イベント使用画像は4年間で5倍以上!? 『グラブル』シナリオ演出の料理人・スクリプトチームに聞く会話パート制作の舞台裏

個性豊かなキャラクターのセリフやさまざまなイラストで展開するシナリオ。その内容が効果的に伝わるよう演出するのが「スクリプトチーム」です。セリフやイラストを肉や野菜といった“食材”に例えるなら、それらを美味しく食べられるように調理し、「ADVパート(会話パート)」として面白く見せる料理人だと言えます。

スマートフォン向けゲームの多くがネイティブアプリ(※)になり、演出などもリッチになる中で、ブラウザゲームである『グランブルーファンタジー(以下、グラブル)』の会話パートがどのような進化を遂げてきたのか。編集部メンバーが“イチ騎空士としても気になる質問”を交えてインタビュー!読んだ後には、つい昔のシナリオイベントを振り返りたくなるようなこぼれ話も盛りだくさんでお届けします。

(※)各アプリケーションのストアを介して、スマートフォンやタブレット端末にインストールして使用するアプリケーションのこと。

『グランブルーファンタジー』プランナー スクリプトチーム リーダーヨシツグ
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前職のゲーム会社にて長年プランナーを勤め、2016年にサイゲームスに入社。『グランブルーファンタジー』のADVパート(会話パート)の総合演出をするスクリプトチームのリーダーを担当。
『グランブルーファンタジー』プランナー スクリプトチームアナン
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前職のゲーム会社にてMV演出、プロモーションなどの経験を経て、2018年にサイゲームスに入社。『グランブルーファンタジー』スクリプトチームに配属され、ADVパート(会話パート)の演出や、ゲーム外では雑誌広告・イベントヒストリー動画の演出まで幅広く行う。

『グラブル』のシナリオの魅力を伝えるために
キャラクターを総合演出するスクリプトチーム

スクリプト言語といった用語は耳にしたことがあるのですが、『グラブル』のスクリプトチームではどんなことを担当しているのでしょうか?

ヨシツグ ゲーム内のADVパートの制作を中心に、一部、ゲーム外でも雑誌広告やイベントヒストリーなど『グラブル』の各素材を使った演出を担当しています。ゲームの世界観を大切にしながら、キャラクターやシナリオがより魅力的に見えるかたちを模索しています。私はスクリプトチームのリーダーとして監修を担当していて、アナンはADVパート制作の実作業を担当しています。

早速ですが、ADVパートについてはどのように制作しているのでしょうか?

ヨシツグ シナリオが決まったら、まずキャラクターの表情差分や背景といった素材の作成を依頼します。それらが納品されたらシーンに合わせた画像を作っていきます。

▲『グラブル』のADVパートでは各キャラの個性が活きた表情差分イラストを使用しています

ヨシツグ イラスト以外にも、納品されたボイスを確認して一部加工依頼をしたり、新規効果音を依頼したり、新規アニメーションが必要であればそれも依頼します。他には表情差分の演出に合わせた台詞の分割といった細かい作業もありますね。担当のシナリオライターから「こういう演出にすると面白そう」と提案をもらうこともあるので、相談しながら演出を決めていきます。
各メンバーが作成したものを私が一次監修、それが終わったらディレクターチェックをして、みなさんの元に届けられるという感じです。シナリオイベント全体で言うと、別軸でイベント班のプランナーを中心にバトル周りやUI作成などを進めています。

なるほど、会話シーンに必要な素材を揃えるためにまずは他チームに制作依頼、そうして出来上がったものをまとめあげるということですね。ADVパート制作は基本的に1人1話で担当しているそうですね?

ヨシツグ 作業がとにかく大ボリュームなので、今は各話1人の分業になっています。昔はオープニングからエンディングまでやれて一人前という時期もありました。最後にスクリプトチームのメンバー1人で作り上げたのは2017年9月に開催した「パープル・スケール」だったと思います。

▲エゼクレインやサーヴァンツ・ドロシー&クラウディアが登場するシナリオイベント「パープル・スケール」

クオリティーの分岐点となった「プラチナ・スカイ」と
チーム総力戦で挑んだ「ロボミ 史上最大の戦い」

ADVパートが豪華になるきっかけとなったシナリオイベントは何でしょうか?

ヨシツグ シナリオイベントは徐々に豪華になっていったのですが、特に一段階ギアが上がったのはやっぱり2016年末開催の「プラチナ・スカイ」ですね。そして2017年の1月末開催「神立、笠雲の合間に閃きて」あたりから通常のADVパートに使う画像も増えていって……。大変ではありましたが、ネガティブなことではなく、担当者間で「ブラウザゲームでここまでやれるんだ」という意識に変わりました。

▲ミュオンや“組織”メンバーが活躍する2016年末初開催のシナリオイベント。SIDE STORYにも収録されています

小型の騎空艇「走艇」でレースを繰り広げる「プラチナ・スカイ」は、ADVパートの画像がかなり増えた印象です。どれくらいの枚数を使用したのでしょうか?

ヨシツグ 「プラチナ・スカイ」は初めて画像が100枚を超えたシナリオイベントでした。たしか500枚を超えたんじゃないかな。例えばレースシーンで「追い抜く」のを表現するために、それだけで3枚画像を使っていますね。片方が遅れている、並ぶ、抜くみたいな感じです。

▲「プラチナ・スカイ」のレースシーンより

ヨシツグ 直近はダントツで「ロボミ 史上最大の戦い ゴッドギガンテス 対 空の調停者ゾーイ(以下、ロボミ 史上最大の戦い)」かな。あれは総力戦でした。とにかく戦闘シーンが多いイベントで、画像は約800枚ありました。ADVパートは戦闘シーンのような動きがある内容が増えると、ただの会話だけのシーンより作業量は多くなります。

▲すっかりお馴染みになった「ロボミ」シリーズ。タイトルにある「史上最大の戦い」は担当スタッフにも言えることだったようです

チームで制作していると合わせたときに「アレ?」となることってあると思うんです、料理で言うとハンバーグとかって途中で味見できないので完成してから食べてみると「なんか違う!?」みたいな。そうしたことって現場では起きますか?

ヨシツグ それが起きないように監修するのが私の仕事ですね。自分も料理で例えたりするんですが、ディレクターが料理長だとすると、自分が副料理長として各自が作ってきた料理を一つひとつ味見します。そうしてフルコースとして出して大丈夫だなと思ったら料理長であるディレクターに出しているので、だいたい整えられているかなと思います。たまに担当者の個性が爆発してることもありますけどね。

個性が出た分、面白いこともありそうですし、ブレーキをかけるか悩みそうですね。

アナン よっぽど世界観からかけ離れていなければ、ブレーキをかけることなく担当者の個性を生かしてもらうことが多いですね。
例えばロボットアニメが好きな人は「ロボミ」シリーズのときにとても気合いが入っていますし、私は恋愛ドラマが好きなので「幾千の夜を越えて、あなたに届くのなら」のようなラブロマンスに気合いが入りました。それぞれの想いやこだわりもあるので、このシーンをやりたい、このキャラを担当したい、と挙手制で担当を決めています。そのため自然にモチベーションが高い状態で作業に取り組むことができ、個性的な演出に繋がっているのかなと思います。
あとは、リリース後に互いが作ったシーンを見て、自分の担当箇所について振り返ったり、他メンバーの新しい取り組みを見て「この発想はすごい!」と思ったり。お互い刺激になります。

スクリプトチームの成長が一番わかるのは画像編集!
より魅力的になった会話パート演出裏話

会話パートの進化、といった点ではアニメーションを使った演出が増えたように思います。かなりパターンがあるように見えますが実際どれぐらいあるんですか?

ヨシツグ 現在は汎用として使用できるアニメーションが50パターンくらいあります。
本当に最初の頃は一枚絵でやっていて、アニメーションを使いだした頃もここぞというときにだけ使っていました。それから「ロボミ」で、バトルで使われていたものを会話パートでも使用して。そこから徐々にアニメーションのバリエーションを増やしてきて今に至ります。例えば「斬撃」のカテゴリーだけでも縦・横・斜めや高さの違いなど、多くのアニメーションを使い分けています。

なるほど。他に初期と比べて進化したポイントはありますか?

ヨシツグ 例えば同じ部屋に2人のキャラクターがいるとき、向かい合って話していることが伝わるように少し背景をずらすなどしています。

たしかにそれはかなり細かい気遣いをしていますね。

アナン あとはキャラクターの新衣装がお披露目になるときの、足元から画像をパンしていってるように見える演出も増えましたね。

▲水着Ver.のシルヴァの登場シーンより。(左から)足元からパンをしているシーンは拡大画像一つひとつを作成・書き出しているとのこと

ヨシツグ 他にもキャラクターが走っているときは、疾走している雰囲気がわかるように背景に加工をかけてスピード感を出すこともあります。そういったことをしていたら年々画像が増えていき……。2016年3月末開催の「とりまトッポブで。(以下、トッポブ)」のときは60枚程度だった画像が今では平均300枚くらいになってしまいました。

「トッポブ」も当時で言ったら少ないほうではないですよね?

ヨシツグ テーブルで向かい合うローアイン達と妄想をオムニバス形式で見せたりと、開発当時では多いほうだったと思いますね。

前代未聞の大ボリュームでお送りした7周年記念シナリオ
「ロボミ 史上最大の戦い」を遥かに超える素材数との戦い

7周年記念シナリオイベントの「STAY MOON」は全4回のリリースに分かれていましたが、実際どれくらいの作業量だったのでしょうか?

ヨシツグ 「STAY MOON」は最初にリリースされた部分だけでも画像が500枚を超えていたので、最大級ですね。トータルだと1500枚を越えました(笑)。
ボリューム感は「ロボミ 史上最大の戦い」の2.5倍ぐらいでしょうか。イラストチーム描き下ろしのスチルイラストも普段のイベントの2倍以上の分量があって、全体的に大ボリュームでしたね。

さっき今までで一番大変だったと言っていた「ロボミ 史上最大の戦い」の2.5倍ですか!?それは作業量的な意味でしょうか、それともユーザーの方々の元に届くお話のボリュームとしてでしょうか。

ヨシツグ ユーザーのみなさんに届くシナリオのボリュームが2.5倍です。4回に分けて順次公開したのですが、全部出揃ってから一気読みしようとなると結構な量になります。「ロボミ 史上最大の戦い」のときですらユーザーのみなさんからは「ボリュームがすごい」と言われていましたからね。

たしかに結構たっぷりとあった気がします。「ロボミ 史上最大の戦い」は普段のイベントと比べてどれぐらい多かったのですか?

アナン 普段の1.2倍ぐらいです。先ほどもお話した通り、戦闘シーンが多かったので作業的な大変さは1.2倍以上でしたね。

普段の1.2倍のさらに2.5倍……なんだか攻刃の倍率計算みたいになってきましたね。ボリュームを聞いただけで大仕事だというのがわかりますが、中でも大変だったポイントはありますか?

ヨシツグ 今回は月とか宇宙とか……とても規模が大きいので、スマートフォンの画面サイズでその迫力を表現するのが大変でしたね。

いきなり16:9の画面になって「横にしてお読みください」とはなりませんからね。

ヨシツグ そうですね(笑)。今回は舞台がこれまでの空の世界と違うので、これまでのモノと比較してとにかく「デカさ」のスケール感を表現するために尽力しました。
「ロボミ 史上最大の戦い」の「極鋼巨帝グランゴッドカイザー」もサイズで言ったら過去最大級ですが、“組織”関連のシナリオイベントは『グラブル』のシナリオの中でもかなりシリアスなのでその表現に頭を悩ませました。

▲月を舞台に迫力のスケールでバトルシーンが描かれました。アニメーションと一枚絵を駆使した演出は必見です! ※音声ありのシーンはゲーム内にてご覧ください

“組織”関連は確かにそうですね。どのように解決したのですか?

ヨシツグ スクリプトチームでもシナリオの文字情報から読み取りつつ、ときには「こういうこと?」とラフを書いて担当のシナリオライターに確認を取りました。特に「月の拠点」ですね。そうして擦り合わせたモノをイラストチームに伝えると出来上がったイラストがさらにその想像を超えていたり。

想像を超えるクオリティーですか。例えばどういったものがありますか?

ヨシツグ 背景がそうですね。これまでと異なる文化を象徴するものに仕上がっていて感動しました。シナリオイベント「Second Advent」や「Spaghetti Syndrome」での月の拠点内はほぼ真っ白な背景になっていますが、「STAY MOON」に合わせて背景を描き下ろしています。

▲「STAY MOON」で描き下ろされたアイザックの通信室や月の拠点内の様子。通信室(左)はカシウスのバイタル情報やディアスポラの全体像が映し出されています

“今できることはすべてやり切った”
「STAY MOON」を終えて

演出の豊富さにかなり目を引かれました。特にグウィンが足払いされるシーンのテンポの速さや、デアンの銃の表現の細やかさ、そして終盤のユーステスなど見どころばかりです。これらはどうやって作っていったのですか?

ヨシツグ グウィンが足払いされるシーンは全部止め絵でやってます。このシーンを見ている時点ではまだわからないのですが、アイザックとグウィンは兄妹ですよね。実は「Spaghetti Syndrome」でアイザックがカシウスに転ばされた演出を流用・改良しているんです。足を映して足払いを掛けられて転ぶ、アイザックのときは槍で引っ掛けられて転ぶというシチュエーションですね。

▲「Spaghetti Syndrom」と「STAY MOON」よりアイザックとグウィンが倒れるシーン

そんなところに兄妹の繋がりが!?非常にマニアックな伏線のような……。デアンのシーンはどうでしょうか?

ヨシツグ デアンの銃は自分の中で明確なイメージがありまして、某映画に出てくるレールガンみたいに作ってほしいというオーダーをしました。担当者が、デアンのバトル用イラストから、青色に光るパーツ部分の画像を切り取って光彩を掛け、重ねてふわっと光っているように見せたそうです。オーダー通りのものが上がってきて驚いたシーンですね。

▲砲火後に薄く光る銃身(右)は光彩を重ねて表現。こういった細かな演出の積み重ねがADVパート全体の完成度に繋がります

後半でメインとなったユーステスのシーンについてはどうでしょうか?

アナン ユーステスについては制作前から私が作るとアピールしていました。「世界中のユーステスファンを泣かせよう」と今までで一番気合いを入れて作りましたね。初めにシナリオを読んだ段階で使うBGMまで決まっていたほどです。

ヨシツグ 自分も好きだから伝えたい!みたいなパワーがあるとやっぱりスゴいものができますよね。「STAY MOON」の最後に加入したSSレア・カシウスのフェイトエピソードもアナンが担当しているのですが、可愛いカシウスを一瞬で仕上げてくれました。使用する表情差分イラストが出来上がる前にスクリプトを組み終わってたよね?

アナン はい。私は好きなキャラクターだと会話シーンを作るのがすごく早くて、まばたきしている間に作り終わってしまうので物足りないですね(笑)。

▲普段は口角や眉毛の角度の違いなど表情の変化が控えめのユーステス。「STAY MOON」では初めて怒りを露わにするシーンもありました

(笑)。今回はBGMや効果音にも一層こだわられていた印象です。

ヨシツグ クライマックスのBGMはディレクターからのオーダーで付けているのですが、他はスクリプトチームに選曲を任せてもらっています。この7年間で曲も膨大にあるので……単調にならないように意識して選んでいます。艇が宇宙に飛び出したシーンではあえて無音にするといった工夫も担当者がしてくれているので、音ありで見るとさらにシーンへの没入感が増すかなと思ってます。

アナン 新登場のグウィンや、レンスといった久しぶりの登場キャラもいたので、それぞれ個性が付けられるように私もBGM選定にはこだわりましたね。

ヨシツグ 効果音は担当者が素材を上手く使って表現してくれましたね。ディアスポラのバネのシーンも絶妙に表現できていたのかなと思います。実は「木刀」の効果音は完全新規で、木刀の素振り音と落下音を収録してもらいました(笑)。

「STAY MOON」をあらためて振り返ってみていかがですか?

ヨシツグ シナリオも絵も一級品だから自分たちのところで止めるわけにはいかない、ここで味を落とすわけにはいかないという思いでスクリプトチームのメンバー一人ひとりが全力で制作しました。最高の素材は揃っているから、最高の状態で送り出す。スクリプトチームが一丸となって完遂した“STAY MOON作戦”と言えるのかなと。お時間のあるときにルリアノートで、演出に注目してもう一度見てもらえると嬉しいですね。

▲月側として登場したω3(デアン・エルド・ファナ)はとにかく人外感や気持ち悪さを伝えられるように意識して演出を決めていったとのこと

ヨシツグ ちなみに「Process:Loading System 覚醒」第3話でカシウスが空に帰るシーンは、ライターと相談しながらあえて“旧衣装”にしています。アイザックも極限状態で気付かなかったということで……パッと見ではわかりにくいのですが、そういった細かいこだわりも盛り込んでますのでぜひ探してみてくださいね。

いよいよサービス開始から8年目となった『グラブル』ですが、最後にユーザーのみなさんへ向けて一言お願いします。

ヨシツグ ユーザーの方々に楽しんでいただけるよう、まずは作り手側の私たちが楽しんで作っているので、そういった遊び心が少しでもユーザーのみなさんに伝わるといいなと思います。「STAY MOON」ほどの演出はさすがに毎回は難しいかもしれませんが、今後も妥協せず全力で作っていきます。会話シーンもぜひ楽しみにしていただければ幸いです。


以上、『グラブル』のADVパート制作の裏側をお届けしました。
7周年を迎えた『グラブル』はこれからも進化を続けていきますのでご期待ください!

編集後記

インタビューでは、今回ご紹介しきれなかった雑誌広告の話もたくさん聞けましたので最後に少しだけご紹介します。
雑誌広告では、ご覧になった方が「次のシナリオイベント面白そう」と思っていただけるように、印象的なビジュアルやテキストを考えているそうです。特にシナリオイベント系は遊び心たっぷりなデザインが多いので今後も注目してくださいね!

▲2020年6月末開催のシナリオイベント「熱闘! 真夏のフードファイト!」の雑誌広告で採用されたA案(左)とボツとなったB案のラフ。B案では、掲載を予定していた何誌かの紙面で、発売日順に徐々にハンバーガーが減っていくというギミックを考えていたそうです!

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