『ウマ娘』制作事例公開!キャラクターの魅力を引き出すゲーム内映像のコンテづくり

ゲーム『ウマ娘 プリティーダービー(以下、ウマ娘)』には、TVアニメさながらの本格的な3Dアニメーションが随所に盛り込まれています。クオリティーに妥協せず、最高のコンテンツを制作するために『ウマ娘』ではプロジェクト内にコンテを専門に描くスタッフを集めた「コンテ班」を設置し、絵コンテやVコンテを制作しています。本記事では、『ウマ娘』のコンテ班の成り立ちや具体的な仕事内容、演出事例を現場で活躍するスタッフが解説します。

※サイゲームスの技術カンファレンス「Cygames Tech Conference」「ウマ娘 プリティーダービーのコンテ制作事例~コンテ制作専任チームの誕生とキャラクターを輝かせるコンテ術~」の動画の内容を基に、本記事では新しいコンテ制作事例もご紹介しています。

インタラクションデザイナーチーム コンテ班ヤスヒロ
gutenberg-examples
アニメ制作会社でのTVアニメの演出、絵コンテ制作、CG制作などを経て、2019年11月にサイゲームスに合流。アニメ制作で培った映像制作に関する経験やスキルを発揮し『ウマ娘 プリティーダービー』他さまざまなゲーム内映像のコンテ制作を手掛ける。サイゲームスのチームみんなで意見を出し合い、楽しみながらもこだわって良い表現を積み上げていく環境に魅力を感じている。
インタラクションデザイナーチーム コンテ班タケシ
gutenberg-examples
企業への所属やフリーランスとしてアニメやゲームの絵コンテ制作、撮影などに関わったのち、2019年6月よりサイゲームス作品のコンテづくりに携わる。幅広い映像制作の経験を活かし、『ウマ娘 プリティーダービー』『プリコネ!グランドマスターズ』など、多数のゲーム内映像のコンテづくりで多彩な演出を取り入れている。サイゲームスのチームでアイディアを出し合える風通しの良さや、演出におけるコンテの重要性への理解が、コンテ制作にとって良い環境を生み出していると感じている。

高品質なアニメーション制作に欠かせない
「コンテ」を制作する仕事

「絵コンテ」や「ビデオコンテ(Vコンテ)」は、アニメや映画などの映像作品を作る際の、シーンの流れを確認するための下書き・設計図のようなものです。アニメーションの制作スタッフは、コンテを基にレイアウトを決めたりキャラクターに動きを付けたりして、動画を作っていきます。

ゲームの『ウマ娘』コンテ班が制作する範囲は主に、キャラクターを取得したときやレース中に発動するスキルカットイン、メインストーリー中のストーリーレースのように、数分に渡るゲーム内ムービーです。

この他にもリリース前にはオープニング映像や、継承演出、ガチャ演出などのコンテを制作します。それ以降も、育成シナリオのオープニング演出といった、その時々の施策で新たに発生する演出のコンテを制作しています。

開発プロジェクト内にコンテの専門チームを置くことはあまり多くないと思われます。では、なぜ『ウマ娘』ではコンテ班を設置しているのでしょうか?それはひとえに、キャラクターの魅力を引き出すアニメーション映像を質・量ともに充実させるためです。

『ウマ娘』コンテ班の業務内容

コンテ班の業務内容についてご紹介します。コンテ班が作るのは、主にアニメーション映像を作るための設計図としての絵コンテ・Vコンテです。

■文字コンテ(字コンテ)

『ウマ娘』の場合、まずはアニメーション映像の内容をテキストで表現します。これはプランナーやシナリオライターが制作する場合が多いです。各シーンの内容や展開、セリフなど、盛り込む情報や注意点が記載されます。コンテ班はこの字コンテの情報を基に、大ラフや絵コンテ、Vコンテを制作します。

■アイデアスケッチ(大ラフ)

字コンテを基に、要素をシンプルに絵にまとめたアイデアスケッチ(大ラフ)をコンテ班で作成します。その大ラフを各セクションの担当者が集まる会議で共有し、意見を出し合って方向性を固めていきます。方向性が決まったら、絵コンテ・Vコンテの制作に入ります。

■絵コンテ

大ラフを基に、映像をどのような構図にするか、どのような動きを入れたり演出を加えたりするかを絵+テキストで表現したものが絵コンテです。担当者によって絵の描き方や演出の伝え方は個性がありさまざまですが、他のセクションにわかりやすく伝えることを大事にしています。一般的に、紙ベースのアナログで描く場合と、デジタル作画ツールで制作する場合がありますが、『ウマ娘』のコンテ制作ではデジタル作画で統一しています。

■Vコンテ(ビデオコンテ)

絵コンテの内容をさらに動画のかたちに落とし込み、映像の長さやタイミングをよりわかりやすい状態にしたものがVコンテです。2Dの絵にカメラワークを付けた簡易的な動画ですが、絵が切り替わるタイミングや尺が明確な映像になることで完成型をイメージしやすくなります。『ウマ娘』のコンテ班ではStoryboard Proというソフトを使ってVコンテを制作しています。

実は、『ウマ娘』の開発中のある時期までは、コンテ班は存在していませんでした。当初はプランナーやシナリオライターが、作りたいアニメーション映像シーンに関して文字で説明する「字コンテ」を基に、3DCGアーティストチームがアニメーション映像を制作していました。

3DCGアーティストチームに的確にイメージを伝える方法について試行錯誤を重ねていました。それを経て、さらなるクオリティー向上のためには、字コンテや口頭指示からプランナーやシナリオライターの意図を的確に読み取り、絵コンテやVコンテで表現する専門家がいたほうが質や量の面でも得られるメリットが大きいという認識が生まれてきました。

また、運用型のゲームである『ウマ娘』では「スピード感」も重要です。時間の経過とともに次々と新しいキャラやコンテンツが追加されていくため、アニメーション映像もハイペースで制作する必要があります。質と量を担保し、コンスタントに作り続けるためには、やはりコンテの専門家がいたほうがユーザーのみなさんへも良いものをスピーディーに届けられるのです。

上記のような理由から、『ウマ娘』の開発チーム内にコンテ班が設置されることになりました。「発注→アニメーション制作」という従来の過程から、「発注→コンテ制作→アニメーション制作」と、工程が1つ増えたことになりますが、トータルで見ると、このほうが効率的に高品質なアニメーション映像を制作できます。

『ウマ娘』コンテの制作事例紹介

ここでは、コンテの事例をご紹介します。

■[ビヨンド・ザ・ホライズン]トウカイテイオーと[エンド・オブ・スカイ]メジロマックイーンのスキルカットイン

TVアニメ第2期の展開に合わせて、ゲームでも新衣装のトウカイテイオーとメジロマックイーンが登場しました。これは、ガチャ画面やキャラクター解放時にも使用されているスキルカットイン演出の事例です。

それぞれ独立した内容でありつつも、2つを見たときに面白さが出るようにしようという意図で制作しています。2人とも別の場所にいて、やっていることも違いますが、芝居や要素がリンクする箇所を作ることにより、物語の中での2人の繋がりを表現しており、同時に再生するとそれがわかります。このときはトウカイテイオーとメジロマックイーンのコンテ制作を別々のスタッフが担当しており、連携しながら作られました。2人で異なるアイディアを出し合って融合させた事例です。

■[Make up Vampire!]ライスシャワーのスキルカットイン

「いつも不安そうで自信がなさそうなキャラクターがいきなり吸血鬼になったらどうなるか」という発想で作りました。ハロウィンらしい色遣いと、デフォルメを効かせた絵本のような演出になっています。細かいところでは、吸血鬼の象徴である「牙」がキラリと光る瞬間にライスシャワーの視線が牙に向いており、映像内のポイントが自然にわかるようになっています。このカットインはハロウィンの要素とライスシャワーの可愛さが伝わり、ユーザーのみなさんからも好評でした。

■[疾風迅雷]タマモクロスのスキルカットイン

雷がモチーフになっており、稲妻のようなスピード感を表現しました。絵を止めたままカメラワークで動きを見せるという、これまでのスキルカットインでは行っていなかった技法で、稲妻のように駆け抜けるタマモクロスを印象的に表現しています。前半のシルエット登場、後半の見栄ポーズも含め、カッコよさと強いケレン味が同居した演出を目指しました。

■[皓月の弓取り]シンボリルドルフのスキルカットイン

和装であることから流鏑馬(やぶさめ)をイメージした演出。的の数が史実でGⅠに勝った回数となっており、すべてを射貫きながら駆け抜けます。キャラクターや背景をかっこよく見せるために、短い尺の中で大きいアクションを見せつつも、見る人が混乱しないように画面構成しています。またチーム内でアイディアを出し合い、滝を横向きで走り、途中でカメラがロールすることで実は滝を駆け上っているというのがわかる仕掛けを足しました。この映像に限らず、スキルカットインではキャラクターをしっかり見せることを意識しています。このカットインでは、キリリとした表情から、最後は柔らかい笑顔で締めることでキャラクターの色々な表情が見えるように工夫しています。

冒頭で、絵コンテやVコンテはアニメーション映像を作るための設計図のようなものと述べました。ただし設計図といっても、ディテールまできっちりと指定した仕様書ではなく、その映像で表現したいことを3DCGアーティストチームや他のセクションが直感的に理解し、イメージを膨らませやすくするための材料といったほうが近いかもしれません。スタッフ間でイメージを共有しつつ、それぞれが専門スキルを発揮して、成果物が最高のクオリティーになることが理想です。コンテ班の仕事は『ウマ娘』の世界観を、アニメーションというビジュアルに落とし込むための橋渡し役と言えるでしょう。

コンテ班が大事にしていること
今後の可能性

この仕事の面白さは、リリースしたものがすぐにユーザーのみなさんの手に届き、どのように感じてもらえたかがすぐにわかるところです。反響が直に返ってきますので、緊張感があるところでもあります。ストーリーを描くだけでなく、キャラクターやレースの迫力、『ウマ娘』が存在する世界観をユーザーのみなさんに伝わるかたちで、かつ魅力ある演出を構成することが大事になります。

事例でご紹介したようなコンテを描く上で、コンテ班では次のことを大切にしています。

■最適解をチームで考える

1つのゲームの中でも、その映像が使われる箇所によって、求められる「良い映像」は異なります。最適解をその都度試行錯誤する……という姿勢がゲーム内の映像を作る上では、非常に重要な考え方です。
コンテ班では、担当者がアイディアや演出をじっくりと考えて作業する時間ももちろん確保していますが、チーム内で共有し、みんなで意見を出し合って最適解を見つけていくこともとても大事にしています。

■さまざまな経験を表現へ

『ウマ娘』のコンテ班には2Dアニメーション、マンガ、特撮などのさまざまな経験を持つスタッフがいます。各分野が得意とする表現方法をアニメーションに活かし、印象的な絵を作ることを大事にしています。
制作物のメイン担当者以外のメンバーも思いついたイメージや演出論を共有してくれるので、1人で制作するときよりも沢山の発見や刺激を受けることが出来ます。そうした交流を気軽かつ活発にチーム内で行うことで、楽しみつつもより良い表現を生み出せるように心がけています。

一見、映像とは関係ない経験もアイディアの種になることもあるため、チーム内では定期的に雑談の時間を設けるといったコミュニケーションやインプットの機会を作っています。

■キャラクターへの理解

キャラクターの感情表現や行動の描写に説得力を持たせ、実在感を表現するためには、キャラクターへの深い理解が必要です。実馬のエピソードやレースなどの史実を調べたり、競馬をモチーフとした他の作品などに触れたりして、どういったところが人々に愛され、心に残ってきたのかを考えています。競馬文化を学んで得た知識や感じたことがスキルカットインやストーリーレースで活かされています。

■デジタルツール操作のサポート

現在、コンテ班では主に下記のツールを使用しています。

  • Storyboard Pro……絵コンテ・Vコンテ制作に特化
  • Adobe系(After EffectsやPhotoshop)……画像、映像編集
  • Unity(ゲーム開発環境)

ツールを触ったことがない方でも1~2か月程で、業務に必要なソフト操作に慣れていく印象です。また、ツールを使ったことがない人には社内で操作方法を教えるといったサポートもあります。
デジタルツールの使用は効率化やイメージ共有には便利ですが、これはあくまで表現するための道具です。道具が使えることももちろん必要ですが、魅力あるアイディア、演出イメージを人に伝えられる、一緒に考え相談できることが一番大事だと考えています。

サイゲームスは『ウマ娘』や『プリンセスコネクト!Re:Dive』など、映像表現をふんだんに使用したゲームを作っています。アニメはこれらの作品の魅力を支える大きな要素であり、今後もゲーム内のアニメの重要性は増していくと考えています。現在『ウマ娘』のコンテ班ではアニメ、映像業界出身のスタッフが活躍しています。アニメ作品や映像作品のコンテを描くスキルを持つ人がゲーム開発にもっと増えていけば、ゲーム内の世界をより豊かに表現でき、今よりも更にユーザーのみなさんの心を捉えられると考えています。

最高のクオリティーを実現するために、楽しみながらも妥協せずコンテ制作に打ち込める環境がサイゲームスにはあります。チームで話し合いながら新しい表現に挑戦できる風通しの良さもあり、多種多様な経歴を持つスタッフが活躍しています。

映像演出経験があり、ゲーム内映像のコンテをチームで制作することに興味がある方がいましたら、ぜひご応募ください。

アニメーションデザイナー/絵コンテ担当/東京/の募集要項

下記フォローページにて、本記事でご紹介したものの他にもコンテの事例(オープニング、ストーリーレース、スキルカットイン、カメラ付け)やコンテ班についての情報を掲載しております。ぜひご覧ください。

Cygames Engineers’ Blog
【Cygames Tech Conference フォローアップ】ウマ娘 プリティーダービーのコンテ制作事例 ~コンテ制作専任チームの誕生とキャラクターを輝かせるコンテ術~