『GRANBLUE FANTASY Relink』グラフィック徹底解剖<前編> 3Dモデルは全角度「決めカット」を目指す

12月12日に放映した「ぐらぶるTVちゃんねるっ!フェス出張版」はご覧いただけたでしょうか?同放送ではコンシューマータイトル『GRANBLUE FANTASY Relink(以下、Relink)』の開発状況や発売時期が発表されました。本記事では、「サイ技(わざ)」企画として、開発チームに聞いた『Relink』のグラフィック面での取り組みについて、前後編に分けてお送りします。
前編では『Relink』のこの1年の歩みや2Dのイラストを3D化するポイント、新型コロナウイルスの影響で在宅勤務になった開発環境についてご紹介します。

例年より詳細なゲーム内容を紹介
『Relink』開発チームが伝えたかったこと

あらためて聞きますが、今回の生放送はどんなメッセージを伝えたい意図があったのでしょうか?

「グラブルフェス2019」以前の発表では星晶獣戦やマルチプレイといった、ゲームの大枠の情報をメインに出してきました。今回は、ゲームシステムやメニュー画面といった細かいところも出来上がってきて、開発が順調であることを伝えたいと思いました。開発が進んでいるステージを切り出してデモプレイを行ったのですが、メニュー画面の操作や装備の付け替えといったディテールもお見せできたことで、より具体的なプレイ時のイメージをお持ちいただけたのではないかと思います。

確かに、よりゲームらしいディテールが見られましたね。ファンの方々の期待も高まったと思います。

ちなみに、昨年の発表は「不安の払拭」が大きなテーマでした。本作は当初、外部の会社で開発を進めていたのですが、途中でサイゲームスでの完全内製に切り替わるという、大きな変化がありました。ファンのみなさんからは、これまでコンシューマー開発の実績が少ないサイゲームスが本当に『Relink』を作れるのかと心配する声が聞こえていたため、その不安を払拭することが第一だと考えたのです。そこで、我々がしっかりしたクオリティーの作品を開発できることを示すために、プレイアブルキャラクターとしての四騎士の発表と、実際のマルチプレイの様子を公開しました。おかげさまでファンのみなさんからは好感触を得ることができました。

『グラブル』のイラストをそのまま3D化!?
『Relink』のグラフィックが目指す高み

続いて、『Relink』のコンテンツについて話を聞いていきたいと思います。『Relink』はグラフィックに関してどんな部分に力を入れているのでしょうか?

『グランブルーファンタジー(以下、グラブル)』本編はとにかくクオリティーの高いイラストが魅力で、ひと目で『グラブル』と分かるような個性をも持っていると思います。『Relink』のグラフィックチームの目標は、そんな2Dの原作イラストをそのまま3D化した世界を作ることです。『グラブル』らしさをいかに3Dで表現するかに、一貫して取り組んでいます。

元々2Dのイラストを3D化するにあたって、どういう部分に難しさがあるのでしょうか?

イラストは一方向から見たものであり、2Dならではの誇張やウソもあるため、3Dで表現すると形状にどうしてもずれが生じてしまいます。例えば、あるキャラクターの正面から描いたイラストと横から描いたイラストがあるとして、正面から見たカットを基準にして3Dモデルを作ったとします。すると、正面から見たときはイラストそのままのように見えても、そのモデルを横から見ると、横から描かれたイラストとは顔のパーツの位置が微妙に違う、といったことが起こるのです。イラストは「その角度から見たときに最高にかっこよく見えること」を最優先して描くものなのである意味当然なのですが、3Dの場合は同じモデルで正面からも横からも『グラブル』の原作イラストと同じようにかっこよく見せる必要があるのです。それが最も難しい点の1つですね。

さらっと言われていますが、すごく難しいことですよね?どんなアプローチで実現するのですか?

『グラブル』のイラストには、影の付き方やハイライトの入り方、顔のパーツの形状など、現実の物理法則とは違う『グラブル』の世界独自の法則があります。我々は、それらの要素を1個ずつ分解して、「3Dで表現するにはどうしたらいいか?」を考えていきました。

『グラブル』独自の法則は、どうやって見つけるのでしょうか?

原作イラストを徹底的に見ることですね。見て、分析して、言語化します。言語化ができれば、「こういう影を付けるためにライティングはこうしよう」とか、「ハイライトはこの技術を使って表現しよう」といったことをシステムに組み込めます。『Relink』のアーティスト陣の強みは、そういった法則を見つける観察眼があり、発見した法則を言語化できるところです。従来はセンス的なもので済ませていたところを、きちんと分析してルール化することで、明確なゴール設定ができるのです。

▲『Relink』チームの社内用wiki内ページより。さまざまなキャラの多彩な表情を見てそのキャラらしさを研究しています

そうして導き出した法則に基づいて3Dモデルを作り、原作イラストと比較して、違いがあれば修正して……という作業を積み重ねていき、「どこから見ても『グラブル』らしい」3Dの世界が出来上がりつつあります。

昨年と比較して今年は具体的にどういった部分での調整を加えているのでしょうか?

例えば、鼻の横に入っている影やハイライト、髪の質感などは、昨年よりさらに『グラブル』らしさが増しているのではないかと思います。また、より各キャラクターらしい表情も表現できるようになっているかなと。

▲グランの開発画面。目元のしわなど細かなところまで調整を入れます

あとは、イオも2018年に公開したものよりグレードアップしているのがわかると思います。特に顔の形状の調整には力を入れました。まずは、正面から原作イラストと同じように見えるモデルを作りつつ、正面から側面へ向かってカメラを移動していくとイラストと輪郭の出方が違ってくる部分があります。そういう箇所を何度も何度もいろんな角度からチェックし調整することで、どこから見ても『グラブル』のイラストらしく見えるようにしていきます。一般的に、セルルック(アニメ調)の作品ではシェーディング(陰影を付けて立体感を出す技法)や塗りがポイントとなります。ただ、『グラブル』のイラスト表現を目指そうとすると、形状もしっかり作る必要があるため、ポリゴンのメッシュ(3Dオブジェクトの形状を定義する網目のような多角形の集合体)も贅沢な作りにしています。

イラスト調なのでセルルックに近い作り方なのかと思いましたが、そこまでディテールを詰めて作っているのですね。

さらに、昨年まではフェイシャル(顔)のパーツとして、お面のような顔部分だけを調整する仕様だったのですが、その後、首も含めて調整できるようにしました。なぜかというと、斜め下から見上げたときの形状をきれいに見せたいと思ったときに、首の部分がないと作りにくいからです。顔と首は連動しているので、あご下回りがしっかりと動くようになったことで、見上げたときの形状もより原作イラストに近づきました。

正面と横や斜めの見え方で、整合性が取りにくい部分もありそうです。

そうですね。特にカットシーン(ゲーム内で流れる動画)や宣伝用の決めカットなどでそういう部分が目立つことがあります。その改善として、最近一般化してきている、カメラと顔の向きによって、ジョイント(関節)で形状を調整する手法をとっています。
例えば、正面や横顔ではきれいな形状だけれども、斜めから見たときに頬が膨らみ過ぎになるといったケースでは、ジョイントを移動して形状を変えられるようにして、決めカットでは「このカメラで見たときに最もイラストに近い形状」になるようにしました。

▲『Relink』のイオ(左)と原作イラストのイオ(右)。担当者間で連携して、細かいところでは、横から見たときのまつ毛の位置なども、原作イラストに寄せて調整しているとのこと

そこまでやるんですね……。

1本1本の線のニュアンスとか、色の付け方とか、『グラブル』のイラストは繊細さが魅力なので、そこまでしないと「らしさ」は出せないと考えています。線が1ミリずれるだけで、全然違う印象になってしまうことさえあるので。その繊細さを実現するために、色々なパートが協力し合っていますね。
『Relink』の場合、『グラブル』本編のイラストチームも巻き込んで協力してもらいながら制作しているので、そこはすごく良い環境なのかなと思っています。

プロジェクトを超えて協力してくれるのは心強いですね。良いものを作ることに労力を惜しまないというか。

そうですね。『Relink』では、セルルックでもフォトリアルでもない、『グラブル』の緻密なイラストの3D化という、難しい挑戦をしています。同業者目線で見ると、あまり例のないかなり手間のかかることをやっていると思います。

コロナ禍に直面するも
在宅勤務体制で開発を継続

コロナ禍での開発についても聞きたいと思います。全社的に在宅勤務に移行し、『Relink』の開発チームもリモートでの作業となりましたが、スムーズに移行できましたか?

昨年末から今年頭にかけて、キャラクターや敵の種類、ステージ数、シナリオの長さといった最終的なゲームの規模が固まっていき、量産体制を整え、終盤に向けて開発が加速していく段階に来ました。緊急事態宣言が出たのは、ちょうどこれから量産に入ろうというタイミングでした。
まったく想定外の事態でしたが、バックオフィスやシステム管理のスタッフの尽力により、在宅勤務での開発への移行に際して大きなトラブルはなく、当初心配したほど大きな影響はなかったというのが率直な感想です。

正直、コンシューマータイトルではPCやモニターなどハイスペックな機材を使っているので、開発環境の移行はハードルが高いと思っていました。大型機材を各スタッフの自宅に配送しなければいけないし、スタッフ各自が自宅にそれらを設置するスペースを用意する必要がありますしね。
実際には発送対応をしてくれたバックオフィス側、開発側の双方のスタッフの頑張りのおかげでスムーズに実現できました。在宅環境への移行作業に関しては時間的なロスはほとんどなくて、彼らの尽力にはすごく感謝しています。

従来とは違うやり方で開発を進めなければいけないことも多かったと思いますが、そのあたりはどうですか?

細かい部分でのやりづらさが生じたのは確かです。わかりやすい例で言えば、データのやり取りですね。在宅勤務になって、スタッフは各自の自宅から仕事用のサーバーにアクセスするわけですが、家庭用の通信回線なので、普段オフィスで使っている社内回線よりも通信速度が圧倒的に遅くなります。コンシューマーゲームともなると開発データの容量は非常に大きいので、アップロード・ダウンロードにかかる時間が長くなって作業が滞ってしまうという問題が起きました。
そこで、これまでは各自が大容量のデータを随時アップロード・ダウンロードしていたのを、朝昼晩とタイミングを決めて定期的に行う方式にしたことで、時間的なロスを小さくしました。それ以外にも、ミーティングで使うデータは1時間前には取得するように決めておくとか、そんな取り決めをしましたね。

確かに、通信速度の問題は大きそうですね。スピードを上げることは難しいので、運用でカバーしたのですね。

そうですね。あとは、席が近いとできる「ちょっとこれ見てくれない?」とか、「この部分の見せ方、こんな感じでいいですか?」といったコミュニケーションができないのも苦労しますね。オンラインの打ち合わせ中に画面共有で確認しようとしても、ラグが生じるので実際のプレイ感は確認できないのです。気軽なチェックができないもどかしさはありました。

コミュニケーションのやり方を変える必要があったのですね。

はい。なので、伝達事項は文章と口頭の両方で伝えるようにしました。全体向けの告知は文字に起こし、「Slack」といったコミュニケーションツールで共有しつつ、日々の定例ミーティングでリーダーが集まったときに口頭でも「○○の件、ちゃんと伝わってるよね?」と確認しています。さらに、リーダーが各スタッフに口頭で確認して、漏れがないようにしています。

逆に、在宅勤務ならではのメリットはありましたか?

あります。例えば大人数でのミーティングは、会議室に集まってやるよりも「Zoom」や「Slack」を使ったオンラインのほうが場所を選ばないし準備も楽です。在宅勤務になったことで、従来のやり方にも改善の余地があることに気付けました。
それから、『Relink』の場合は開発チームの大部分は大阪所属なのですが、東京所属のメンバーも一部います。コロナ禍以前は、東京のメンバーがリモートで会議に参加したり、大阪まで出張したりして、時間的なロスややりづらさもあったのですが、全員がリモートになったことで拠点間の垣根がなくなったのは良かったですね。

▲オンライン会議ツールで拠点をまたいでコミュニケーションを取る様子

また、他のプロジェクトとの連携が強化されたのもメリットです。在宅勤務での開発は前例のない取り組みなので、どのプロジェクトも手探りで良いやり方を見つけようと試行錯誤していて、その過程で色々な知見が溜まってきました。上手くいったことを共有して互いに取り入れるなど、横の連携が機能した実感はあります。

新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着いてきたかと思えば、悪化を繰り返すという先の見通せない状況です。今後の開発体制はどうなりそうですか?

これまでの期間でみんな在宅勤務やリモートでのやり取りに慣れつつあります。また、リモートにはリモートの良さがあるとわかりました。
リモートになったことで距離に関係なく仕事が進められるようになったり、上手くやるための知見も溜まってきました。終息後に在宅勤務が恒常化しようとオフィスワークに戻ろうと、今後はさらにそれを上手く活用するフェーズになるかと思います。


以上、前編では『GRANBLUE FANTASY Relink』のこの1年強の歩み、そしてグラフィックに関するこだわりについて話を聞きました。
後編では、グラフィック面の見どころや、本作が最終的にどんなボリュームの作品になるかを聞いていきます。お楽しみに!

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