【Shadowverse 5周年記念】シャドウバース作曲者、池頼広氏インタビュー
6月17日にサービス開始から5周年を迎えた『Shadowverse(以下、シャドバ)』。この作品の世界観を形成する楽曲の数々は、たった1人の作曲家によって生み出されています。その方は池頼広さん。ドラマや映画、アニメの劇中音楽を数多く手掛ける、日本を代表する作曲家です。
今回は『シャドバ』5周年を記念して、池頼広さんへ特別インタビューを敢行しました。
- 作曲家池 頼広(いけ よしひろ)
- 神奈川県出身。10代よりプロのベーシストとして活躍し、バンド活動を経て作・曲編曲の道に。数々の映画やTVドラマ、アニメなどに携わる。サイゲームスタイトルではアニメ『神撃のバハムート』シリーズ、対戦型オンラインTCG『Shadowverse』などの楽曲制作に携わる。
音楽家とeスポーツプレイヤーに通ずるもの
本日はよろしくお願いします。池さんは普段、『シャドバ』などのゲームはプレイされるのでしょうか?
『シャドバ』は最初の頃は頑張っていたのですが、デッキを組むのが下手なようで、負けまくりで凹んで(笑)。その後は忙しさにまみれて、あまりプレイできていないのですが、一度でいいので気持ちよく快勝してみたいです。
多くの楽曲を作ってこられた池さんでも、デッキを作るのは苦手だったんですね(笑)。もし良ければ好きなクラス(エルフやドラゴンなど)があれば教えて下さい。
イラストが好きという理由でエルフを中心に使用していました。それ以外については語る術もありません。『シャドバ』のプレイの講習を受けたいくらいです(笑)。
『シャドバ』はeスポーツタイトルでもあるので、緊張感のある大会でBGMが流れることなど、実際に流れるシチュエーションを想定されて楽曲制作をされたのでしょうか?
当初はその想定ではありませんでしたが、世界大会用の楽曲をお願いされたときには数日ほど悩みました。大きなプレッシャーの中、すごく責任を感じながらの楽曲制作でしたが、何とかキャッチーなものができたと思っています。
ゲームを極めて人を魅了するeスポーツプレイヤー、音楽を極めて人を魅了するアーティスト。両者は何か通ずるものがあるのでしょうか。池さんとしてはeスポーツプレイヤーについて、どのような印象を持っていますか?
ゲームの達人、演奏家、スポーツ選手は皆一様に、集中することに長けた方々だと思います。何時間も苦もなく同じことができる集中力とモチベーションを持っています。
好きなことに集中できるのは幸せなことですね。僕も若い頃はベースを弾くといつの間にか夜になってました。ただ、作曲家になってからは時間が経つのが怖くて仕方ありません。
15弾PV曲「アルティメットコロシアム」は自分の中で新しいタイプの楽曲
『シャドバ』の楽曲制作時は、どの程度の情報をもとに作曲されているのでしょうか?例えばキャラクターのキービジュアル、設定資料などのモチーフは参考にされているのでしょうか?
いつも沢山の資料をいただいたり、口頭での説明はたくさんしていただいたりして、世界観や大きなストーリーを理解する上でとても助かっています。もし、その説明や詳しい資料が無かったら『シャドバ』の音楽の成立は難しかったと思います。いつもスタッフのみなさまに助けていただいています。
ゲームの楽曲はループする点など、ドラマや映画の楽曲とは異なる点が多いかと思います。ゲーム楽曲特有の苦労などはありますか?
ループについてはゲーム楽曲の制作経験があるので慣れていますね。ただ最近では、もったいなさから曲の終わりにエンディングもつけているので、曲の長さが大変なことになってきました。
また、ゲームのストーリーや世界観を音楽で表現したいので、その点はいつも悩んでいます。3ヶ月毎に依頼いただいている新カードプロモーション用の楽曲も同様で、『シャドバ』らしさとキャッチーさを表現するために毎回、頭を悩ませています。もちろん、その苦労や工夫も含めて楽しませていただいております(笑)。
新弾カードパックのPV楽曲もいつも楽しみにしております!PV楽曲のなかで、池さんにとって最も印象深い曲は何でしょうか?
『シャドバ』PVの楽曲は映画のトレイラーとは違う感じのアプローチをしていて、キャッチーな感じになるよう頑張っているのですが、その中でも今まで僕の人生で書く機会がなかったタイプの曲が、第15弾の「Ultimate Colosseum / アルティメットコロシアム」です。この曲は作っていて本当に楽しかったです。
実はこの楽曲の収録時に、搭乗予定の飛行機が故障して少しレコーディングに遅れる事件が起きました。ただ、オーケストラがいつものメンバーだったので全く問題なくレコーディングを終えることができました。低音の金管が最高です!
アリサは何故ハ短調か?各リーダーのテーマが生まれた背景
『シャドバ』には、全体的に壮大でハラハラする楽曲が多い印象です。アリサのテーマは、ケルト調の楽曲や舞踏会のような楽曲の印象的ですが、このような中世ヨーロッパの雰囲気は、シャドウバースの世界観として当初からイメージされていたものなのでしょうか?
最初の作曲時に世界観をお話しする中でケルトのアイディアは産まれました。ケルト的なものは僕の個人的趣味でもあります。壮大なものやハラハラするものについてはアニメ『神撃のバハムート』のような楽曲をとお願いされて作っていきました。
ホーム画面のメインテーマとアリサのテーマは、ともにハ短調でキーが揃っています。勘繰り過ぎかもしれませんが、『シャドバ』の主人公的な立ち位置であるアリサとメインテーマを合わせたとか、もしくはゲームを始めたばかりのプレイヤーがまずはアリサを選択してゲームを開始する、などのユーザーの体験を想定して作られていたりするのでしょうか?
キーの一致はあまり考えていませんでしたが、キャラとしてはアリサを最初にご説明いただいたのでメインの扱いになりました。そのためキーがハ短調なのかもしれません。これは、逆に考えさせられる質問ですね、自己分析してみます。
ローウェンのテーマは舞踏会の曲で勇猛な感じがすごくローウェンのキャラクターと合っています。この楽曲を元にローウェンというキャラが作られたかのような気もしてきます。
ローウェンのデザインを見て彼の背景(設定)のご説明をいただいたときに何となくイメージできました。キャラがとてもカッコいいので曲も自ずと育ちました。
イリスのテーマも印象的で、他の壮大な楽曲とは異なり、パイプオルガンのみのシンプルな楽曲です。まるでイリスの孤独感や空虚感を表しているかのような楽曲です。
この楽曲は、「パイプオルガンで中世的な要素で作ってください」とお願いされて作りました。確かに空虚感のオーダーはありました。そして、その後に大きな編成でアレンジさせていただきましたが、それもお気に入りです。
音楽とは“記憶“と紐づく何か
以前池さんが映画の制作者の方へのインタビューをされていた際に聞かれていたものと同じ質問なのですが、ゲームにおける音楽にはどのような役割があるのでしょうか?
映像や物語につく音楽は記憶に紐づく何かでありたいと思っています。記憶とつながる香り、匂いのようなものでありたいと思っています。音楽を聞くと記憶が蘇る、みたいな感じでしょうか。
確かに当時の映像や風景は思い出せなくても、その時に聴いた音楽は記憶と紐づいて忘れられない経験があります。池さんにとって、忘れられない思い出と紐づいている曲は何でしょうか?
最初に作った『シャドバ』の音源は、ミックスを十数年ぶりにロサンゼルスのアラン・マイヤーソン(※1)さんにお願いしに行きました。久しぶりにアメリカの環境で行ったミックスはとても記憶に残っています。
その曲達を聴くと、今でも空港から一人でレンタカーを借りてスタジオに行くまでの道のり、スタジオのセキュリティーが厳しくてなかなか入れてもらえなかったこと、クリスマスの綺麗な街並みを思い出します。
あと、アランさんとの「久しぶりに池が来たから今日のディナーは寿司がいいよね?」「そっそうだね(笑)」という会話も色々思い出します。意外とあちらの寿司も美味しかったです。
『シャドバ』以外の楽曲だと、ドヴォルザーク(※2)を聞くと自ずと、石畳が雨で濡れたプラハの街の香りとその上を通る馬車の蹄鉄の音が蘇ります。
※1映画音楽エンジニア界の巨匠
※2後期ロマン派におけるチェコの作曲家
普段、池さんはテレビドラマや映画の楽曲を手掛けることが多いですが、ゲームのBGM制作では制作方法や過程に違いは出てくるのでしょうか?
若い頃はゲーム、映画、ドラマ、それぞれ考え方を分けている感じはありましたが、最近では不思議と(違いについて)考えずに作曲に取り組ませていただいています。作品に没入して作曲すれば、いい結果が生まれそうな感じがしています。気のせいかもしれませんが。
RAGE Shadowverse 2020 Springでのオーケストラ演奏も最高でした。演奏当日はネット上でも、大会本戦に匹敵するほどの盛り上がりと話題が巻き起こり、『シャドバ』やゲームに詳しくない方々の目にも止まるきっかけとなりました。あの大きな反響について、池さんはどう感じましたか?
あのコンサートはとても意義深いものでした。折角の機会だと思ったので、観客の方々の撮影を許可していて、動画をソーシャルメディアにアップしても良いようにしました。(普段のコンサートではありえないことですが)そんなオーケストラコンサートにしたかったんです。
Twitterなどで拡散されたのはオーケストラコンサートとしてはとても珍しく、多くの方に伝えられたと思っています。サイゲームスの木村さんを始めとしたスタッフの皆様のご協力で実現できました。本当にありがとうございました。キムニー(木村さん)またやりましょうよ!アフターコロナで!お願いいたします。
今回はありがとうございました!『シャドバ』のファンには池さんの楽曲を楽しみにしている方がたくさんいます。ファンの方々にメッセージをいただけますでしょうか?
皆さんに楽しみにしていただけるなら、いつまでも書き続けていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします!今後の『シャドバ』の展開を僕も楽しみにしております。