テクニカルアーティストの仕事とは?開発陣のクリエイティビティーを最大化する環境づくりに必要なこと【サイゲームス仕事百科】

ゲームが大規模化・複雑化するにつれ、開発に用いる技術やツール類も日々高度化しています。これに伴って、アーティストとエンジニアの開発上のやり取りもますます煩雑化しています。両者の間に立って、橋渡しの役目を果たすのが、テクニカルアーティスト(以下、TA)という職種です。TAの活躍により、アーティストやエンジニアは本来の業務により多くの時間を割けるようになります。今回は、TAの仕事について、マネージャーへの取材を基に解説します。

アーティストとエンジニアの橋渡し
高品質な表現を実現

TAは、ゲーム業界の中でも少し変わった立ち位置にある職種と言えます。サイゲームスのように専門部署として抱えている会社もあれば、専任のTAを置いていない会社もあります。また、ゲーム会社特有の職種ではなく、アーティストとエンジニアが組んでクリエイティブ作品を制作している企業は同様の職種を設置していることがあります。実際に、サイゲームスにも映像制作会社出身のTAが在籍しています。では、TAとはいったい何をする職種なのでしょうか。仕事紹介などで「アーティストとエンジニアの橋渡し」と説明されることも多いですが、そう言われてもますます「?」となってしまう方もいるかもしれません。実際にはTAの仕事内容は多岐にわたり、会社やプロジェクトなどによっても大きく異なるため、単純に「○○をする仕事です」と説明するのが難しい部分があります。ここでは、サイゲームスのTAの仕事について具体的にイメージできるように説明します。

サイゲームスでは、TAの仕事は主に、アーティストとエンジニアの橋渡しをし、新しく高品質な表現を実現することと考えています。

■アーティストとエンジニアの橋渡しをする

アーティスト・エンジニア間の作業は、簡単に言うと以下のような流れとなります。

1.アーティストがDCCツール(※1)を使ってイラストや3Dモデル、アニメーションなどの素材を作成する

2.アーティストが作った素材データをエンジニアに渡す

3.エンジニアがプログラミング言語を使って素材をゲーム内に組み込み、意図通りに動くようにプログラムを作る

開発現場では、2のアーティストとエンジニア間の素材の受け渡しが難題となります。

※1 2D/3Dのグラフィックソフトや動画編集ソフトなど、デジタルコンテンツを作るためのツールの総称

アーティストが作成した素材は、グラフィックソフトで作成したファイルのままでは使えない、または扱いづらいことが多いため、エンジニアが実装しやすいデータ構造に変換する必要があります。しかし、アーティストは「どんなデータ構造だとエンジニアが扱いやすいのか」「どんな手順でどんなデータを用意したらいいのか」には明るくありません。逆にエンジニアは、DCCツールを熟知しているわけではないため「△△の機能を使って××すれば、適切なデータ構造にできる」といった指示まではできません。そこでTAの出番です。DCCツールとプログラミングの両方の知識を持つTAが間に立つことで、「このデータについてはこの手順でやると効率が良い」といった助言ができるわけです。

橋渡し役を引き受ける上で重要なのは、アーティストやエンジニアよりも一段上のレイヤーから現場の状況を捉え、先のことまで考えて作業環境を設計することです。局所的な効率化だけではなく、全体的な効率化を考える必要があります。アーティストやエンジニアからさまざまな要望が出る中で、すべてをそのまま実現していては、逆に時間がかかったり後で手戻りが発生したりすることもあります。「現時点ではAという作業フローが最速かもしれないが、リリース後のことも考えると、Bというフローのほうが汎用性があるし、運用に入ってからも楽なのではないか?」といった具合に、先手を打って提案することが求められます。そのため、プロジェクトが立ち上がった直後や、場合によっては立ち上げ前から関わり、トラブル防止や効率化といった観点で作業フローを設計することもあります。

作業フローを設計した上で、例えば以下のような事柄についてTAがルールを提案します。アーティストとエンジニア双方の意見や要望を聞きながら、開発フロー全体から見て合理的なやり方をルールとして設定することで、お互いにとって作業しやすく効率的な環境を構築するのです。

  • フォルダ構成
  • ファイルの命名規則
  • データ構造のレギュレーション
  • アセット(素材データ)の管理方法

また、上記のようなルールに沿ったデータ作成のために、TAがデータチェックツールやエクスポーター・インポーターといったツールを作成することもあります。例えばあるプロジェクトでは、DCCツールでファイルを保存する際に、設定したルールに沿ったデータ構造にして、ファイル名も命名規則に従って自動で設定するツールを作りました。他にも、下記のようなツールを作成しています。

【3Dデータ編集ツール】

フォトグラメトリー(※2)をより簡単に実現するため、3DCGソフトウェアの1つであるHoudiniでの地形データ作成を簡略化するツールを開発。Houdiniに慣れていないアーティストでも使用しやすいものとなっています。

※2 さまざまな角度から撮影した写真を解析することで、3D空間に点群を生成。多数の面を抽出し、ポリゴンの集合体として再現する技術

その他にも、Maya用のウエイト/法線/頂点カラーの調整ツール、シーンオープナー、UV調整ツール、モデルデータのチェックツール、モデルデータやモーションデータのインポーター/エクスポーターなどを提供しています。

【Photoshop用ツール】

アーティストが使用する独自のPhotoshop向けツールを開発。Photoshop用の実装用画像や指示書の自動書き出しツール、Spineなどのアニメーションソフトへのデータ書き出しツールなどを提供し、開発環境の向上を実現しています。

ツール開発に加え、DCCツールやゲームエンジンのインストール手順・使用方法について一部動画を交えて解説するマニュアルやテンプレートファイルも、TAチームが独自に提供。このようなマニュアルやテンプレートを用意することで、技術面に明るくないアーティストでもツールの使用が可能となり、開発負荷の軽減にも繋がっています。

■新しく高品質な表現を実現する

「アーティストが目指しているリッチな表現を、ゲームという枠組みの中でいかに実現するか」を考えるのが、TAのもう1つの仕事です。

DCCツール上ではいくらでも「盛る」方向で豪華なグラフィックを実現できますが、ゲームコンテンツとして実装するとなるとそうはいきません。ゲームではグラフィックをリアルタイムに処理して表示する必要がありますが、一度に処理できる計算量には上限があるため、ハードウェアの処理速度やメモリー容量の範囲内でしか「盛る」ことができないのです。「このクオリティーのグラフィックを処理落ち(※3)せずに表示できる技術は何か」を考える必要があります。

※3 動作が遅延したり止まったりして本来の意図通りに表示されない状態

また、近年のゲーム開発・運用においては、短期間での量産にも配慮する必要があります。「このクオリティーのキャラクターを効率的に量産するのに適した技術は何か」の観点も必要です。

そうした総合的な観点から使えそうな技術の見当をつけ、技術検証や負荷検証を行い、最適解を見つけ出すのがTAの役目です。TAがいない開発現場では、アーティストやエンジニアが手探りで最適解を探ることになるため、効率が良いとは言えません。TAが技術検証・負荷検証を引き受け、アーティストやエンジニアの余分な手を取らせずに済むという点では、「橋渡し」と同じと言えます。

表現の向上に関して最近の事例を出すと、『GRANBLUE FANTASY Relink』が挙げられます。同作では、一般的によく見られるアニメ調やフォトリアルではなく、原作である『グランブルーファンタジー』の世界観を3Dで再現することに挑戦しています。繊細で幻想的な世界観を表現するため、アートディレクターやプランナー、エンジニアとともに色々な技術を試しながら、独自の表現手法を確立していきました。TAはアイディアを出したり最新の研究を取り込んだりする一方で、スピード感やコスト面を含めた総合的な見地から助言をしています。

▼『GRANBLUE FANTASY Relink』についてはこちらもご覧ください
『GRANBLUE FANTASY Relink』グラフィック徹底解剖<前編> 3Dモデルは全角度「決めカット」を目指す≫≫≫
『GRANBLUE FANTASY Relink』グラフィック徹底解剖<後編> 原作イラストを読み解き『グラブル』らしい動きを追求≫≫≫

サイゲームスの
テクニカルアーティストのチーム体制

現在、サイゲームスには20名超のTAが在籍しています。特定のゲームタイトルの開発を専属でサポートをするスタッフは「新規開発プロジェクト」と「運用プロジェクト」に所属します。この他プロジェクトには所属せず、プロジェクト立ち上げ前からの相談事に対応するスタッフは「テクニカルアーティスト本部」に配属されます。

サイゲームスでは新しい技術を積極的に取り入れており、アートとエンジニアリング両方の造詣が深いTAをもっと増やしたいと考えています。採用はベテランで即戦力の方だけではなく、若手の方を含めて幅広く採用しています。若手スタッフについては育成に力を入れており、研修やOJTを中心とした教育体制を整えています。

どんなときに達成感がある?
テクニカルアーティストのやりがいとは

TAの仕事は、その「ありがたみ」が伝わりにくい側面があります。例えばTAが作っている、データの受け渡しやバージョン管理を効率化する「パイプラインツール」は、まさに裏方的なツール。目立つことはありませんが、安心してデータ管理ができ、何か問題が起こったときには追跡ができるといったメリットがあります。
TAはこのようなツールを提供することでゲーム開発の安定・効率化を実現させます。現場で役立ててもらい、着実に信頼が育つのを実感できる仕事と言えます。

また、アーティストやエンジニアは、自分たちが作ったものがユーザーの方々に届き、成果物に対しての評価を直接受け取ることができますが、TAにとっての直接の「お客さま」はアーティストやエンジニアです。社内の開発スタッフを対象とする仕事なので、自分たちがした仕事に対してダイレクトに反響をもらって素早く改善に繋げられるスピード感があります。TAがアーティストやエンジニアをサポートすることによって彼らの成果物のクオリティーが上がり、その結果ユーザーのみなさんが喜んでくれるという図式です。
現場で活躍するプロのアーティストやエンジニアからも毎日のように反応や評価をもらえるという意味では、現場から受ける刺激が多い仕事と言えるでしょう。

どんな人が向いている?
求められるスキル・マインド

ここまでTAの業務について説明してきました。では、TAに向いているのはどんな人でしょうか?仕事の性質上、コミュニケーション能力は必須ですが、ここからは、サイゲームスのTAに求められるスキルや資質について述べます。

■新しい技術への好奇心・探究心

新しい技術のへの好奇心があり、新しいDCCツールやプログラミング言語などを進んで色々と試す行動力や知識欲は大切です。クリエイター全般に必要な能力ではありますが、TAにとっては特に重要な資質です。

■アーティストの立場になってツール開発やワークフローの改善提案ができる

ツールを設計する際、「どんなツールがあると作業が楽になるか」「よりクオリティーを上げるにはどんなツールがあると良いか」といったことをアーティストの視点から考えられると、実用性の高いツールを作ることができます。ワークフローの改善を考える際も、現場のアーティストのことを考慮した設計ができます。

また、「Maya」や「Photoshop」などのDCCツールを使ったアセットの制作経験は「橋渡し」の役目を果たす際に役立ちます。アーティストは、自分が表現したいことを感覚的に表し、エンジニアは論理的に述べる傾向があるため、アーティストの考えをエンジニアになかなか理解してもらえないことがあります。自身にアセットの制作経験があれば、「アーティストがどんな表現をしたいのか」を理解して、エンジニアにもわかる論理的な言葉に置き換える作業がしやすくなります。

■現場の要望を分析して伝える力

作業環境やフローの設計といった上流の段階で重要なのは、「アーティストが言語化できていない要望まで汲み取る」ことです。どんなことを実現したいかを分析し、的確に表現できる人は開発において重要で、TAがその役割を担います。
作業環境やフロー設計の過程で、アーティストやエンジニアからさまざまな要望が出てきます。TAはその間に立って俯瞰的な視点で要望を分析し、本当に対応すべきことを洗い出した上で、「これは先にやる」「これは後回しにする」と優先順位をつけることも重要です。また、関係者へ「なぜその優先順位なのか」を説明して理解してもらうための高いコミュニケーション能力も必要です。

新卒のテクニカルアーティストも増加
多様化するキャリアパス

少し前までは、TAはアーティストやエンジニア出身など、元々別の仕事をしていた人が転身するというパターンが主流でした。アーティストとして活躍する中で自分の作業の効率化のためにプログラミングを学んだ人や、エンジニアとしてアーティストの要望に応えてきた人などが、自然な流れとしてTAの職に行き着いたというケースが多かったのです。サイゲームスのTAもいずれかの職種で経験を積んだ人が多く在籍しています。

近年は、TAの需要の高まりとともに専門の養成学校も増えており、卒業後すぐにTAとしてキャリアを始める人も出てきました。サイゲームスにも新卒入社し現在TAとして活躍しているスタッフがいます。これからは、そのような生粋のTAが増えていくでしょう。バックボーンとなる職務経験があると何かと役に立つのは間違いありませんが、より重要なのは、制作現場をサポートしたい、仲間のために力を発揮したいというモチベーションです。

では、どんなことができれば一人前のTAと言えるのでしょうか?上流の設計段階で重要なのは前述の通り「アーティストが言語化できていない要望まで汲み取る」です。
TAはプロジェクト全体の都合、あるいはプランナーやディレクターの意向、アーティストやエンジニアの要望など、さまざまな立場の意図を汲み取って、誰もがわかる言葉に置き換える必要があります。上流の設計段階でそれができるようになれば、TAとして十分な実力があると言えます。

サイゲームスではTAを採用する際に、技術的な知識も重要ですが、それよりもどんなことに興味があるのか、どんなモチベーションで働きたいのかを重視しています。技術的な知識は入社してからいくらでも身に付けられるので、自分が興味のあることを深掘りし、それを突破口にして得意分野を広げていける力のほうが大切だと考えています。もし面接でお会いする機会があれば、アートや技術に関する好奇心・探究心があることや、TAとしてどんな仕事をしたいか、どんな役割を果たしたいかをしっかり語ってもらえるとうれしいです。もちろん、技術面の経験や知識があるに越したことはないので、アピールできることがあれば、ポートフォリオを持参いただければと思います。


以上、テクニカルアーティストの仕事についての解説でした。
現在サイゲームスでは、一緒に働く仲間を募集しています。この記事で興味を持った方は、ぜひ一度こちらをチェックしてみてください。

テクニカルアーティスト/東京の募集要項 テクニカルアーティスト/DCCツール開発/東京の募集要項