マンガアプリとして最高を目指す 漫画事業部×モバイルアプリによる「サイコミ」再創刊のプロセス

サイコミは2016年5月に創刊し、アプリとwebでの展開からスタートました。初期はゲームのコミカライズ作品がメインでしたが、2018年11月の大幅リニューアルを機に、現在はオリジナル作品を中心に展開中です。リニューアルではコンテンツだけでなくアプリ自体を大幅に見直し、単なる「ビューアー」から「メディア」へと一新しました。開発に携わったのは、主に漫画事業部とモバイルアプリという2つの部署です。今回は、サイコミ再創刊でのアプリのリニューアルプロセスや展望を両部署の担当者に聞きました。

※サイゲームスの技術カンファレンス「Cygames Tech Conference」で発表されたサイコミ開発についてのご紹介です。本記事では担当者に再創刊についてあらためて説明してもらうとともに両部署がどのように連携したかを聞きました。

漫画事業部 サブマネージャーカズキ
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前職でコンシューマーゲームやモバイルゲームなどの開発に携わったのち、2013年にサイゲームスに合流。漫画事業部にてサイコミアプリの開発・運用チームの統括や各種イベント企画を担当している。
モバイルアプリ マネージャーゼンタ
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2015年にサイゲームスに合流。ゲーム以外のアプリ開発を手掛ける同部署でエンジニアの統括や他部署との連携、技術的な課題解決などを担当している。

サイコミが目指すマンガアプリとは

ゲーム会社が作るマンガアプリとして、創刊当初のサイコミが目指していたことを教えてください。

カズキ 漫画事業部は、「10年後、20年後のサイゲームスを支えるIP(※1)を作る」という目標のもとに立ち上げられました。ゲームと比べてマンガは制作サイクルが速いので、たくさんの作品をハイペースで生み出すことができます。ゲームで比較的長いスパンでIPを育てるのと並行して、マンガではより短いスパンでどんどん新しいIPを作っていこうという考えです。

※1 IP……Intellectual Property(知的財産)の略で、ライセンスビジネスの基盤となるコンテンツやキャラクターなどのこと

アプリそのものは、初めは「気軽に読めるマンガ配信サービス」をコンセプトに開発しました。具体的には、ストレスなくコンテンツが表示されること、スマホの向きが縦でも横でも読めることを意図しました。マンガアプリとしては後発だったため、とにかく間口を広くして認知度を高めようと考えたからです。

もう1つの大きな特徴は、すべてオリジナルのコンテンツを掲載していることです。マンガアプリというと通常は既存の作品や他社の作品を掲載する電子書店サービスのようなケースがほとんどですが、サイコミは自社IPを育てることがミッションなので、最初から自社の作品のみを掲載していました。完全オリジナルという点は現在も変わっていません。

ビューアーからメディアへと進化
初期版から再創刊までの変遷

サイコミを実際にリリースした際、手応えはどうでしたか? また何か課題に感じたことはありますか?

カズキ 初期はとにかくサイコミの存在を知ってもらうこと、コンテンツを読んでもらうことに苦心しました。ゲームの『グランブルーファンタジー』が大ヒットして、会社の知名度も上がっている時期ではあったのですが、サイゲームスがマンガも作っていることを知ってもらうのは簡単ではありませんでした。

無料であることでハードルを下げ、たくさんの人に読んでもらえるようになりましたが、継続して読んでくれるファンの方々を増やすことが課題だったのです。また、マンガの編集チームとアプリの開発チームが完全に分かれていて、マンガを制作しているチームの要望を具現化することがうまくできずにいました。

ゼンタ 運用していくうちに色々と知見が溜まっていき、改善すべき点が明確になっていきましたよね。

カズキ そうですね。そして、次第に「10年後のサイゲームスを支えるIPを作る」という目的を実現するには、漫画事業部やサイコミに大きな転換が必要だという認識が出来上がっていきました。

リニューアルが必要だと感じたのはいつ頃ですか?また、どのような改革が必要だと考えましたか?

カズキ 時期としてはアプリをリリースして1年くらいですね。大きなテコ入れが必要という認識が固まってきたのがその頃です。開発体制やコンテンツの方向性、そしてアプリの在り方そのものを大きく見直す必要があると考え、再創刊に向けて動き出しました。

アプリの在り方として、ビューアーからメディアへと変化する必要があると考えました。「アプリはマンガを見るための道具ではなく、アプリ自体が1つのコンテンツである」という考えに基づいて設計する必要があると。単にマンガを読むだけのアプリ=ビューアーではなく、マンガを主軸にアプリ自体を1つのコンテンツとして楽しむことができる媒体、サイコミ=メディアにならなければ、大きな成長はできないと考えたのです。

ゼンタ 同時に、開発・運用体制の見直し、スペシャルコンテンツの掲載、といったことに取り組みました。業務提携を行ったタイミングでもあったので、小学館の石橋和章(※2)さんにアドバイザーとして参加していただきましたよね?

※2 石橋和章氏……小学館のコミック配信サイト「裏サンデー」およびコミックアプリ「マンガワン」の初代編集長。2018年よりサイコミにアドバイザーとして参加

カズキ そうです。それに伴い、掲載作品の見直しを行いました。まずは「とにかく面白いマンガを作ること」をコンセプトにオリジナルの新作マンガを20~30作品ほど一気に作りました。
サイコミの場合は「人を感動されられるかどうか」を基準に、読んでいて楽しい、泣ける、笑える、切ないなど、どんな気持ちでも良いので、読者の方の心を動かせる作品を目指して新作漫画を作りました。そしてその作品を週刊連載というかたちで運営したのです。

再創刊にあたり、具体的にどのような部分を変更したのでしょうか?

ゼンタ 開発・運用体制の見直しとしては、それまでは編集チームと開発チームが分かれて作業していたところを、編集長をトップとする1つの編集部という体制に改めました。開発・運用を含めて編集長がサイコミの掲載内容に関する責任を負い、メディアとしての舵取りや判断を行います。また、編集チームが開発に直接関わるようになり、作品そのものだけでなく作品を「どう見せるか」という観点から、アプリの仕様について意見・要望を出すようになりました。作品づくりからアプリの開発・運用までを漫画事業部で一体となって進める開発が今まで続いています。
あまりにも当たり前になっていたので、この開発体制を一言で説明する言葉が無く、Cygames Tech Conferenceでは、この体制を便宜上、「ノンストップ開発」と呼ぶようにしました。

編集チームから要望があったのが、作品を先取りして読める「先読み」機能です。こうした、サイコミを読者のみなさんにより楽しんでもらう機能が、ノンストップ開発体制によって実現しました。

アプリの機能という意味では、他にもさまざまな取り組みをしました。例えば更新情報のプッシュ通知も、「最新話がリリースされました」といった更新情報のみの通知に加え、作品の内容に踏み込んだ「コンテンツとしての通知」も配信することにしました。読者の興味を引く文言を考えるのに最も適任なのは担当編集者なので、再創刊後は編集チームが通知文を作成しています。さらに、アプリに関連する数字を扱うデータ班も設置して、どんな通知文だと読者により興味を持ってもらえるかを日々分析できる運用体制にしました。

▲アプリ起動時に表示される通知

カズキ 開発については、他部署がゲームの開発・運用で得てきた知見を共有してもらい、サイコミにも積極的に活かすことにしました。ゲームとマンガアプリは一見別物のようですが、「ユーザーのみなさんに楽しんでもらう」というゴールは同じですし、それ以外にも共通する部分があります。

ゼンタ 例えば、開発からアプリの申請・リリースまでのスケジュール管理やユーザーアカウント連携といった機能の実装は、ゲーム開発のノウハウがそのまま使えます。その他に、アクセス急増時を見越した負荷対策、新OSやシステム変更への対応などについても、ゲーム開発側からアドバイスをもらいました。

再創刊へ向けた開発で感じた
チームワークを機能させるためのポイント

サイコミアプリ開発の中で感じた、サイゲームスのマンガアプリならではの面白さはありますか?

カズキ 先ほど述べた、ゲーム開発の知見を活かすという点はそうですね。それ以外にも、エイプリルフール施策として、サイコミアプリ内でゲームをプレイできるようにしたり、アニメーションを使った「おみくじ」を搭載したりなど、ゲームアプリで馴染みのある機能や施策を取り入れた部分は“サイゲームスらしさ”だと思います。マンガアプリとしては新しい試みでも、ゲームでの実績がすでにあるので、その実績を活用して機能を開発することができます。また、アニメーションの動きや見せ方にはゲームの知見を取り入れています。

▲サイコミ「おみくじ」の例

ゲームとは違った「ならでは」といえば他にもあります。例えば編集者が顔出しをしてさまざまな企画に挑戦する「サイコミコラム」というコーナーがあります。コラムは、サイコミに親しみを感じてもらうための施策として取り入れています。

▲編集者たちによる“体当たり”コラム

ゼンタ ゲームでは普段取り入れないような機能の実装も、エンジニアとしては良い経験になりました。今後、他のプロジェクトで同様の仕組みを取り入れたいという話が出たときに、我々の知見が少しでも役に立てばと思います。

部署間連携によって実現したサイコミですが、チームワークで重要だったことは何でしょうか?

ゼンタ 攻めと守りのバランスですね。事業部として、新しい施策を実施したいとき、その施策は本当に正しいのか、安全なのかと、会社として判断することも必要です。例えば、個人情報やセキュリティー面の懸念点がないか、どうしたら安全に実施できるかは、専門部署に相談します。部署内で完結するのではなく、情報を共有して関連部署と連携することが必要だと感じています。

カズキ 良いものを作るためには開発に集中できる環境が必要です。そのためには情報共有が迅速になされ、開発がストップしないことが大切だと思っています。その意味で、我々は週3回、漫画事業部のマネージャーが集まってミーティングを行い、コミュニケーション不足によって作業が停滞しないようにしています。

それから、開発以外の業務の効率化も重要で、漫画事業部では内部に経理担当を置いています。マンガは作品数が多く、デジタルと紙と複数の媒体があってそれぞれに制作コストが発生しますし、また過去作品も売れ続けるので、運用年数が長くなればなるほど支払い管理対象が膨大になります。そこで事業部内に経理を持つことで管理コストを下げています。これも会社の経理部門との連携で実現したことです。

サイコミ再創刊後の手応えと
今後実現していきたいこと

サイコミの再創刊でどんな手応えを感じましたか?

カズキ おかげさまで、再創刊後からDAU(1日あたりのアクティブユーザー)は右肩上がりで伸び続けています。今後もさらにたくさんの方に読んでいただけるようにしていきます。
また、サイコミは作品に1話単位でコメントを入れられるのですが、再創刊後はコメントの数が大幅に増えました。人気作品はアップ後2時間ほどで約3000件のコメントをいただくこともあります。たくさんの方々に感想をいただけることは編集部の大きな励みになっています。

ゼンタ 再創刊後にユーザーの方々が増えたため、負荷対策のためにサーバーの増強も必要になりましたし、データベースのメンテナンスも実施しました。エンジニアとして再創刊の手応えを実感した部分です。

今後、サイコミアプリをどのように改善していきたいですか?

カズキ アプリの改善はもちろんですがそれにとどまらず、サイコミの面白いマンガたちをいろいろな手段で読んでくれるお客さんを増やしたいです。例えば今年はアニメ化、実写化も実現しました。今後もさまざまなメディア展開にチャレンジしてサイコミの作品を読んでくださる方を増やしていきたいです。

ゼンタ 今以上に多くの人に楽しんでもらいたいですね。

カズキ あとは、創刊からずっと、ゲームの開発チームから色々と助けてもらったので、今度はサイコミの開発や運用で得たノウハウを社内に還元していきたいです。

ゼンタ そうですね。サイコミではゲームに取り入れていない機能をいくつか採用しています。そのような機能を導入したいプロジェクトがあったときに、我々の知見が少しでも役に立てばと思います。部署を超えて連携することによって、サイゲームスのコンテンツ全体のクオリティーを上げていけたらと思います。


以上、サイコミアプリの再創刊における、編集チームと開発チームの連携の事例をご紹介しました。このような部署間連携をすることによってクオリティーを高め、みなさんに最高のコンテンツをお届けできるように日々改善しています。今後もご期待ください。