ゲームの没入感を高める大切な要素に「環境音」があります。サイゲームスのサウンド部スタッフは、より良い環境音を録るため日々ロケに出かけています。ただ、たくさんの機材を運んでは細かいセッティングが必要になるため、ロケ現場では限られた時間の中で多くのパターンを用意することが難しい状況でした。そこでロケの効率化を図るべく、オーダーメイドのサラウンドバーを作りました。このオリジナル機材が出来たことで、ロケ現場でのセッティングが簡易になったといいます。環境音を作るサウンド部のスタッフに、特注サラウンドバーの誕生秘話を聞きました。

サウンド部ミツヒロ
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2018年に入社。コンシューマー・モバイルともにさまざまなタイトルの開発に携わりながら、サウンドスペシャリストとしてサウンド部の技術向上に努める。
サウンド部リクオ
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2019年に新卒入社。『プリンセスコネクト!Re:Dive』や『シャドウバース チャンピオンズバトル』に携わった後、現在は新規タイトルの開発に参加。

「そこにいるかのように」
風景を音で再現

まず「環境音」とは何か教えてください。

ミツヒロ ゲームのサウンドは大きく「楽曲」と「効果音」に分かれていて、環境音は効果音の中の1つです。
ざっくり言うと、ゲームの奥で流れている音ですね。その場の風景を音で再現し、空気づくりをするためのものです。

リクオ 木々のざわめきや川の流れなどの細かい部分で、自分がそこにいるかのように感じていただき、没入感を高めるのが役割です。

▲『GRANBLUE FANTASY Relink』の例。動画内で聞こえる風の音などが環境音です

環境音は、どのように作るのでしょうか?

ミツヒロ 自分たちでロケに行って実際の音を収録したり、効果音の素材集を基にPCで編集して仕上げたりしています。

リクオ 素材集とロケで録った音源を組み合わせる場合もありますね。

ミツヒロ ロケで録った音が常に優れているわけでもないので、使い分けが大事ですね。

ロケに行くのと素材集を活用するのと、それぞれメリットとデメリットはどんなところでしょう?

リクオ ロケに行くメリットは、狙った音が確実に録れることです。素材集だと不要な音が混ざって使えないことがあるので。デメリットとしては、ロケ先で録音中に飛行機が飛んできたり、人の多い場所ではいろんな雑音が混ざったりするので、良い音が録れるまで我慢大会になることです(笑)。
15分くらいじっとその場で音を聞きながら録って、別の場所でまた録って、それが終わるとまた別の場所に移動して……を繰り返しながら1日中録り続けています。

ミツヒロ ゲームの中ではたった20秒くらいのデータでも、何時間もかけて録っていますよね。ロケ地の検討も重要だし、1時間くらい外に出れば終わるような作業ではないです。
環境音は奥が深くて、例えば鳥の鳴き声なら、ゲーム内の世界観や季節に合うかを考慮しますし、ゲームの舞台としてリアルな場所が設定されている場合は、その場所での鳥の生態も加味して録音内容を検討することもあります。

これまで特に録るのに苦労した音は何ですか?

リクオ 2020年11月に発売された『シャドウバース チャンピオンズバトル』は日本のような風景が舞台で、その世界観に合った街の雑踏音を録るのが大変でした。「ロードノイズ」と呼ばれる車の走行音を録っていたのですが、街中でロケをしていると歩行者の足音や車のクラクションといった雑音が多かったですし、先ほど鳥の話も出ましたが、このときは鳥も鳴いてはダメでした。ありとあらゆる音を排除した環境音を録りたかったので、なかなか良い音が録れませんでしたね。

ミツヒロ そういう現場は一番キツイね(笑)。

リクオ 冬の寒い中、手を温めながら粘りました。

▲『シャドウバース チャンピオンズバトル』内で「ロードノイズ」の環境音が実装された箇所

では、PCで環境音を制作するメリットとデメリットも教えてください。

ミツヒロ PCでの制作は工数をかけず、手早く作業できるのがメリットです。素材集は自分たちのニーズに合った音は少ないですが、ある程度の邪魔な音は排除されています。ただ、市販されているものなので、同じ効果音がいろんなコンテンツで使われていることになります。独創性を出すためには工夫が必要です。

「欲しい音」はいつどのように判断するのでしょうか?

ミツヒロ プランナーから細かく要望が来ることもありますが、サウンド部のスタッフたちで見積もって動き始めることが多いです。ただ、ゲーム制作において音を付ける工程は後のほうで、背景やキャラクターの立ち回りといった絵的な要素が固まってこないと動きづらい面があります。
ゲームの試作段階では主に素材集から音を作り、本制作に入ったらピタリと合った音を付けるために何をロケで録るか検討することが多いですね。とはいえ、本制作でも素材集を使うことはよくあります。

「強度」「利便性」を両立
サラウンドバー誕生秘話

ロケで使うサウンド機材を特注したと聞きました。何を作ったのでしょうか?

ミツヒロ 4方向にマイクを付けるためのバーです。IRT-Cross方式(※)というサラウンド収録に特化した機材となります。

※指向性のマイクをそれぞれ25cm離し、4方向に向けるサラウンドの収録方式(収録はマイク1本だとモノラル、2本ならステレオ、それ以上がサラウンドになります)

▲サウンド部が特注した十字型のバー

このサラウンドバーは、どのように使うのでしょうか?

ミツヒロ 十字型になっているバーの先端に指向性のマイクをそれぞれ差し込むことで、IRT-Crossの収録ができます。
特注したサラウンドバーがないと、極端な話マイクスタンドを4本立てることになるので手間がかかり、そもそも正確に25cmを保つのも難しいです。

リクオ このサラウンドバーがあると必要な機材が減ってセッティングも簡単なので準備の時間が短縮され、現場で効率的に収録できます。

そもそも、なぜ特注のサラウンドバーが必要になったのでしょうか?

ミツヒロ サイゲームスがコンシューマーゲームにも力を入れる中、サウンド部の効果音を作っているスタッフから「ロケでサラウンドの環境音を録りたい!」と声が上がったのが発端でした。

サラウンド収録はマイクの本数や距離感によって録音方式が異なるため、どの方式で最適な音を録れるか検証するため長野県へロケに行きました。滝のある水辺や別荘地でたくさんの方式を試し、最終的に行き着いたのが先ほどお話ししたIRT-Crossです。
ただ、長野ロケでは市販品のバーで収録していたので何かとセッティングに手間がかかっていました。例えば、ステレオ収録のバーを組み合わせて4方向カバーし、サラウンド収録になるよう工夫していたんです。

リクオ 長野でのロケのテスト結果や課題を踏まえ、今後IRT-Crossを採用するにあたって専用のバーが必要になりました。市販品のバーもありはするのですが、より現場に最適化させるため「オーダーメイドでIRT-Cross専用のバーを作ろう!」となったんです。

どのように製造を進めたのでしょうか?

ミツヒロ まずは作ってくださる会社探しから始め、宝電機工業株式会社さんにご製造いただくことになりました。宝電機工業さんは、堅牢なマイクスタンドを作られていた株式会社高砂製作所さんから技術を受け継いだ会社なので信頼してお任せできました。

リクオ 実際に工場へ訪問して、細かく要望をお伝えしましたね。参考資料を用意して、そこからどう良くしていくかイメージを固めていったんです。あとは今までの収録方法や作業中の大変だった点もお伝えしました。

ミツヒロ IRT-Crossに対応するため25cmの範囲で金属をクロスさせるわけですが、強度を意識すると分厚いパイプを使うことになるし、ネジの数が増えてしまいます。ですが持ち運びやすさや作業のしやすさを重視したかったので、「強度を保ちたい」宝電機工業さんと「利便性を高めたい」我々の落としどころを探っていく感じでした。予算の都合もご考慮いただき、2019年の12月に発注して2020年3月に完成しました。

完成品ができたとき、どう思いました?

リクオ 手に取ったときに「これだ!」と感動しました。

ミツヒロ 長期の使用ができるように塗装までなされていて、良いものを作っていただけたなと満足しています。
宝電機工業さんのほうからも現場で楽しみながら作っていただけたような雰囲気が伝わってきて、一体感があり僕らもうれしかったですね。

▲サラウンドバー納品時の様子

使い心地はどうでしょうか?

リクオ とても便利なんですよ!最初にお話ししたように、ロケは荷物をたくさん抱えて長時間録音するので、気持ちも重たかったんです。それが特注品ならコンパクトで軽いし、セッティングもしやすいので、心身ともに楽になりましたね。

ミツヒロ 使ってみて「何でこんなに便利なものが今までなかったの?」と思いました。
普段ロケの計画をきっちり練るのですが、現場で場所を変えることは多々あります。そのたびに機材を片付けては移動し、また組んで……を繰り返すストレスが多いのと少ないのでは、収録した音の質も違ってきます。

リクオ 現場でより録音に時間を割けるので、いろんな音が録れるしクオリティーも上がりますね。

サウンド部は設備や機材の整備に力を入れている印象です。より音作りに専念できる環境になっているのではないでしょうか?

ミツヒロ 新しいスタジオや執務室が整備されて、働く環境は充実していると思います。その分、クリエイティブな作業に集中できていますね。

リクオ サイゲームスは、モバイルに比べてハードのスペックが高く、表現に幅を持たせられるコンシューマーゲームにも力を入れているので、「最高のコンテンツを作る」ために求められる環境がより高度になっています。サウンド部としても多方面で対応できるように、環境面を充実させている感じですね。

そういった社風を受け、まだ特注したサラウンドバーの導入前でしたが、『シャドウバース チャンピオンズバトル』は環境音にも力を入れました。サウンドの面からも没入感を高める工夫をしていますので、ぜひこれから環境音でも世界観を感じていただけるとうれしいです。


ゲームの没入感を高める環境音。その収録に適した機材がなかったとき「一から作ろう」とする姿勢に、「最高のコンテンツを作る」サイゲームスのスタッフらしさがありました。
また、 2人はサラウンドバーの制作に留まることなく、 今後ロケ以外の部分でも作業を効率化させていきたいと向上心は尽きない様子でした。

なお、宝電機工業さんにも制作時のことを振り返ってコメントをいただきました!

▼宝電機工業・ご担当者さんからのコメント
ご依頼をいただいたときは、「えっ!『グランブルーファンタジー』で有名な会社からの依頼!」と驚きました。
製品開発で打ち合わせを重ねるたびに、現場の方々のご苦労がひしひしと伝わってきました。少しでもその苦労が軽減されるように、機能と強度・作業性をバランスよく実現することに注力しました。特に苦心をしたのは、マイクの取り付けと固定の方法です。
製品を作り上げて一番印象に残ったことは、納品のときにいらしたサイゲームスのみなさまから「おーっ!」という声と拍手喝采をいただいたことです。その瞬間、開発での苦労が忘れられたのと同時に、満足のいただける製品ができたことを実感しとてもうれしく思いました。
このサラウンドバーをさまざまなロケ地でお役に立てて頂ければ幸いです。今後とも、宝電機工業スタジオ機器のご愛顧をよろしくお願いいたします。

サイゲームスタイトルをプレイしていただく際には、ぜひ「環境音」もお聴きください!

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