「世界をひっくり返す」には最高の技術提供を 将来の夢は日本のゲームを再び世界一にすること
サイゲームスは「最高のコンテンツ」を提供するため、常に技術を進化させています。設立9周年を機に、技術的課題の解決に向けた環境整備と、エンジニアたちが能力を発揮できる組織づくりを担うサイゲームスのCTO・芦原栄登士へインタビューを実施(全3回)。第1回では、どんな会社なのかとCTOの役割、第2回では、CTOの組織文化づくりをお伝えしました。
この第3回では、CTOとして実現させたい夢、そのために行うべきことについてお話しします。
- CTO(最高技術責任者)芦原 栄登士
- 大学ではオブジェクト指向言語のコンパイラを作る研究に没頭。卒業後はゲーム業界に就職し、日本のインターネット最初期からネットゲームづくりに携わる。ゲーム会社で開発の経験を積みながら夜間の大学院に通い、MBAを取得。その後、プログラマー全体を管理する立場やネットワークコンサルタントなどを経て、2012年よりサイゲームスのCTOに就任。クライアントからサーバー、インフラ、マネジメントまで幅広く責任者を務める。
「ゲーム大国」と呼ばれながら
海外に置いていかれつつある日本のゲーム
第1回と2回でそれぞれ、芦原さんの入社までの経緯やCTOの役割、エンジニアチームの組織づくりについて聞きました。今回は、今後のお話を色々と聞いていきたいと思います。
今後の話をするには、まず昔と、今のゲーム業界の話をしなくてはいけないですね。今から10年以上前ですが、日本のゲームが世界で一番すごい!と言われていた時代がありました。日本製のゲームハードが多く流通して、ソフトでも日本製の良いゲームがたくさん発売されていましたが、だんだんと海外製の良いゲームが作られるようになり、気付いたら今ではすっかり海外に追い抜かれてしまっています。
最近はあまり聞かなくなりましたが、日本は「ゲーム大国」なんて呼ばれることも多かったですよね。
はい。そして個人的な夢でもあるのですが、今後はそんな状況をひっくり返して、もう一度、世界から「やっぱり日本のゲーム・ゲーム業界はすごい」と言わせてやろうと思っています。そしてその先頭にサイゲームスが立っている。そんな未来を目指しています。
サイゲームスがビジョンとして掲げる「最高のコンテンツを作る会社」。会社として、良いもの楽しいものを作って世界中の多くの人々に楽しんでもらい、驚きを提供する……ユーザーさんがびっくりするようなことをやり続けることで、いつかそんな未来に到達できると思っています。
第1回でも、ユーザーのみなさんに「サイゲームスこんなことやっちゃうんだ」とか「サイゲームス次は何をするんだろう?」と常に期待される集団でありたいと話されていましたね。
我々エンジニアは、そこに技術でもって貢献し、「最高のコンテンツを支える最高の技術」を提供していきたいと考えています。
ただ、世界は広く、強いもので、GDC(Game Developers Conference)やGDC Europeなどの海外の業界イベントでアメリカやドイツへ訪問しましたが、サイゲームスの知名度はまだまだ……というのが現状です。
良いゲームを出し続けねばならないなと感じています。
次世代のゲームを見据え
どんなプラットフォームでも面白いものを作る
今後サイゲームスで作っていくゲームでも、最高のものを目指していくことかと思いますが、次世代のゲームはどうなるんでしょうか?
今後、クラウドゲームが主流の時代になるかもしれない、と言われています。完全にクラウド型になるかはわかりませんが、ハイブリッド型はあり得ると思います。ハイブリッド型とはつまり、描画を含めほとんどの処理をサーバー側で実行するけれど、完全にサーバー側で行うのではなく、クライアント側でもある程度描画やその他のタスクを処理する、という仕組みです。
音楽もムービーもクラウド(ストリーミング)型になってきましたよね。
はい、未来のことはわかりませんが、ゲームもそうなる可能性は高いと思っています。
我々は以前より、さまざまなプラットフォームでゲームを作ってきました。フィーチャーフォン時代と初期のスマートフォン時代はWebプラットフォームで、現在のスマホゲームはほとんどネイティブアプリ(※)のプラットフォームで作っています。この他にもPCやコンシューマーゲーム機向け、それに加えてVR/ARのゲームやコンテンツを作ってきています。
我々としてはプラットフォームへのこだわりはそれほどはなく、「どのプラットフォームでも良いもの、面白いものを作るだけ」だと思っています。もちろん、プラットフォーム毎の特徴があるのでそのプラットフォームに最適なスタイルで作りますが。
ですので、クラウドゲームの時代が来たら、ユーザーのみなさんの遊ぶシーンを掴みながら、クラウド向けの面白いゲームを作るだけだと思っています。
(※)各アプリケーションのストアを介して、スマートフォンやタブレット端末にインストールして使用するアプリケーションのこと。
日本のゲームを返り咲かせるためには
積み重ねてきた「ノウハウの塊」も1つのカギに
クラウドゲームという単語だけ聞くと、すごく高度な技術で作られている印象があります……。
クラウドゲームの仕組みを簡単に説明すると、サーバー側でゲームを動かし描画処理まで行い、クライアント側では入力の処理と、送られてきた画像を表示するだけ、というものです。これは一昔前に「シンクライアント」と呼ばれていたものと同様で、クライアント端末に必要最小限の処理をさせ、ほとんどの処理をサーバー側に集中させたシステムアーキテクチャーです。実は現在すでにこれと同じ環境があって、Webアプリがそれにあたります。
なるほど、クラウドゲームとWebゲーム。全く異なるものに感じますが、技術の本質的な部分では、実は似ているんですね。
はい。サーバー側でゲームロジックを動かし、クライアントは基本的に入力の処理と送られてきたデータを描画するだけ。
そして現在、世界最大級のWebゲームは、恐らく『グランブルーファンタジー(以下、グラブル)』だと思います。『グラブル』は、クライアント側で描画コマンドを発行しているので、ハイブリッド型と称するのが正しいのですが。
『グラブル』は2020年5月現在で、累計登録者数が2500万人を超える規模のブラウザゲームになっていますね。
ブラウザゲームの限界に挑戦するというのも、『グラブル』の開発目標の1つでした。規模を大きくしながら約6年間運用しています。
今後、ゲームを作る世界中の会社が「これからはクラウドゲームだ!」と、開発・運用していくとすると、おそらく「『グラブル』の6年間の運用の中で起こった、ありとあらゆる課題に直面するのでは?」と思っています。
これまでに『グラブル』が直面してきた課題とはなんですか?
サーバーやデータベース、ネットワークなどのさまざまな課題です。負荷が高いのもそうですし、データ量も莫大になりますし、ハードウェアの故障もあり得ます。ゲームイベントの時期だけサーバー台数を大幅に増強しておく、なんていう運用ノウハウもありますね。
このようなありとあらゆる課題を、我々は『グラブル』の開発・運用で解決してきました。つまり「世界が今後直面するであろう、まだ気付いていない問題」を『グラブル』はすでに解決してきた可能性があります。しかも6年間分も。そう考えるとすごくないですか。次の時代になっても、サイゲームスにはこれまで積み重ねてきた「ノウハウの塊」があるわけです。
開発現場では、私個人は何もしていないですけどね。私としては、直接開発をしなくても、会社の(技術的な)成長が面白くってしょうがないんです。
世界を目指し最高であるならば
サイゲームスは何でも挑戦できる
これまで積み重ねてきた経験とノウハウを活かして、夢である世界一を目指すんですね。その夢の実現に向かって、今はどのような状況でしょうか?現在のエンジニアチームについて教えてください。
組織づくりや文化づくりはまだまだ手探りの状態で、少しずつしか進みません。ですが優秀なマネージャーが揃ってきています。
私の下には20名近くのマネージャーがいるのですが、それぞれ個性派で優秀です。基本的に私は「色々な考え方の人がいた方が良い」と思っていて、それは「色々違った視点からの意見が出るから」です。週1回、マネージャー陣とサイゲームスエンジニアの将来を考える会議を実施していますが、そこでいろいろな意見を出し合っています。
今の優秀なマネージャー陣と一緒なら、最強のエンジニアチームを作り上げることができそうです。
現場で活躍するスタッフも続々と増えていますね。
現在900名近いエンジニアが所属しており、優秀なスタッフが続々と参画してくれています。著名な作品に携わった経験豊富なスタッフも多いですね。
基本的にスタッフのみんなにはやりたいことをやってほしいと思っています。もちろんやりたいことをやるには、周りから信頼されないといけません。そのためにはまず実績を積んで周りの信頼を勝ち取っていく必要があります。
大事なのは「何が一番やりたいか」です。そしてそれが世界一を狙えるならば、どんどんやるべきですね。逆にいうと、世界一を狙えるレベルでないならばやるべきかどうかを慎重に考えた方がいい。目指すは最高の仕事です。
芦原さんが世界一を狙う上でやってきたことの実例を教えてください。
基礎技術研究部門として立ち上げた「Cygames Research(サイゲームス リサーチ)」 という企業内研究所はその一例ですね。この研究所を設立するとき、社長の渡邊に「研究所を作りたい」と話したらあっさり「いいよ」と返事をもらったのですが、この「いいよ」の一言には、「ただし、世界最高にするなら」という前提が含まれています。
私は企業内研究所という箱を用意し、箱の中身である研究所の運営は、研究のプロである所長の倉林修一に任せています。
Cygames Researchではどのような活動をしているのでしょうか。
研究内容はCygames Research所長の倉林のインタビュー記事をご覧いただければと思いますが、従来のゲーム開発技術の枠にとらわれず、デジタルエンターテインメントを実現するためにさまざまな研究を行っています。主には、AI(Artificial Intelligence=人工知能)やUI(User Interface=ユーザーインターフェース)、仮想化技術や大規模並列化技術などを含む「低レイヤー技術」の3つの領域にフォーカスしています。
また、このCygames Researchでの研究成果を、難関と称される国際学会に通してきています。
これは研究内容がしっかりと国際的に認められているということです。
【研究成果発表】
●Sensing-by-Overlaying: A Practical Implementation of a Multiplayer Mixed-Reality Gaming System by Integrating a Dense Point Cloud and a Real-Time Camera
In Proceedings of the 2016 IEEE International Symposium on Multimedia (ISM), IEEE, San Jose, CA, USA, 636–639.
●A Large-Scale Visual Check-In System for TV Content-Aware Web with Client-Side Video Analysis Offloading
In Proceedings of the 18th International Conference on Web Information Systems Engineering (WISE 2017), Lecture Notes in Computer Science, vol. 10570, Springer, Cham, Moscow, Russia, 159–174.
●Lambda Containers: A Comprehensive Anti-Tamper Framework for Games by Simulating Client Behavior in a Cloud
In Proceedings of the 2018 IEEE 11th International Conference on Cloud Computing (CLOUD), IEEE, San Francisco, CA, USA, 598–605.
●Kinetics: A Mathematical Model for an On-Screen Gamepad Controllable by Finger-Tilting
In Extended Abstracts of the Annual Symposium on Computer-Human Interaction in Play Companion Extended Abstracts (CHI PLAY ’19 Extended Abstracts), ACM, Barcelona, Spain, 467–474.
など
サービスへの技術展開を中心に行う研究所なのかと思っていましたが、学術的な場での発表を行っているんですね。
はい。次に、国内外のさまざまな大学との連携です。現在最も密に連携しているのは慶應義塾大学で、Cygames Research所長の倉林は同大学の特任准教授も務めています。それ以外には、私の母校というご縁もあり、東京理科大学との連携も始めました。
海外ではUCSD(カリフォルニア大学サンディエゴ校)と提携していますし、ドイツのライプツィヒ大学、ハレ大学とも連携しています。最近ではスウェーデンのシェブデ大学からインターン学生を受け入れました。そして、このスウェーデンと日本の共同の教育モデルについての論文が、IEEE Conference on Games(CoG)に通っています。
新型コロナウイルス感染症の影響で残念ながら中止になりましたが、UCSD(カリフォルニア大学サンディエゴ校)のシンポジウムで発表する予定もあったそうですね。
UCSDの基調講演に、所長の倉林が呼ばれていました。午前の部はCygames Research、午後の部はAdobe Researchが講演する予定でしたね。中止となってしまいましたが、世界で有数の研究所と並んで発表する機会をいただけたのはとても光栄なことです。
大学との連携のみならず、内閣府の有識者会議「イノベーション人材の流動化に係る要因調査」では、所長の倉林が呼ばれて話をしてきています。内閣府からもCygames Researchはイノベーティブであると認められているみたいですね。
サイゲームスの技術的な部分が世界に届き始めているんですね。
Cygames Research以外にも、世界をひっくり返すために、最強のエンジニアチームを作ることを目指し、文化・考え方を伝えるべく、さまざまなことに取り組み続けています。今回、話しきれなかったのですが、リサーチや『グラブル』以外にも、コンシューマー開発やゲームエンジンの開発など、さまざまな挑戦をしています。
色々な話をしましたが、まとめると、私はサイゲームスという会社は「何でもできる会社」だと思っています。もう少し詳しく言うと「世界を目指して、何でもできる。挑戦できる。」その代わり「最高であるべし」という感じです。
そして、「良いもの、面白いものを作るのが最優先」な会社です。技術も大事だけど面白さのほうがもっと大事。技術者によくある間違いとして「技術的に正しいことが正しい」と勘違いすることがありますが、エンジニア組織全体としてそこを間違わないように気を付けています。
ユーザーさんには面白さを伝えたくて、技術のすごさは技術者に伝わればいいのです。だからCEDECや学会などの場で技術を発表しています。
最後に、サイゲームスに興味を持っている読者の方に向けてメッセージをお願いします。
これからも我々は、新しい挑戦・研究から、最高の技術を生み出し、最高のコンテンツを作っていきます。世の中の人たちが驚くようなものを作っていきます。
そして世界をひっくり返そう。
世界中の人たちを感動させよう。
我々は次の「挑戦したい人」を待っています。
現在サイゲームスでは、一緒に働く仲間を募集しています。この記事で興味を持たれた方は、ぜひ一度こちらをチェックしてみてください。
サイゲームス採用サイトはこちら【サイゲームスCTOインタビュー】
Vol.1 「最高のコンテンツ」を追求する人が集う会社に サイゲームスクオリティーを高め続けるCTOの役割
Vol.2 「世界最強のエンジニアチーム」を目指して 個人の能力発揮を支えチームで成果を出す組織文化
Vol.3 「世界をひっくり返す」には最高の技術提供を 将来の夢は日本のゲームを再び世界一にすること