グラブル10周年記念オーケストラコンサート「GRANBLUE FANTASY ORCHESTRA -SYMPHONY IN BLUE-」 作編曲家・成田勤さんと担当者が振り返る

2024年に10周年を迎えた『グランブルーファンタジー(以下、グラブル)』。ゲームを彩る楽曲の数々を演奏するコンサート「GRANBLUE FANTASY ORCHESTRA -SYMPHONY IN BLUE-」が、2024年9月21日(土)、9月22日(日)に東京ガーデンシアターにて開催されました。
『グラブル』では8年ぶり2度目となるこのオーケストラコンサートについて、『グラブル』の音楽を長年担当し、奏者としても出演した作編曲家・成田勤さんと、サイゲームスの担当者たちにインタビュー。企画が立ち上がった経緯や選曲、演出などの話とともにコンサートを振り返りました。
- 作編曲家成田 勤 さん
- 東京都出身。幼少の頃よりピアノ、後に吹奏楽・合唱・ロックバンド等を経験し、作曲を16歳より独学。現在、フリーランスでの各種音楽制作を行う一方、バンド「Stella Magna」で全楽曲の作編曲・キーボード・ギターを担当。また、音楽大学をはじめとした各種講演活動も行っている。サイゲームスタイトルでは『グランブルーファンタジー』『グランブルーファンタジー ジ・アニメーション』『グランブルーファンタジー ヴァーサス』『グランブルーファンタジー リリンク』などの楽曲制作に携わる。
- 『グランブルーファンタジー』オーケストラコンサート統括
- 『グランブルーファンタジー』10周年記念「GRANBLUE FANTASY ORCHESTRA -SYMPHONY IN BLUE-」の統括・総指揮を務める。
- 『グランブルーファンタジー』オーケストラコンサート担当
- 2016年にサイゲームスへ新卒入社。『グランブルーファンタジー』10周年記念「GRANBLUE FANTASY ORCHESTRA -SYMPHONY IN BLUE-」の企画・映像演出の制作などを務める。
『グラブル』10周年の年についに叶った
8年ぶりのオーケストラコンサート



「GRANBLUE FANTASY ORCHESTRA -SYMPHONY IN BLUE-」の企画はどのようにして立ち上がったのでしょうか?
オーケストラコンサート統括(以下、オケコン統括) 『グラブル』は2024年に10周年を迎えました。記念の年にユーザーの方々が喜んでくれる大きなイベントをやろうということで、夏に「グラブルEXTRAフェス2024」を4会場で開催し、「その次に何をやろうか?」と考えたときに、秋といえば音楽の季節だなと。
8年前にもオーケストラコンサートを開催しており、その後成田さんから「また、オーケストラコンサートをやりませんか」とお話をいただき、『グランブルーファンタジー』シリーズのクリエイティブディレクターの福原が「ゲーム音楽をオーケストラ演奏で観賞できる文化は素晴らしい」といった話をしていたこともあって、この機会に開催するならオーケストラコンサートが良いのではという流れになりました。
成田 これまで『グラブル』の楽曲ではかなり多彩なものを作ってきていて、オーケストラで演奏して映える音楽も揃っています。8年前のコンサートの演奏も非常に素晴らしかったのですが、それからまた年月を重ねて楽曲が増えてきたので、「この曲もいつか演奏する機会があったら……」と思い描いていたんです。その希望を2024年の10周年のタイミングでついに叶えることができました。
コンサートのキービジュアルには、『グラブル』を彩る様々なキャラクターが登場していますね。

オケコン統括 キービジュアルに描かれているのはビィとルリア、あとはサンダルフォンやユニ、シエテ、ガレヲン、カシウス、オロロジャイアなど、歴代の周年イベントに関係するキャラクターたちです。それぞれの担当楽器はキャラクターのイメージに合わせつつ、管楽器だけに偏りすぎないようになど、音楽的なバランスも考えながら決めました。
オーケストラコンサート担当(以下、オケコン担当) 余談ですが、今回コンサート会場で上演前後や幕間に流れるアナウンスもこれらのキャラクターに担当してもらいました。ルリアやビィ、団員たちがそれぞれ個性豊かにオーケストラコンサートを楽しむ様子などを当日の会場で楽しんでいただけていたら、うれしいです。
コンサート会場ではオリジナルグッズが販売されましたね。これらのこだわったポイントなどを教えてください。
オケコン担当 まずはイベントの定番のパンフレットやTシャツ、タペストリーなどを揃えつつ、オルゴールなどオーケストラらしい音楽グッズも用意しました。また、今回のコンサートでは『グラブル』史上初となるアナログレコードも販売しました。ジャケットデザインも『グラブル』10周年らしい雰囲気でデザイナーさんに制作していただき、音源だけでなくインテリアとしても楽しめる一品になったかなと思います。

オケコン統括 さらに、SS席を購入されたお客さま向けにスペシャルBOX入りのグッズも用意しました。中に入っているグッズだけでなく、箱そのものが記念品になるような豪華なものにできればと思い企画しました。グッズを制作する際には、来場された方々が開演前に購入することを考えて、できるだけかさばらないようにとこだわりました。会場の座席間が決して広くはないので、たくさん購入してくださったお客さまが荷物でいっぱいで鑑賞に集中できないということにならないよう、手提げ袋一つに収まるようにという思想で企画しています。とはいえ、ピアノとピアノ用の台座も付いたカシウスのアクリルスタンドのように、結果的に通常よりかなり大きくなったグッズもありました(笑)。


懐かしい曲から最新のBGMやゲストボーカルまで!
エンタメ性の高い舞台を目指した
今回のコンサートの選曲のポイントやこだわりを教えてください。
オケコン担当 今回、2部構成のプログラムを組みました。第1部は、「ナル・グランデの罪」「アウライ・グランデ」「Lyria」などのメインクエスト関連の楽曲や、「バトル4(イベント「四象降臨」などのBGM)」「セフィラへ(恒常コンテンツ「アーカルムの転世」関連BGM)」など、最近『グラブル』のプレイを始めた人も楽しめつつ、サービス開始当初からプレイしている方々にはひときわ「懐かしい」と思えるような楽曲をセレクトしました。第2部は、上記のキービジュアルのキャラクターと関わりが深い、グラブルの周年記念シナリオイベントのテーマBGMや、マグナ3バトルや高難易度マルチなど、比較的最近実装されたコンテンツのBGMなども取り入れました。アンコールも、「ローズクイーン」や「黒銀の翼」など昔から愛されるマルチバトルBGMを取り入れつつ、好評を博したシナリオイベントのメインテーマ「どうして空は蒼いのか」、そして最後に『グラブル』といえばコレ!の「メインテーマ」でコンサートを締めくくる……という構成にしました。
また、公演によっては『グランブルーファンタジー ヴァーサス』シリーズの曲や『グランブルーファンタジー リリンク』の曲など、『グラブル』本編以外のタイトルの曲も演奏しました。成田さんもパンフレットコメントなどでおっしゃっていましたが、全体を通して『グラブル』10年の集大成のようなセットリストにできたかなと思っています。
成田 選曲で大切にしたのは、やはり「オーケストラで演奏すること」でしたね。プログラム案は『グラブル』担当の方々にある程度決めていただいたのですが、私からも「オーケストラならこの曲が合うのでは」「この曲なら、この演奏者の方に出てもらうのはどうか」のような提案をさせてもらいました。
オーケストラ以外に様々なゲスト奏者による演奏もありましたね。
オケコン担当 今回のオーケストラの最初の企画段階で統括からのオーダー内容として、「各公演で少しずつ違う曲を取り入れ、多様なプログラムを展開したい」「曲によってはオーケストラにない楽器のゲストミュージシャンを迎えるなどし、オーケストラ演奏以外にも楽しめる要素を作りたい」というものがありました。それで、各楽曲どのような見せ方ができるかを成田さんに相談しつつ、『グラブル』楽曲の中でも民族楽器などの特殊な楽器を使った楽曲をセットリストに入れたり、曲によっては成田さんご自身に演奏に加わっていただいたり……といった演出を取り入れました。
成田 元々ティンホイッスルやイーリアンパイプスなどの民族楽器を取り入れた楽曲があったので、それらの楽器の奏者の方々にゲストとしてご出演いただきました。民族楽器で演奏する部分については、オーケストラ用のアレンジを加える際も原曲からあまり崩さないで音楽を広げるようにしました。


東山奈央さんや霜月はるかさん(アンコールに出演)らゲストボーカルの出演もあり、一般的なオーケストラコンサートとは一味違っていました。そこもこだわったところなのでしょうか?
オケコン統括 先述の通り、企画が立ち上がった当初から「オーケストラ演奏以外にも見どころを作りたい」という思想から、色々な楽器やゲスト奏者をお迎えし、ゲストボーカルの方にも出演いただこう、という企画で進めていきました。普段あまりオーケストラになじみがないお客さまにも親しんでいただけるように、エンタメ性を高めてメリハリを付ける必要があると考えたからです。同じ理由で、他にも、ゲストミュージシャンの方々には演奏内容に合わせた衣装を着ていただいたり、ゲストボーカルの東山奈央さんにご登場いただく際には栗田さんや東京フィルハーモニー交響楽団の方にご協力いただきながら、ちょっとしたコントをやってみたりしました。
会場内外の装飾や、コラボドリンク&フード、近隣店舗との各種連携企画も同様の思想から企画したもので、とにかく『グラブル』で遊んでいるみなさんに「なんか楽しいぞ、このオーケストラ」と思ってもらえる舞台を目指しました。
さらに、オーケストラ本番でのお客さまの感想もリアルタイムでチェックしていて、お客さまにより楽しんでもらえるよう、千秋楽公演に急遽今回のコンサートで大好評を博した楽曲「Grand Chariot」の演奏を追加したり、映像や演出に追加、変更を行なったりもしました。栗田さんやオーケストラのみなさんをはじめ、関わる方々の協力もあって様々な試みを実現できたのが、今回のコンサートを通して非常に良かったところです。

コンサートのためのアレンジでは、アレンジャーさんに参加していただいた楽曲と成田さんご自身がアレンジを手掛けられた楽曲があるそうですね。ご自身がアレンジされる際は、『グラブル』の楽曲をオーケストラで演奏する上で、どのような部分にこだわりましたか?
成田 自分自身のこだわりは昔から変わっていません。オーケストラ用にアレンジをする際、曲のエンディング部分を単純に付け足しただけ……のようなかたちにしないことですね。『グラブル』の楽曲は構成がかっちり決まったものが多く、そのままのかたちでオーケストラにできるものもあるのですが、それらをきちんとコンサートピースとして成立させることをより意識しました。
また、おっしゃる通り今回は演奏する曲数が膨大だったので、私だけでなく別の方にも数名アレンジをお願いしました。普段仕事でお世話になっている先輩や前から気になっていた優秀な若手の方など、「この曲はこの人にやってもらえたら絶対に良くなる」という方々に協力していただいたので、それぞれの作風を楽しんでいただけたかなと思います。
今回のコンサートで、8年前の「GRANBLUE FANTASY ORCHESTRA – SORA NO KANADE -」から大きく変わったところはありましたか?
オケコン担当 大きく変化したのは演出面ですね。8年前はわりとクラシカルでオーソドックスなコンサートだったのですが、今回は先ほど話が上がったコラボドリンク&フード関連やキャラクターによる場内アナウンスなど、普段あまりオーケストラを聴かない方にも親しんでいただけるようなある種の「ポップさ」を取り入れています。
また、前回との違いで一番目立つところでいうと、今回は全部の曲に映像演出をつけました。その曲を使用したバトル時の背景や島々の風景が映し出されたり、曲に関連するキャラクターやクエスト、イベントのシナリオの内容を振り返れるものであったりと、音楽だけでなく様々な視点からお客さま一人ひとりが『グラブル』で重ねてきた旅路を振り返り、噛み締められると良いなと思って取り入れました。



成田 個人的なことではあるのですが、前回と大きく違ったのは自分が舞台で演奏をしたことです。そのプレッシャーがかなり大きくて(笑)、本番の前の月から毎日楽器を弾いてずっと練習を重ねていました。

成田さんは『グラブル』の音楽を長年担当されていますね。作品が長く続いていく中で、曲づくりに変化はあったのでしょうか?
成田 自分はあえて変化しようとはあまり思わず、どちらかというとその逆を意識しています。というのも、一つのタイトルの楽曲を作り続ける中で作風が大きく変わってしまうと、ゲームの世界観そのものを崩しかねないからです。むしろ初期に作ったものを定期的に振り返って、そこから大きく外れてしまわないよう気を付けています。
ただし、音楽を作り続けているとどうしても慣れや手癖のようなものが出てきてしまうときがあり、それは極力避けたいんですよね。したがって、相反するかもしれないのですが、作曲をする際は初期の作風から変わらないものを持ち続けて、その一方で判を押したような仕事にならないよう心掛けています。
冒険の軌跡を彩る数々の楽曲で振り返る
『グラブル』との想い出
みなさんのお気に入り、あるいは思い出深い『グラブル』の楽曲を教えてください。
オケコン担当 私は2016年に新卒入社でサイゲームスに入ったのですが、入社のきっかけが『グラブル』楽曲の「アウギュステ列島 -白沫の瀑布-」なんです。当時『グラブル』のサウンドトラックでこの曲を聴いたときにその美しさに感動して、「こういうコンテンツに携わる仕事がしたい」とサイゲームスに入ることを決めました。
今回のコンサートのアレンジもすべて大好きなのですが、特に「バトル4」「Lyria」「Last Advent」「Grand Chariot」あたりはオーケストラらしい展開が追加されていて、原曲とはまた違う魅力があり、お気に入りです。
オケコン統括 普段から『グラブル』の楽曲はたくさん聴いているのですが、特に印象深いものを挙げるなら「この狭い世界で、ただ小さく」ですね。クリエイティブディレクターの福原が作詞した日本語歌詞入りの楽曲で、私がそういった楽曲が大好きなこともあって、耳にしてすごくテンションが上がりました。
ゲームのBGM楽曲にボーカルが入るのはごく最近の文化で、当時『グラブル』で日本語の歌詞が入ったBGMが流れたのも、かなり稀なケースだったと思います。今後も成田さんには歌が入ったBGMを時折作ってもらえたらうれしいですね。
成田 『グラブル』楽曲の思い出は山ほどあるのですが、一つ挙げるなら「星の古戦場」でしょうか。北海道の高校にレッスンに行ったときの宿泊先で書いたものなんですが、鍵盤がなくてPCだけで作っていたところ、高校の生徒さんがキーボードを貸してくれて、そのおかげで滞在中に書き切ることができました。
他に心に残っている楽曲としては、「Lyria」ですね。レコーディング当日、当時の『グラブル』プロデューサーや、ボーカルを務めたルリア役の東山奈央さんと初めてお会いしたんです。その日が自分の誕生日でもあったので、色々と重なってすごく印象深くて。いまだにはっきりと思い出せるほどに幸せな一日でした。
最後に、『グラブル』のファンの方々に向けてメッセージをお願いします。
オケコン担当・オケコン統括 「グラブルフェス」など普段のリアルイベントもそうですが、今回のコンサートも開発チームが10年間一丸となって作ってきた『グラブル』を、多くの騎空士の方々が愛し、プレイしてくださっているおかげで開催に至ることができたと思っています。会場にもたくさんの方々に足を運んでいただき、私たちも現地でみなさんの笑顔をたくさん拝見できて感謝の気持ちでいっぱいです。また、当日ユーザーの方からフラワースタンドもいただき、会場を彩っていただきました。改めて、ありがとうございました。
成田 『グラブル』10周年の節目の年にオーケストラコンサートが実現して、参加させていただいたことが本当にうれしかったです。ゲームや楽曲を好きな騎空士のみなさんがいたからこそ実現できた舞台なので、私も本当に騎空士のみなさんに感謝しております。どうぞ、これからもよろしくお願いいたします。


以上、「GRANBLUE FANTASY ORCHESTRA -SYMPHONY IN BLUE-」を振り返るインタビューをお届けしました。
★あわせて読みたい関連記事