2月に2周年を迎えた、ゲーム『ウマ娘 プリティーダービー(以下、ウマ娘)』。ウマ娘たちの躍動感あふれるライブシーン「ウイニングライブ」は、振付師・モーションアクターさん(以下、アクター)たちとサイゲームスの3DCGアーティストとの強力なタッグによって生み出されています。今回はそのキーマンたちをお呼びして、ウイニングライブの振り付け制作から完成までの過程や、どのような想いを込めて踊るのか、それをどのように演出するのかなど、それぞれの見地から語る座談会を開催しました!

■参加者

振付師・アクターJakko さん
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株式会社ソリッド・キューブ(以下、ソリッド・キューブ)所属。『ウマ娘』プロジェクトには振付師・アクターとして参加。ソリッド・キューブ入社当初に受けたウマ娘 1st EVENT「Special Weekend!」のオーディションに合格して以来『ウマ娘』に携わる。
※『ウマ娘』での主な実績:『ユメヲカケル!』振り付け制作、『ウマ娘』モーションキャプチャー メインアクター など
振付師・アクター松本 渚 さん
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『ウマ娘』プロジェクトには振付師・アクターとして参加。ウマ娘 1st EVENT「Special Weekend!」のオーディション合格以来『ウマ娘』に携わる。大学時代はスポーツを専攻し、アクロバティックな動きを得意とする。
※『ウマ娘』での主な実績:『ユメヲカケル!』『ぴょいっと♪はれるや!』振り付け制作 など
振付師・アクター春日 麻里 さん
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『ウマ娘』プロジェクトには振付師・アクターとして参加。大学時代はスポーツを専攻し、アクロバティックな動きを得意とする。
※『ウマ娘』での主な実績:『Gaze on me!』『DRAMATIC JOURNEY』振り付け制作 など
3DCGアーティストチーム 3DCGリードカットシーンアーティストカオリ
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サイゲームス所属。2017年に合流し、2019年から『ウマ娘』プロジェクトに加わり、ライブカットシーンのリードとしてカットシーン制作や監修を担当している。
3DCGアーティストチーム アニメータートシヒデ
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サイゲームス所属。2016年から『ウマ娘』プロジェクトに加わり、ライブモーション監修・調整を担当している。

※以下、敬称略

ウイニングライブの「骨子」を決める
コンセプトメイキング

ウイニングライブ制作にあたって、最初に着手することはなんでしょうか。

トシヒデ まずはサイゲームス社内『ウマ娘』プランナーがサウンドデザイナーから音源をもらって、ウイニングライブ制作専任組織「ライブ開発チーム」全体で演出のコンセプトを検討するブレストを行います。そこではいつもこのようなコンセプトマップを作っています。

▲『ユメヲカケル!』制作時のコンセプトマップ 全体

トシヒデ コンセプトマップの中央にはライブを観るユーザーのみなさんに「与えたい印象」を配置し、最重要項目とすることで大コンセプトがブレないようにします。その周りに三つの主要コンセプト「ステージ背景(どんな場所・世界観か)」「モーション(どんな人物・キャラクター像か)」「カット構成(どう見せたい・演出したいか)」を伸ばし、これをベースにライブ内容を掘り下げ、具体化していきます。

▲『ユメヲカケル!』制作時のコンセプトマップ 「モーション」部分

トシヒデ 『ユメヲカケル!』の振り付け制作を例に挙げると、まず「モーション」のコンセプトではウイニングライブ1着の立ち位置(センター)にトウカイテイオー、2着の立ち位置(センター左隣)にメジロマックイーンを配置することにしました。そこからトウカイテイオーらしい足さばき・ステップをメインとし、ピースやジャンプを多めにしたり、メジロマックイーンとのやり取りを組み込んだりするなど、盛り込みたい動きの要素を列挙してモーションの基本方針を固めます。これを資料化し、ソリッド・キューブのコーディネーターと、サイゲームスのスタッフでコンセプト資料を基に振り付け内容を協議します。そこでまとまった情報から、今度はコーディネーターと振付師・アクターが話し合い、振り付けを具体的に決めてもらっています。

ウマ娘たちはどう踊る?
振り付け制作

続いて振り付け制作についてお聞きします。アクター・振付師のお三方は『ウマ娘』の振り付けを考える際、それぞれどのようにアイディアを膨らませているのでしょうか。

Jakko 私が振り付けを考えた『ユメヲカケル!』はセンターで踊るキャラクターが決まっていたので、まずはテイオーちゃん(トウカイテイオー)について調べることから始めました。例えば競走馬のトウカイテイオーのレース映像を観て、どういう動きがテイオーちゃんに映えるかなあと考えるんです。そうやって、テイオーちゃんにはテイオーステップがあるので、ステップを目立たせようと決めました。それから曲を聴いてざっくりとした振り付けの流れを決めたら、細かなところを肉付けしていきました。

▲『ユメヲカケル!』ウイニングライブ

松本 渚(以下、渚) 私は『ぴょいっと♪はれるや!』の振り付けをしました。私もまずは資料を見ながらイメージを膨らませるところからスタートしますね。『ぴょいっと♪はれるや!』はすごくかわいくて華やかでポップな曲なので、おもちゃ箱みたいにパーンとかわいい動きがいっぱい出てきて、タタタタターン!と楽しい感じになるように振り付けました。またステージのデザインを見て、楽しそうにみんなが踊る感じと、かわいいところが見せられたらいいなーと思って、私も楽しく考えさせてもらいました。

▲『ぴょいっと♪はれるや!』ウイニングライブ

『ぴょいっと♪はれるや!』は滑り台のシーンが印象的ですが、この演出はどの段階で採用することになったんでしょうか?

トシヒデ 滑り台は、初めにプランナーが「とにかく今回は滑り台をやりたい!」と言い出したのがきっかけです。幼児向け教育・音楽番組のような雰囲気にしたくて、とにかく滑り台は譲れない!と。最初はみんな「えっ!?」とざわめきましたね(笑)。

3DCGの技術的に、座ったときの衣装を表現することは難しいそうですね。

カオリ そうなんです。収録したあとに技術的に難しいことがわかると、せっかくの振り付けも台無しになってしまうので、先に3DCGアーティストとエンジニアで滑り台の検証から入って、なんとかできるかも!ということがわかってから進めました。ウマ娘全員の衣装でなるべく破綻が起きないように、見せ方にも気を配りました。

大変でしたね……(笑)。ただ結果的に、すごく話題になりましたよね。

カオリ そうですね!このシーンは予想以上にユーザーのみなさんに喜んでもらえて、とても報われました。基本的にチームメンバー同士すごく仲が良いのですが、プランナーは新しくて夢がある演出のアイディアを出すのが仕事である一方、3DCGアーティストやエンジニアは技術的に実現可能かを考えるので、そこで意見がぶつかり合うことはありますね。
ただし、どちらも必要な視点ですし、アイディアと技術でどうバランスをとるべきか、都度しっかり相談することがより良いものを作るための第一歩になるので、「最高のコンテンツを作る」チームとしては必要なことだと思っています。

▲話題となった『ぴょいっと♪はれるや!』の滑り台シーン

みなさんの情熱あってこそですね!話を戻して、春日さんはいかがでしょうか?

春日 麻里(以下、春日) 私は『Gaze on me!』と『DRAMATIC JOURNEY』の振り付けを制作しました。私が振り付けをするときはまず、楽曲を信じられないぐらいたくさん聴きます(笑)。そのあと振り付けを考え始めるのですが、資料がすごく丁寧で、楽曲をひたすら聴いた状態でそれを読むとどんな振り付けを求めているかすぐわかって、振り付けをしている最中にも、あ、ここはこうしたいな!とアイディアが浮かんでくるんですよね。

一連の振り付けをじっくり考えるときは資料や歌詞を机に並べて、キャラクターの立ち位置、並び順や入れ替わりも全部加味して、おかしいところがないようにしていきます。長いときには1週間ぐらいかかりますが、2周年楽曲の『DRAMATIC JOURNEY』は悩むこともなく、3時間ぐらいですぐに振り付けができましたね。

▲『DRAMATIC JOURNEY』ウイニングライブ

春日さんは論理的に振り付けをしていらっしゃるのですね。お三方それぞれ、制作スタイルに個性があって興味深いです!振り付けができてからはどのように進めるのでしょうか。

カオリ 振り付けが決まったら素案をサイゲームスに送ってもらい、方向性に大きなズレがないかどうかを確認し、フィードバックをお返しすることを何度か繰り返して決定となります。

振り付けが決まったらいざ本番
モーションキャプチャーの撮影

振り付けが決定するとモーションキャプチャーのリハーサルと本番撮影に臨む流れになるかと思いますが、ウイニングライブでダンサーが複数登場する場合、モーションキャプチャーは一度に何名ほどで撮るのでしょうか?

トシヒデ ウマ娘が計18人登場する『Gaze on me!』の場合、この楽曲は3人のキャラクターがメインで、L(アクターから見て左側)、R(アクターから見て右側)のバックダンサーを含めて5人を一度に撮影しました。

▲『Gaze on me!』モーションキャプチャー撮影リハーサルの様子

カオリ 『Gaze on me!』のフォーメーションは、メイン3人のすぐ後ろにバックダンサーがいることをはじめ、いつもより特殊でした。そのため5人で踊っているときは問題なく見えていても、18人になったら画面がごちゃごちゃしてしまい、「メインが埋もれてしまうのでは…?」という懸念がありました。

ですので、リハーサルに立ち会っていたライブ開発チームのメンバー全員を動員して、バックダンサーの位置に立ってもらい、曲に合わせて立つ・しゃがむ動きだけ協力してもらいました。踊ることに関しては素人ばかりのメンバーなので、かなりぎこちないですが……(笑)。
おかげで、カメラで映したときの画面の密度感や全体の動き方などをイメージすることができました。こういった急な要望を気軽に出し合えるチームなので、かなりいい雰囲気の中で仕事ができていると思います。

▲リハーサルでの立ち位置確認の様子
▲ライブ班スタッフも楽曲に合わせて立ったりしゃがんだりしています
▲完成版。アクターのお三方は大興奮で完成映像を何度も見返すそう

チーム一丸となって制作しているんですね!アクターのみなさんは、『ウマ娘』を演じるにあたって特に意識している動きはあるのでしょうか。

Jakko ウマ娘の耳や尻尾は意識していますね!例えば耳で何かを聴く仕草が入るとき、ウマ娘の耳の位置(頭の上部)に手を当てるとか、日常的なさりげない仕草にまで気を遣っています。

トシヒデ みなさんの発想力の豊かさにいつも助けられています!また、みなさん身体能力が高くて動きが軽やかなので、それがウマ娘たちの仕草に合っているんですよね。当初は今よりも落ち着いたダンスだったのですが、ウマ娘は超人的な走力を持っていますし、もっとガンガン踊っていただくようにお願いして、今はすごく元気な振りをたくさん付けてもらっています。

※モーションキャプチャーチームの詳しい役割や制作事例はこちらの記事で公開中!

ウマ娘が最高に輝く瞬間を演出
カットシーン制作

モーションキャプチャー撮影が終了するとカットシーン制作が続きますね。ウイニングライブのカメラワークや演出について心掛けていることはありますか?

カオリ 基本的には、現実のライブらしくなるよう演出することを重視しています。CGではどこにでもカメラを置けて、場合によっては現実離れした画ができます。そういった利点は活かしつつ、あまりにも現実離れしたものになりすぎないように心掛けていますね。
例えば『Gaze on me!』では画角が広めのレンズを使い、キャラクターに寄ったショットを意識しました。現実のライブだとここまで人物に寄った位置にはなかなかカメラを置けませんが、この楽曲ではキャラクターに近いショットにしたほうが雰囲気に合うだろうと考えました。

▲『Gaze on me!』での広角・寄りのショット

2022年のストーリーイベント『今宵、リーニュ・ドロワットで』のダンスシーンのカメラワークもダイナミックですよね。

カオリ ありがとうございます。このイベントは、いつもより「ダンス」そのものがフィーチャーされる内容なので、カットシーンとしても動きをメインに据えた構成にしました。一方で表情も映したかったので、トシヒデさんをはじめとした3DCGアーティストチームのアニメーターに相談し、ダンスのダイナミックさはそのままに、要所要所で細かくスローモーションにして表情も見えるように演出しています。

2023年のリーニュ・ドロワットイベント『されば君、かなし』もそうですが、キャラクターが固定な分、普段のライブで実現するにはなかなか難しい演出にも積極的に挑戦しています。

▲『今宵、リーニュ・ドロワットで』ダンスシーンのスローモーションを活かした演出例(0:27~0:30頃)

※カットシーンアーティストの詳しい役割や制作事例はこちらの記事で公開中!

ウイニングライブ制作
これからの抱負

ウイニングライブは、今回お集まりのみなさんそれぞれが最大限に持ち味を活かして制作していることがわかりました。最後にみなさんの抱負をお聞かせください!

Jakko ウイニングライブはレースに勝った子が立てる舞台であることを意識して、そのときの気持ちの高揚感や感動を伝えられるように今後も頑張っていきたいです!

 言いたいことがいっぱいあり過ぎて難しいですね(笑)。私は、ファンのみなさんがコンテンツを観て喜んでくださるのが本当にうれしいです。「これぞ『ウマ娘』!」というイメージを大切に、これからも様々な表現を追求していきたいです。

春日 ウイニングライブでダンスは踊るけど、あくまで「アイドル」ではなくて、アスリート、アーティスト……多様な魅力を持つのが『ウマ娘』らしさなのかなと私は思うんです。そういったウマ娘の個性やキャラクター性をきちんと表現することに、引き続きこだわっていきたいです。
あとは、1人で振り付けを考えるのはもちろん、サイゲームスのスタッフのみなさんと意見交換しながらより良くしていくのが本当に楽しいので、これからも『ウマ娘』チーム全体で頑張っていきたいです!

トシヒデ ここにお集まりのみなさんとは6年近くの長い付き合いになりますが、とても良いチームだと思っています。アクターさんたちに気持ちよく踊っていただけるようにするのが私の仕事だと思っていますし、サイゲームス側のメンバーとも上手く連携して「最高のコンテンツ」を提供できるように、引き続き全員で頑張りたいです!

カオリ 私は、みなさんが踊ってくださったダンスをより良い映像として演出できるように心がけています。その映像やコンセプトがユーザーのみなさんに伝わったときにとてもやりがいを感じていますので、これからも喜んでもらえるよう頑張りたいと思っています!


以上、振付師・モーションアクター×3DCGアーティスト対談をお届けしました。
チーム一丸となってますますパワーアップしていく『ウマ娘』ワールドに、これからもご期待ください!

※協力会社
・アクター キャスティングなど:株式会社ソリッド・キューブ

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