チームでのシナリオ制作を効率化するために 開発運営支援×シナリオによるキャラクター相関図アプリができるまで

サイゲームスでは運用タイトルのシナリオをチームで制作しています。発足当初のシナリオチームは、言わば個人商店の集まりのような形態で、「このキャラクターに詳しいのは○○さん」といった具合に情報が属人化しやすい傾向がありました。コンテンツの規模が拡大するにつれて従来のやり方には限界が見え、シナリオライターの全員がどのキャラに関しても書ける体制が求められるようになりました。そこで、キャラの情報をチーム内で効率的に管理・共有すべく、部署間連携によって開発されたのが「キャラマップ」アプリです。アプリ開発のキーマン2人に、アプリ誕生までの経緯を聞きました。

開発運営支援ケイスケ
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開発運営支援チーム所属のエンジニア。プロジェクトやセクションの要望に応じて、利便性を高めるサービスを開発するのがメインの業務。現在は主にはシナリオ向けのサービス開発を担当している。
シナリオチームチエミ
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シナリオチームのサポート担当。進行管理や窓口業務など、ライターが業務をしやすいように支援するのが役目。ゲームキャラの情報を管理するためのアプリ開発を開発運営支援チームに依頼した。

「チームでシナリオを作る」体制の実現には
キャラ情報の効率的な管理が必須だった

シナリオを作る際、どんな情報が必要なのでしょうか?

チエミ シナリオライターはプロット作成やシナリオ執筆の際に、そのゲームの世界観やキャラのことを知る必要があります。必要な情報はタイトルの種類によっても変わりますが、多数のキャラが登場する運用タイトルの場合、大きく分けて「キャラ単体の情報」「他のキャラとの関係性」「属するグループ」の3つの情報が必要です。

例えば、プランナーから「Aというキャラを使ったイベントのシナリオを作ってほしい」という依頼があるとします。どんな話にするか、他のどんなキャラを絡ませるかはシナリオチームが考えます。まずはキャラの基本情報を見て、そのキャラが高校2年生であれば、「高校2年生チーム3人でのストーリー」といった具合に話の下地を作っていきます。この場合は、「高校2年生」が属するグループの情報となります。

なるほど。それで、「チームでシナリオを作る」という点で、情報管理や共有に関して、どのような課題があったのでしょうか?

チエミ 私たちが直面していたのは、「情報の属人化」「人員の流動コストの上昇」「情報の管理コストの上昇」の3点です。

「情報の属人化」というのは、ライターが持つ各キャラの情報量がそれぞれ異なり、「キャラBについて最も詳しいライターはXさんだから、キャラBが登場するシナリオは常にXさんが書く」といった状況になることです。こうなると、何らかの事情でXさんが稼働できない場合にキャラBのシナリオを作りづらくなります。それにキャラごとにライター固有のクセのようなものが出すぎてしまう可能性があります。

ケイスケ 「人員の流動コストの上昇」もそこに関連していて、例えば繁忙期に新しいライターが加入した場合、あるキャラについてシナリオを書いてもらう場合は、そのキャラに詳しいライターが教える必要がありました。ライターの新規加入や異動が生じる度に、新任者に誰かがつきっきりで情報を伝えなくてはならないため、ゲームの運用が長くなるほどそのコストが上昇するんです。そこで、この部分を解消できるアプリがあれば、ライターが他のプロジェクトにヘルプに入る場合もカバーできると考えました。

チエミ 「情報の管理コストの上昇」も同様で、やはり運用が長期化してキャラ数が増えてくると、先ほど話した「キャラ単体の情報」「他のキャラとの関係性」「属するグループ」の情報もどんどん増えてきます。各キャラの情報管理の仕方が非常に重要なんです。

従来は、シナリオチーム内でどのように情報管理をしていたのでしょうか?

チエミ 「Excel」や企業向けWikiの「Confluence」にシナリオチームで用意したフォーマットに沿って情報を記入して共有していました。ただ、シナリオチーム内で作ったフォーマットの運用だとテキスト情報がメインになるので、情報を把握しにくいという課題がありました。
特に「他のキャラとの関係性」に関しては、文字や図表で示すのは限界があります。あるキャラがどのキャラと関連があり、過去に絡んだエピソードがあるかどうかといったことがグラフィカルに表現されると理解が早いです。
こうした課題をなんとかしたいと開発運営支援(※)のチームに相談したのが、今回のアプリ開発のきっかけです。

※開発運営支援……サイゲームスの内のさまざまな開発案件を支援する部署。コンテンツの開発運営における課題解決を進めることで、作業の効率化と時間の確保を実現し、コンテンツの品質向上に貢献する

現場密着型の開発運営支援

シナリオチームから相談を受けた際、開発運営支援チームとしてどのような手順で改善・解決策を導き出したのでしょうか?

ケイスケ 最初は、既存の情報管理アプリを流用できないかと考えました。しかし、シナリオチームからの要望に応えようとすると、なかなかかゆいところに手が届くものがありませんでした。
そこで、シナリオチームが求めていることを丁寧にヒアリングして、必要な機能を搭載していったのが今回開発した「キャラマップ」です。

チエミ 私たちが相談を持ちかけてから、プロトタイプが出来るまでが2か月かかっていなくらいですよね?こんなに早く出来るんだと思って驚きました。

ケイスケ ひとまず動くものをできるだけ早く作って、それをシナリオチームのライター陣に触ってもらってフィードバックを受けてブラッシュアップしていくやり方を採用しました。フィードバックを受けてからが本番という感じでしたね。実際にプロトタイプに触れてもらいつつ、企画部分をしっかり固めてから大きなバージョンアップを施していきましたので、実際に導入されるまでには結構時間がかかりましたね。最初のリリースまでに3か月程、その後バージョンアップを行い、現行版に至るまでにはトータルで1年くらいかかりました。

「キャラマップ」アプリの使い方

アプリの使い方を教えてください。

ケイスケ アプリ画面は左右の2画面構成になっています。左側にゲームの登場キャラが円形に並び、右側に各種情報が表示されます。

チエミ まずキャラ単体の情報を知りたい場合、左画面で調べたいキャラをクリックすると、右側にそのキャラの情報が表示されます。

▲「キャラ単体の情報」の画面イメージ

ケイスケ クリックしたキャラはそのキャラと関係のあるキャラと線で繋がります。過去に一緒に活躍したシナリオがあるなど、関係が深いキャラほど太い線で結ばれます。

▲「他のキャラとの関係性」の画面イメージ

チエミ 関係の線をクリックすると、2人が所属するグループの情報がポップアップウインドウで表示されます。また、画面中央の虫眼鏡アイコンをクリックすると右画面がグループ検索画面になり、ここからグループを検索することも可能です。

▲「属するグループ」の画面イメージ

「キャラマップ」のどんなところが便利ですか?

ケイスケ 閲覧した情報の履歴が右画面の上部に残るようにすることで、「さっきまでどのキャラ見てたっけ?」と混乱しにくい設計にしています。また、グループの情報へは、左画面のキャラ同士を結んだ線からも、右画面の関係情報ページからも遷移できるようにして、知りたい情報にすぐアクセスできるようにしています。この他、外部サイトのリンクも埋め込めるので、外部の情報も参照しやすくしています。

チエミ キャラの基本情報や関係性をざっと確認できるところが便利ですね。グラフィカルで直感的に把握しやすいのが良いです。各グループにタグを付けられるので、タグで情報を絞り込めるのも便利ですね。「キャラマップ」を導入したことで、情報をイラストレーター、デバッグ、ディレクターなどの他セクションとも共有しやすくなりました。「キャラマップ」の情報を編集できるのはシナリオチームのスタッフのみですが、プロジェクト内の誰もが閲覧できるようにしています。

ケイスケ 現在表示している状態をURLで共有できるようにしているので、「ここを見て」という要望をピンポイントで伝えられるのも長所ですね。情報共有が圧倒的に楽になったと思います。

「キャラマップ」の開発にあたって意識したことがあれば教えてください。

ケイスケ 「キャラ単体の情報」「他のキャラとの関係性」「属するグループ」の3つの情報を整理した上で、各情報までの導線をわかりやすく作ることを心がけました。「どこに何の情報があるのかわからない」ことがないように、初めて「キャラマップ」を触る人でも必要な情報にアクセスできる設計を目指しました。
具体的には、キャラや線をクリックしていけば、次々と周辺の情報を掘り下げていけるようにしています。
一人で情報を探せれば、他の人に頼る必要がなくなるため、結果的にプロジェクト全体の作業効率が上がると期待しています。

導入によって得られた効果と今後の課題

「キャラマップ」導入によってどのような効果を得られましたか?

チエミ 情報の置き場所が決まったことで、確認・更新すべき情報がどこにあるか、閲覧者も管理者もわかりやすくなりました。情報の更新も以前より楽になりましたね。

ケイスケ プロジェクトに加わったばかりの人でも、求めるキャラ情報に到達しやすくなったという話しを聞くので、一定の成果は出ているのではないでしょうか。

今回、部署間連携で「キャラマップ」を開発に取り組んだ感想や、課題として感じていることがあれば聞かせてください。

ケイスケ ずっとエンジニアをやってきた中で、シナリオチームのような部署と直接コミュニケーションを取ることはなかったので、今回の連携は新鮮でしたね。

チエミ 私もそうですね。開発運営支援や他の部署とコミュニケーションを取りながら、便利なアプリを作ることができたのは良かったです。色々な人が見て利用するアプリなので、シナリオからは出てこないようなエンジニア目線の提案ももらえて刺激になりました。他部署に相談してオリジナルアプリを一から開発してもらえるという、部署連携のしやすさがサイゲームスの良さだと思います。

ケイスケ 課題としては……先ほど更新が楽になったという言葉をもらいましたが、開発者としては更新のしやすさはまだ課題が残っていると思っています。現状では、人力による定期的な更新をプロジェクト側にお願いしていますが、ここをある程度自動化できないかと。とはいえ、キャラの情報、特にキャラ同士の関係性に関しては抽象度が高いので、なかなか上手く情報を収集するのが難しいのですが……。この部分も含め、改善の余地はあります。

チエミ 入力した情報のデバッグ(間違いの発見と修正)も、どうしても人力になっている部分は確かにありますね。ここが自動化できれば、さらに効率的になると思います。

ケイスケ それに今回のアプリ開発では、情報を「キャラ単体の情報」「他のキャラとの関係性」「属するグループ」の3つに分類しましたがが、もっとバリエーションがあっても良いと思っています。ライターの人がもっと話を作りやすくなるように、世界観を把握しやすくするなど、情報を増やしていきたいです。

チエミ 私たちも、情報をどこまで深堀りすれば良いのか突き詰め切れていないところがあります。例えば、「友達」という関係性にも色々なかたちがありますが、各キャラに関してそういった細かい部分はまだ検討中です。今後はそんな情報を充実させていきたいと思っています。


以上、シナリオチームと開発運営支援チームの連携で生まれたアプリについてご紹介しました。サイゲームスは部署連携の強化もクオリティーアップに繋がる1つの要素だと考えています。これからも「チーム・サイゲームス」の精神で、みなさんに最高のコンテンツをお届けしていきます。