『ウマ娘』ライブ開発チームが実現する最高のライブ映像<後編> 制作事例初公開!『Gaze on Me!』イントロパートのカットができるまで
前編に引き続き、ライブ開発チームの体制や制作フロー、どういった方法で完成度を高めていくかなど、制作事例を現場で活躍するスタッフが解説します。後編は、カットシーンアーティストの取り組みと、初公開となる『Gaze on Me!』イントロパートのカットが完成するまでの制作事例、カットシーンアーティストが大事にしていることについてご紹介します。
※サイゲームスの技術カンファレンス「Cygames Tech Conference」「ウマ娘 プリティーダービーにおけるウイニングライブ制作事例 ~ライブ開発チームの体制や制作フローについて~」の動画の内容を基にご紹介しています
- 3DCGアーティストチーム 3DCGリードカットシーンアーティストカオリ
- 2017年サイゲームスに合流。2019年から『ウマ娘 プリティーダービー』のタイトルに加わり、ライブカットシーンのリードとしてカットシーン制作や監修を担当している。
カットシーンアーティストの役割と取り組み
■カットシーンアーティストの役割とは?
カットシーンアーティストは、ダンスモーションや背景などの各データをまとめ上げ「最高のライブ映像」として完成させる役割を担っています。ハイクオリティーなカットシーンを制作するべく、次の2大ミッションを守っています。
■「最高のライブ映像」を制作するための2大ミッション
①楽曲のコンセプトが伝わる映像
曲の展開に合わせた映像の構成や、ダンスの印象、ウマ娘たちの表情など、さまざまな要素で楽曲全体のコンセプトを表現し、伝えることを大切にする。
②映像としても静止画としても美しく
どのシーンを見ても「美しい」ウイニングライブだと感じてもらえるよう、映像でも静止画でも綺麗に見えるように調整する。また、雑誌・Webなどに掲載するための静止画が必要になる場合を見越して、全てのカットが静止画でも通用するクオリティーとなるよう制作する。
■カットシーンアーティストの取り組み
「最高のライブ映像」を制作するための2大ミッションを、カットシーンアーティストがどのように実践しているか、具体例を交えながら解説していきます。
①モーション収録時
カットシーンアーティストがリハーサル・収録時に注意するのは、映像になったときの印象です。フォーメーションやダンスの印象はもちろん、特にカメラワークをイメージし、見せ場のカットになりそうな動きをアクターさんに指示しています。
- アップのカット
カメラの中心にしっかり収まるよう体の上下左右の動きは控えめに、手の動きもカメラに入るよう調整してもらいます。その分、頭の動きの演技はやや大げさに、口の動きに合わせて「歌っている感」を出してもらい、表情の印象を強めています。
- 全身や全景のカット
アップで表情を収める必要はないので大きく体を動かしダイナミックに動いてもらい、火柱などのエフェクトと一緒に全身を映すことでかっこいいカットにしています。
②カットシーン制作時
- 画面内要素を整理する
3Dキャラクターによるライブのカットシーンは一般的に、ステージ上にキャラを配置して踊ってもらい、それを撮影することが多いですが、この方法だと、カメラの位置によっては不要なものが映りこんでしまい、狙った構図で撮ることが難しい場合があります。
そのため、カットシーンアーティストは立ち位置などのフォーメーションや背景オブジェクトの配置など、必要なもの・見せたいものをカットごとに取捨選択し画面内の情報量の整理を行っています。カット数が多い楽曲は調整に苦労しますが、美しい画面を作るためには欠かせない工程です。
例1)ソロパートを強調する
『涙ひかって明日になれ!』のAメロ冒頭では、ソロパートの歌声と歌っているウマ娘のしぐさや表情を際立たせるため、背景には印象的なライトだけを置いてなるべくシンプルに見えるよう、レイアウトを整えています。
例2)フォーメーション全体を映す
『Never Looking Back』の歌い出しでは、立ち姿の美しさを見せつつ、ステージ上の人数感がわかるよう、カメラに合わせてフォーメーションの立ち位置と機材の位置を調整しています。
- フェイシャルの見栄えを調整する
3Dのキャラクターは、斜めを向いた時などに口元に不自然な立体感が出てしまうことがあります。そこで、よりイラスト的かつ自然な印象になるよう、フェイシャルの見栄えを調整しています。必要に応じて眉や顎も調整します。また、カメラから遠ざかると口の動きの視認性が下がるため、通常時よりも口の開き方を大きくすることもあります。
- パーツごとに遠近感を調整する
手や指の動きを見てほしいカットでは、手のスケールを調整し、通常より大きくすることによって遠近感を強調し、よりダイナミックで印象深い構図になるよう調整しています。
カットシーンアーティスト制作事例紹介②
『Gaze on Me!』イントロパートのカット
サイマガでの記事化にあたり、特別に『Gaze on Me!』のイントロパートのカットを初公開!完成までのプロセスをぜひご覧ください。
- アセットが一通り揃った状態の映像
- ステージ全体の大まかなライティングだけ行った状態の映像
- プリビズ(完成形を想像できる仮映像)
- 完成映像
カットシーンアーティストが大事にしていること
この仕事では、プランナーや他の3DCGアーティスト、エンジニアなどと密に連携をとりながら、ウイニングライブのコンセプト立案から映像の完成まで関わることができます。自分のスキルが映像の最終的なクオリティーに関わるので、やりがいと共に責任感・プレッシャーも感じます。さらに、どのようなジャンルの楽曲やダンスであっても適切に演出ができる引き出しの多さも求められます。完成したウイニングライブでユーザーのみなさんが喜んでくれたときや、大きな反応を頂けたときには、苦労が報われた気持ちになり、喜びもひとしおです。
■映像の構成力・画作りへのこだわり
ウイニングライブ制作ではプランナーからのコンセプトを基に、カットシーンアーティストが画面のレイアウトや映像の構成を考えます。そのため基本的な映像演出の知識をベースに、ウマ娘の世界観やウイニングライブのコンセプトに合った表現方法を模索する必要があります。
「映像としての華やかさ」や「見栄え」なども大事ですが、まずはしっかりとコンセプトや楽曲の世界観を理解して、このウイニングライブを見た人にどう感じてほしいか、どういったことを伝えたいかを考えて映像を作ることを大切にしています。
また、フェイシャルやライティング、ポストエフェクトも担当しているので、映像の構成だけではなく、各要素を合わせて画としての完成度をどう高めていくかも考えています。
■他セクションとの密な連携
カットシーンを作り込む際、ダンスモーションや背景モデルに要望を出すことがよくあります。画作りのため「もう少しこの動きを大きくしてほしい」「背景のここにライトを配置してほしい」など、どのような理由で何が必要かを明確にし、相手に伝えることを大切にしています。また、スケジュールには限りがあるので、どのような要望が出てきそうか事前に予想し、作業前に大まかな方向性・やりたいことを他セクションと共有し、認識を合わせておくことも重要です。コンセプトの内容によってはカットシーン制作用ツールの既存機能では表現できないものも出てくるので、その場合はエンジニアとの連携も必要になります。カットシーンに関わる機能であれば、どのような内容の機能にするかを精査し、要望を伝えて実装してもらい、内容に不足が無いかをチェックします。
このように、カットシーンを完成させるには各セクションの協力が不可欠です。コンセプトを基にカットシーンアーティストが明確な完成像をもち、それを実現するために各セクションとコミュニケーションを重ねることを大切にしています。
以上、ライブ開発チームよりカットシーンアーティストをピックアップしてのご紹介でした。ゲーム開発におけるカットシーン制作業務の経験ある方、1タイトル以上のゲームの完成経験をお持ちの方、アニメーターとして実務経験をお持ちの方などはぜひご応募ください。
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