Cygames Research研究日誌 #17 ~Cygames流! 誰でも実践できる最高のプレゼン技法(前編)~

サイマガ読者のみなさま、こんにちは。Cygames Research所長の倉林 修一です。Cygames Researchとは、最高のコンテンツを生み出すためにサイゲームスが設立した基礎技術研究所で、この連載記事では、当研究所での研究成果や活動をご紹介しています。

前回の第16回では、「秋の外部講演特集」と題し、当研究所のスタッフが参加する学会発表や招待講演についてご紹介しました。今月のサイマガが公開される頃には、IEEE ISM 2021でのプレゼンテーションをオンラインで行っているのではと思います。学会発表では、Unityで実装した動的モーションマッチングシステムのデモビデオも上映予定です。どのような発表になるか、私も楽しみにしています。

さて、今月は予告通りに外部講演が多いことにちなみ、普段からCygames Researchで実践しているプレゼンテーション技法についてお話ししたいと思います。11月末ということで、大学4年生の方は卒論に関するゼミ発表が、修士2年生の方は修士論文発表が近づいているのではないでしょうか。また、ビジネスパーソンの方は年末・年度末に報告の機会があるかと思います。そこで、「型」を真似するだけで誰でもプレゼン強者になれる当研究所のメソッドを、ステップ・バイ・ステップで、しかも前後編の2回に渡りご紹介いたします。

なぜ今更プレゼン技法を語るのか?

今月の記事のタイトルを考えたときに、「今更プレゼン技法を解説しても、読者のみなさまに響くかな?」という思いが私の頭をよぎりました。確かに、書店のビジネス書コーナーに行ったり、Webで検索したりしてみれば、数多くの「プレゼン方法」の解説書があり、それらを読んでも優れた知見が得られるのは間違いありません。しかし、今ここでサイマガの2回分の記事を使ってプレゼン技法をご紹介するのには、1つの理由があります。それは、

プレゼンは手段であって目的ではないので、最小のコストで最大のプレゼン効果を出せる方が良い。そのために、誰でも簡単に実践できるプレゼン技法をお伝えしたい。

と考えたからです。書店に並ぶプレゼン技法の本は商品として売っている本というだけあって、数百ページ以上ある、なかなか重厚なものです。重厚なので、実践するのも大変です。確かに中身は素晴らしいのですが、「今月プレゼンをするから準備したい」という忙しい方が、それを読んですぐ実践するにはハードルが高めであることも否めません。10分で読めてすぐに実践できるような即効性があり、それでいて本質的なプレゼン技法の解説が欲しかったので、この場をお借りして書き下ろすことにしました。

プレゼンにも「型」がある

私は職務上、毎学期の講義や学会発表、講演会や社内プレゼンを頻繁に行うため、年間でおおよそ50回、人前で話す機会を頂戴しています。全すべての講義・講演で資料をゼロから作成しているわけではないものの、おおよそ4割が新規作成のスライドです。これだけ多くのプレゼンを行う機会があると、ある種の「型」(テンプレートのようなものです)がプレゼンに有効であることがわかってきました。この型と、プレゼン中の文章の書き方と話し方をマスターすれば、誰でも簡単にソツのないプレゼンができると思います。ぜひみなさまご参考くださいませ。

上級者も初心者も白紙から始まる

それでは、プレゼン資料の作り方をステップ・バイ・ステップで解説していきましょう。最初に求められるのは、白紙のファイルを作り、ファイル名を決めることです。当たり前すぎるように聞こえますが、このステップはとても重要です。まずファイル名を決めて白紙のファイルを作る、という最初のステップを先延ばしにするから、締め切りギリギリになってしまうのです。まずは図1のように、不退転の覚悟を持って白紙のファイルを作成しましょう。(※ちなみに、今回は事例として誰でも無料で使えるGoogle スライドを例に用いることにしました)

図1.白紙のスライド。すべてはここから始まる

いかがでしょうか。白紙ほど絶望感のある画面はありませんね。しかしすべてはここから始まるのです。この空白の絶望感に耐えられるものだけが、プレゼンを制覇することができます。なお、ファイル名の命名規則はいろいろありますが、一貫していることが大切です。final-presentation_new_final_rev5.pptx というように、new とか final とか rev(リビジョン)番号とかを場当たり的につけるのはやめましょう。ちなみに私は昔、almostfinal_final_rev13_LAST.pptxというファイル名を見たことがあります。大文字のLASTに、「もうこれで終わりだ!」という担当者の魂の叫びを見た気がしました。

さて、ファイル名を決めてファイルを保存したら、いきなりスライドを書き始めるのではなく全体の構成を決めましょう。全体構成を考える上で重要な型が、今回のサイマガでご説明する、①「1スライド1分」の型、②「1話題5スライド」の型、③「題目・序論・本論・評価・まとめ」の型です。

①「1スライド1分」の型

まずはプレゼンスキル上達のための基本として、1枚のスライドを1分間で話す、という方針を定めることをお勧めします。もちろん人によってやり方は異なっていていいと思いますが、初心者は「1スライド1分」という縛りの中で工夫した方が良い結果に繋がると私は考えています。プレゼンを見る側からしても、プレゼン中の絵的な背景となるスライドを1分以上固定されたままでは、見た目の印象が間伸びしてしまうので、1分毎に絵が変化した方が良いでしょう。

特にコロナ禍の現在で主流となっているオンラインプレゼンテーションでは、スライドがビデオ画面のほとんどを占めています。そのためスライドをタイミングよく変えていくことが、飽きないプレゼンには必要不可欠です。1枚1枚のスライドごとに発表時間を細かく設定するのではなく、全体で「1スライド1分」と決めてしまい、余計なことを考えずに中身に集中した方がクオリティーの高いプレゼンになるのです。この考え方を、「1スライド1分」の型と呼ぶこととしましょう。

②「1話題5スライド」の型

次に、プレゼン全体をわかりやすく構成するために、「1スライド1分」の考え方で作成したスライドを5枚束ね、1つの話題を説明します。つまりは、1つの話題は5分までということです。なお、ここで話題とは「序論、本論、結論、で3つの話題」というように、ひとまとまりの話のことを示します。この、「1話題=スライド5枚=5分」の構成を1セットとして扱い、プレゼンの時間に合わせて1つの話題をどの程度詳細に話すかを決定していく考え方が、「1話題5スライド」の型です。15分のプレゼンなら、「1話題5スライド」の型で、3つの話題を話すことができる、ということです。

一般的に、プレゼンは時間制限がありますよね。修士論文発表やビジネスパーソンの発表は概ね10分~15分で、質疑応答5分というものが主流でしょうか。YouTubeの動画も、10分〜15分くらいが気軽に見ることができる時間の上限と言われていたと思います。また、たとえ長いプレゼン時間を用意されていたとしても、1つの話題を15分程度で説明し、区切りをつけながら次の話題を説明することが、聴衆フレンドリーな構成と言えます。例えば大学の講義は90分ですが、このような90分の講義も、その講義の主題を4つ程度の副題に分割します。そして、それぞれの副題を15分から20分のプレゼンとして行うという構成が多いので、15分プレゼンがすべての基本になると考えて差し支えありません。

③「題目・序論・本論・評価・まとめ」の型

さあ、白紙のファイルができたら、「1スライド1分」の型、そして、「1話題5スライド」の型を使って、全体の枚数を逆算してプレースホルダを作成しましょう。学術でもビジネスでも、フォーマルな話では序論・本論・結論スタイルが基本とされています。その基本に忠実に、序論5スライド、本論5スライド、結論5スライドとしましょう。ただし、結論と言っても提案内容の評価や考察を含めたものなので、ここでは評価・考察のスライドセットと呼ぶこととします。

3話題×5枚スライド=15枚のスライドに、タイトルのスライド1枚と、まとめのスライド1枚と、補足のスライドを1枚、合計3枚追加して、全体で18ページ構成とします。これらのタイトル・まとめ・補足のスライドには発表の時間を使わないので、15ページをオーバーしても構いません。全体像を図2に示しました。

図2.15分プレゼン用のスライド構成(基本構成)

このように、プレゼンテーション資料を書き始める前に全体像を作成すると、自分がこれからどのような作業をすれば良いのかを明確に意識することができます。これを、「題目・序論・本論・評価・まとめ」の型と呼ぶこととしましょう。この型は、大学でも会社でも、さまざまな組織で一般的に使われているものです。

この「題目・序論・本論・評価・まとめ」の型の応用範囲は極めて広く、1分という極めて短いプレゼンから、90分という講義クラスのプレゼンまで、柔軟に対応することができます。具体例をお見せしましょう。もしプレゼン時間が「5分」だけだった場合は、図3に示すように、「タイトル」「サマリー」「提案の全体像を図で示す」「評価・検証方法の概要」「まとめ」の5スライドだけを採用します。これで、5分用プレゼンの完成です。

図3. 5分プレゼンテーション用のスライド構成

さらには、もしもプレゼン時間が「1分」だけだった場合は、図4に示すように、「サマリー」のスライドだけを採用します。ちなみに「2分」だった場合は、「サマリー」と「提案の全体像の図」を採用します。

図4. 1分プレゼンテーション用のスライド構成

このように、時間を減らす方向で調整する場合は、各セットの先頭スライドを残す、さらには、より上の段のスライドを残すという方法で簡単に調整できるのです。

逆に時間を増やす場合は、この構成を維持したまま「背景」を3〜5スライドで詳細に説明する、「既存の手法の紹介」を3〜5スライドで詳細に説明する、というように各スライドの内容を細分化して説明する方向で長時間のプレゼンに対応できます(図5)。

図5. 90分プレゼンテーション用のスライド構成。スライド全体の構成を変更せずに、奥行きとなるスライドを追加するだけで長い講演時間にも対応できる

計算機科学的な視点から見ると、スライド枚数や講演時間の長さに対して、この型は「スケーラビリティ(量的な拡大に耐えられるということ)」があるということです。また、講演時間の長さに関わらず、「タイトル」「サマリー」「提案の全体像を図で示す」「評価・検証方法の概要」「まとめ」の5スライドは、それぞれが1枚だけで物事を端的に伝えるようになっています。話題を端的に伝えるこれら5つの先頭スライドは「キースライド」と呼ばれるもので、最も力を入れて作成するべきスライドです。

プレゼンを準備するときは、この「1スライド1分」の型、「1話題5スライド」の型、「題目・序論・本論・評価・まとめ」の型のスライド構成を採用することで、発表の中身に集中できるのです。1分、5分、15分、60分、90分、いずれのプレゼン時間であっても、この3つの型で対応できます。応用としては、キースライドをゆっくりはっきり発表し、他のスライドは少し早めに発表するなど「緩急」をつける際にもこの構造は有効です。シンプルな型ではありますが、プロの講演にも十分耐えうるモデルですので、ぜひご参考ください。

プレゼン構成の三次元構造

さて、ここまでお読みいただければプレゼンが図6に示すような三次元的構造を持つことがおわかりいただけると思います。プレゼンとは、聴衆に1つの「ストーリー」を語る行為ですので、物語の階層構造や奥行きという空間的な広がりを意識することが大切です。

図6. プレゼン構成の三次元構造。プレゼンを、単純なスライドの連続と捉えるのではなく、三次元空間的な構造を持った「ストーリー」として捉えることが重要

今回の説明で用いた「1スライド1分」の型、「1話題5スライド」の型、「題目・序論・本論・評価・まとめ」の型を用いたプレゼンでは、縦軸がプレゼンの五要素である「題目・序論・本論・評価・まとめ」に対応し、横軸はそれら五要素を説明するための論理展開に対応しています。

例えば、横軸は要約→背景→既存の方式→問題定義→提案という論理展開の流れに対応するものです。さらに、奥行きは話題の詳細度に対応しています。図5で紹介した90分の講演会にも対応する方法のように、プレゼン時間が長い場合は奥行きを深くするのです。Google スライドや PowerPoint を用いてスライドを作るときに、この三次元的なストーリーの構造を意識してプレースホルダを作成してください。1枚1枚を場当たり的に追加していたときとは全く異なる精度で全体の構造を整理できるはずです。

おわりに:守破離の思想

最後に、この3つの型を実践するにあたり「守破離(しゅはり)」という思想をご紹介しておこうと思います。これは、能などの日本の伝統的な芸能の世界における修行の段階を示したもので、「守」が師匠やお手本を見つけて「型」を身につける段階、「破」が身につけた「型」を改善・応用する段階、「離」が自分なりの流儀を生み出す段階、というものです。この守破離の思想に沿って、初心者のうちから型を破るのではなくて、型の中で最善を尽くすことをお勧めします。

しかしながら、初心者であればあるほど、このプレゼンの3つの型を実践する中でもっと「背景」のスライドを増やしたいとか、「問題定義」のスライドを増やしたいという気持ちが出てくるはずです。そんなときこそ型に忠実にやってみることが大切です。概ね5回程度の発表を成功させるまでは、型を守ると良いでしょう。

特に、修士論文発表、博士論文発表、会社の名前を背負った対外発表など、失敗できないプレゼンでは、型通りに進めた方が安全です。まずは型通りに、型の範囲内で創意工夫をしていくと、読者のみなさまの力が最初から十分に発揮できるはずです。そうやって型の中で最善を尽くしているうちに、型の優れた点や効果が自分の力として身についてくるので、自然と改善すべき点が見えるようになってきます。そうなってから型を破ってみましょう。

次回予告:「サマリー」から逆算して作るための4つの型

ここまでで全体の構成を決めることができました。次こそは、実際にスライドを作成します。このスライド作成のフェーズも、「メッセージ/説明」の型、「比較」の型、「三大要素」の型、「二軸マトリクス」の型の4つのテンプレートで作成することができます(図7)。

図7.個別のスライドを作成してくための、「メッセージ/説明」の型、「比較」の型、「三大要素」の型、「二軸マトリクス」の型

また、論文作成術で以前ご紹介したように、プレゼンテーションもゴールから逆算して作成することが有効です。図7では、この4つのテンプレートの型をチラ見せしていますが、次回、この4つのテンプレートを詳しくご説明し、Google Docs を用いて実際にスライドを1枚ずつ作成していきましょう。お楽しみに。