『GRANBLUE FANTASY Relink』グラフィック徹底解剖<後編> 原作イラストを読み解き『グラブル』らしい動きを追求

前編に引き続き、『GRANBLUE FANTASY Relink(以下、Relink)』の開発チームへのインタビューをお届けします。『Relink』の大きな見どころの1つとなっているのが、美麗さを追求したグラフィック。原作である『グランブルーファンタジー(以下、グラブル)』の繊細なイラストの世界を、そのまま3Dで表現することを目指しています。後編では、3Dでの『グラブル』らしい動きへのこだわりに迫ります。

原作イラストのイメージそのままに
『グラブルらしい』動きを付ける

前編ではキャラクターの形状を「どの角度から見ても『グラブル』らしくする工夫」について聞きました。他に、3D化にあたり苦労している部分はありますか?

キャラクターを動かしたときにも『グラブル』らしさを失わないことです。原作イラストを3Dで忠実に再現する場合、動きでも「らしさ」を出す必要があります。静止画で描かれたキャラが「もし動くとしたらこんな動きになるはず」という、誰もが納得する動きにするのが難しいですね。

イラストにはない「動き」の要素を、どうやって作っていくのですか?

動きを考えるときの材料も、やはり原作イラストです。『グラブル』の絵は、静止画なのに動きを感じさせるものが多いです。そして、イラストを読み解くと時間的な要素が見えてきます。それがハッチング(線で表現した陰影)や線の強弱、布が翻る様子で表現されています。ただし、それらの要素をそのままモデリングして動かしても違うものになってしまうことがあります。原作イラストをじっくり観察してどんな動きを表現したかったのかを読み解き、その上で3Dで表現する必要があります。

静止画のイラストを動的な視点で捉えて解釈するわけですか。うーん、深いですね。

言葉だけだとわかりにくいかもしれませんね。キャラクターの鼻の横に出るハイライトと、輪郭に出る光(リムライト)がわかりやすいと思います。これらの表現は『グラブル』のキャラクターの特徴的な要素なのですが、これがイラストでは顔の向きによって出方が大きく変わります。そこで『Relink』でも、顔の向きとカメラの方向によって「この状態だったら出る・出ない」の条件を、シェーダー(3Dオブジェクトに陰影をつけるプログラム)で制御できるようにしました。

前編のお話の中に出てきた、『グラブル』の世界独自の法則を再現していますね。

そうです。原作イラストをお手本にしていると、ライティングの方向からすると、「本来はこの向きからはリムライトが入らないよな」という場合が多々あります。「でも、『グラブル』のイラスト的にはこちらが正解だよな……」なんてこともあります。それをどうやってルール化するかが肝なのです。
フォトリアルな手法で再現すると、『グラブル』のリムライトは出ません。ならば、「その状態からマテリアル、フィルター、ポストエフェクトなどの処理をどこでどのように変えれば『グラブル』の表現になるのか」を考えます。

原作イラストに込められた意図を想像しながらですか?

そうですね。みんなでイラストを見ながら議論しています。キャラクターの頭の周辺に粒状のハイライトが描かれているものがあるのですが、「このハイライトはなぜこの位置に入っているんだろう」とか。「立体感を出したいからじゃないか」「ここにハイライトが入ることで髪の毛全体の丸みを演出しているのではないか」とか。「そう考えられると、正面から見て立体感の頂点になるように置くのが正解なのではないか」といった仮説を、イラストを見ながらわいのわいのと語っています。そうして考えていくと、みんなが納得する解釈にちゃんと落ち着くのです。

そのように言語化やルール化して、エンジニアに実装を依頼するのでしょうか?

はい。ただ、仕様書を書いてからエンジニアに作ってもらうよりは、実際のイメージを見せたほうが早いこともあるので、アーティスト側で表現したい内容をDCCツール(※)上で検証用データとして作ってしまう場合も多いですね。それをエンジニアに見せて「こういう方法でこんな表現をしたい」と意図を伝えて、正式なデータを作ってもらいます。

※ デジタルコンテンツを作るためのツール

3Dゲームの常識を打ち破る
『Relink』の揺れもの表現

原画イラストには、2Dの静止画だからできる表現もたくさん含まれています。それを3D化して動かすのは並大抵ではない試みですよね?

正直言って無理があります(笑)。でも、我々はあえて『グラブル』のイラストの世界をそのまま3D化するのを目指し、これまでのゲームにない表現をしようとしています。そのために、優秀なスタッフが集まり、ゲームエンジンを作り直して、グラフィックツールも一から構築しました。生放送を見た方には感じていただいていると思いますが、実際にかなり原作イラストに近しいところまで来ています。

『グラブル』の原作イラスト自体が3D向きではないそうですね。具体的にはどんな点で3D化が難しいのでしょうか?

一番顕著なのは、マントやベルト、あるいは長い髪や装飾品など、揺れる物体がたくさん付いているところですね。しかもそれが多重構造になっています。「揺れもの」と言いますが、この数がとにかく多い。3Dでゲームを作ることが先に決まっていて、そこからキャラクターをデザインするという順番であれば、イラストレーターさんが揺れものの数を抑えて描いてくれるのですが。

『グラブル』の場合は2Dの原作イラストがすでにありますからね。確かに、ヒラヒラしたパーツが多いのも『グラブル』のイラストの特徴ですね。それらをキャラクターの動きに合わせて自然に動かすのは大変そうです。

揺れものをたくさん作って動かすこと自体はそれほど難しくありませんが、問題はゲーム上でそれをスムーズに動かせるかです。動くものが多いと、それだけ処理負荷が大きくなりますから、単純に数を増やしただけではいわゆる「処理落ち」が発生してしまいます。処理落ちしないよう、ジョイント(関節)の数を減らすといった、処理負荷を小さくする工夫も必要です。

▲ロゼッタの髪のジョイントを設定中の開発画面
▲ゲーム内のロゼッタの画像

一方で、ジョイントを減らすと服が体にめり込みやすくなるため、めり込まないようにコリジョン(接触判定)を丁寧に設定する必要があります。精度の高いコリジョンを手間なく設定するために、揺れものツールから作り直しています。その背景にはより『グラブル』らしい動きを追求し、クオリティーを高くしたい想いがあったからです。

今年のデモで登場したロゼッタは、長い髪やらスカートやら、ヒラヒラ要素満載ですよね。これだけヒラヒラさせているのに、めり込んでいないのがすごいです。作り手の苦労を考えると、少しは要素を減らせばいいのに、と思ってしまいます(笑)。

服もそうですが、3Dはキャラクターの髪が長いだけでも開発者に嫌がられます(笑)。長いと揺らさなければならないので。3Dのアクションゲームの主人公の多くが短髪なのは、そんな理由があるからです。
ただ、『Relink』に関して我々は、揺れをもっと増やしたいと思っています。原作イラストはもっと大胆にヒラヒラしていますから。最終的には「これはイラストじゃないの?」と言われるレベルまでいきたいですね。

しかも、それを量産するわけですよね?

そうですね。量産化を視野に入れ、揺れもののシステムも作り直し、多重の揺れものにも対応しやすくしました。昨年のデモまでは揺れものの設定が複雑だったので、設定を簡素化し、開発チームに入って間もないスタッフでもすぐに扱えるようにしました。

さまざまな手法を組み合わせて作った
リッチな「雲」の表現にも注目!

『グラブル』らしさを象徴する要素としては、「雲」も欠かせませんね。

『グラブル』の舞台が空に浮かぶ島々なので、雲の表現は背景美術で一番力を入れていると言えます。試行錯誤を重ねた結果、シーンに合わせてさまざまな表現が可能になりました。現在、用途別に5種類の雲があります。

▲ゲーム内で用いられる雲表現の一部

今年のデモプレイでは、騎空艇が雲の中を進んでいくステージが印象的でした。遠景の綿のような塊の質感と、近くに来たときのガス状の質感がどちらもうまく表現されていますね。

あのステージでは、遠くに見えている雲に段々と近付いて、その中に入っていく雰囲気を感じられるように表現していますが、実は複数の雲を使い分けています。遠くにある雲、中間の距離にある雲、近くの雲と段階的に切り替えながら、シームレスに見えるようにしています。また、ステージによって雲との距離が違うので、そのロケーションに合う一番効果的な雲を選択して使っています。

例えば、あるステージでは重厚な雲の塊を見せたいので、しっかりとした形を持った雲を用意しました。もちろん2Dの書き割りではなく3Dモデルです。別のステージでは、形状を自由に変えられる雲を使い、形を変えながら流れていく様子を表現しています。また、先ほどの話に出てきたガス状の雲の中をキャラクターが進んでいくステージでは、リアルタイムに描画しながらキャラクターと重なっても破綻しないようにしました。さらに技術開発の過程で、キャラクターが雲の中に落下すると、それに合わせて雲の形状が変わってドーナツ型の穴が開くといった表現も可能となりました。これはかなり高度な技術と言えます。

空中戦のステージで、雲に向かって艦砲を撃つと水跳ねみたいになる表現がありますね。

あれは90年代のアニメ作品から着想を得た誇張表現ですね。現実にはあんな風に着弾で雲が跳ねることはないですが、「らしく」見せるための演出です。そこを含め、生放送でお見せしたステージは、周りが雲に囲まれている中での戦いなので、雲の表現は結構しっかり見せられたかなと思います。戦艦が雲の中に出入りするシーンもありますし。

ハイクオリティーなリソースの量産体制へ
ゲーム2本分の超ボリュームに!?

キャラクターや背景など、これだけたくさんのリソースを用意するのは相当大変だと思います。『Relink』の開発の現状を教えてください。

基本的なゲーム内容と仕様はほぼ固まっているので、これからひたすら量産していく段階です。マルチクエストやボス戦もすごく楽しいものにしたいと思っていますし、ボスもバラエティー豊かなのでご期待ください。

▲生放送で登場したボス・ガランツァ

制作しなければいけない素材の量も多そうですが、コンテンツボリュームも相当なものになりそうですね。

原作の『グラブル』の良さの1つは、シナリオがたっぷりと楽しめるところです。その上で、マルチバトルや各種コンテンツといったゲーム面のやり込みが十分に用意されています。1本のコンシューマーゲームで、シナリオもクエストも高密度なものを実現しようとすると、相当な物量になってしまうため、ほとんどの作品はシナリオかクエストのどちらかを重視するかたちで作られます。

その点、『Relink』はどちらも妥協せずに詰め込んでいます。シナリオもカットシーンをふんだんに使った大スペクタクルで見せつつ、マルチクエストもとことん楽しめるボリュームです。さらに、この種のアクションが楽しめるゲームだとプレイアブルキャラクターの数は2~3体が一般的ですが、『Relink』では2桁に及ぶ数を用意していますし、各ステージの風景も同じ地形が出てこないくらい作り込んでいます。開発している我々自身が正気の沙汰ではないなと思うくらい(笑)。ゲームを丸々2本作っているような感覚です。

相当な遊び応えのあるゲームになりそうですね。

シナリオに期待してくださる方も満足できるし、マルチクエストを楽しみたい方も満足できるレベルのものを作っています。プレイした人に「サイゲームスってすごい」と思ってもらえる作品にしたいですね。

開発がこれからいよいよ佳境に
意欲あるスタッフを募集中!

『Relink』の開発チームはこれからも拡大していくのでしょうか?

大幅なスタッフの増員は予定していませんが、『Relink』の開発にかかわりたい、最高のコンテンツを作りたいという方にはぜひご応募いただきたいですね。

どんな人に来てほしいですか?

クオリティーに関して貪欲で、諦めない、タフな方に来てほしいです。ここまで話してきたように、『Relink』の開発陣はクオリティーへのこだわりが尋常ではないですから。「自分の全能力を解放してブチかましてやる!」くらいの気概がある方のほうがフィットしやすいかもしれません。それからもちろん、『グラブル』が好きであること。
『Relink』のさらなるブラッシュアップのために、職人的なスキルを持ったスペシャリストにはぜひ開発チームに参加してほしいですね。『Relink』の現場は、腕のある職人が来ても能力を存分に発揮できますし、こだわりを持って開発ができる環境でもあります。良いアイディアはどんどん採用されるので、色々な提案を積極的にして、クオリティーや効率のアップに貢献してもらえたらと思います。

意欲重視で、凄腕の人なら大歓迎と。

意欲ある若手の方にも来てほしいと考えています。サイゲームスはまだ若い会社ですが、このご時世にコンシューマーの大作をいきなり作り始めるという、国内では類を見ない挑戦をしています。もちろん大変なところもありますが、貴重な体験ができるのは間違いありません。
それから、大阪サイゲームスは組織としてはさらに若いので、体制作りもまだまだこれからの部分があります。ゲームを開発しながら体制の整備もする、そんな経験ができるのも貴重かと思います。マネジメント力が高く、組織作りで実力を発揮したい方も大歓迎です。
今後世界に通用するコンシューマーゲームを作っていきたいという気概のある方に来てほしいですね。

では最後に、『Relink』の発売を楽しみにしているファンの方に向けてメッセージをお願いします。

大変お待たせしており申し訳ございません。時間がかかっている理由は生放送でもお伝えしておりますので、詳細についてはアーカイブをご覧いただければと思います。色々な経緯がありつつも、『Relink』のクオリティーを底上げすることに尽力しています。そして今、今回お伝えしたような具体的な開発状況をお伝えできるくらいのところまで来ています。開発は順調に進行しているので、2022年の発売にご期待ください。原作の『グラブル』らしさが詰まった最高のコンシューマーゲームをみなさんにお届けします。


以上、『GRANBLUE FANTASY Relink』の開発陣へのインタビューを2回にわたってお届けしました。ファンの方々の期待を上回るクオリティーに仕上げたいという、現場スタッフの熱い想いが伝わったのでしたら幸いです。

大阪サイゲームスでは現在『GRANBLUE FANTASY Relink』の開発最終フェーズに向けて、スタッフを募集中です。是非たくさんの方のご応募をお待ちしております。

大阪サイゲームス採用ページ

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