Cygames Research研究日誌 #14 ~会議とは時間内に結論を出し切るeスポーツ~

サイマガ読者のみなさま、こんにちは。Cygames Research所長の倉林 修一です。Cygames Researchとは、最高のコンテンツを生み出すためにサイゲームスが設立した基礎技術研究所で、この連載記事では、当研究所での研究成果や活動をご紹介しています。前回の連載第13回では、コロナ禍における研究マネジメントについてお話しさせていただきました。未来の自分を100人の部下だと捉えて、100人の部下たちをマネジメントするタスクリスティングは、研究以外の分野でもきっとお役に立つはずです。ぜひ、お試しください。

さて、今月は久しぶりの人生で必要なことは「ゲームが教えてくれたシリーズ」です(前回はこちら)。題して“会議とは時間内に結論を出し切るeスポーツ”。昨今の働き方改革やリモートワーク時代においては、会議の生産性を向上させることが必要不可欠です。そこで、Cygames Researchではリモート会議をeスポーツと捉えることにしました

リアルタイムの多人数参加型で、「結論を出す」という明確なゴールがあり、知性を駆使してプレイするゲームだと思えば、会議は十分にeスポーツと捉える事ができます。会社員は職業人として、つまりプロとして会議に参加しているわけですから、会議というジャンルのプロeスポーツ選手なわけです。プロとして、華麗なプレイをオーディエンスに見せつけたいと読者のみなさまもお考えいただけることでしょう。

今回は、この会議という新しいeスポーツジャンルを盛り上げるための施策をご紹介いたします。既にプロとして会議で縦横無尽にご活躍のベテラン社会人のみなさまも、会議に参加したての新社会人のみなさまも、そしてこれから会議というeスポーツに参戦していく予定の学生のみなさまも、ぜひご笑覧くださいませ。

まずは会議を楽しもう

eスポーツの根本的な価値は、プレイヤーもオーディエンスもゲームを共に楽しめる点にあります。そうです、ゲームは楽しいのです。本質的に楽しいことだからこそ、厳しい訓練や長時間の練習にも取り組めるのです。楽しみが根源的な価値であることは、実は会議も同じです。本来、会議は楽しいのです。

会議とは、人と人とがその知恵を極限まで絞りながら、組織としての意思決定を行うという崇高な営みです。人間が知性ある生命として生まれ、そして更なる高みを目指して社会を形成したときから、他人と意見を交わす「会議」は連綿と続けられてきました。人は、会議を通じて社会という大きな存在を動かしてきたのです。この社会性を獲得したからこそ、人類が地球で覇権的な生命体になったといえます。

考えてもみてください。産業革命や、科学技術が発達する前から、人類は地球で最も力のある生物でした。それは、社会という圧倒的な力を、会議を通じて制御したからに他なりません。会議こそが、人類の力なのです。このように人類の生存に直結した本質的な行為が、楽しくないはずがありません。自分と違う視点に驚かされ、自分の考えを他人に理解してもらえたときの喜びは、何事にも代えがたいものです。他人とわかり合いたいという根源的な欲求を人が持つ以上、人々の知を結集する会議は本質的には楽しいイベントなのです。

会議というゲームジャンルのメタと定石を掴もう

会議は本質的には楽しいものなのに、無駄が多いとか、必要以上に長いとか、そんなネガティブな印象をお持ちの方もたくさんいらっしゃることでしょう。確かに、世の中には無駄と思えるような会議が存在するのも事実です。会議がつまらなくなってしまう最大の原因は、「プレイヤーが会議というゲームをちゃんとプレイできていない」という一点に尽きると私は考えています。

少し詳しくお話ししましょう。会議はリアルタイムのマルチプレイゲームですので、ジャンルとしてはマルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ (MOBA) に近いものです。MOBAの勝敗は1人のプレイヤーの操作技術で簡単に決するものではなく、チームメンバーが持つMOBAの定石やメタ(その時々のゲーム環境で最強と思われるプレイ方法を研究すること)の知識の有無が鍵を握ります。

会議も全く同じで、市場環境、社内環境、部内環境などのメタや、社会常識や仕事術という定石をメンバーが知らないままでは、会議を上手く進めることができません。ましてや、ゲームのルールを知らないまま参加した初心者がいればMOBAとしての会議が成立するかどうかも危ういでしょう。会議が上手くいかないときは、メタ・定石・ルールを全員が等しく共有できているかどうかを確認しましょう。メタと定石とルールの共有だけで、会議は大きく円滑化するはずです。

メタと定石の共有に有効なのがドキュメント

みなさんはゲームをプレイするとき、攻略サイトは参考にされますか?人気のゲームには充実した攻略サイトがあり、ゲームのメタや定石の情報が豊富に蓄積されていますね。MOBAに強いプレイヤーとして参加するなら、攻略サイトを熟読することが必要不可欠です。実は会議も同じで、攻略サイトなしで会議に参加するのは相当に無鉄砲な行為なのです。ちゃんと攻略サイトを事前にチェックしておきましょう。と言われても、自分が所属する組織の攻略サイトってなんだろう?と思いますよね。

そこで当研究所では、各研究員が毎週の研究の進捗をA4で2、3ページ程度の報告書にまとめ、会議の前に参加者全員に共有するアプローチを採用しています(図1)。この報告書を全員が事前にしっかり読み込んで論点を明確にし、質問があれば事前に書き込んでおくことにより、会議の時間で交わされる議論の密度を高いものにしているのです。会議というeスポーツの攻略サイトがなければ、自分たちで作れば良いし、自分たちで作った以上は、毎週自分たちで更新すれば良いのです。このアプローチを始めてから、当研究所の研究員が必ず参加する会議は、週1回の頻度で十分になりました。密度の高い口頭での議論を週に1回だけ行えば、あとはSlackなどのチャットでフォローアップするだけで、十分な研究成果が出せると分かったのです。

Cygames Researchでは、毎週金曜日に全スタッフによる進捗報告とフィードバックの会議を開催していて、私は会議前の3〜4時間ほどを使ってすべての書類を読み込み、長めのフィードバックの文章をすべての書類に返信しています(図2)。この「事前レビュー方式」では、会議がスタートした時点ですべてのトピックの成果・経緯・課題が明らかになっているので、議論の方向性がズレることはなくなり、短い時間でも深い議論を展開できるようになりました。大切なことは、文章で研究の進捗を定義して、文章でフィードバックを返すことです。その文章でのやりとりを補完する形で、会議中に口頭でのディスカッションを行います。

▲図1.会議前に共有する報告書
図2.報告書へのフィードバック

これを1年間継続してきたことで、会議の議論の密度を劇的に向上させられましたので、みなさまもぜひ実践してみてください。ちなみに、当研究所の会議で使う言語は、半分が日本語で、半分が英語というバイリンガル構成になっています。事前レビュー方式では、英語が少し苦手な方がいらっしゃっても、事前に時間をかけて資料を読めるので、グローバル化の第一歩としてもおすすめです。

プロ選手として初心者に優しくしよう

ところで、MOBAではなぜかチームメンバーが定石外れの行動をしてしまうことがあります。そのときにチャットで口汚く罵るのではなく、端的にメタや定石を教えてフォローするのがプロのやり方です。会議でも、ずれた議論を始めた人がいたら「メタや定石を把握できていないのかもしれない」と考えて、すかさずフォローしましょう。絶妙なフォローを入れられれば、オーディエンスも大満足、フォローされた方も大満足のはずです。

ちなみに、「議論がずれているかどうか」を把握できるのは会議の上級者に限られます。上級者からするとこの「ズレ」が自明すぎるため、「なんでこんなズレた議論をするんだ???」という気持ちになりがちです。そのときは、MOBAの初心者はメタも定石を知らないから、目の前に来た敵をすぐに攻撃してしまうものだということを思い出しましょう。誰もが最初は初心者でした。会議のプロ選手であるみなさまは、新しく参加したプレイヤーさんにしっかりとメタ・定石を伝え、上級者へと導いていきましょう。

結論を出すことに執着しよう

ゲームで勝利する者は、勝利への執念があります。執念なき勝利はあり得ません。会議も同じです。プロの会議プレイヤーとして、会議の結論を出すことに執着しましょう。他人事のように会議に参加することは、プロとして相応しくありません。全員が結論にコミットすること。それが、勝利への最短距離です。とはいえ、結論は上司や先輩が出してくれるもので、自分はあまり関係ないかなーと思ってしまう方々がいらっしゃるのも理解はできます。そこで、最後に会議に主体的に参加するコツをご紹介しましょう。

会議に主体的に参加するコツは、ゲームに主体的に参加するコツと全く同じで、「どんなに小さくても良いので、勝利(=結論)へ貢献することに執念を持つ」ことです。

会議の勝利とは結論を出すことであり、結論とはそのチームが次に何をするべきか具体的な行動を決定することです。「これを結論とする!」という決議をすることだけが、結論を出すことではないのです。結論へと至るために必要な情報を提供したり、議論がより結論に近づくように自分の意見を述べたり、相手の意見に同意したり、反論したりすることが結論への貢献につながります。

なお、「次回までに案を考えてくる」は、ただの先送りなので結論ではありません。具体的なプランA、プランB、プランCの中から、プランAを選び取り、次回までにプランAの実行結果を報告できるようにすることが、会議で「結論を出す」ということです。このような具体的な結論を出せなかったときは、プロの会議プレイヤーとしてゲームに敗北したということになります。

プロ選手として、結論への飽くなき執念、そして結論を出せないという敗北への恐怖を持てば、どんな会議にも主体的に参加できますし、会議が楽しくなります。ぜひ、みなさまも会議というeスポーツで結論という名の勝利を追求していってください。


前回に続いて、リモートワークでの当研究所の働き方をご紹介する研究日誌でした。私は、人生で大切なことはだいたいゲームで学んだので、MOBAこそが会議を学ぶ絶好の教材だと思っています。

MOBAを制するものは会議を制す、というのは言い過ぎですが、制限時間内に参加者全員が勝利にコミットできるように、自分にできることを遂行していくMOBA強者の姿勢は、会議でも極めて有効です。ぜひ今日から、会議をMOBAだと思って参戦してみてください。