『ウマ娘』ライブ開発チームが実現する最高のライブ映像<前編> 『Never Looking Back』のラストカットができるまで

ゲーム『ウマ娘 プリティーダービー(以下、ウマ娘)』では、ウマ娘が歌唱とダンスを披露するライブパフォーマンス「ウイニングライブ」を視聴できます。最高のライブ映像を提供するため、サイゲームスではコンセプト立案から映像の演出、背景やモーションなどの各アセットの作成、そして実際の映像の完成までを担当する「ライブ開発チーム」を編成しています。

本記事では、ライブ開発チームのチーム体制や制作フロー、どういった方法で完成度を高めていくかなど、制作事例を現場で活躍するスタッフが前後編に渡って解説します。前編は、ライブ制作の全体的なフロー、カットシーンアーティストの役割、『Never Looking Back』のラストカットが完成するまでの制作事例をご紹介します。

※サイゲームスの技術カンファレンス「Cygames Tech Conference」「ウマ娘 プリティーダービーにおけるウイニングライブ制作事例 ~ライブ開発チームの体制や制作フローについて~」の動画の内容を基にご紹介しています

3DCGアーティストチーム 3DCGリードカットシーンアーティストカオリ
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2017年サイゲームスに合流。2019年から『ウマ娘 プリティーダービー』のタイトルに加わり、ライブカットシーンのリードとしてカットシーン制作や監修を担当している。

ウイニングライブとは?
制作専任組織「ライブ開発チーム」の業務内容

ゲーム『ウマ娘』では、レース終了後に出走したウマ娘たちによるライブパフォーマンス「ウイニングライブ」が行われます。最大18人が出演し、リアルタイムレンダリングのCGによってレースの着順がライブでの立ち位置に反映されます。ウイニングライブの大きな役割の一つは、ウマ娘を育成、応援してくれたファンに対して感謝を示し、ウマ娘とファンとで喜びを分かち合うことです。

そんなウイニングライブを制作する専任組織が「ライブ開発チーム」です。育成したウマ娘が輝いている姿を見て、育成の達成感やウマ娘への愛情を感じてもらえるような「最高のライブ映像を提供する」ことを全ライブ制作に共通したミッションとしています。

▲『ウマ娘』ウイニングライブメドレー

チームのスタッフはプランナー、2D背景アーティスト、モーションアーティスト、カットシーンアーティストなどで編成され、ライブのコンセプト立案から映像の演出、背景やモーションなどの各アセットの作成、実際の映像の完成までを担っています。

以前は、セクション単位で担当業務を区切り、ウォーターフォール式(※)に制作していました。しかし開発の途中で新しいアイディアや意見が出ても取り入れにくかったり、自分のセクション以外への関心が薄れてしまったりといった課題があり、これを解決するためにアジャイル式(※)の開発とし、スクラムの手法を取り入れ、同じミッションを掲げるセクション混合チームを編成したのがチーム立ち上げの経緯です。

※ウォーターフォール式……システム開発手法の一つ。開発フェーズを関係各所へ一つずつ確認しながら進めていく手法
※アジャイル式……システム開発手法の一つ。開発メンバーがシステムに優先順位をつけ工程を進めていく手法。優先順位を決めるため、定期的なミーティングをまめに行ってチーム内で連携をとる「スクラム」という手法がとられる

今回はライブ開発チームの中でも、背景やモーションなど各アセットが揃った後、映像の構成・カメラモーションから、フェイシャルやポストエフェクトなどの各要素を調整してライブの映像として完成させる「カットシーンアーティスト」の業務を、ウイニングライブ『Never Looking Back』を題材に詳しく解説していきます。

▲『Never Looking Back』ウイニングライブ(ロングver.)

ライブ制作のフロー

ライブ制作のフローは下図の通りです。プランナーによるコンセプト立案・発注から始まり、コンセプトアートやモーション収録の後に、カットシーンを含む各3Dアセットの作り込みを行いウイニングライブの映像が完成します。このフローとサウンドの調整、デバッグの工程を含めると、リリース予定の半年前から制作に向けて動き出しています。

1.コンセプト立案・発注

リリースする楽曲が決定すると、プランナーがコンセプト立案を行います。コンセプトではダンスの背景や演出の方向性などを決め、これをライブ開発チームの各セクションに発注します。

▲完成版のワンカット

■『Never Looking Back』のコンセプト
「雨」をテーマに光と空気感の表現にこだわり、ウマ娘たちの「決して諦めない芯の強さ」を魅せる!

■各アセットへ落とし込むために要素を具体化したもの
・背面のスクロールライトを活用して「雨」を疑似的に表現
・床が濡れているような幻想的な光の反射
・スタンドマイクで熱く歌うウマ娘とキレのあるバックダンサーのダンス

2.2Dコンセプトアート

ライブ開発チームの2D背景アーティストとプランナーが、ライブに盛り込みたい要素やイメージをコンセプトに沿って固め、2D背景アーティストがステージの構造やライティングの雰囲気を具体的なビジュアルに落とし込んでいきます。

コンセプトアートはステージデザインとしてだけではなく、初期段階からチーム内で最終的な画のイメージを共有する役割もあるので、3D背景やモーションアーティストなどの各担当者がそれぞれの視点からコンセプトアートをチェックしていきます。

カットシーンアーティストは、ライトの印象やステージの構造などをチェックし、映像にした際の見栄えを確認します。

3.3D背景仮モデル

コンセプトアートを基に3D背景アーティストが機材を配置し、背景のスケール感がわかるような仮モデルを作成します。ステージの広さや階段の高さ、段数などはモーションキャプチャー収録の際に必要な情報になるのでこの時点で確定させ、社内のモーションキャプチャースタジオに共有します。

▲3D背景仮モデル

カットシーンアーティストは、モーションアーティストとともに3D背景仮モデルにキャラを立たせて、スケール感やカメラを通した見た目を確認した上でステージの構造や必要な機材の3DCGモデルについて要望を出します。

4.モーション収録

振付師さんにダンスの振り付けを依頼し、モーションキャプチャー収録を行います。③で制作した3D背景仮モデルを社内のモーションキャプチャースタジオに送り、アニメーションソフトウェア「MotionBuilder」上でキャラクターモデルに合わせて、ダンスのフォーメーションや移動幅を確認しながら収録します。

▲モーションキャプチャー収録風景

リハーサルや収録にはライブ開発チームの各セクションのスタッフが同席し、それぞれの視点で意見を出し合いながら振付師さんやアクターさんに細かい調整を依頼します。

モーションキャプチャー収録が完了したら、3D背景、モーション、カットシーンの作り込みが始まります。

カットシーンアーティスト制作事例紹介①
『Never Looking Back』ラストカット

ここからは『Never Looking Back』を題材に、カットシーンアーティストが当楽曲のラストカットを完成させるまでに実践したことを、順を追って説明します。

■コンセプトの決定

■『Never Looking Back』のラストカットで表現したいこと
・ハーフアニバーサリー記念曲なので、この楽曲を通してより進化したウイニングライブであることを印象付けるため、ラストカットは楽曲を象徴するものにしたい
・楽曲全体の印象として普段よりバックダンサーが近く、大人数での動きの華やかさを感じさせる振り付けだった。その印象をラストカットにも与えるため、ラストカットではバックダンサーを含めて全員映す
・さまざまな媒体で使えるよう、静止画でもきれいに見えるようにする

■実際の制作工程

定めたコンセプトを軸に、カットシーン制作に入ります。

1.アングルとレイアウトの決定

最初にアングルとレイアウトを決めていきます。まずはステージ上にキャラクターを配置します。

▲正面アングル。単純に正面から映した状態

ウマ娘全員が映っているものの、今回の背景の見どころである「濡れた地面にライトの光が反射している美しさ」があまり感じられません。そこで「地面の反射も綺麗に見えつつ全員が映る」という条件を満たす、斜め上からの俯瞰アングルにしました。

▲斜め上からのアングル。カメラの画角や位置を調整した状態

今度はウマ娘の立ち位置にまとまりがなく、ばらついた印象になってしまいました。そこでウマ娘の立ち位置を調整します。

▲立ち位置を調整。フォーメーションをコンパクトにした状態

元のフォーメーションはそのままですが、ウマ娘同士の間隔を詰めるかたちで中心へ集めました。また、メインの3人はより目立たせるため、少し手前に立たせました。

このようにフォーメーションを決める際は、基本の立ち位置の印象を守りながら、コンセプトに合わせてメンバーをより広げて配置したり中心に集めたりして調整をかけています。

2.ライティングの設定

次にライティングの設定をしていきます。

手前のメイン3人を目立たせるため、左上から強めのスポットライトを当て、色のコントラストを強めて存在感を出します。逆に、バックダンサーは逆光にすることで、存在感を少しだけ抑えます。

▲キャラクターに当たるライトの方向と、光と影の色を設定

バックダンサーが暗くなりすぎて地面と同化してしまったので、少し存在感を出すため、ふくらはぎを中心にリムライト(立体感を強調するために使用する半逆光的な光のこと)を当て、シルエットが少し浮かび上がるよう調整しました。

▲リムライトの調整内容
▲調整前・調整後。バックダンサーのシルエットが浮かび上がり、存在感が出た

3.フェイシャル設定

次はフェイシャルの調整をします。ラストカットなので、印象に残る表情を作っていきます。

▲調整前・調整後。不敵な笑みが印象深い

調整前は目線がバラバラですが、全員の目線をカメラに向け、スペシャルウィークの片方の口角を少し上げることで少し不敵な笑いになるように設定しました。このタイミングで汗のエフェクトも加えています。

4.ライト・ポストエフェクト調整

次に、ライトやポストエフェクト(3DCGのレンダリング結果に色味や奥行きなどの効果をかけるエフェクトのこと)を調整し、光と影の印象を強調したり、色のニュアンスを加えたりしていきます。

①奥のライトの光を強調し逆光を印象的に見せます。
②手前のメイン3人には左上からの光がふわっと乗るようにして存在感をより強調します。

③画面下半分は影部分としてより締まるように調整しました。
④地面が濡れているため、ディフュージョンを調整し、画面全体に光が拡散されているような柔らかな見た目にすることで湿度が高い印象に仕上げました。

5.エフェクトを追加し、空気感を作りこむ

最後にスモークのエフェクトを配置し、空気感を作り込みます。また、映像全体が鮮やかな青色になるように色調を整えて完成です。

■完成版動画

このような工程を経て完成したのが、こちらの動画です。

▲『Never Looking Back』のラストカット動画

以上、ライブ制作の全体的なフロー、カットシーンアーティストの役割、『Never Looking Back』のラストカットが完成するまでの制作事例のご紹介でした。
後編では、カットシーンアーティストの取り組みや、初公開となる制作事例をお伝えします!

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