『Shadowverse』新リーダー誕生の裏側!カードバトルにおけるシナリオの役割とは

2022年で6周年を迎える本格スマホカードバトル『Shadowverse(以下、シャドバ)』。作品の世界観を彩るメインストーリーでは、2020年の「運命相克編」以降、新たな主人公たちにスポットを当て、「暗黒世界編」「時空流転編」を経て、今また新章に突入しました。今回はシナリオチームの担当者に、新リーダーが登場した裏側を聞きました。

シナリオディレクターリンタロウ
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2015年合流。『神撃のバハムート』のシナリオライターを経て2016年から『Shadowverse』に加わり、第9章以降のメインストーリーを担当。現在はTVアニメ『シャドウバース』シリーズの脚本といったゲーム以外の世界観も監修している。
シナリオリーダーリュウジ
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2017年新卒。『Shadowverse』のシナリオチームリーダーとして、メンバーのスケジュール管理やフレーバーテキストの執筆、コラボ施策の取りまとめなど、シナリオ関連の幅広い業務を担う。メインストーリー「天象旅籠編」からシナリオの執筆・監修も担当。

『シャドバ』の物語に新しい風を―
新リーダー誕生の経緯

『シャドバ』では長らくアリサを筆頭にした初期リーダーたちの物語が描かれていましたが、2020年8月に追加した「運命相克編」からは、バニー&バロンを筆頭にしたさまざまな新リーダーが登場しました。これはどのようにして実現したものだったのでしょうか。

リンタロウ 新しいリーダーたちの活躍を描こうというアイディア自体は2018年に「ギルド争乱編」をリリースする前から既に出ていました。ただ、最初の「災いの樹編」ではまだ「各キャラの最低限の性格は見せられたかな」くらいの段階だったので、一人ひとりがどんな人物なのかをもっと描くべきじゃないかと考えました。そこでこれまでと同じリーダーたちによる「ギルド争乱編」以降の物語が始まりました。

もちろん、今も初期リーダーたちのすべてを見せ切れたわけではないですが、「天地侵略編」で1つ区切りをつけることができたので、「運命相克編」から新しいリーダーたちを登場させることにしました。新しいリーダーに焦点を当てたのは、同じリーダーでシナリオを続けると新規のユーザーの方々が途中から入りづらくなってしまうという理由もあったからです。

リュウジ 確か「運命相克編」「暗黒世界編」の構想を練っているタイミングでは「ユリアスだけを入れ替える」という話になっていましたよね。

リンタロウ ああ、そうでした。ユリアスについては、「天地侵略編」までで特にキャラ性を書き切ってしまった感覚もあったので、これ以上続けてもこれまでのシナリオと同じようなものが生まれてしまうのかな、と。そこから、「ここまできたら、もっと新しいリーダーを登場させよう」(アリサはシナリオ内に登場)という話になっていきました。

▲「運命相克編」で初登場したリーダーたち
▲「暗黒世界編」で初登場したリーダーたち

『シャドバ』のストーリーはどのように作り上げていくのでしょうか。

リュウジ シナリオは基本的にはリンタロウさんが書いていて、それをシナリオチームでも確認しています。その上で、プロデューサーで最終監修者の木村(唯人)に監修してもらって完成するかたちですね。リンタロウさんは話のわかりやすさを意識しているような印象です。

リンタロウ 確かに、わかりやすさは大事にしていますね。『シャドバ』のシナリオは「見たことはあるけれど、食べたことはない」をテーマにしているので、あまり突飛すぎるものにしないようには気を付けています。

例えば、新リーダーが登場してからの「運命相克編」「暗黒世界編」「時空流転編」も複雑な話ではありますが、ここでは「運命」というテーマを「運命の弾丸」というモチーフで表現しています。フローゼスやアイシィレンドリング、ネクサスそれぞれに運命の弾丸が巡り巡っていく……というように色々と話が広がっていきますが、1つの一貫したモチーフがあることで、まとまりが出るように意識しています。

リュウジ 「運命相克編」以降のシナリオでは、それまでアリサが明るい性格だったためになかなかできなかったより暗い話もできるようになり、過去にないストーリー展開ができたように思います。よりダークファンタジーの『シャドバ』らしいシナリオだったのかなと。

ネタバレになるため詳細は省きますが、「運命相克編」「暗黒世界編」「時空流転編」では「ループ」もありました。このアイディアはどのように出てきたのでしょうか?

リンタロウ 新しいシナリオや世界観を構築していく中で、一部木村のアイディアももらいながら出てきた展開でした。

▲「運命相克編」で初登場した世界「レヴィール」は、西部劇のような街並みです

リンタロウさんはプロットを緻密に構成して書くのではなく、キャラクターを中心としてシナリオを書いていくそうですね。

リンタロウ はい。書きながらキャラクターの理解を深めていくため、書いていく中でキャラクターの性格や設定が大幅に変わることもしばしばあります。例えば、セリーナは元々「おてんばな賞金稼ぎ」という設定でしたが、執筆の段階で「マイザーがレヴィールの表を、セリーナがレヴィールの裏を見せる」という流れになり、現在のようなキャラクターになりました。

▲教会で子どもたちの面倒を見るセリーナですが、ある秘密を抱えています

リンタロウ バニー&バロンだと、バロンは発注段階では「大衆からは義賊扱いされているが本人にその気はない」と書いていたのに、最終的には義賊を目指すキャラクターになりました。

リュウジ 真逆ですね(笑)。

リンタロウ 基本的にはキャラクターたちが自由に動いて物語を作っていってくれるような感覚で、ストーリーの制作を進めています。

「多面的に見せる」
新リーダーのキャラ造形

お二人が特に印象的だったキャラクターやシーンを教えてください。

リュウジ 個人的にはゼシルウェンシーが生き生きとする「運命相克編-最終章-」が印象的でした。『シャドバ』では「悪役でも人気が出る」ことがあって、ベルフォメットやゼシルウェンシー、アイシィレンドリングはまさにそうですよね。敵役が生き生きしているのはリンタロウさんのシナリオの特徴だとも思いました。

リンタロウ 確か、ゼシルウェンシーは追加発注というかたちで出すことにしたんですよね。

リュウジ そうですね。最初は街を牛耳っているタイタンたちだけを敵として考えていたのですが、タイタンは動かしづらいというか、「あまり動かしてしまうと話が破綻する」という話になって。そこでリンタロウさんから、自由に動けるキャラとして、ゼシルウェンシーを配置する提案があったと思います。ある日発注書にキャラが1人足されていて、「このキャラが物語を動かすんだ」と話してくれた記憶がありますね。

リンタロウ 僕の場合は……どのキャラクターもとても大切ですが、強いて挙げるならバロンです。バロンは、戦闘能力の高さではなく、覚悟や精神の強さで格を保つようなキャラクターだったため、ストーリー中の立ち位置や行動が難しかったように思います。

キャラクターではなくシーンとしては、初めて選択肢が登場したことも印象的でした。

リュウジ 選択肢はリンタロウさんがずっと追加したいと話していましたよね。

リンタロウ はい。今回のシナリオのテーマが「運命」であり、「運命は自分で選び取るもの」というイメージを持っていたため、選択肢を作るタイミングとしてはピッタリだと考えました。その上で、選択肢自体にインパクトを持たせるため、「偽の選択肢」や「今は選べない選択肢」を用意しました。

レヴィールが舞台の話は、章タイトルの最後の単語が次の章のタイトルに続いていくしりとりのような言葉遊びがありますね。

リンタロウ この辺りは、リュウジさんが考えてくれました。

リュウジ 章タイトルを西部劇っぽくしようということでカタカナを使おうと思い、それなら今回の仕掛けができるなと思ったんです。そこでリンタロウさんに相談して進めました。たくさんのユーザーの方々が気付いてくださってとてもうれしかったです。早く気付かれすぎても、ループするシナリオを台なしにしてしまうと思ったのですが、良い塩梅にできたのかと思います。

▲「時空流転編」の例。16章「ターニング・ポイント」、17章「ポイント・オブ・ノー・リターン」とタイトルの言葉が続いていきます

「運命相克編」から新たなリーダーが追加されていったことで、今では『シャドバ』の登場キャラクター数もかなり多くなっていますが、キャラクターを魅力的に見せるために意識していることはありますか?

リンタロウ 多面的なキャラクターを意識しています。「かっこいいだけ」や「可愛いだけ」だけではなくて、「かっこいいけど情けない側面もある」といったようにいろんな一面を描ければと考えています。

実際の人に魅力を感じる瞬間も、同じようなことが多いですよね。

リンタロウ そうですね。1人のキャラクターからも、「可愛い」「怖い」「かっこいい」など、ユーザーさんごとにさまざまな印象を感じ取ってくれれば、とてもうれしいなと思っています。

リュウジ 「暗黒世界編」だと、セッカは見た目こそすごく可愛いキャラクターですが、実際は気の強いキャラクターになっていましたよね。そういうギャップもリンタロウさんっぽいというか、キャラの魅力を高めている部分だと思います。

「天象旅籠編」で新章に突入!
『シャドバ』のシナリオの役割とは?

今後の『シャドバ』のシナリオはどんなものになりそうですか?

リンタロウ 現在「天象旅籠編」がスタートしていますが、実はここからリュウジさんを中心にシナリオチームのメンバーたちが書いていくことになりました。

リュウジ 具体的には、シナリオチームのメンバーに色々と書いてもらって、それを私がまとめています。アリサや新リーダーたちによる話が一区切りとなり、また新しいストーリーが始まっていくのでご期待ください。また、今後もアリサたちを筆頭にこれまで出てきた色々なキャラクターたちも登場予定なので、楽しみにしていてくださるとうれしいです。

▲「天象旅籠編」の舞台「アメツチ」

今までシナリオが続いてきたことでできるようになったこともあれば教えてください。

リュウジ ユーザーのみなさんが応援してくださるおかげで、「スチルの追加」や「選択肢」など、シナリオ面でできることが増えた部分はあるかと思います。

リンタロウ その他にも、登場キャラを増やせるようになったことで物語として描ける幅が大きく変わりました。また、演出面に関しても、スクリプト(会話シーンの演出)を組むスタッフから提案をもらうなどしながら強化が図れました。今回だと運命の弾丸を渡すシーンはスクリプト班の協力で演出を追加してもらえたので、ぐっと伝わりやすくなったかと思います。

カードバトルにおけるシナリオの役割とはなんだと思いますか?

リンタロウ 『シャドバ』のシナリオはカードパックに紐付くもので、「カードゲームを面白くするためのもの」です。物語があることで、カード1枚1枚により魅力を感じていただけるのだという想いです。そのため、『シャドバ』においては「カードラインナップが魅力的になること」が第一で、極端な話、いくら面白いシナリオを作っても、それをカードラインナップにできないなら意味がないと考えています。レヴィールの世界観を西部劇にしたのは、ただシナリオとして面白いだけでなく、カードパックのイラストとして表現しやすいという理由もありました。

シナリオを面白くすることは、“カードゲーム”を面白くすることにも繋がるのですね。

リンタロウ はい。また、カードゲームが苦手なユーザーのみなさんにも、シナリオを楽しんでもらうことで『シャドバ』に愛着を感じてもらえればと考えています。

ユーザーのみなさんに向け、メッセージをお願いします。

リュウジ 「第一部完」といった趣のあった「時空流転編」ですが、『シャドバ』のストーリーはまだまだ続いていきます!「天象旅籠編」からはまた新しいシナリオチームの体制で頑張っていきますので、今後とも『シャドバ』のシナリオをどうぞよろしくお願いします。

リンタロウ ユーザーのみなさんの声も聞きながら創作ができることは、運用タイトルのシナリオを書く醍醐味でもあるので、これからもみなさんの色々な意見を聞かせてもらえたらと、とてもうれしいです。
今後もメインシナリオのカードパックだけではなく、オリジナルテーマのカードパックについても企画を進めていきますので、引き続き『シャドバ』を楽しんでいただければ幸いです。


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