【Shadowverse4周年記念】“物語”でカードゲームをより豊かに シナリオチームの発想法
6月17日にサービス開始から4周年を迎えた『Shadowverse(以下、シャドバ)』。この作品の大きな特徴の1つである独特の世界観には、シナリオチームの仕事が大きく貢献しています。プロデューサーの木村唯人とシナリオチームの磯崎輪太郎に、カードゲームで物語を描くことの大切さや、その発想法を聞きました!
- 『Shadowverse』プロデューサー木村 唯人
- 東京大学大学院卒業後、カナデン、シリコンスタジオを経て、2011年に代表・渡邊耕一とともに、サイゲームスを設立。『神撃のバハムート』をはじめ、『グランブルーファンタジー』『Shadowverse』『プリンセスコネクト!Re:Dive』のプロデューサーを務める。2019年4月より専務取締役に就任。経営と並行して、各代表タイトルのプロデューサーとして、ゲーム開発にも深く携わっている。
- 『Shadowverse』シナリオディレクター磯崎 輪太郎
- 2015年にシナリオライターとしてサイゲームスに合流し、『神撃のバハムート』のライターとしてイベントシナリオを手掛ける。2016年に『Shadowverse』開発チームに合流し、第9章以降のメインシナリオを担当。現在はシナリオディレクターとして、TVアニメ「シャドウバース」の脚本をはじめとする各種シャドウバースIPのテキスト作成、世界観の監修を行っている。
カードゲームは「自分の内面と向き合うもの」
『シャドバ』の物語の誕生秘話
『シャドバ』には『神撃のバハムート』のカードが多数登場しますが、一方でメインストーリーとして、かなり読み応えのあるオリジナルのシナリオが用意されています。企画立ち上げの際、ストーリーについてはどんなプランがあったのでしょうか?
木村 『神撃のバハムート』はカードゲームRPGですが、『シャドバ』はデジタルカードゲームなので、ゲームのプレイにストーリーが大きく影響するわけではありません。ですが、カードに能力やテキストがついていても、その背景を知らなければ、それらは無味乾燥な文字の羅列になってしまいます。そこでカードのバックグラウンドになるものが必要だと思い、新たにストーリーを作ることにしました。
磯崎 カードゲームにストーリーがあることは、カードパックを更新していくうえでも重要な要素です。例えば、1つのカードゲームが10年、20年と続くと、どうしてもカードの被りが出ていたり、ネタ切れを起こしたりしてしまいます。ですが、ストーリーが続いていけば、その物語をテーマに新たなカードを考案できます。ゲームを長く愛していただくためにも、物語は必要不可欠だと考えています。
シナリオチームは「見たことはあるけれど、食べたことはないもの」を目指して、『シャドバ』のストーリーを作成しています。手に取ってもらいやすいものでありつつ、読むと違いを感じてもらえるようなものが、『シャドバ』にとっての理想のストーリーだと考えています。
では、具体的にメインストーリーがどのようにして形になったのかを教えていただけますか?
木村 まず僕からは課題として、「リーダークラス8人それぞれのストーリーが必要だ」という話をしました。8人を等価の主人公として扱うためにも、全員を並列に扱った群像劇という形になったんです。
また、『Shadowverse』の「シャドウ」は「闇」「影」といった意味で、「バース」は「ユニバース」(「宇宙」「世界」)にも含まれる単語です。そして、カードゲームは、自分の感情をコントロールしたり、一つひとつの手が自分に返ってきたりするという意味では、「自分の内面/自分の世界と向き合うゲーム」です。
そういった意味で、「それぞれのキャラクターが、自分の内にある悩みや、抱えきれない何かに向き合う」という、「災いの樹編」のコンセプトが生まれました。彼らの物語が時として重なり合うことで、最初はバラバラだった8人が次第に協力して「管理者」に立ち向かう――。この辺りまでが、初期から想定していたことですね。「災いの樹編」でそのストーリーが一区切りし、「ギルド争乱編」以降は、また新しい物語が始まっています。
「ギルド争乱編」では、物語の舞台となるイズニア国が5つのギルドに分かれていて、そのギルド同士がさまざまな形で絡み合うことで物語が進んでいきました。磯崎さんは、どんなことを意識してシナリオを書いていったのでしょうか?
磯崎 1つは、それぞれのキャラクターをより掘り下げるために、「『シャドバ』のストーリーのあり方」というものを改めて再構築することです。そのため、まずは「災いの樹編」と近いファンタジー的な雰囲気を持つイズニア国を舞台にして、さまざまな登場人物との関係の中でメインキャラクターの魅力をあらためて伝えていくことにしました。
メインキャラクターたちが「自分の内面に向き合う」ことがテーマだった序盤とは対照的に、「ギルド争乱編」以降は、周囲の人物との関係性に重きを置いているのですね。
磯崎 そうですね。そこから「機械反乱編」では機械と人、続く「自然鎮魂編」では自然と人との関係性を描いていき、その2つが「天地侵略編」でひとつにまとまる構成です。
物語が続いていく中で、登場人物が次第に増え、キャラクター同士の関係性が構築され、ストーリーがさらに深みを増していったように感じます。中でも特に印象に残っているシーンやキャラクターはありますか?
木村 個人的には、イザベルとエレノア、ルナとエンネア、モノとユリアスのように、登場人物の間にコンビのような関係性が生まれていくシーンに、印象的なものが多かったように感じます。ルナとニコラもそうですよね。
磯崎 どのキャラクターについても思い入れがあるのですが……強いて挙げるとすれば「機械反乱編」から登場するベルフォメットです。この頃から同時に「天地侵略編」の展開も考えていたので、「機械反乱編」の時点で「このキャラクターを倒したい」と思ってもらいながらも、同時に「ベルフォメットの言っていることも一理あるな」と、どこかでみなさんに共感してもらえるように意識してキャラクターを構築しました。
「天地侵略編」のストーリーは最終的に「心」が大きなテーマになっていましたが、そこに向かうためにも、ベルフォメットの描写が重要だったのですね。
磯崎 はい。ベルフォメットは心を否定していながら、自らの心に振り回されているキャラクターです。「人間らしさの象徴」としてストーリーでイキイキと活躍してくれました。
膨大な設定と工夫が生む
各カードと物語の結びつき
メインストーリーのシナリオの話を聞くだけでも緻密に組み立てられていることが伝わりますが、カードゲームとしての側面にも、シナリオチームが与える影響があったのではないかと思います。そもそも、磯崎さん含むシナリオチームはカードゲームにおいて、どんな役割を担っているのでしょう?
磯崎 シナリオチームはメインストーリーやフレーバーテキストを制作しているだけではなく、毎回のカードパックのテーマ考案、カードラインナップ作成、イラスト発注と監修、PV構成、ナレーション作成などさまざまなタスクを担当しています。 ただテキストを書くだけではなく、キャラクターたちをユーザーさんに届けるために、多くのセクションと協力してタスクを進行しています。
カードをデザインする作業はどんな工程で進められるのでしょう?
磯崎 TCGプランナーチームがカードのラインナップに込めた魅力や意図を汲み取ってくれるので、シナリオチームから能力に関して何かを言うことは少なく、そのまま進めることが多いです。シナリオチームが口を出し過ぎるとゲームバランスが崩れてしまいますし、大切なのは、あくまでカードゲームとして面白いことですから。
木村 僕は全体を見て、各チームですれ違っている部分を見つけたり、キャラクターの能力やキャラクター間の関係性で噛み合いが上手くいかないものが出てきたら、そこのバランスを取ったりということをしています。僕としては、理論的に正しいかだけでなく、「プレイする人がどんな気持ちになるか」という感情の部分も大事だと思っています。
例えば、 メインストーリー「自然鎮魂編」に登場するキャラクターのベイリオンとヴァイディは対立する兄弟ですから、スタッツ(※カードの攻撃力、体力、コストのこと) の面でも両者が相打ちになるように考えられています。
「能力」と「フレーバーテキスト」に関して、それぞれカードとして思い出深い例を教えてください。最初に、「能力」面ではいかがですか?
磯崎 まずはウィッチクラスの《開闢の予言者》ですね。このカードは元のコストがコスト1からコスト10までのカードを出していくことで初めて場に出るカードですが、その様子が、徐々に予言が進んでいくような雰囲気と上手く噛み合ったのかな、と思います。
磯崎 また、ニュートラルクラスの《ハンサ》も思い出深いカードです。《ハンサ》はもともと『神撃のバハムート』での設定として、「相手の心を映し出す鏡」という要素があったので、その部分が「相手の攻撃力を自分のものとして映し出す」という能力で表現されています。
「フレーバーテキスト」の場合はいかがでしょう?
磯崎 フレーバーテキストの場合は、そのカード自体を好きになってほしい、という気持ちから、どのテキストも1枚ずつ、時間をかけています。どのカードも「パックの目玉になってほしい」と思いながら書いているので選ぶのがなかなか難しいですね……。
ロイヤルクラスの《トランプナイト招集》では、イラストで3人の騎士が描かれ、「ダイヤの奴はヘマして首を切られたらしい。」というテキストが添えられるなど、フレーバーテキストによってカードの魅力が広がる瞬間はとても多い印象です。
磯崎 実は《トランプナイト招集》は、最初にイラストを発注したときに本来4人のはずが間違えて3人になってしまったことから、フレーバーテキストを工夫したカードなんですよ(笑)。カードを差し替えてもゲームバランスに影響が生まれるので、その間違いを逆にフレーバーテキストに活かしたんです。
磯崎 また、第12弾カードパック「鋼鉄の反逆者(リベリオン)」以降は、クラスごとにカードパック内でのストーリーを練るところから構想しています。
例えば第15弾カードパック「アルティメットコロシアム」のビショップクラスのカード、《グランドナイト・ウィルバート》では、まずはウィルバートのいる世界についてのプロットや、ウィルバート自身の設定、ともに戦うエクリエル聖騎士団の設定を用意し、その資料の一部を切り取るという作り方をしています。
各テキストの裏には世には出ていない設定があるのですか……!
磯崎 はい。テキストボックスとだけ向き合って制作してしまうと、ユーザーさんに世界観の広がりを感じてもらえないと考えています。テキストを読んだときに、「このキャラクターはもしかして、こうなんじゃないか?」と想像してもらえるように心がけています。その想像に正解はなく、ユーザーさんの数だけ正解があると考えています。
また、第1弾から第3弾ぐらいまでは、まだフレーバーテキストの手法が確立されていなかったのですが、ネクロマンサークラスの《死の祝福》は、その中でも光っているテキストではないかと思います。ネクロマンサーらしい残酷さを伝えつつ、同じ能力のゾンビを3体出せる効果を考慮して、「右から順に、あなたの母親、あなたの父親、あなたの弟よ。…あら?逆だったかしら。」というテキストで、3体のゾンビに恐ろしい一面を加えています。
TVアニメから家庭用ゲームまで
ますます広がる『シャドバ』の物語
そして現在では、『シャドバ』の物語はTVアニメ作品にも広がっています。この作品ではゲーム内のメインストーリーとは大きく雰囲気が異なる、「『シャドバ』を遊ぶ子供たちの物語」が描かれていますね。
木村 『シャドバ』をアニメ化する際には、「『シャドバ』というカードゲームで遊ぶ人たちを描いたアニメ」と、「『シャドバ』のゲーム内の物語を描いたアニメ」の2種類の可能性がありますが、今回に関しては、『シャドバ』を幅広く、多くの方に遊んでもらうきっかけにしたいという想いもあり、前者を選びました。
磯崎 夕方帯の子ども向けアニメということで、脚本や構成を制作するにあたって、「王道から逃げない」ことを意識しました。アニメでは、ゲームとは全く違ったストーリーが展開されているのですが、共通点もあります。ゲームと同じく、「メインとなる7人のキャラクターたちがそれぞれ主人公である」ことを大切にしています。
木村 やはり、カードゲームをプレイするのは「人間」で、カードゲームは「コミュニケーションのゲーム」です。ですから、ただカードゲームを宣伝するアニメにするのではなく、キャラクターの内面や、人間について描くという意味でも、最初にお話しした『シャドバ』のDNAを受け継いでいると思っています。アニメの中に登場するカードの能力なども面白く感じながら観ていただけたらうれしいですね。
『シャドバ』はこの6月に4周年を迎えました。シリーズの今後について、お二人が今考えていることがあれば、教えてもらえますか?
木村 ひとつ言えるのは、色々と幅広く楽しんでいただけるように展開していきたい、ということですね。より幅広い年齢層や属性の方々――。例えば、親子でも楽しんでいただけるような、そんなコンテンツになっていけたらいいなと思っています。
磯崎 自分は、「キャラクターが幸せになってほしい」と思っているので、そのキャラクターが好きになってもらえる場所を、増やしていきたいと考えています。また、カードゲームには、対戦するだけではなく、カードを集めるという楽しさもあります。さまざまな方法で、多くの方に愛していただけたらうれしいです。
木村 『シャドバ』はみなさんのおかげで4周年を迎え、TVアニメ作品に続いて、サイゲームス初のニンテンドースイッチ用タイトル『シャドウバース チャンピオンズバトル』も2020年内の発売を予定しています。今後もどんどん進化を続けていくので、これからも『シャドバ』を楽しんでいただけたら、とてもうれしく思います。