ゲームの世界への没入感を高める上で大切な要素の1つが“ビジュアル”です。『グランブルーファンタジー(以下、グラブル)』では、高いクオリティーのビジュアルをお届けできるよう注力しており、これまでに数多くのキャラクターが登場し、毎月実施されるシナリオイベントでも多彩なイラストが描き下ろされています。そのように毎月たくさんのイラストを制作している分、必要になるのがそれらを管理するスタッフです。今回は、イラストの制作スケジュールや画像の管理をする「制作管理チーム」に、業務内容や現場をまとめるコミュニケーションのコツを聞きました。

Cygames 佐賀スタジオ 制作管理チームシンゴ
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出版社のゲーム系書籍編集ライターを経て、2012年サイゲームスに合流。外注管理として『神撃のバハムート』、のちにイラストの進行管理として『グランブルーファンタジー』ほか派生プロジェクトに携わる。現在は「Cygames 佐賀スタジオ」に所属。
制作管理チーム サブマネージャーギョンヘ
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スマートフォンゲームのプロジェクトマネージャーを経て、2015年サイゲームスに合流。入社後は開発・運用プロジェクトのイラストの進行管理/外注管理を担当し、現在は『グランブルーファンタジー』の進行管理と制作管理チームのサブマネージャーを兼任。
制作管理チームケイジ
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デザイナーとしてゲーム関連イラストの制作・データ管理に携わった後、2011年サイゲームスに合流。複数プロジェクトで画像の書き出しや共有フォルダ整理など画像データ管理を担当し、サービス開始初期から『グランブルーファンタジー』の画像データ管理を担う。

さまざまな職種の架け橋
「制作進行」と「画像データ」管理

『グラブル』の制作管理チームの業務内容を教えてください。

シンゴ サイゲームスの制作管理チームは「進行管理」「画像データ管理」「外注管理」に分かれて互いに協力して業務を進めています。ただ、『グラブル』のイラストは外部委託をしていないので、当プロジェクトでは「進行管理」「画像データ管理」のスタッフがイラストチームのサポートにあたっています。
まず進行管理は、イラストの発注が来たら各イラストレーターに仕事を割り振り、スケジュールの調整をします。それから成果物を取りまとめ、アートディレクター陣に監修を依頼します。その次に、フィードバックをイラスト制作側に持ち帰って直しの作業をしてもらい、完成したら納品します。このように、イラスト制作の初めから終わりまで滞りなく進めるのが進行管理の役割です。

ケイジ 画像データ管理は、主にプランナーとデザイナーの架け橋になります。例えばプランナーからの発注をUIデザイナーに依頼し、上がってきたデザインをプランナーに確認してもらうのが役割です。
また、それと並行して、ルリアノートの図鑑や編成画面など、ゲーム画面の随所にある画像を用途ごとに書き出し(※Web表示に適したファイル形式に変えて保存すること)ています。

▲ルリアノートの図鑑では武器・召喚石、登場人物の説明や関連ストーリーを見ることができます

『グラブル』には毎月多くの新規ビジュアルが追加されています。例えばキャラクターのイラストを制作してからゲームに実装されるまでの流れを教えてください。

ギョンヘ まずはシナリオが固まって、ある程度必要なイラストが決まったらディレクターの福原(哲也)から字コンテをもらい、そこからイラスト制作が始まります。基本の工程としては、ラフ→線画→着彩です。ただ、案件によって「この素材なら線画は必要なさそう」とか、「既存イラストを基にした着彩の調整だけで完結しそう」という判断は進行管理がしています。そして各工程のスケジュール把握、調整をしながら納品まで進行します。『グラブル』全体だとイラスト発注は月に200点を超えていて、多い月だと400点くらい管理しています。私やシンゴさんを含めて4人で対応しています。

ケイジ キャラクターイラストが納品されたら、ゲーム内の必要箇所に合わせて画像を書き出していきます。それを必要に応じてディレクターに監修してもらい、ゲーム内に実装しています。特にシナリオイベントに登場するキャラクターのイラストは点数がとても多いので、イベントのUI画面内で適切に使われるように一つひとつ書き出すのは苦労します。シナリオイベント以外の場面でも、キャラクターはたくさん登場しますし、ゲーム内のいたるところに適した画像を書き出さなければならないので、画像データ管理が担う範囲は多岐に渡ります。私を含めて2人で対応しています。

シナリオを楽しんでもらうために
会話用専用イラストの制作

毎月追加されるイラストの中でも月末に開催されるシナリオイベントは会話パート専用の新規イラストもあり豪華な印象です。特に印象に残っているシナリオイベントは何でしょうか?

ギョンヘ 2016年に初開催した「プラチナ・スカイ」ですね。

シンゴケイジ あー(笑)。

ギョンヘ 特に力を入れている年末イベントでしたし、「レースものをやりたい!」というイラストチームからの持ち込み企画でもあったので、ものすごい点数のイラストを描いていましたよね。企画したイラストレーターもその物量に驚きながら付きっ切りで制作していました(笑)。
でも、通常の会話パートで立ち絵を描き下ろしたのはもちろん、走艇(※レース専用の小型騎空艇)の競走シーンや、各キャラがコックピットに座っているイラストを用意したおかげですごく豪華になりましたよね。ユーザーの方々にも好評をいただけたので印象に残っています。

▲レースシーンより、各キャラクターが乗るコックピットのイラスト

ケイジ 「プラチナ・スカイ」は昨今のシナリオの会話パートが豪華になったきっかけとも言えるイベントですよね。

シンゴ 演出がリッチだった分、イラストの点数はいつもの5倍くらいありました(笑)。

ケイジ カットインの演出とか、レースシーンは走艇が走っているイラストだけではなく、レース中の加速を表現するためにもう1枚いるとか……。ミュオンが乗る走艇のエンジンのアップは、アニメーションデザイナーが「エンジンのシャフトが動いているモーションを作りたい」と言って制作しましたね(笑)。みんなの「これがやりたい!」が詰まったイベントでした。

ギョンヘ キャラクターの表情差分も会話パートのために一つひとつ描き下ろされているので、すごい数が入っていますよね。

▲登場キャラクターたちの細かな感情の変化が伝わってきます

イラストの点数が多い分、制作管理チームも大変だったのではないでしょうか?

シンゴ 年末のシナリオイベントに限らず、発注が多くなりそうな案件については、リリースの数か月前から発注がわかった段階で少しずつでも進めるように心掛けています。

ギョンヘ あと、点数が多いからこそ、効率を上げるためにイラストレーターの得意分野にマッチした案件を振り分けました。普段からイラストレーターの個性を把握しておき、最大限のパフォーマンスを出してもらえるように采配するのも進行管理の仕事です。それによって仕上がりのクオリティーが上がり、時間的な余裕も生まれてきます。
また、発注が多いときはかなりの物量をこなしてもらうことになるので、作業者の体力も考慮しなければいけません。例えばボリューミーなイラストを描いてもらった後に、急ぎだからと言ってまた難易度の高い案件を割り振らないようになるべく工夫しています。そうやってメリハリを付けたほうが仕上がりも良くなりますから。

会話パートのイラストの制作を管理するときに注意が必要なことは何でしょうか?

ギョンヘ 会話用のキャラクターのイラストは、表情差分が後日発注されるので、あらかじめ表情差分を作るスケジュールも計算して進行していますね。会話シーンを作る「スクリプト班」のプランナーが、シナリオを読みこんだ上で「このキャラはこの表情が欲しい」と発注をしてくるためです。

ケイジ 特に初期にリリースされたキャラクターはそこまで表情差分が豊富ではないですからね。

シンゴ リリース当初は喜怒哀楽くらいでしたが、今はシーンに合わせて多いときは1キャラで10種類以上の表情差分イラストの発注があります。

▲2020年11月末開催「パリウリ・パラライハ」ではネモネのコミカルで魅力的な表情がたくさん登場しました

ケイジ 例えば悩んでいる表情や驚いた表情はあまりメインで使わないので、必要になったタイミングで追加発注されます。キャラクターの上限解放前イラストがそのまま会話シーンに使用されるケースも多いのですが、折を見て会話用として丸っと新規作成することもあります。

ギョンヘ 後から必要になりそうだからと、イラストレーターが発注前に先回りして表情を描いてくれることもありますね。戻りが少ないようにパターン出しも心掛けてもらっています。

書き出す画像は1キャラあたり約20点!
膨大な画像の管理

画像をゲームの随所に表示するため、キャラクターのイラストは何点くらい書き出すのでしょうか?

ケイジ 私たちが担当するサムネイル系は1人のキャラクターにつき約20点を書き出しています。あとはUIチームが担当するガチャ関連で使用するものが別に数点あります。
例えば、編成画面からキャラクターをタップして、各キャラクターページにある「POSE」ボタンを押すと、バトルや奥義のカットインなどの画像も表示されるようになっています。スキン・POSE切り替え画面だけでも、多くの場所にサムネイルが使われているのがおわかりいただけると思います。

▲「スキン・POSE切り替え」画面
▲カタリナのサムネイル例(一部) ※ゲーム内の実際のサイズ感とは異なります

加入キャラクターは現在500人を超えています。これまでで特に苦労したことや工夫したことは何でしょうか?

ケイジ 直近だと、2020年9月に新規実装された高難度シングルバトルのイベント「バブ・イールの塔」で編成画面用に新たなサムネイルを書き出したことです。全キャラクターの分が必要になったので、1300点くらい対応しましたね。一つひとつ新しくデザインすることももちろん可能ですが、作業量を考慮してUIデザイナーと相談しながら既存のものをリサイズする手法を採りました。クオリティーを担保しながら作業を最適化することや、ルールやテンプレートを設計してブレをなくすこともデータ管理として重要なことだと思っています。

▲「バブ・イールの塔」編成画面 右下のアップの画像が新規テンプレートとのこと

ケイジ 余談ですが、ルリアと猫は主人公と同属性になるため、こういった新規作成時には6属性分の書き出しが必要になるので作業量は増えますね(笑)。

キャラクターの上限解放後や最終上限解放後では、エフェクトがリッチなイラストや1枚絵のものも増えていますよね。キャラクターのシンプルな立ち絵と比較して、書き出す際に工夫している点は何でしょうか?

ケイジ 例えば、指先にはキャラクターの個性や感情がよく出るので、ゲームのUIに収まったときにできるだけ見切れないように気を付けていますね。ただ、全体が見えたほうが良いのか、表情をフィーチャーしたほうが良いのかはイラストによって判断が分かれるので、ディレクターに数パターン提案して都度相談します。
また、苦労して育てたキャラクターだからこそ大きく見たい!というユーザーの方の想いもあると思うので、体の一部が多少見切れてしまっても大きく見せる場合もあります。

▲イシュミール(左)とランスロットの最終上限解放後イラスト。指先までキャラを見せるか、ある程度アップで表示するかは都度判断しているとのこと

「誰とも壁を作らない」
現場の明るい雰囲気作りを大切に

業務を進行する上で大切にしていることを教えてください。

ギョンヘ コミュニケーションを大事にしています。進行管理は基本、イラストレーターに相談したり仕事をお願いしたりする立場なので、私から話しかけられると「仕事を振られる」と相手から身構えられがちなんです(笑)。そうならないために、仕事の話だけではなくフランクに雑談をして、誰とも壁を作らないように意識していますね。こちらとしても「今、この人はこれに興味があるんだ!」とわかるので、案件を振り分けるときの参考にもなります。
また、私たちはプランナーといった他職種にとっては「相談される立場」です。だからこそ相談をされやすくも、しやすくもなるようにイラストレーターだけではなくいろんな職種の人とのコミュニケーションも大事にしています。
あと、イラストレーターが楽しく制作してくれるためには、まず進行管理が楽しむことが大事だと考えているので、自分のテンションは下げないようにしています。それと同時に褒めることを大切にしていて、社交辞令ではなく、イラストを見て本当に感じたことを素直に伝えるようにしています。そのことによってモチベーション維持に繋がればと思っています。

『グラブル』は2021年3月で7周年を迎えます。長期で運営する中で、これまでにチームワークが発揮されたエピソードがあれば教えてください。

シンゴ それで言うと、十二神将(※年末に実装される干支にちなんだキャラクター)のデザインの社内コンペは毎年総力戦ですね。元はイラストチーム発信で正月を盛り上げるため、ディレクターに「こんなキャラクター案を考えました!」と7体くらいのラフを出したのが始まりです。その後はみんなで案を出し合おうとなりました。
中でも2019年末登場の「ビカラ」は髪型や髪色のバリエーションを含めると約400のラフ案が作られました。コンペ開始から完成まで4か月かかり案出しからコンペ実施まで進行管理としても苦労しましたが、その結果すごく良いキャラクターが出来上がったし、何よりユーザーのみなさんの評判も良かったので私たちもうれしかったですね。

シンゴ 十二神将はその1年を彩るキャラクターなので、進行管理としてはコンペを盛り上げるための雰囲気作りを心掛けています。
いろんなイラストレーターに参加してもらうために声を掛けたり、参考資料を山ほど用意したり、普段の業務で作業時間が取れないことがないように1日30分でも十二神将のラフを制作する時間を確保したり。毎年スケジュールやメンタル面のサポートをしていますね。

ギョンヘ 在宅勤務になる前は、みんなで雑談しているときにイラストレーターから「なかなか良い案が出ないんだよね」と相談されて、「じゃあこういうのはどう?」と一緒に考えたことがあります。アイディア出しを手伝うだけでも力になれると思い、できる限り寄り添うようにしていました。

ビジュアルトップのゲームであり続ける
それぞれが今後目指していくこと

最後に、制作管理チームとして今後取り組んでいきたいことを教えてください。

ギョンヘ 私たちは実際に絵を描くわけではありませんが、毎日たくさんの絵を見ていると、初期と比べてイラストのクオリティーがさらに上がっているなと感じています。『グラブル』はコンシューマーゲームの『グランブルーファンタジー ヴァーサス』や『GRANBLUE FANTASY Relink』といった派生コンテンツがあり、いちソーシャルゲームではなくIP(知的財産)になってきました。『グラブル』のビジュアルはあらゆるゲームの中でもトップだと自負していますが、IP全体として最高のクオリティーのものをお届けし続けられるために、イラストレーター一人ひとりのポテンシャルを引き出せるようサポートしていきたいです。
そのために、みんながゲーム業界の変化に対応しやすいようなフローの整備や、心地良い環境づくりを今後も続けていきたいと思います。

ケイジ 私は“今”を見つめて、目の前の業務にしっかり取り組んでいきたいと考えています。昨年4月から原則在宅勤務になって、情報共有やコミュニケーション方法など業務のやり方が変わってきて、これまではやっていなかったことでも必要なことってたくさんあるんだと自覚しました。在宅勤務になったからこそ気付けたことを活かしつつ、今後も現場のフォローアップに努めていきます。

シンゴ 私は「Cygames 佐賀スタジオ」の稼働に合わせて東京から地元の九州に戻ってきたこともあり、今後はこの九州から『グラブル』を背負うイラストレーターを輩出し、そういった人材が活躍できるように力強くバックアップしていく心構えです!


以上、「制作管理チーム」に聞いた、現場をサポートする取り組みやコミュニケーションのコツをお届けしました。
2021年3月には7周年を迎える『グラブル』。これからもどうぞご期待ください!