「非日常を楽しんでもらう」曲を! 『プリコネR』新人音楽ディレクターに芽生えた覚悟

サイゲームスには、新卒・第二新卒のスタッフにキャリア形成および生活全般のさまざまな悩み相談を行うメンターと業務上必要なスキルを教えるトレーナーが付くメンタートレーナー制度があります。その対象者に、それぞれのコンビで対談していただく連載企画「SJ対談」。
先輩(Senior)と後輩(Junior)、それぞれの立場から見た制度期間中の思い出や成長の軌跡などを話します。
第13回は、サウンド部のSJ対談をお届けします。

メンターアキヒロ
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2015年にサイゲームスに入社。『プリンセスコネクト!Re:Dive』『ウマ娘 プリティーダービー』では音楽プロデューサー、作曲家としても活動している。
2018年新卒サオリ
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2018年に新卒として入社。新卒研修後、『プリンセスコネクト!Re:Dive』の楽曲の制作進行に携わり、音楽ディレクターとしてADVパート(会話パート)の監修を担当。現在は開発タイトルのADVパート選曲を行う。

「リーダーのオーラ」「プロフェッショナル」
お互いの印象

サオリ 最初にアキヒロさんとお会いしたのは学生時代でしたね。各企業の方を招いて自作曲を発表する「就職プレゼンテーション」を学校で実施していて、そこにサイゲームスからアキヒロさんたち3人が来ていました。
そのときどんな曲を作りたいかを聞かれて、「オーケストラ楽器を使った楽曲をやりたい」と答えたんです。ただ、当時の私は全然知識がなくて……。そしたらアキヒロさんが、オーケストラ楽器を使った曲を作るためにはどういったことを知っていないといけないのか、そもそもどうやって作られているのかなど、その場で詳しく教えてくれたのを覚えています。

アキヒロ 懐かしい!正直に言うと、あのときサオリさんの曲に対しては当時の時点で何も言う必要がなかったので、せっかくなら作品以外で“ためになること”を伝えようと思って話しましたね。学生でここまでできていたら十分だと思えるレベルでしたので。
あと、第一印象として “リーダーのオーラ”があるなと思いました。

サオリ それは面接のときも話していましたね。学生時代に学級委員長をやっていたからでしょうか……?

アキヒロ 同級生の悩みを親身になって聞いてあげてたんでしょ?そういう、真面目で優しいお姉さんのようなオーラを初見で感じて、この人とは絶対一緒に仕事がしたいと思いました。実際、入社後は音楽ディレクターの業務を任せましたが、サオリさんが指示すると不思議と人が動いちゃうんですよ。

サオリ そう言ってもらうことが多いのですが、実はあんまり自覚がないんです。

アキヒロ 人柄でしょうね。納期が迫って作業が佳境を迎えたときも、サオリさんが優しく「大丈夫です。手を動かせば終わります」と声をかけたら、一息ついていたメンバーがいつの間にか全員作業を再開しているという(笑)。

サオリ 確かにいつも有無を言わさずやってもらいますね(笑)。

アキヒロ それだと普通は反発する人が出てくるんですけど、男女問わず周りを動かせるのは特殊スキルですよね。言い方も、怒らずに一言二言だけ声をかける感じ。すごい才能だなって感心してますよ。

サオリ ありがとうございます(笑)。
私のアキヒロさんの印象は「プロフェッショナル中のプロフェッショナル」です。就職プレゼンで細かく教えてくれたこともそうですし、どんなときでもアキヒロさんに曲を見てもらうと適格なアドバイスをもらえます。

サオリ あと、もう1つ感じていたのは、面倒見の良さです。就職プレゼンの後日、学生は各企業の担当者から学校経由で評価のメールをもらうのですが、誰よりも一歩踏み込んだところまで教えてくれたのがアキヒロさんでした。入社してからもたくさん手助けしてもらっています。

アキヒロ そんなに面倒見いいですか?(笑)

サオリ はい!どんなに自分の業務が大変なときでも、質問したら全部教えてくれます。技術面はもちろん、仕事への向き合い方とかも。本当にありがたいです。

アキヒロ それぐらい当たり前ですよ。逆に上司がそれくらいできてなかったらまずい(笑)。

サオリ その当たり前がすごいなと思います。いつでも聞く姿勢を持ってくれているので、こちらとしては安心して話せますから。第一印象で感じた面倒見の良さは今も変わってないどころか、ますます強くなっていますね。

アキヒロ 私も第一印象は確信に変わっていますね。本当に魔法を使って人を動かしてるんじゃないかと思います。

サオリ 魔法は使ってないです(笑)。

成功と失敗を重ねてできた覚悟
制度期間中の思い出

サオリ 制度期間中でよく覚えているのは、慣れない楽曲の収録で頭が真っ白になったことです。収録の勉強をしてから臨んだので流れは何となくわかっているつもりだったんです。でも、いざ実際にやってみるときは本当に緊張しました。

アキヒロ スタジオから奏者さんのブースに話しかけるときに押すトークバックのボタンに添えられた指が震えてたもんね(笑)。

サオリ はい……。演奏が終わってフィードバックをしなきゃいけないのに、トークバックボタンを押してから「何をどう話したらいいんだ!?」と無言になってしまいました。
演奏中に「ここを言わなきゃ!」という点をチェックして、色々考えているうちにどんどん演奏が進んでいくので、焦っているうちに演奏も終わってしまって……。

アキヒロ そうですね。メモを書き留めようとしている間に演奏が終わってしまうからね。

サオリ そうなんですよ。そして焦ったままボタンを押すので何の話もできなくて。最初は本当に頭の中が真っ白でした。

アキヒロ 人によってやり方も言い方も違うから、最初は試行錯誤ですね。
最初の緊張も含めて良い経験になったらなと思っています。実際、サオリさんが学生時代にやっていた打ち込み(DTM)による曲作りとは全然違う世界を経験したわけじゃないですか。新人時代に収録を毎月経験できたのは貴重ですよね。
『プリンセスコネクト!Re:Dive(以下、プリコネR)』の録音はスピードよりもクオリティーを重視しているので、何回も演奏をやり直せるぐらい時間に余裕があります。特に未経験の若手だったら自分のやりたいことを色々試せるのですごく良い機会だと思いますね。

サオリ 今振り返ってあらためて思いますけど、毎回新しい発見があって本当に勉強になりました!

アキヒロ サオリさんの何事も糧にして前向きな行動に移せるところはすごいと思います。そうやって成功も失敗も多く経験して、「何が何でも自分がやらなければ」と覚悟を持って仕事をするようになりましたよね。もともと人を動かす魔法が使えたので、そこに仕事への覚悟が加わってさらに頼もしくなりました。やっぱり、腹を括って行動する人は強い。どんな仕事でも、何が起きても対応できますから。

「冷静な耳で聞く」
印象に残っているアドバイス

サオリ 新卒当時『プリコネR』のADVパート(会話パート)の選曲とか外注管理、作曲や収録などを担当していたのですが、初めの頃、作曲が全然仕上がらなくて……。収録が近付いているのに全くできていないことがありました。

アキヒロ あのときは大変でしたね(笑)。

サオリ アキヒロさんに「すみません……」と助けを求めて、隣に座りながら色々細かいアドバイスをもらって作業したことが印象に残っています。その経験を経て、今はいろんな手を考えたうえでスケジュールを逆算して進行できるようになりました。そのときにもらった「新鮮、かつ冷静な耳で聞く」というアドバイスは、今でもずっと守っています。

アキヒロ 何度も聞いているとどんなに変な曲でも良く聞こえてきてしまうので、時間を置いてから聞くのは大事です。次にどんなメロディーがくるか全部覚えてしまうのも良くないですし。

サオリ そうですね。アドバイスをもらってから、いったん違う作業をしたり1日置いたりして耳を冷静にしてから聞くようにしています。そうすれば曲の粗がわかるようになるので、そこを重点的に修正していく感じですね。作曲だけじゃなくて選曲でも一緒なので、耳を休ませてから聞くのは毎回やるようにしています。
あと、選曲で言うと「真面目過ぎる」「もう少し面白みがほしい」といった指摘をよくもらいました。最近やっとわかってきたんですけど、私のADVパートの選曲って当り障りない感じが多い気がします。

アキヒロ 基礎はできていますが、真面目な性格が選曲によく出ています。せっかくフィクションを作っているのに満員電車に揺られている気分になるというか。

サオリ 満員電車……!?

アキヒロ ファンタジーなゲームの中でも、リアルな現実世界を見ている感じ。もっと遊べばいいのにと思います。せっかくだから楽しくゲームをしていただけるような演出を考えたいですよね。○○駅に着いたから乗り換えなきゃ!じゃなくて、乗り過ごしてもいいやって思ってもらえるような。

サオリ なるほど……。それで言うと、印象的なのはシノブ(ハロウィン)とのデートシーンです。私は最初明るい日常曲をずっとかけていたんですけど、アキヒロさんのフィードバックでは手を繋ぐところからバラードに変わって、ドキドキ感がより伝わるような演出になっていたんです。シーンが色付いた感じがして、びっくりしました。

▲シノブ(ハロウィン)のキャラクターストーリーより。バラードでがらりと雰囲気が変わります

アキヒロ 基本は場面にあった音楽を付ければいいんですけどね。ただ、「楽しいときに楽しい曲、悲しくなったら悲しい曲」だけでは実生活と変わらなくなっちゃうので。非日常も味わってもらえるようにするんですよ。

サオリ 選曲は未だに難しくて毎回悩みますね。

アキヒロ そこは新人に限らず誰もが苦労していることなので、少しずついろんな経験を積んでいきましょう。

「いらない回り道をさせない」
アドバイスで意識していたところ

アキヒロ アドバイスをする上で気を付けていたことは色々ありますが、一番は「いらない回り道をさせない」ようにしました。
僕は若手の頃、「とにかく自分でなんとかしないと!」と思ってひたすら猛勉強をしたので、実力は付いたかもしれません。ですが、今サウンド部の若手に伝えているような「仲間と密なコミュニケーションを取る必要性」「インプット・アウトプットの大事さ」などを会得するまでに十何年もかかってしまったんです。そのときそのときで、自分の持っている力のみで成し遂げようとがむしゃらでしたね。

アキヒロ サオリさんをはじめ、新卒のメンバーは豊かな才能を持った人たちばかりです。そんな素敵なメンバーには僕がやってきたような“いらない回り道”をさせたくないと思っています。みなさんが成長するために必要なことは全部伝えているので、どんどん成長して、僕を超えて行ってほしいです。

サオリ 回り道で思い出したのですが、台本を読み込んで、テキストだけでADVパートの選曲を進めてみた結果、大失敗したことがありましたよね。キャラクターのボイス収録が終わった後に予め選曲したものと合わせてみたら全然選曲があわなくて……また最初から作業し直すことになりました。以降は気を付けるようになったので、良い経験になりました(笑)。

アキヒロ 懐かしいですね。シナリオの読解力は最初の打ち合わせでは必要ですけど、実際にイラストが付いたり声優さんたちの演技が入ったりすると、文字で受けた印象とは全然違うものになっている場合が多いんですよね。あのときもおそらく失敗するとわかっていたけど、わざと失敗してもらいました(笑)。

サオリ そうだったんですね。あのとき、私たちがやってみたい!と言った時点で止めなかったのはなぜですか?

アキヒロ 自分たちで一生懸命作ったのに合わないという経験をしてほしかったからです。言われた通りにやるのが最短なようで一番遠回りなので。挑戦しないままだと「やっぱりあの方法のほうが上手くいくんじゃないか」と心の中にずっとモヤモヤが残るけど、自分たちで挑戦して失敗したら諦めがつくじゃないですか?後輩にも経験を踏まえてアドバイスできるようになるし、長い目で見たらそれが最短ルートなんです。

サオリ 確かに自分で経験していると、あのときはこうだったと具体的に伝えることができますからね。一度やってみてよかったなと思います。

お互いへのメッセージ

アキヒロ 普段から伝えたいことは話しているので、日頃の言葉をしっかり実践してほしいです。サオリさんの持ち前の真面目さを活かしつつ、ユーザーのみなさんの心をつかむ楽曲でサイゲームスを、そしてゲーム業界全体を盛り上げていってくれることを期待しています。

サオリ はい。少しずつでも成長していけるよう、日々精進します!

アキヒロ あと、先輩になったサオリさんに1つだけアドバイスです。
教えたことで同じ間違いをすると、人はどうしても「教えたのになんで!?」と思ってしまうものですが、「1回教えてわかることと、1回ではわからないこと」があるんです。叱ってもわからないものはわからない、重要なことに限って何度も言わないと真の意味をわかってもらえないのです。そして、これを理解しないままに下手な叱り方をしてしまうと、相手との信頼関係がなくなってしまって、さらに悪化することすらあります。

アキヒロ 僕は、「心から理解してもらえるまで何度も言い続けなければならないことは、わかってもらえるまで10回、100回、1000回でも丁寧に伝えよう」と心に決めていて、実践しています。
これからも指導する側のさまざまな苦労や、難しい仕事があると思いますが、恥ずかしい失敗の経験とかは何年かすれば笑い話になります。どうせ笑い話になるのだから、色々挑戦して楽しんでしまおう!

サオリ はい!サウンド部に人が増えてきて、私自身が教えたり進捗を見たりする立場を経験していく中であらためてアキヒロさんのすごさを感じました。アキヒロさんのアドバイスを後輩たちに伝えつつ、みんなが成長できるように私も手助けしていきます。


編集後記

今年オープンした新サウンドスタジオにて。
作業風景を少しだけ見学させてもらいました!

サウンドスタジオについてはこちらもご覧ください。
新サウンドスタジオOPEN!コンセプト重視の“最高のサウンド制作環境”づくりに迫る【社内設備特集Vol.3】