Cygamesイラストチームの歩み 歴代マネージャーインタビュー

ゲームを構成する要素の中でも、イラストはユーザーのみなさんの目に最初に触れるもので、作品の世界観を表現し、ゲームの入り口となる重要なものです。
「最高のイラストを届けたい」。この想いでサイゲームスのイラストチームは挑戦と進化を続けてきました。
ここでは、会社設立から現在までの歴代マネージャーたちを集め、サイゲームスのイラストチームの過去・現在・未来をひもといていきます。

※本記事は上野の森美術館にて開催の「Cygames展 Artworks」図録に収録するインタビュー記事の抜粋です(会期:2023年9月2日~2023年10月3日)
※図録は会場とサイゲームスの公式オンラインショップ「CyStore」で販売いたします
※「CyStore」でのご購入には、予約期間中【2023年10月4日(水)15:00~11月6日(月)14:59】のご予約が必要です

サイゲームス執行役員トシユキ
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マネージャー就任期間:2014年1月~2016年4月
イラストディレクターチーム(現イラストチームに合併)とイラストチームのマネージャーを経て、2014年5月に執行役員・デザイナー部部長に就任。
マネージャー就任期間中は執行役員とマネジメント業務を兼任した。キャラクターデザインのディレクション、コンセプトづくりなどに関わる。
Cygames 佐賀スタジオ代表チヒロ
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マネージャー就任期間:2016年5月~2020年3月
会社設立の1か月後、2011年6月に『神撃のバハムート』のイラストレーターとしてサイゲームスに合流。その他『アイドルマスター シンデレラガールズ(配信元:バンダイナムコエンターテインメント)』などのサイゲームスタイトルや他社作品にもイラストレーターや監修者として関わる。
『グランブルーファンタジー』アートディレクターイッセイ
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マネージャー就任期間:2020年4月~2022年3月
『神撃のバハムート』にイラストレーターとして携わり、『グランブルーファンタジー』ではキャラクターデザインなどを担当。チヒロの佐賀転勤を機にマネージャーとなり、チームの発展に注力する。現在は『グランブルーファンタジー』のアートディレクターを勤める。
イラストチーム マネージャーアヤミ
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2022年4月よりマネージャーに就任
『プリンセスコネクト!』のイラストチームに彩色担当として合流後、『アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ(配信元:バンダイナムコエンターテインメント)』などに携わる。その後、監修やプロジェクトリーダー、イラストディレクターなどを兼任。リーダー業務を経験し現在に至る。

『神撃のバハムート』コンセプトアートが
サイゲームスクオリティーの指針になった

イラスト制作における、サイゲームス設立当初の信念やコンセプトとは?

チヒロ サイゲームス設立当時(2011年)、携帯電話はまだフィーチャーフォンが主流でした。表現の制約がある中、サイゲームス第1弾タイトル『神撃のバハムート(以下、バハムート)』の開発では、「カードゲームとして最高クオリティーのイラストを世に出す」という目標が掲げられていました。そこで、クオリティーの指針となったのが、CyDesignation取締役の相場さんが描いた最初のバハムートのイラストです。以降、このイラストが、サイゲームスのゲームイラストに求められるクオリティーの基準になりました。

▲『神撃のバハムート』

トシユキ 始めに、イラストレーターがイメージを具現化した一枚絵(※1)のコンセプトアートを描き、世界観について共通認識を持てるようにしていたんです。相場さんが描いたバハムートもその一つです。このようにコンセプトアートを描く手法は、サイゲームスのその後のタイトルでも用いられてきました。

※1 一枚絵……主に、コンセプトアートやキービジュアルなどの一枚のイラストを指しますが、この記事では、その制作の全工程を1人のイラストレーターが担当した絵のことも含めています

アヤミ 『バハムート』のイラストは、サイゲームスのイラストクオリティーだけではなく、制作スタイルの基準にもなったんですよね。当時、トシユキさんから見た『バハムート』チームはどのような印象でしたか?

トシユキ 常に「高み」にいるチームという印象でした。『バハムート』を担当しているのは、社長の渡邊が声を掛けた、強い個性や高いスキルを持ったイラストレーターばかりでしたから。

イッセイ そうですね。バハムートのイラストを基準とするクオリティーでチヒロさんが膨大な量のイラスト制作に取り掛かり、後から合流した個性的なイラストレーターたちも、初期イメージを基にしながら世界観や絵柄をどんどんと広げていったんですよね。

トシユキ あの頃、『バハムート』と『アイドルマスター シンデレラガールズ(以下、デレマス/配信元:バンダイナムコエンターテインメント)』が目指すべき二大タイトルとなっていましたね。私やイッセイさん、他のスタッフたちは、「両タイトルのようになるには?超えるにはどうしたら良いか?」という想いで仕事をしていました。

イッセイ ちなみに、「最高のコンテンツを作る会社」というビジョンは、『バハムート』の妥協しないものづくりの姿勢が元になっています(※2)。「サイゲームスらしいよね」ということでこのビジョンに決まったんですよね。
『バハムート』は会社にとっての重要なプロジェクトでしたし、私の中で『バハムート』のイラストにおけるクオリティーとスピード感は指針となっていました。

※2 サイゲームスのビジョン……『バハムート』は「最高に面白いゲームを作ろう」という信念のもと開発されていました。このゲームづくりに真摯に向き合う姿勢から、「最高のコンテンツを作る会社」というビジョンが生まれました

▲サイゲームスのビジョンとミッションステートメント

『バハムート』のクオリティーアップの仕組みとは?

チヒロ 『バハムート』のイラストの制作工程は各自に委ねられていて、イラストレーターは1人でラフ、線画、彩色などすべてを担当して一枚絵を描くことが多かったです。高い技術を持った者同士が、良い意味でお互いを意識しながら制作していましたね。
テイスト豊かな作品が多いのは、イラストレーターたちがお互いの良いところを取り入れて、自分のクオリティーとスピードを高めていったところも大きかったんじゃないかと。そんなふうに切磋琢磨する慣習が『バハムート』時代からありました。

トシユキ 個性が融合していった感じがありましたよね。社長の渡邊の的確なアドバイスも『バハムート』のイラストチームに良い影響を与えていました。

イッセイ アドバイスがてら雑談しに来てくれることも多かったんですよね。その際、チヒロさんの「現場での伝説」もよく話してくれました(笑)。どのくらいの日数でどれだけの枚数を描くのか、という話をいつも聞かせてもらいました。実際、チヒロさんは初期の『バハムート』カードは1日半くらいで1枚を、その後、1日半くらいで進化差分を3枚制作していて。約3日間に4枚1セットのペースで仕上げていましたから。
チヒロさんは、イラストを速く描き上げるためにどんな工夫をされていましたか?

チヒロ 下絵の段階から色を置き、1回目の監修段階で彩色された状態まで持っていくことでしょうか。やはり、色が着いた状態だと見た人が完成形のイメージを掴みやすいんです。また、モバイルゲームの場合、イラストはキャラクターがメインとなり、画像サイズも決まっているのでレイアウトは凝りすぎないようにしていました。凝るべきイラストは他のイラストレーターにお任せして(笑)。私は「量を増やす」という役割に徹していました。

イッセイ とはいえ、チヒロさんのスピード感で描ける人はこの業界にはほぼいないと思いますよ(笑)。コンテンツを作っていく上で、この速さをどうしたら再現できるか、当時、マネージャーとしてすごく考えました。

イラスト制作現場の変遷
人を育てることが当たり前の組織に

イラストチームはどのように変化したか?

イッセイ 1人のイラストレーターにクオリティーもスピードも委ねることも多かったんですが、それはチヒロさんのような限られた一部の人にしかできません。ユーザーのみなさんへ素早くかつ高クオリティーなイラストをお届けするための一つの方向性として、分業体制を整えていくことになりました。『デレマス』時代から、ラフ、線画、彩色などに担当分けをした分業体制があり、その仕組みをより発展させていく流れになったんです。

トシユキ 分業やフォローアップといった組織化を進めるべきと考えた理由の一つに「新人の育成」が挙げられます。
『バハムート』の制作当時から、高いスキルを持ったイラストレーターは在籍していましたが、同じ会社の、同じフロアで仕事をしている強みをあまり活かせていなかったんです。そういった状況を見て、「高いスキルを持った人が集まっている会社」という強みを、育成にも活用できないか、と考えるようになったんです。

イッセイ その頃はチーム内で少し横の繋がりがある程度でしたよね。それでは技術やノウハウの伝承に限界があると私も感じていました。

トシユキ そうなんです。それに何より“チーム・サイゲームス”で協力し合いながらゲームを作りたいという想いがありました。
そこで、チーム内で協力し、できることから組織の整理を進めていったんです。技術やノウハウの共有についてはイッセイさんがマネジメントをしていた時代の『グランブルーファンタジー(以下、グラブル)』チームでより高度化したと感じます。チームとして一体感を持つという目的を持って育成に取り組んでいった結果、人を育てることが当たり前の組織になっていきました。

▲『グランブルーファンタジー』

イッセイ 『グラブル』のチームに若手が入った際、短期間で先輩との差を縮めるための試行錯誤が繰り返されてきましたから、次第に育成のノウハウも蓄積されていきましたね。今では“ノウハウの塊”といえるほど、強固な体制になったと思います。

アヤミ 私が合流した当時、分業体制の中で制作していたんですが、「チームで協力するとものすごいスピード感で描けるんだな」と驚いたのを覚えています。制作期間が短い中でも高クオリティーなイラストを描く方法をみんなで考え、助け合っていく文化がすでにありました。
もちろん助け合う文化というのは分業体制の中だけではなく一枚絵の制作にもあります。一枚絵だと最初から最後まで1人が担当するので自己研鑽してクオリティーアップを目指しますが、監修を通してさらに絵を良くしていったり、技術や知識を共有したりなどチームみんなで高め合っています。それらをよりシステマチックに行なうために、イラストチームとしてサポートをする体制も整えていきました。

トシユキ アヤミさんがマネージャーになってからは、より高いレベルの組織化がなされていますね。私たちの時代にはできなかった、技術の共有化や育成体制にも着手できるようになりました。

アヤミ 私自身、ゲーム業界を未経験な状態からサイゲームスに入社したので、技術レベルは低いほうでした。しかし、入社したときに仕事を教えてもらえる仕組みがあり、他のスタッフのように仕事を進められるようになっていきましたから、とても助けられたんです。そんな経験があるので、今後もスピード感を持ちながらクオリティーを高めていくために、チームとして知識や技術を共有し、育成や採用、フォローの体制も発展させていきたいと考えています。これが、マネージャーの役割を引き継いでから力を入れているところですね。組織というのは「人あってこそ」だなと非常に強く感じますから、人に重きを置きながらより一層強い組織にしていきたいです。

新しい世界観を描くデザイナーやクリエイターの育成は?

トシユキ 分業体制にはたくさんのメリットがありますが、サイゲームスは分業体制に統一しているわけではありません。一枚絵を描ききれる人材の育成にも力を入れています。

チヒロ ラフ、線画、彩色まで一人のイラストレーターが作り上げた作品にしかない魅力もありますし、新しいものを生み出す、ゼロからコンセプトアートを作っていける人材も育てていかねばなりませんよね。一枚絵を描くにはキャラクターデザイン、背景、塗りなどの分野を網羅した高い技術が必要ですから。

アヤミ そうですね。一枚絵のイラストを含めて、サイゲームスのイラストにはすべての分野において高いレベルが求められますので、育成は必須といえます。そこで、社内でスキルアップやキャリアアップができる勉強会を始めました。勉強会に参加することで新しいスキルが身に付けられたり、担当分野のスキルを共有できたりするようにしたんです。この勉強会はオンラインで実施しているため、東京以外の拠点のスタッフも参加できます。

チヒロ 大阪や佐賀の拠点からも参加できますし、業務をしながらでも在籍する各専門分野のクリエイターから指導が受けられ、スキルアップできる機会があるというのは、イラストチーム組織全体の成長に繋がっていると思います。

トシユキ チヒロさんは2020年に設立したCygames 佐賀スタジオの代表を務めていますが、佐賀のほうでも人材育成に力を入れているところですよね。

チヒロ はい。Cygames 佐賀スタジオはクリエイティブ制作を専門に手掛ける拠点として組織を強化中です。佐賀でも一枚絵のコンセプトアートが描けるイラストレーターを含め、次世代のデザイナーやクリエイターの育成に注力しています。
デザイナーやクリエイターを志しても、何らかの事情で、東京や大阪といった大都市に出られない人も地方には多くいらっしゃると思います。大都市以外の地域からも優秀な人材が育ってほしいという想いがありますし、自然が豊かな土地でなければ作れないものもあると感じているんです。

アヤミ 私も福岡出身で、当初は福岡のゲーム会社に就職しようと思っていたのが叶わず、東京に出てきたという経緯があります。しかし、上京できずに夢を諦める人も多いと思うんです。才能を活かせる場が佐賀にできたのは、個人的にもうれしく思っています。九州にいてもクリエイターとしての道がひらけるならば、夢を諦めなくていい。サイゲームスで働くことが若い人たちの選択肢の一つになればと思います。

▲Cygames 佐賀スタジオ

未来へ受け継ぐ
「最高のイラストづくり」

歴代マネージャーたちが考える、サイゲームスとして追求すべき「最高のイラスト」とは?

アヤミ 「最高」の基準はそれぞれに想いを持っているかと思いますが、あえて言語化するならば、「こだわり」や「熱意」を感じられるものが、ユーザーのみなさんに喜んでもらえる最高のイラストではないかと思います。というのも、私が『アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ(配信元:バンダイナムコエンターテインメント)』に携わっていたとき、メインイラストレーターである杏仁豆腐さんが、キャラクターの身体の柔らかさから指先一つまで、とても細かい表現にこだわるのを目の当たりにしました。そんなイラストだから愛されるコンテンツに育ったと感じています。

▲『アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ(配信元:バンダイナムコエンターテインメント)』

イッセイ そうですね。アヤミさんの言う「熱意」にも繋がるのですが、運営型のゲームでは、タイトルが続く限りキャラクターも成長していきます。イラストでもその成長やシナリオ上での変化をできる限り表現することを心掛けています。実際、イラストレーターたちは日頃からシナリオをよく読み込み、ゲームをたくさんプレイしていますから。こんな風にユーザーのみなさんの気持ちになって描いたものが最高のイラストだと思うんです。サイゲームスは運営が長く続くタイトルが多くありますが、イラストレーター自身が熱意を持って、ファン目線でイラストを描き続けているからこそだと感じています。

チヒロ 「基礎がしっかりしていること」が前提で、さらに「古典」を知り、「現代」も知っていて、その上で「こだわり」「熱意」も含まれているとなお良いでしょうね。そのためには、どれだけ自分の引き出しを持っているかが大切です。自分なりに「これは良いものだ」という信念を強く持ちつつ、そこを絵に反映できればユーザーのみなさんにもきっと届きますから。

トシユキ いかに心と技を絵に込めるか、イラストレーターとして追求すべきですよね。あと加えるとするなら、「見た人の感情をどれだけ揺さぶることができるか」だと思います。「感動した」「ショックを受けた」、場合によっては「悩んでしまった」など、そういった人の感情を動かすものをいかにイラストに込められるかですね。当たり前のことなんですが、本当に難しい。
描き手が没頭し、ユーザーの方々も没入し、惹き込まれる一枚、そんなイラストが最高だと思います。イラストレーターの「こだわり」や「熱意」とキャラクターが持つ「ストーリー」が合わさることで最高のイラストが生まれると思います。

イラストのクオリティーもチームの組織力も
「世界一」を目指す

今後、どのようなイラストチームを目指していくのか?

アヤミ まず、クオリティーの面で業界トップを目指し続けていきたいと思っています。『バハムート』のときからサイゲームスのゲームイラストはクオリティー面で高い評価を受けてきましたが、イラストの質をより高めていけるようにしたいです。
情報やツールが発達してきた現代では、プロでなくても絵の上手い人が国内外問わず増えています。そんな時代だからこそ、「サイゲームスのイラストはすごい」と思ってもらえるように、さらなるレベルアップが必要です。「世界規模のトップレベル」を目指すべき指針とし、そのためにも組織力もトップレベルを目指していきます。サイゲームスの優れたクリエイターたちが、その技術を広げられるような育成環境を作り上げたいですね。「最高のクリエイティブ・コンテンツを作るための最高のチームづくり」が現マネージャーである自身の課題です。

イッセイ 私も世界に意識を向けなければいけないと感じます。特にアジア圏におけるイラストレベルは非常に上がっているので、会社として絵の基礎力が劣らないよう、アンテナを張って向上していかなければならないという想いはあります。例えば、私はインディーゲームが好きでその分野にアンテナを張っているのですが、興味のあるものをたくさんインプットし、調査・分析した結果をチーム内へ共有していくことでもイラストレーターとしてのスキルアップになると思うんです。そんな共有し合う文化を作っていき、新しいものを生み出すことに繋げていきたいですね。

チヒロ イッセイさんの言うとおり、アジア圏のイラストレーターは基礎をしっかりと身に付けた上で流行を学んでいるようで、イラストのクオリティーが高くなっていると感じます。ユーザーのみなさんに喜んでもらえるイラストを提供するために、サイゲームスとしては現在行っている育成講座などが今以上に必要です。佐賀スタジオとしても、所属メンバーの技術的な向上は重要だと考えています。

トシユキ 「世界一」を目指し、組織の中で切磋琢磨することでクオリティーを高め合える会社にしたいですね。何よりも、「楽しくゲームが作れる会社」にしたいという想いもあります。その結果として「世界一」と認められるものを生み出せるのが理想です。
組織化を進めることで社内の育成環境は整いましたが、ある意味で「熱」が弱まった部分もある気がしています。設立初期は組織としての体制がまだ確立されていなかったものの、みんなが最高のものを目指して制作に熱中していました。混沌としていたからこそ、湧いてきた情熱もあったと思うんです。そんな状況を再現し「熱」を持ったものが生まれるようにできないかなと。熱量を持ちながら、「世界一」と言ってもらえる日を目指していきたいですね。


以上、イラストチームの歴代マネージャーインタビューをお届けしました。
「Cygames展 Artworks」図録には本記事の他にも各作品のアートディレクションについてインタビューを収録しています。会場やサイゲームスの公式オンラインショップ「CyStore」にて販売しますので、ぜひお手に取ってご覧ください。

「Cygames展 Artworks」
上野の森美術館にて2023年9月2日~2023年10月3日まで開催しています。ぜひご来場ください!