『リトル ノア 楽園の後継者』開発秘話 アプリ版『リトル ノア』から引き継がれたIPのバトン
ローグライト(※)アクションゲーム『リトル ノア 楽園の後継者』が、2022年6月末からコンシューマータイトルとして配信されています。このゲームは、2015年から2019年にAndroid版、iOS版で配信されていた『リトル ノア』(以下、前作)の世界観を継承しており、一度サービスを終えた基本プレイ無料のアプリゲームから「IPの復活」を遂げた作品となりました。今作のディレクターとアートディレクター、シナリオライターにインタビューをし、前作から引き継いだ想いや注目ポイントについて語ってもらいました。
※ ローグライト……ここではダンジョンに入るたびマップがランダム生成されるなどの要素を持つゲームジャンル「ローグライク」を緩く(ライトに)したジャンルを指す
※記事内にネタバレを含みますのでご注意ください
※記事内のゲーム画面はsteam版を使用しております
- ディレクターヒロキ
- 物心ついた頃からゲーム制作を志し、いくつかの大手ゲーム会社でプランナーやディレクターを経験。2012年にサイゲームスへ合流後、『ドラガリアロスト』他、複数のタイトルでディレクターを務め、現在はシニアディレクター兼ディレクターマネージャーとして活躍中。
- アートディレクタートシユキ
- 大手ゲーム会社でコンシューマーゲームのシニアアーティスト、海外向けローカライズ、キャラクターライセンシング、アートディレクターなどを経験。その後、独立起業した際にソーシャルゲーム開発に携わり、サイゲームスには2012年に合流。現在はアートディレクターを務める。
- シナリオライターリュウジ
- 2017年新卒入社。『Shadowverse』のシナリオチームリーダーとして、進行管理やフレーバーテキスト・シナリオの執筆、コラボ施策の取りまとめなど、シナリオ関連の幅広い業務を担う。今作はシナリオライターを担当。
『リトル ノア 楽園の後継者』開発と
『リトル ノア』のIP復活のきっかけ
まずコンシューマーゲーム『リトル ノア 楽園の後継者』についてお教えください。どんなゲームでしょうか。
ヒロキ 自称・天才錬金術師のノア・リトルという少女が遺跡を探索するローグライトアクションゲームです。「アストラル」(※ノアが錬金術で生み出す攻撃キャラクター)を繰り出してオリジナルのコンボで戦う、どなたでも楽しめるようなお手軽さがある爽快なゲームになっています。
今作の開発の経緯と、みなさんがどのように関わったのかを教えてください。
ヒロキ 僕は元々別のソーシャルゲームでディレクターとして開発・運用に関わっていたのですが、コンシューマー事業本部が設立するタイミングで異動して、再びコンシューマーゲームに携わることになりました。そこでは既に複数の制作タイトルが進行中だったのですが、どれも開発期間が長いゲームで。サイゲームスのファンのみなさんをお待たせするのは心苦しいということで、その前に発売できるゲームとして、短期間で制作できるゲームを作ることになったんです。
そこから半年くらいかけてたくさん企画書を出し、結果的に、開発が進むことになったのは『リトル ノア』のIPを復活させる企画でした。
トシユキ 僕も元々ヒロキさんと同じソーシャルゲームの開発チームにいて、ヒロキさんがチームを卒業して数か月しないうちに、社長の渡邊に勧められて 同様に異動しました。サイゲームスに合流する前にコンシューマーゲームに携わっていたので、経験があるからということで声を掛けてもらったのだと思います。
リュウジ 僕は普段、『Shadowverse』のシナリオリーダーを務めています。コンシューマータイトル『シャドウバース チャンピオンズバトル』の開発に参加した繋がりで、シナリオチームから「コンシューマーのほうに入ってほしいタイトルがある」と話をもらい、一も二もなく参加しました。
今作は基本プレイ無料のアプリゲームとして配信されていた『リトル ノア』のIPを復活させていますね。きっかけは何でしょうか。
ヒロキ ユーザーのみなさんに高クオリティーなゲームをスピーディーに届けるには、ローグライクしかない!と思ったんです。
リュウジ 逆算で作っていったんですね。
ヒロキ 仲間キャラクターを使った爽快なアクションとローグライクを掛け合わせたいと思い、構想を膨らませていきました。ダンジョンに入るたびに新しい仲間と出会い、編成して、毎回新鮮なコンボを楽しめて、やられちゃったらまた最初から集め直し……というサイクルを楽しんでほしいと考えていたんです。ただそこで、「待てよ。このゲームを作るならキャラクターをたくさん作んないといけないぞ」と気付きました(笑)。
トシユキ たしかに(笑)。
ヒロキ そこで短期間でキャラクターをたくさん作るのではなく、弊社の既存のIPに注目したんです。今回は会社が大切にしてきた『リトル ノア』を活かしたいと思いました。社長の渡邊も「リトル ノアで何かできないかと思っていた」ということでOKをもらい、制作を始めました。
ファンの期待を裏切らないように
前作から引き継いだものと変えたもの
キャラクターの設定や世界観について、制作で意識した点を教えてください。
トシユキ やはり前作『リトル ノア』がある以上、 ユーザーのみなさんは前作のアートディレクターである吉田明彦さんの世界観に期待を寄せますよね。開発中からそれは予想できましたし、みなさんの期待は裏切れないなと思い、世界観を守ることを強く意識しました。ゲーム性は変わりましたが、ノアちゃんのキャラクターは、天真爛漫で太陽のような彼女のままです。
ヒロキ ただ、前作やノアのことを知らない方でも遊べるように、ストーリーは「前日譚」としました。また、手に取りやすいように開発のテーマを「明るい『リトル ノア』」にしようと。そしてストーリーや世界観については、前作のリアルタイムストラテジーから今作のローグライトになったことによる影響を大きく受けている部分がありますね。
トシユキ 前作はシリアスなイメージで、可愛いキャラクターはいるのですが、全体的なトーンがちょっと大人っぽい感じだったと思うんですよ。
リュウジ そうですね。
トシユキ 今作は、まず青空と広い草原の明るい場面から始まります。いろんな層の方々が「やりやすそう」というポジティブなイメージを持っていただけるようにしました。
ヒロキ 前作は、世界として描写されているのが方舟の上だけなんですよね。ですので、今作は「明るい『リトル ノア』」を意識しながら、前作と今作の世界が上手く溶け合うように背景や世界観をゼロから作って調整していきました。
トシユキ とにかく“難しそう”だと思ってほしくなかったんです。雰囲気がシリアスだと「小難しい」「私にはちょっと遊べなさそう」と思われる可能性が高いですが、今作はそう思ってほしくなかったので。
ヒロキ それこそ他社が作ったらどうなるだろうとか、子ども向けだったらどういう背景になるだろう、とかも考えましたよね。「爆発の煙からハートマークを飛び出させてみる?」とか。
トシユキ ハートは違うな、と即却下でしたね(笑)。
「最後までプレイしてほしい」
シナリオがローグライトのフックに
今作はローグライトアクションでありながら、シナリオも魅力の1つだと思います。なぜシナリオにも重点を置いたのでしょうか。
ヒロキ 一般的なローグライクゲームは雰囲気、世界、フレーバー(※)を重視しているダークな印象のゲームが多いと思うのですが、そことは違ったゲームを制作したいと思ったからです。また、ローグライクは何度もやられることが前提にあるゲームシステムなので、投げ出さずに最後までゲームをプレイしてもらうためにはフックになるシナリオが必要だと考えました。ざっくりのイメージで「こんな敵が欲しい」「こんな始まり方で」と構想を書いて、シナリオライターを探して……としていく中で、選ばれたのがリュウジさんともう1人のシナリオディレクターです。
※ フレーバー……作中に登場するキャラクターやアイテムなどの要素の解説を指す。世界観や背景を補完する役割がある
リュウジさんはシナリオをどのように発想していきましたか?
リュウジ 前作の前日譚でありつつ、ノベライズされた『リトル ノア Tale of school days』の後のお話にあたるので、2作の間の話としてストーリーを守ることを意識しました。
リュウジ ゲームの中で「学院」という言葉や学生時代を思い出すようなワードが出てきているのは、小説版のファンの方々に喜んでいただきたいという思いからです。
リュウジ あとは新キャラクターであるジッパーが非常に大事なので、ノアとの掛け合いを楽しげにしました。
ヒロキ ジッパーは最初つんけんしていて、ノアと徐々に仲良くなってほしいと考えていました。当初もらったシナリオは割とするっと2人が仲良くなっていたので、「もうちょっとエピソードを!」とリクエストしたんですよね(笑)。
リュウジ はい。「もうちょっと仲良くなるのに時間がかかってほしい」と言われましたね(笑)。
ヒロキ 結果、一緒にご飯を食べるシーンも追加されましたし、細かくリュウジさんに調整してもらって、ジッパーの“ツン”と“デレ”の変化を楽しんでいただけるストーリーになったのではないかと思います。
リュウジ ノアとジッパーの関係性の変化は、特にシナリオで注目していただけるとうれしいです。
今作の中で、ヒロキさんが特に気に入っているシーンはどこでしょうか。
ヒロキ ジッパーがノアから名づけられたときのシーンが好きですね。口の悪さが個性のジッパーが、本当はうれしいだろうにすごく冷たいというか辛辣な返し方をするのがツボでした。ジッパーのイラストも、八の字の眉で「へっ」って馬鹿にした顔をしていて、それも相まってとても好きです(笑)。
リュウジ またノアちゃんも全然めげませんしね。とても芯の強い子なので……(笑)。
トシユキ 今作だけの要素で言うと、「魔女の日誌」もあるんじゃないですかね。
リュウジ そうですね。魔女という存在は前作に登場していないのですが、今作はローグライクで毎回体験が違うので、「追加でサブイベントが発生してもいいよね」ということで数回に分かれてジッパーと魔女の昔の話が分かるというイベントを入れました。ジッパーのセリフの伏線に触れられているという程度の、お楽しみ要素だと思って読んでいただければうれしいです。
「アストラル」で爽快感を演出!
アニマ化では少女から大人に
「リアルタイムストラテジー」から「ローグライト」へのシステム変更については、すんなりと進みましたか?
ヒロキ はい。ただ、実は企画の段階で、いろんなキャラクターを編成して戦わせる横スクロールのディフェンスゲームにしてはどうかという話もあったんですよ。
トシユキ あぁー、そんな話あった、そういえば……!
ヒロキ でも、それは『リトル ノア』としてはしっくりくるかもしれないですけど、新鮮さに欠けるなと思いました。踏ん張って色々なアイディアを出していった結果、「アストラル」の組み合わせでコンボを作るシステムができました。爽快感を出すために、攻撃のモーション調整や敵を吹き飛ばす動き、アクションの操作性の気持ち良さを重視しています。
前作から性能(攻撃方法)が変わったアストラルもいるようですね。
ヒロキ はい。アストラルも基本的には前作のままをイメージしていますが、横スクロールのアクションゲームになったことで攻撃方法が変わったキャラもいます。ただ、見た目から連想されるものを大きく外さないようにしました。
変わり種なのはトランパですね。元々はトラップを外すというキャラクターですが、今作にはトラップが存在しません。一緒に開発してくださったグランディング社さんと「じゃあトラップを設置するキャラクターにしようか」「でも真逆なのも変じゃない?」と相談しながら、イメージは守りつつ、世界観に合わせて設定を詰めていきました。
ヒロキ 他の例で言うと、DLC第1弾に出てきた「海賊王キッド」は、開発中に「持っている宝の袋を振り回す攻撃にしては?」というアイディアが出ていました。でも、「“海賊王”がそんな攻撃しても楽しくないでしょ!」ということで、もう少し海賊っぽさを出した錨を投げる攻撃にしたわけです。
トシユキ あったあった(笑)。現在出ているアストラルは、全員前作に登場しているキャラクターですね。
リュウジ なんなら、前作で出てきて今作に出ていないキャラクターもまだまだいますよね。
ヒロキ そうですね。ベースは使っていますけど、進化先やレジェンドのキャラクターは出てないキャラクターばかりです。当初は進化させる話もあったのですが、複雑になりすぎないよう、「お手軽さ」を意識して3体集めたら強くなるシステムにしました。
トシユキ あとは、アストラルは前作でもやはり可愛い見た目だったので、「この可愛いキャラクターを私も動かしてみたい」とか「ちょっと触ってみたい」とか「他にどんなキャラクターがいるんだろう」と興味を持っていただける入り口にしようと思って、なるべく変えずに再登場させています。
アストラルを強化したり特別な効果を得たりするため、ノアが姿を変える「アニマ」について、前作から変わった部分はありますか?
ヒロキ 前作ではノアがアニマ化して大きくなっていた印象が強いですが、実は普段のノアちゃんはもっと小さいんですよね。今作は基本的に普段のノアのサイズ感のまま遊べるようにしました。アニマ化したときに大きくなりすぎるとゲームにならないので……。
リュウジ 画面に入らなくなりますもんね(笑)
ヒロキ そうそう。アニマ化するときはほどほどのサイズにしつつ、体のサイズが大きくなるだけじゃなくて、年齢もちょっと上がっているんです。そこはトシユキさんがこだわったポイントですよね。
トシユキ そうですね。「少女から大人に」という点を意識しました。例えばアニマ化したノアちゃんはリップを塗っているんです。最初、内部スタッフで「大きくなったノアちゃんの顔が違う」という意見が出たんですけど、それは、日曜の朝アニメみたいに、小さい女の子が変身して大人になり、強くなって戦うという変化を持たせたかったからです。
リュウジ へぇー……。
ヒロキ これは前作のアートディレクターである吉田明彦さんから教えてもらった設定ですね。僕らも言われて初めて「あ、そうだったんだ!」とびっくりしました(笑)。
『リトル ノア』の今後は?
IPの展望について
リリースされてしばらく経ちましたが、反響はいかがでしょうか。
ヒロキ さまざまなところでユーザーのみなさんのお声を見かける機会があり、おかげさまで良い評判をいただけているかなと……評価が可視化されているという部分もありますが、僕が今まで作ってきたゲームの中で一番評判が良いかもしれません(笑)。自信を持っておすすめできますし、いろんな方に楽しんでいただいていることを数字として実感しています。
ヒロキ あとはダウンロードコンテンツで『プリンセスコネクト!Re:Dive』『ウマ娘 プリティーダービー』とコラボをしたり、アップデートでもコンテンツを増やしてキーボード対応や難易度の高いモードを追加したり、楽しめる要素をさらに広げられたのではと思っています。
「もっとやり込みたい」という反応が多いように思います。
ヒロキ ありがたいです。8月にアップデートで追加した「ヘルモード」は、あくまで上級者向けのモードなので、クリアできない方もいると思います。そこで9月8日に追加したのが「魔女の試練」です。
いわゆるボスラッシュモードなのですが、ただ次々にボスと戦うのではなく、ボス戦が終わるとショップに入り、次のバトルに向けた備えを整えてからまたボス戦に入るというモードです。ショップ→ボス→ショップ→ボス……と間にショップを挟むことで、今のローグライト要素とアクションゲームをギュッと縮めた遊びやすいモードを作りました。まだプレイしていない方は、どこまでボスを倒せるかぜひ挑戦していただけるとうれしいです。
「リトル ノア」というIP自体の展望も、もしあれば教えてください。
ヒロキ 今作は運用するゲームではありませんが、今後も無料アップデートをできないかなということは、各所と相談中です。また、『リトル ノア』というIP自体がどうなるかは明確に答えられませんが、今作でIPがどれだけ愛されているかということもわかりましたし、今後もどんどん繋がっていけば良いなと思っています。