『Shadowverse』背景美術 重厚でリアルな世界観を貫くための手法やこだわり

ダークファンタジーな物語を展開する対戦型オンライントレーディングカードゲーム『Shadowverse(以下、シャドバ)』。緻密に描かれた背景アートは、ゲームへの没入感を高める上で欠かせない要素の一つです。
今回は、『シャドバ』の世界を描く背景アーティストたちにインタビュー。背景イラスト制作におけるこだわりや『シャドバ』らしさを貫くための手法などについて聞きました。
- 『Shadowverse』 背景アーティストケイスケ
- アニメ業界で背景制作、美術監督などのキャリアを経て、サイゲームスには2014年に合流した。『Shadowverse』背景チームでヒロコと共にリーダーを担当。
- 『Shadowverse』 背景アーティストヒロコ
- 映像業界での背景制作の仕事を経て、サイゲームスに合流した。いくつかのプロジェクトに携わった後、『Shadowverse』背景チームでケイスケと共にリーダーを担当。
- 『Shadowverse』 アートディレクターアイ
- 専門学校講師、ソーシャルゲーム制作会社のキャリアを経て、サイゲームスには2020年に合流。『Shadowverse』のカードイラスト制作や監修に携わった後、同作のアートディレクターを務めた。
リアリティーと説得力のある景色で
重厚な世界観を描く『シャドバ』背景
『シャドバ』の背景のコンセプト、特徴を教えてください。
ケイスケ 『シャドバ』はダークファンタジーを軸とする作品であり、重厚な世界観を大事にしています。背景を描く際は、リアリティーと説得力のある景色を作り出すよう心掛けていますね。
ヒロコ 『シャドバ』はファンタジー作品ですので、架空の世界を創造するときに軸を決めないまま描いてしまうと現実味がなくなり、見ているユーザーの方々も没入しづらくなってしまいます。そのため、実在感を出すための土台を作り上げた上で、『シャドバ』らしいアレンジを加えて雰囲気が出るように努めています。
『シャドバ』らしいアレンジをしていく上で、大切にしているのはどのようなことでしょうか?
ヒロコ 『シャドバ』には儚さや切なさを感じる物語が多く存在するので、背景でそれらを表現できるようにしていますね。ゲームをプレイする人が没入感を得られるように、キャラクターの感情、悲しみなどが伝わる、映画のような演出を取り入れて『シャドバ』らしさを追求しています。
『シャドバ』の背景には、例えばどのような要素を取り入れているのでしょうか?
ケイスケ 西洋ファンタジーが軸になっているので、多くの背景イラストに西洋の要素を取り入れています。しかし、『シャドバ』の中にはいくつもの世界線が存在しているため、東洋的な雰囲気を取り入れて描くこともありますね。
ヒロコ 『シャドバ』は世界が終わってゆく儚さや、その世界に生きる人々の悲しみを描いた作品です。そのため、西洋の混沌とした時代の雰囲気を背景イラストに盛り込んでいます。
例えば、貧困に苦しむ人が多かった中世ヨーロッパのとある時期には、民がどこからでも祈りを捧げられるよう、信仰を象徴するモチーフが建築や家具、日用品などに取り入れられていました。このようなバックグラウンドは『シャドバ』の世界観とマッチしているので、背景を描く際に手掛かりにしています。
背景を描く際、構図やライティングなどで気を付けていることはありますか?
ヒロコ ディテールを描き込みすぎると情報が多くなってしまうので、「どこを目立たせてどこを抑えるか」を非常にコントロールしていますね。目立たせたくない部分をあえて暗くして、存在感を薄くすることもあります。
ケイスケ 構図を組み立てる際は、実際にプレイヤーがその場に訪れたかのような臨場感を重視して、アイレベル(目線の高さ)や視線誘導を意識しています。さらに、「恐ろしい」や「わびしい」など、その場所の雰囲気を伝える色使いやライティングを行っています。
ヒロコ 確かにプレイヤーの目線というのはすごく大事ですよね。私も、その場所を訪れた誰かが写真や映画を撮影しているような視点を意識しつつ、「このシーンをプレイヤーにどう感じてもらいたいか」を考えながらレイアウトを組んでいます。
世界観全体をディレクションしているアイさんに聞きます。「ダークファンタジー」を謳った作品が数多くある中、『シャドバ』らしい「ダークファンタジー」とはどのようなものだと思いますか?
アイ 『シャドバ』は重厚な世界観の中でもの悲しいストーリーが展開し、登場人物がつらい結末を迎えることが少なくありません。そのため物語や背景に遊びを入れるのは難しく、代わりにキャラクターにコミカルさやかわいらしさを多く取り入れています。ゲーム自体の持ち味でもあるゾクッとするような闇の深さと、キャラクターの明るさとのギャップが『シャドバ』らしい個性になっていると思いますね。
着想から仕上げまで一人で完成させる
職人的技術が求められる『シャドバ』の背景アーティスト
『シャドバ』の背景にはどのような種類があるのでしょうか?
アイ まずストーリー背景ですね。いくつもの異なる世界線が存在するため、一つのシナリオでも展開に合わせた複数の背景を制作しています。次に、ワールドマップ。これはゲームの中で冒険する世界の全体図を大きく描いたものです。加えて、カードが進化する際に使われるスキン用背景があります。





チーム体制はどのようになっているのでしょうか?
アイ 役割分担でいうと、まずどんな背景が必要かを判断して背景チームに依頼するのがシナリオライターです。そこでシナリオライターと世界観をすり合わせて絵を制作するのが背景アーティスト。そして、描かれた背景を確認して監修を行うのがアートディレクターです。
なお、『シャドバ』では基本的に背景アーティストが一人で一枚の背景を制作します。着想からラフ、仕上げまですべて一人の担当者に任されるので、自由度が高い一方で職人のような高い技術が求められる現場ですね。
続いて、詳しい工程について教えてください。
アイ 前述したように、最初にシナリオライターから背景チームに依頼が来ます。そこから綿密な打ち合わせを経て、背景アーティストがラフの制作に入ります。その後、線画や彩色などの段階で背景チームのリーダーやアートディレクターが監修を行い、適宜シナリオライターにも細部を確認してもらって仕上げていきます。これが基本的な『シャドバ』背景の制作工程です。
『シャドバ』における背景アーティストの役割はどのようなものだと考えていますか?
ヒロコ 前提は依頼の内容にきちんと応えた背景を制作することですね。シナリオライターが求めているものを十分に見極めて、そこからずれないようにすることが大切だと考えています。実際の制作時にも、『シャドバ』らしい世界観が守られているかを常に確認しています。
ケイスケ 『シャドバ』に限りませんが、私は背景アーティストの役割は作品のキャラクターたちがその世界、その場所に当たり前に存在している姿を伝えることだと考えています。
例えばすごくかっこいい背景を描いたとしても、その作品のキャラクターが住んでいるような場所に見えなかったり、ユーザーの方々がキャラクターよりも背景に見入ってしまったりするならば、背景としては失敗作といっても過言ではありません。もちろん、背景を見て褒めていただくのはうれしいのですが、背景にキャラクターを置いたときに違和感のない絵づくりをすることこそが、背景アーティストとしての一番の役目だと思います。


色彩やデザインの細やかさで
統一感を守る
『シャドバ』では中世ファンタジー、さらにSF、西部劇風など様々な舞台が登場します。その中で『シャドバ』らしさを貫くために、どのようなことに気を付けていますか?
ヒロコ 異なる世界をバラバラに描くと、それぞれが違うゲームに見えかねません。最も気を付けているのは、キャラクターの頭身に背景を合わせることですね。キャラクターの頭身は基本的にどの画面でも変えず、どの世界線を舞台としてもそこに背景のスケールを合わせています。その上で、それぞれの舞台のデザインやディテールの書き込み具合は統一するようにしていますね。
ケイスケ 『シャドバ』らしさを貫く手法でいうと、意識的に背景の色数を増やしすぎないようにしていますね。色が増えるとカラフルになってダークな世界観に合わなくなるので、どうしても色が多くなる場合は同系統のカラーを使うなどで対応します。
ヒロコ 色彩面だと、背景では影になっている部分にあまり色を入れない、というのもありますね。絵が過度に鮮やかにならないよう、色数を絞ってダークな演出に徹しています。
ここからは、『シャドバ』の背景作品について詳しく伺っていきます。『シャドバ』のゲーム内で実際に使われた絵と共に特徴、注目いただきたいポイントを教えてください。
ケイスケ 自分が描いた背景の中で『シャドバ』らしい重厚さを表現できたと感じたのは「学園・図書館」です。この「学園・外観」のイラストでは爽やかなライティングを使ったのですが、この絵はあえてクラシックなライティングを用いて学びの場所らしい雰囲気を演出したので、ご注目いただければと思います。


ヒロコ 私が紹介したいのは、ケイスケさんが描いた「ウェルサ・妖怪の棲家」という背景です。夜が何日も続く暗い世界を描いているにもかかわらず描写が細かく丁寧で、建造物にはしっかりとした構想が感じられます。その美しさの中に、何かが潜んでいるような不気味さや不穏さを潜ませた演出がかっこよく、非常に『シャドバ』らしい一枚です。奥深い背景なので鑑賞してみてください。

アイ 私が特に印象に残っているのは、ケイスケさん、ヒロコさんとはまた別のアーティストが描いた「クラトスの城・内部」の絵です。城内が非常に『シャドバ』らしい重厚さで描かれていますので、ユーザーのみなさんにぜひ注目いただきたいですね。ここは主人公と敵対しているクラトスの本拠地で、「キャラクターに感情移入しているプレイヤーは思わず逃げ出したくなるのでは……」と思うほどの重苦しい雰囲気が見事に構築されていると思いました。

ここまで紹介したものと別に、こだわりの設定を盛り込んだ背景があれば教えてください。
ケイスケ 自分が描いたものでは、「ネルヴァの異空間」です。最終ボスであるネルヴァが登場する場面なので派手な演出にすることも考えたのですが、むしろネルヴァの内面的な凄みを表したいと考えて、派手さを抑えて「神秘的な暴力」というテーマで背景を描きました。上方の清々しい空からだんだんと攻撃的な世界に変わっていくところでネルヴァの恐ろしさを表現しています。
また、この絵には「破壊と再生」というコンセプトもあり、絵の上部から崩れ落ちた瓦礫(がれき)が下部からパラパラと浮上し、破壊と再生を繰り返している様子を描いています。

ヒロコ 私が描いた中で、特に構想に構想を重ねながら描いたのは「アメツチ・ 飛泉門」の背景です。死者が転生するまでの時間を過ごす世界「アメツチ」にある巨大な門を描きました。
「アメツチ」は、執着心の強いボスのたくらみで閉ざされた場所。そこで永遠の宴が続いている……という世界です。この設定を踏まえつつ「朱色を使ってほしい」というシナリオライターの要望があって、そこからイメージしたのが欲望や執着の象徴といわれる「赤鬼」です。鬼にちなんだ素材を使おうと、鬼灯(ほおずき)をデザインに取り入れました。鬼灯は「心の平安」「偽り」という花言葉を持つ植物でもあり、大切な記憶を奪われ、偽りの平和の中で暮らす「アメツチ」の住人たちの助けを求める思いがプレイヤーに伝わるように描きました。

背景制作に必要なのは観察力と行動力
興味を持って様々なことに挑戦を!
みなさんが現在の仕事を志したきっかけを教えてください。
ケイスケ 自分はアニメの背景制作の出身で、背景アーティストを目指したきっかけは高校生の頃に見た映画作品です。その作品の背景の美しさはもちろんのこと、絵の具を使って描かれた世界でキャラクターが躍動しているのを見てすごくワクワクして、そこから背景を描く仕事を目指そうと思いました。
ヒロコ 学生時代から絵を描くことや映画鑑賞が趣味で、特に多くの人に何十年も愛されるような、世界観がしっかり作られている大作といえる作品を中心に好んで見ていたんです。新卒入社した会社でコンセプトアートというものがあるのを知り、自分で描いてみたり人に教えてもらったりしているうちに、世界観を作る仕事が楽しそうだなと思うようになっていきました。
アイ 私は最初から今の仕事を目指していたわけではなかったんです。昔からアニメやマンガ、ゲームが大好きでしたが、「好きだからこそ仕事にすると苦しいのでは」と思い、それらを作る仕事ではなくデザイン系専門学校の教師の道を選びました。しかし、学校で生徒たちに教えていく中で、絵やゲームを作ることは人生に良い影響を与えられる、やりがいのある仕事だと感じることがたくさんありました。そこであらためて、絵を描く現場に行きたくなって、アートディレクターの仕事にチャレンジしました。
今の仕事でやりがい、喜びを感じるときはどんなときですか?
ケイスケ ゲーム背景は0から100まで自分で考えて描けるため、非常にやりがいがありますね。そして、喜びを感じるのは出来上がったものを褒めていただくこと、特にその道のプロである同僚や上司から「良い」と言ってもらえると本当にうれしくて、やってきて良かったと感じます。
ヒロコ 私は空想するのが好きで、背景を描く際はシナリオから絵の中に住む住人などについて最大限に想像を膨らませています。イメージしたものが上手く絵に反映できるとすごくうれしいですね。また、周りの人と連携して仕事をするのが楽しく、自分たちのチームで作った絵が別のセクションでより良い形に仕上がっていくのを見たときも喜びを感じます。
アイ 『シャドバ』の背景チームは非常に技術力が高く、アートディレクターとしてこのチームのために働けることにやりがいを感じています。そして、うれしいのは、やはりユーザーの方々が褒めてくださったときですね。「この背景良いな」「カッコイイ」のような反応を見ると、「そうでしょ、そうでしょ」と、ついうなずいてしまいます。
最後に、背景アーティストを目指す人たちに向けてのメッセージをお願いします。
ケイスケ 背景アーティストを目指すならば、日常の風景や映画、ゲームなどを見て良いと思ったときに、「なぜこれを良いと思ったんだろう」と自分なりに考える習慣をつけると良いと思います。考えるのが難しいときもあると思いますが、続けることで自分の中に知識やアイディアが蓄積されて、作品を生み出す苦しみのハードルを超える武器になっていくはずです。
ヒロコ 私もケイスケさんと同じく、背景を描くには観察力が必要だと思います。みんなが良いと言うことや自分だけが「良いな」と思うこと、いずれも大切にしながら見る目を養っていってほしいですね。背景はゲームの主役ではありませんが、ゲームを支える大切な要素です。やりがいのある仕事なので、興味がある方はぜひチャレンジしてみてください。
アイ お二人が言うように色々なものを見て、さらに、行ってみる、やってみる、という行動力も大切ですね。絵を描くだけでなく、散歩や旅行に行ってみたりサッカーなどスポーツをやってみたりするのもおすすめです。そのときにしか見られない光景や感じたことが、後々アーティストとしての引き出しになっていくので、興味を持って様々なことに挑戦していってください!

以上、『シャドバ』背景美術についてのご紹介でした。
ゲームをプレイする際は、ぜひ背景にもご注目ください。
サイゲ―ムスは『シャドバ』を含むゲームに登場する背景イラストを集めた展覧会「Cygames背景美術展 2024-2025」を、全国6都市の大学で開催しています。
ご興味を持たれた方はぜひお越しください。
「Cygames背景美術展 2024-2025」
■期間 2024年5月 ~ 2025年5月
■開催期間
京都芸術大学 2024年5月30日(木)〜 6月6日(木) ※終了しました
東北芸術工科大学 2024年7月23日(火) 〜 7月28日(日) ※終了しました
金沢美術工芸大学 2024年10月2日(水)〜10月6日(日) ※終了しました
九州産業大学 2024年11月14日(木) 〜 11月20日(水) ※終了しました
名古屋芸術大学 2025年1月8日(水)〜 1月15日(水) ※終了しました
武蔵野美術大学 2025年5月2日(金)〜 5月13日(火)
※開催場所や開場時間等の詳細は公式サイトをご確認ください
■入場料 無料
※一般の方もご来場いただけます
※一部の企画は学生のみが対象です