3DCGアーティストの仕事とは?没入感の高い絵作りに必要なスキルと資質【サイゲームス仕事百科】
ハード性能の向上や新技術の導入によって、ゲームグラフィックのクオリティーはめざましい進化を遂げています。近年では、スマートフォンゲームでも3DCGを用いたタイトルが増えてきました。その3DCGの制作を担当しているのが、今回ご紹介する3DCGアーティストです。ユーザーの方々をゲームの世界に引き込むグラフィックはどのようにして生み出されるのか、3DCGアーティストを束ねるマネージャーへの取材を基に解説します。
▼3DCGアーティストの業務
▼制作のフローと3DCGアーティストの役割
▼これからも2Dと3Dが併存
▼2Dと3D「何を表現したいか」で選択は変わる
▼3DCGの強みが生かせるゲームとは
▼求められるスキル・資質
▼3DCGアーティストのキャリアパス
3DCGアーティストの業務
ゲームのグラフィックは大きく2Dと3Dに分けられます。3DCGアーティストは、文字通り3Dのグラフィック制作を担当します。サイゲームスでは2Dと3Dでデザイナーチームが分かれており、開発するゲームに合わせてデザイナーを配置する体制をとっています。3DCGアーティストは、制作する内容によって下記の職種に分かれています。
■キャラクターアーティスト
キャラクターの2Dイラストを基に3Dのポリゴンモデルを作り、その表面にテクスチャー(色や模様)を付ける。
■アニメーター
キャラクターの3DCGモデルに動き(モーション)を付ける。動きを手動で付ける「手付け」と、実際の人間の動きを撮影する「モーションキャプチャー」がある。
■エンバイロメントアーティスト
エンバイロメント(背景)を制作する。ゲームによって、すべて3DCGで作ることもあれば、2Dと3Dを組み合わせることもある。
■エフェクトアーティスト
爆発や魔法などのエフェクト(特殊効果)を制作する。エフェクトには動きが加えられるため、アニメーションの知識が必要。
■リギングアーティスト
モデルにジョイント(骨・関節)を入れ、「リグ」と呼ばれるコントローラーを設定する。また、動きに合わせてモデルを変形させる「スキニング」も行う。
■ライティングアーティスト
キャラクターや背景の建物などにどのように光を当てるかを設計し、ライティングを行う。
■カットシーンアーティスト
ゲーム内でムービーとして再生されるイベントシーンを制作する。カメラアングルを決め、素材を配置して一連のシーンを作る。
とはいえ、完全に分業というわけではなく、キャラクターアーティストがジョイントを入れる作業をしたり、リギングをアニメーターが担当したりすることもあります。このあたりは制作タイトルによっても変わってきます。
ちなみに、サイゲームスでは3DCGでのゲーム開発を本格化していくにあたって、社内にモーションキャプチャースタジオやフォトグラメトリースタジオを開設しました。これらのスタジオは、運用中・開発中のタイトルのアニメーション及びデータ生成に大活躍しています。こうした大規模な施設を発案から1年程度で実現できるスピード感は、サイゲームスの大きな強みと言えます。
フォトグラメトリースタジオについて詳しくは、スキャンスタジオ【社内設備特集Vol.1】の記事をご覧ください。
キャラクター制作のフローと
3DCGアーティストの役割
続いて、3DCGの作業の一例としてキャラクターモデルの制作工程を簡単にご紹介します。
1.キャラクター原案
まずは、プランナーやシナリオ担当者がキャラクター原案を作成します。この段階では主にテキストで「こういう特徴を持ったこういうキャラクターで……」という設定を作ります。
2.2Dイラスト制作
キャラクター原案を基に、イラストレーターが2Dでイメージイラストを描きます。『グランブルーファンタジー』『プリンセスコネクト!Re:Dive』といった2Dゲームでは、この2Dイラストを完成イメージとして扱うことが多いです。イメージイラストが完成したら、そのキャラクターの二面図(前面、側面)または三面図(前面、側面、背面)を描きます。
3.キャラクターモデリング
ここからが3DCGアーティストの出番です。二面図・三面図を見本として、キャラクターアーティストが3DCGソフトを使って3Dのモデルを作成していきます。ポリゴンと呼ばれる多角形でモデルの立体的な形状を作り、ポリゴンの表面にテクスチャーを貼り付けて色や質感を表現します。二面図/三面図なしでイメージイラストから直接3Dに起こす場合もありますが、あったほうがより効率的に作業できます。
4.リギング
リギングアーティストが3DCGモデルに骨組みの構造を持たせる「ボーン」を設定し、関節の曲がる方向や可動域を決めます。同時に、ボーンを曲げたときにモデルが綺麗に変形するよう調整します。例えば、人間のヒジの関節を曲げる動作では、ヒジの内側の皮膚は縮み、外側の皮膚は伸びます。3DCGモデルでこのような表面の伸び縮み(変形)を設定する作業を「スキニング」と呼びます。そのあと、複数のボーンを連動してモーションを付けられるようにするコントローラー(リグ)を作成します。
5.アニメーション
キャラクターモデリング、リギングされたものをアニメーションとして動かします。例えば、歩く、踊る、殴るなどの動きをモーションで表現します。
アニメーション化には「手付」と「モーションキャプチャー」と言われる2種類の手法があります。ゲームはほとんどのアニメーションが手付で作られていますが、フォトリアルなものに関してはモーションキャプチャーの手法を用いることが多いです。
6.エフェクト
攻撃や魔法など、キャラクターが特定のアクションをしたときに発生する特殊効果(エフェクト)を設定する作業で、エフェクトアーティストが担当します。例えば、物理攻撃をしたときに描かれる武器の軌跡、火属性の魔法を使ったときに生じる火花や炎といった視覚効果を3DCGで表現します。このエフェクトを付けるところまでが3DCGアーティストの作業となります。
7.SE(効果音)
サウンド担当者がキャラクターの各種アクションに合わせてSEを設定します。ダッシュやジャンプなどの動きの表現や、ダメージを受けたときのうめき声、技を発動したときのエフェクトに合わせた音など、キャラクターが発するあらゆる音を付けていきます。
ここまで紹介した過程を踏んで、キャラクターを1体ずつ作っていきます。現在主流のスマートフォンゲームのような運用タイトルの場合、1つのタイトルで数百体ものキャラクターを作ることも珍しくありません。
3DCGの仕事の面白さや醍醐味は、やはり目に見えるかたちで「ゲームの世界を作っている」という感覚だと言えます。自分たちが作った世界の中をキャラクターが動き回り、かっこいいアクションや必殺技を繰り出すのを見るのはうれしいものです。それがユーザーの方々の元へ届き、好意的に評価してもらえると大きな達成感があります。
3DCGの需要は増え続けるものの
これからも2Dと3Dが併存
ここからは、一歩引いた視点から、ゲームのグラフィック全般について考えてみたいと思います。ゲームの中で3DCGが当たり前に使われるようになって久しいですが、ゲームの歴史を見ると、2Dのゲームが先に登場し、その後の技術革新によって3Dが取り入れられるようになってきました。ゲーム歴の長い方であれば、この変化は強く実感されているかと思います。
ハードの性能が高いコンシューマー機では、PlayStation® 1や同2の時代から3Dが徐々に増えていき、特にこの10年ほどの間に多くのタイトルが3Dで開発されるようになりました。コンシューマー機と比べるとハードの性能が低いスマートフォンは、近年まで2Dのゲームが一般的でしたが、最近では3Dの作品も増えてきています。サイゲームスでも、創業当初からしばらくは2Dのゲーム開発がメインでしたが、現在では、3Dを使ったゲームが多くあります。スマートフォンゲーム業界全体でもこの流れは加速して、今後はさらに3Dを使ったスマートフォン向けタイトルが増えていくでしょう。
こうした傾向を見て、やがてはすべてのゲームのグラフィックが3Dになると考える人も多いかもしれません。しかし、私たちは2Dのゲームがなくなることはないと考えています。コンシューマーにおいても2Dの作品は現在もリリースされていますし、一定の人気があります。今後、どれだけハードのスペックが上がったとしても、2Dと3Dのゲームは併存していくのではないかと思っています。
2Dと3Dにはそれぞれの良さがあり
「何を表現したいか」で選択は変わる
では、どのようにして2Dと3Dを使い分けていくのでしょうか。2Dにするか3Dにするかを決定する最大の要因は、やはり企画の内容です。ゲームの方向性やテイストを考えたときに、2Dで見せるのが良いとなれば2Dで開発しますし、3Dのほうが適していると判断すれば3Dを採用します。実際に、サイゲームスでも2Dと3D両方のタイトルを開発しています。根底にあるのは「ゲームとしての面白さの追求」であり、それを実現するためのグラフィックは2Dのこともあれば3Dのこともあります。
また、3Dを使った作品でも、キャラクターから背景まですべてを3Dで描くものもあれば、背景など一部のグラフィックを2Dで描いて3Dのキャラクターと組み合わせるケースもあります。手法としては3Dと2Dを組み合わせるほうが古く、フル3Dのほうが新しいやり方ですが、だからといって今後すべてのゲームがフル3Dにシフトすることはないでしょう。これも上記と同じ理由で、ゲームの方向性によってベストな表現手法が変わってくるからです。
2Dにも3Dにもそれぞれの良さがあり、一概にこういうゲームが3Dに適していると言うことは難しいです。ただし、3Dが適しているジャンルがあるのは確かです。例えばFPS(※1)やTPS(※2)、あるいはフライトシミュレーターやレーシングゲームなど、現実世界を模した奥行きのある空間内をプレイヤーが駆け回るゲームはその代表例です。カメラの角度やライティングを自在に変えて、臨場感や没入感を高めるのは3Dの得意分野なので、立体的な空間でプレイすることを楽しむタイプのゲームは、3Dのほうが向いていると言えるでしょう。
※1 ファーストパーソン・シューティングゲームの略で、操作するキャラクターの視点(一人称視点)でプレイするタイプのアクションゲーム
※2 サードパーソン・シューティングゲームの略で、操作するキャラクターの背後からの視点(三人称視点)でプレイする
開発効率やコストにも影響
3DCGの強みが生かせるゲームとは
開発効率の面でも3Dが有利になるケースがあります。初期の制作コストは2Dに比べると3Dのほうが圧倒的に高いのですが、一度作ってしまえば、カメラを動かすことで見せ方のバリエーションがいくらでも作り出せます。これに対し2Dは、これまでと違う見せ方のカットが欲しいとなった場合は、その都度新規のイラストを描く必要があり、作るのに時間も工数もかかります。その意味では、スマートフォンアプリのような運用タイトルの場合は、長期的に見ると3Dのほうが2Dよりもコスト面で有利になることがあります。
この他、ゲーム用に作ったキャラクターなどの素材を用いて別のコンテンツを作りやすい点も3DCGのメリットです。例えば、ゲーム内で使用しているキャラクターモデルを用いてVRコンテンツを作るといったことが、3DCGであれば比較的容易に実現できます。一度制作したものの応用の幅が広く、より少ない手間でマルチ展開しやすいのは3DCGの強みと言えます。
逆に3DCG化することで生じる問題もあります。例えばオープンワールドのゲームでは、遊び応えの観点からはマップが広いほうが好まれます。しかし、広大な世界を3DCGでリアルに表現すると、キャラクターの移動距離が長くなる、変化に乏しいシーンの割合が増えるといったマイナス要素が生じる場合があります。このように、3DCGにこだわりすぎるとかえってユーザーの方々にストレスを与えてしまうこともあるので、何でもかんでも3DCGで作ることが最善というわけではないと考えています。
3DCGアーティストに
求められるスキル・資質
ここからは、サイゲームスの3DCGアーティストに求められるスキルや資質について考えていきたいと思います。
■造形力
3DCGアーティストとしての最も重要なスキルの1つです。3Dと2Dイラストの大きな違いとして、3Dは造形に関して嘘やごまかしが利かない点が挙げられます。2Dのイラストは描かれたカットの見栄えが最優先なので、現実にはあり得ない表現も許容されますし、それが魅力になる場合もあります。一方3Dは、どの角度から見ても破綻のないように造形しないと違和感を持たれてしまいます。3Dでもデフォルメを施すことはありますが、立体構造として破綻のない変形にする必要があります。従って、常にものを立体的に捉え、人体や物体の構造を理解しておくことが重要です。
■審美眼
理に適った造形ができることは大切ですが、それで十分なわけではありません。特にキャラクターモデラーは、キャラクターの魅力を表現できるスキルも必要です。例えば、原案で「かわいい」設定のキャラクターで、2Dイラストでもかわいく描かれているのに、イラストをそのまま3D化してもかわいくならないことがあります。3Dにしたときにイメージ通りの表現ができるというのは、重要なスキルと言えます。
■コミュニケーション力
ゲーム開発はチームワークです。アーティストも絵を描いていれば良いわけではなく、必要に応じて他部門と連携する必要があります。例えば、「髪の毛の光沢とサラサラ感を表現できるシェーダーを開発してほしい」といった要望がある場合は、エンジニアに依頼してその機能を実装してもらう必要があります。そして、他部署の人を動かすには、相談や交渉などができる関係性が必要です。「自分はこういう表現がしたい。それによってコンテンツがこれだけ面白くなる」ということを伝え、理解してもらえるようなコミュニケーション力が求められます。ゲームは、アーティストの力だけでは実現できないことがたくさんあるのです。
■適応力
3DCGの世界は日進月歩です。技術やツールのトレンドは刻々と変化するため、常に最新の動向をキャッチし、取り入れていく向上心が大切です。今は業界標準として扱われているソフトウェアも、数年後には新興のソフトに取って代わられている可能性は十分にあります。1つのソフトを高度に使いこなすことも大切ですが、依存しすぎると次に移れなくなるリスクがあります。万一そのソフトが使えなくなっても適応できる能力がより重要と言えます。
その他、3DCGアーティストに限らずどんな職種にも言えることですが、渡された仕事、求められた仕事を期日までにやり切る遂行能力は必須です。アーティストという呼称から、芸術家肌でこだわりが強い人というイメージを持つ人もいるかもしれませんが、むしろ製品として作り上げるビジネス的な素養のほうが重要です。こだわりも大切ですが、かけられる工数には限りがある中で、ユーザーの方々に適切なタイミングでコンテンツを届けるためのスケジュールやクオリティーラインを意識できる人が理想です。
3DCGアーティストのキャリアパス
サイゲームスでは、アーティストのキャリアパスは大きく2種類あります。1つはマネジメントをする立場に進む方向、もう1つはアーティストとしてのスキルを極めるスペシャリストの方向です。マネジメント系のキャリアでは、リーダーやサブマネージャー、マネージャーといった立場で現場のアーティストを束ねることや、進捗管理や人員配置といった管理能力が求められます。
スペシャリストは制作ツールを使いこなし、他の人が真似できないレベルまで技術を高めることが求められます。スペシャリストの先のキャリアとしては、作品全体のビジュアル面のコンセプトや方向性を決めるアートディレクターになる道もあります。
また、3DCGアーティストチーム全体としては、将来のことを見据えて新しい技術の研究・検証ができる体制の構築を目指しています。さまざまなスキルや得意な領域を持った方々が、さまざまなかたちで活躍できる場や環境を整えていきたいと考えていますので、ぜひ多くの方にサイゲームスへの興味を持っていただければと思います。
以上、3DCGアーティストの仕事についての解説でした。
現在サイゲームスでは、一緒に働く仲間を募集しています。この記事で興味を持たれた方は、ぜひ一度こちらをチェックしてみてください。
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