『グランブルーファンタジー リリンク』開発スタッフ座談会 ハイエンドタイトルの制作とチームビルドを両立させた開発裏話
2024年2月1日に発売し、約2週間で世界累計セールス100万本を達成した『グランブルーファンタジー リリンク(以下、リリンク)』。5月31日に配信された「Ver.1.3.0」では新規プレイアブルキャラクター「サンダルフォン」やフォトモードなどが実装され、現在も多くのユーザーの方々にプレイされています。
今回は『リリンク』について、チームの体制づくりから携わってきた大阪サイゲームスの3名に開発の裏話を聞きました。
■参加者
- 大阪サイゲームス 代表ツトム
- 造形制作を経てCG業界に転向し、映像制作会社でフルCGや実写合成映像を担当。大手コンシューマーゲーム会社で映像制作、ハイエンドゲーム開発に携わった後、2016年にサイゲームスへ入社。
現在はコンシューマーゲームの開発やCG映像の制作などを担当するとともに、大阪サイゲームスの代表として拠点全体を牽引している。
- コンシューマーゲームデザイナー ディレクターヤスユキ
- コンシューマーゲームの制作会社でレベルデザイナー、ディレクターを経験した後、2019年にサイゲームスに入社。『グランブルーファンタジー リリンク』のディレクターとして、主にゲームデザインやアクション部分のディレクションを担当している。
- 大阪コンシューマー マネージャーイッキ
- 複数のゲーム会社でエンジニア、プランナー、ディレクターを経験後、2018年にサイゲームスに入社。『グランブルーファンタジー リリンク』に参加し、2019年からリードエンジニアとして技術方針の決定やワークフローの策定、エンジニア組織の整備に尽力する。2023年に大阪コンシューマーチームのマネージャーに就任。
『グランブルーファンタジー』の壮大な世界観を
コンシューマーのハイエンド3Dで再現
まずは『リリンク』がどのようなゲームなのか、ご紹介をお願いします。
ヤスユキ ブラウザゲーム・スマホアプリの『グランブルーファンタジー(以下、グラブル)』を3DCGで構築した、美麗なグラフィックと爽快なプレイ感の両立を目指したアクションRPGです。
原作である『グラブル』の2Dイラストを3DCGで表現するにあたって、どんなことを意識して開発したのでしょうか。
ヤスユキ 3D空間のどこから見ても『グラブル』の美麗なイラストを再現することを特に意識しました。例えば布がひらひらとしているデザインの服は、3Dできれいに見せようとすると処理負荷がかかってしまうのですが、それでも原作の世界観を損なわないことを第一に考えて丁寧に描写しました。
長髪で、衣装に細かな装飾がついていたり、何重もマントを重ね着したりしているキャラクターたちを、エフェクトも派手でかっこよくして、さらにはマルチプレイで4人同時に動かしながら……などなど、処理負荷がかかるようなグラフィックでも地道に計算を重ねて処理できるようにしましたね。
ツトム ライティング(光の当て方)をなじませるのも難しそうでした。
ヤスユキ そうですね。2Dイラストであればライティングを一つに決められますが、3D空間ではプレイヤーがカメラを動かす分、どこかのアングルだけで固定することができません。どのアングルから見ても『グラブル』の2Dイラストに見えるようなライティングやシェーダー(陰影処理)は、すごく難しかったです。
イッキ これはしゃべり出したら一生語れるやつですね(笑)。
ヤスユキ そうですね(笑)。背景も描き込みの密度が高い2Dイラストに寄せているので、キャラクターとなじませるためにオブジェクト(物体)のテクスチャー(色や模様)を手描きしています。それも、距離に応じて遠くなるほどディテールを抜いて遠近感を出したり、手描き風のモデルに切り替えたりといった工夫を大量に施しています。
ツトム エンジニアセクションとしても色々な工夫をしていましたよね。
イッキ 今の話にあったように、細かいところまで工夫を凝らしたグラフィックを保ちながら、いかに快適にプレイできるかを非常に意識していました。PlayStation®5やPlayStation®4、Steam®版と、それぞれのプラットフォームで最高のクオリティーを実現するための最適化を、最後の最後までやっていた覚えがあります。
特に力を入れたのはどんなところでしょうか。
イッキ 「ローディング速度の改善」と「ポッピング(※)への対応」です。 街を歩いている時や会話の演出に入ったときにポッピングが生じることは没入感を損ねてしまうため避けたく、それを極力目立たないようにしつつもロード時間が長くならないよう調整しました。「どうやって?」と言われると、地道なことをこつこつ積み重ねていったのですが、これもしゃべり出すと一生語れてしまいますね(笑)。
※ 3D空間上でカメラを動かした際に見えるオブジェクト(建物や人)が、ばらばらと時間差で表示される現象
『リリンク』は『グラブル』を遊んだことがない方でも楽しめることも特徴です。その特徴についても解説をお願いします。
ヤスユキ 『グラブル』のディレクター兼『リリンク』のゼネラルディレクター・福原と相談して、シナリオは原作の本編から独立したオリジナルの物語とすることで、新規の方でも気軽に始めやすくしました。元々『リリンク』を通して『グラブル』の世界観を世界に広めたい、ワールドワイドなIPに強化したいという想いもあったので、自ずとそのような特徴になりましたね。
アクションゲームとしても、初心者から熟練者まで楽しめるように意識したそうですね。
ヤスユキ はい。手触りの良さや遊びやすさは必須だと考えていました。特に『グラブル』のようなブラウザゲームやスマホアプリしか触ったことがない方でも、コントローラーのボタンを押すだけでかっこいいアクションを出せるようにしよう、というのが最初の取り組みでした。そこからアクションゲームに慣れ親しんだ世界中のユーザーのみなさんにも満足していただけるよう、キャラクターのアクションに奥深さを持たせ、やり込んだらとことんやり込める設計にしました。 初心者にはスティックで進行方向を入れるだけで遊べるアシストモードがありますし、上手くなると複雑な操作もできるので、間口は広く奥深い楽しさを実現できているのかなと思います。
自社開発に切り替えての再スタート
ゲーム開発と並行しながらのチームビルド
ここからはチームの体制づくりについて聞いていきます。2016年に共同開発としてプロジェクトを発表した後、2019年に自社開発に切り替わりました。当時のことを教えてください。
ツトム ゲーム開発だけでなく、採用、オフィス環境やチーム体制の整備など、多くを並行して行う必要がありました。 まず採用についてですが、自社開発に切り替わった2019年は、大阪サイゲームスは30名程度の規模感でした。『リリンク』を「最高のコンテンツ」にするには、大規模開発が可能な体制を構築することが何よりも急務です。そのため、東京から人事のスタッフに来てもらって、たくさんのスタッフの採用や育成を可能とするリクルート体制の強化から始めました。
イッキ 毎年「グラフェス」で『リリンク』のゲーム映像をお届けしていたのは、お待たせしているユーザーのみなさんに開発状況をお知らせすることが一番の目的でしたが、開発に興味を持ってくださる方へのリクルートも兼ねていたんですよね。
ヤスユキ はい。映像をお見せすることによって、「このゲームの開発に関わりたい」と関心を抱いた方に来ていただきたいという想いもありました。
ツトム ああいう、周年イベントで開発中のゲームを毎年発表し続けることってあまりないですよね。
ヤスユキ ないですね。それでも開発が進行中であると発信し続けることに、意義があると考えました。
人が増えていくにあたって、オフィスの拡充も必要になってきます。どのように対応しましたか?
ツトム 私は当時デザイナーだったんですけど、なぜかずっとオフィスを探していました(笑)。「ここで今自分が貢献できることは何か」を色々と考えて、ひたすら動き回っていましたね。一時期は徒歩10分圏内にオフィスを三つ点在させざるを得ないときもあって、我々は別々の場所にいながら『リリンク』の開発をしていました。
その後一つの拠点に集約したんですが、また色々と問題が出てきまして。例えばコンシューマータイトルの開発はかなりの電源を使うので、それを増やす必要があったんです。サイゲームスはコンシューマーの開発を始めたばかりだったこともあり、電源がどれくらい必要なのかも最初は予想が難しかったので、実際にやりながら必要に応じてその都度増強していきました。ただ、ビルの法定停電が年に一度しかなくて、そのタイミングを逃せば1年後まで電源を増やせなくなるので……なんてことも、バックオフィスのスタッフと相談しながら対応していました。
イッキ 電源の工事が大規模過ぎてちょっとうわさになってましたもんね(笑)。
ツトム そうでしたね。分電盤ごと増やす必要があったので。一つの回路で何席分対応できるのかなど、スマホアプリ開発とコンシューマー開発では必要な基準も変わってくるので一筋縄ではいかなかったんです。インフラエンジニアや機材周りに詳しいスタッフも東京から応援に来て、会社全体でバックアップしてくれました。
他にもメインPCやサブPC、PSの開発機を稼働させていると、オフィスがどんどん高温になる「熱問題」も発生してきて。あとは回線速度もですし、問題は次から次に出てくるので、いろんな部署の力を借りながら一つずつ解決していきました。直接ゲーム開発をするスタッフ以外も、「最高のコンテンツ」を作るために全力でサポートしてくれたのが心強かったです。
ヤスユキ ゲーム開発者とバックオフィススタッフの距離が近く、密に連携できるのはサイゲームスの良いところだと思います。
人が増えたりオフィスが広くなったりしていく中で、チームの体制はどのように強化していったのでしょうか。
ヤスユキ チームで作りたいものといいますか、「これだけの物量をこれだけの期間で作りたい」という計画は最初からありました。それを実現するために必要な人数や座組も考えていて、それにマッチするスタッフを配置していったかたちです。採用を強化したものの、なかなか埋まらないポジションもあったのですが、人事スタッフだけに任せるのではなく、大阪サイゲームス全体で採用に取り組んだおかげで奇跡的に各ポジションに人材が集まっていきました。
イッキさんはエンジニアの体制をどのように整備していきましたか?
イッキ エンジニアもヤスユキさんの動きと近いです。一言でエンジニアといってもいろんな専門性を持ったスタッフが集まっているので、例えばグラフィックエンジニアとコアシステムを担うエンジニア(※)が担う領域はどこまでなのかとか、最初は役割を整理していきました。
その役割も毎年少しずつチームが拡大するにつれて見直しを行い、役割変更やチームの再編成などのアップデートを繰り返し、長い時間をかけてより良いチームになっていった実感があります。
※ ゲームの基盤となるエンジンやシステムを設計・実装する役割を持つエンジニア
ヤスユキ いろんなバックボーンを持ったスタッフが集まったので、それぞれのやり方や文化がごちゃ混ぜになることもあり、みんながお互いを認め合いながら同じ方向を向いて開発する方法はかなり悩んだ記憶があります。
どうやって解決したのですか?
ヤスユキ 「THE PROJECT」というサイゲームスの行動規範があるので、会社としての方針を伝えるところから始めたんです。クリエイティブに関わる部分から人としての礼儀を重んじる部分までの指標が確立されていたことが、新しく合流したスタッフたちが同じ方向を向きやすかった最大の理由だと思います。
会社全体として浸透していた行動規範が役立ったのですね。『リリンク』のプロジェクトで掲げた規範はあったのでしょうか?
ヤスユキ 自社開発に切り替わったとき、ゼネラルディレクターの福原が『グラブル』をどうやって「最高のコンテンツ」として作っているか、開発マインドを講演のようなかたちでチーム全体に共有してくれました。新規合流スタッフにもそのときの映像を共有することで、みんながそのマインドに沿って歩めるようになったと思いますね。
チーム体制やオフィス環境の整備を進めていく中、自社開発に切り替わった翌年からコロナ禍に入りました。在宅勤務への対応が求められたと思いますが、当時を振り返ってどうですか?
ヤスユキ コロナ禍に入って間もない頃、会社全体として在宅勤務の環境整備が速くて強力だったので、そこは上手く進行したなという感覚です。また、むしろ在宅勤務を経たことによって、原則出社になった今も、各拠点にいるスタッフとオンラインミーティングをしたり情報共有したりするハードルがかなり下がった効果がありました。
ツトム 在宅勤務を経験したことで、オフィスで顔を合わせてものを作ることの重要性もあらためて認識できましたよね。
イッキ こうして振り返ると、開発を円滑に進める上で、開発当初やコロナ禍といった時々で全社的なバックアップを受けられたことが大きかったです。
ツトム ビジョンの「最高のコンテンツを作る会社」のとおり、サイゲームスは良いものを作ることを一番のプライオリティーにしている会社なので、開発に専念させてもらえたのだと思います。予算やスケジュールなども大事ですが、現場にはそれらよりもユーザーのみなさんを満足させる良いものを作ることが求められています。その分大変なこともありましたが、みんな楽しそうでした。
大阪コンシューマーの展望
『リリンク』から次の「最高のコンテンツ」へ繋げる
大阪サイゲームスでは、モーションキャプチャースタジオやフォーリースタジオなど、大規模開発に必要な設備が整ってきていますね。
ツトム そうですね。ハイエンドなゲーム開発で目指すのは世界市場なので、世界に通用する組織を作っていく上で、設備の充実は必要な投資でした。そこに対して経営陣が理解してくれ、それに見合う環境を整えることができました。オフィスを探しているときもすごい速さで経営陣が判断してくれましたし、ちゃんと納得感のある提案であればスピーディーに対応してもらえるのがサイゲームスの良いところですね。
設備が充実して『リリンク』をリリースした今、大阪サイゲームスの展望を教えてください。
ツトム すでに次のタイトルに着手していますし、複数のタイトルを並行して開発できる体制も整っています。『リリンク』を通して整備された体制や成長した人材が、次のタイトルや「最高のコンテンツ」に繋がっていくと思います。ただ、まだまだ人も必要な状況です。
最後に、今後どんな人に来てほしいかをそれぞれ教えてください。
イッキ 純粋にゲームが好きな方、開発に熱意を持っている方を歓迎しています。あとはその人なりの軸として得意分野を持っている方ですね。
ヤスユキ 同じような話になるんですけど、ゲームが好きでやり込んでいて、「ゲーム」を作りたい方ですね。本当に熱意があって最後までやりきる覚悟がある方に来ていただけたらと思います。それに加えて、リーダーポジションを任せられるような、チームをまとめられる方だとよりありがたいですね。
ツトム フットワークが軽くて行動力があり、牽引力もある方。周りに人が集まってくるような方。何か熱い想いを持っている方ですね。それから、「最高のコンテンツ」とは何かをちゃんと考え、その答えを自分なりに持っている方が良いなと。
やっぱりエンタメに関わっているので、人の人生や価値観に影響を与えるものを作りたいという想いを持って来ていただけたらと思います。
以上、『リリンク』開発者の座談会をお届けしました。サイゲームスは一緒に働く仲間を募集しております。この記事で興味を持った方は、ぜひ一度採用ページをチェックしてみてください。
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