『グランブルーファンタジー』背景美術 世界観を守りながら幻想的な王道ファンタジーやSFなど多彩な物語を表現する工夫
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2024年に10周年を迎えた『グランブルーファンタジー(以下、グラブル)』。空の世界を舞台にした王道ファンタジーでありながら多彩なシナリオやイベントが展開され、その背景美術にも様々な世界が描かれています。今回は『グラブル』の世界を描く背景アーティストたちにインタビュー。多種多様なイラストを制作しながら世界観を守り続ける工夫について話を聞きました。
- イラストチーム 背景アーティストウシ
- 2019年新卒入社。入社時から背景アーティストとして『グランブルーファンタジー』の背景制作を担当し続けている。
- イラストチーム 背景アーティストコウヘイ
- グラフィック制作会社の仕事を経て、2016年にサイゲームスへ合流。背景アーティストとして『グランブルーファンタジー』の背景制作に携わりつつ、別プロジェクトのコンセプトアート制作やデザインチェックなども担当している。
- イラストチーム 背景アーティストイルムラ
- アニメ背景制作の仕事を経て、2015年にサイゲームスへ合流。背景アーティストとして『プリンセスコネクト!Re:Dive』に携わった後、『グランブルーファンタジー』の背景を担当している。
壮大な世界観の中で
美しいキャラクターを引き立てる『グラブル』背景
『グラブル』の背景の特徴は、どのようなところでしょうか?
ウシ 『グラブル』の物語には心が躍る広大な空の世界が当たり前に存在していて、背景においてもどこまでも続く壮大な世界観の描写が何よりの特徴ですね。描く上で基準となるのは、CyDesignation代表取締役社長の皆葉英夫さんがデザインしたキャラクターで、皆葉さんが描いた美しさを背景へ反映するようにしています。また、空の上に島が浮いている設定なので、地上が舞台の作品の背景とは空の反射や光の見せ方を変えるように意識して描いていますね。太陽の光が強く差している場面が多いです。
コウヘイ 空の上の世界を描いているので、それらしい空気感も特徴の一つだと思います。天に近いので風が強くて空気が乾燥している様子や、太陽光が空気の層を通って青空を構成しているといった色の繋がりを想定しながら背景を描いていますね。自分は室内を描くことが多くあり、家の中からでも美しい空の色が感じられるよう、外から反射する光の色に気を配っています。
『グラブル』の背景を描く際に大切にしていることはなんでしょうか?
ウシ 皆葉さんがデザインしたキャラクターと調和させることです。個性豊かなキャラクターたちがそこに本当に存在しているような絵づくりを心掛けています。背景制作の際は、必ずキャラクターの絵を背景の上に乗せて、キャラクターに対して背景が明る過ぎないか、または暗過ぎないかを常に意識しますね。違和感があれば色や明るさなどを調整します。
コウヘイ 背景はスケール感を出すことも大切です。『グラブル』の壮大な世界観を作るには、緻密さはもちろん求められますが、あえて省略して描く場合もあります。
例えば、遠くにある山の木や草花まで詳細に描いてしまうと、逆に絵のスケール感が伝わりづらくなります。その場合は、遠くのものをあえて細かく描かないようにしたり、影を入れてよく見えないようにしたりする工夫が必要なんです。
イルムラ それに面白さも大切にしていますよね。ゲームユーザーである騎空士のみなさんが、ワクワクするような絵の制作を心掛けています。例えば、背景の中に現実世界で使う道具や子どもが遊ぶおもちゃなどの小物をグラブルの世界観に合わせてアレンジして配置し、絵を見たときに面白さを感じてもらえるようにしているんです。
また、絵に物語性があることも大切です。例えば建物を描くとき、没入感を出すために「この建物はこの年代に作られ、この時期に壁が壊れたのを修繕して……」のように想像を膨らませながら、ストーリー性のある絵に仕上げています。
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『グラブル』の背景はどのような工程で作られているのかを教えてください。
ウシ まずプランナーから依頼を受けて「ラフ」を起こしていきます。その後、ラフにOKが出たら「クリーンナップ」ですね。背景にキャラクターを乗せて、確認をしつつ仕上げていきます。基本、一連の作業は担当する背景アーティストが一人で行う場合が多いです。途中でディレクターに確認してもらったりチーム内のスタッフに相談したりしながら作っています。
イルムラ 先程ウシさんからお話があったように、『グラブル』の背景を描くときに軸になるのは、キャラクターですね。新しい場所を作る際には、稀に同時進行で進めることもありますが、基本はキャラクターが先に出来上がるので、それに合わせて背景を制作します。
コウヘイ 出来上がったキャラクターの要素を基に背景を作っていくこともありますね。『グラブル』が始まった当初から、キャラクターが身に着けている装飾品の模様を背景の中に描いてみたり、キャラクターのカラーを住んでいる国の背景に取り入れたりする手法をよく用いています。
背景を描くときの着想やヒントは、どこから得ているのでしょうか?
ウシ 私はシナリオからですね。どのキャラクターが登場して、どんな場面で使われるのかなど、お話を読み込んで着想を得ています。新規のキャラクターが登場する際には、シナリオの中で紹介されている内容を参考にしながら描いています。
コウヘイ 自分は小物を描きながら広げていくことが多いですね。例えば、市場の背景を描いたときには、「どんなものを売っているんだろう」と壺やお香などのスケッチをたくさん描き、「どれを背景に登場させようか……」と考えながら制作したこともありました。
イルムラ 僕は、見たものや自身の体験からインスピレーションを受けたことを『グラブル』のファンタジー世界向けにアレンジしています。旅先で目にした建築物からイメージを広げたり、趣味でパラグライダーをしているので、その飛行体験を『グラブル』の背景に盛り込んだりしていますね。
ファンタジーからSF世界まで
多彩な『グラブル』背景の注目ポイント
『グラブル』では、これまでにどんなジャンルやテイストの背景を描いてきましたか?
ウシ 『グラブル』には幻想的な王道ファンタジーの世界が描かれていますが、一部の地域では科学文明が発達しています。そういう場所が舞台になったときに、スチームパンクのテイストがあるイラストやSFのような世界を描いたことがありました。
コウヘイ 特撮ヒーローの要素があるイベント「ロボミ 史上最大の戦い ゴッドギガンテス対空の調停者ゾーイ」や「拝啓、大切な君へ。」の背景では、現実世界の日本の風景も描いていますね。まさか自分が『グラブル』で現代の新幹線を描くとは思いませんでした(笑)。
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イルムラ ファンタジーの世界観に沿ったものではあるのですが、僕もアイドルのライブステージの絵を描いたことがあります。他にも、『グラブル』は他の作品とのコラボが多いので、かなりバラエティーに富んだ背景を制作してきましたね。
ここからは、『グラブル』の背景について詳しく聞いていきます。みなさんが描いた背景の中で、騎空士の方々にご注目いただきたいポイントを教えてください。
■メタトロン戦 バトル背景
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コウヘイ ラフを担当した、「メタトロン」と対戦する際のバトル背景に注目していただきたいです。雲に覆われた空の台風の目の中というシチュエーションで、上空から見下ろしている迫力を出すためにこだわりました。「これぞ『グラブル』の空」といえる背景を目指して描いたイラストです。
バトル背景は登場するボスによって空の描き方を変えていますので、その違いに注目していただけるとうれしいです。
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■武家の道場
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イルムラ キャラクターの「ナルメア」の父親が開いた道場の背景を見ていただきたいですね。この背景は僕が旅先で目にした大仏殿などから着想を得て、日本の武家屋敷のようなイメージで描きました。室内の素材は主に木材で、柱などに一部金属が使われているところもあります。ポイントは、背景のあちこちにナルメアのトレードマークである蝶や太い角のモチーフを描いていること。置いてある武器はゲーム内で使われているものを取り入れましたので、探してみていただけるとうれしいです。
■トレーニングジム
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ウシ トレーニングジムの背景にはキャラクターのフィオリトが使っている武器を描いたので、注目してみていただきたいです。その他にもジムらしさを演出するために、ダンベルを配置したり優勝カップや筋肉質な人のポスターを飾ったりしています。こういった現代的な小物は、シルエットを曲線的にしたりパーツを複雑にしたりして、ファンタジーの世界観になじませました。
また、描く際に光の表現にはかなり気を配りました。ジムの中に窓の外のものの影が落ちているように描いており、遠くにあるものの影はぼかし、近いところは影を際立たせる……といった工夫をしています。
■月の拠点・内部
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コウヘイ 『グラブル』7周年記念イベント「STAY MOON」の際に制作した「月の拠点」の背景です。月の民は文明や技術が飛び抜けて優れているため、彼らの拠点は通常の『グラブル』と明確に世界観が異なるSF色の強い場所として描きました。近代的でデジタルな表現にするため、直線的な描写にし、『グラブル』であまり使うことがないエフェクトを多用しているのも特徴の一つです。
脳を培養している部屋という設定だったので、あえて過度にリアルな描写にしないよう配慮しました。脳が浮かぶ水槽を作り込み過ぎないようにしたり、一部影に落としたりしてマイルドな表現にしています。いつもの『グラブル』と違ったSFの雰囲気を感じていただけたらうれしいです。
他の背景アーティストが描いた背景の中で印象深い作品を教えてください。
■エルステ帝国
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コウヘイ どの作品も印象深いのですが、特に印象に残っているのは『グラブル』の序盤に登場するエルステ帝国の背景です。文明が発達した帝国という設定でスチームパンクな雰囲気がある一方、建物の形状やシルエット、使われている模様などに『グラブル』らしい王道ファンタジーの要素を感じられます。こちらの制作を担当した背景アーティストの技が随所に込められた作品です。
■魔空間アル・カウン
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ウシ 自分の中で特に印象に残っているのは、独特の不思議な雰囲気がある「魔空間アル・カウン」の背景です。ポイントは中央部に描かれている三角の物体たち。担当した背景アーティストが「生き物という想定で描いた」と話していました。三角のシンプルな形なのにどこかかわいらしさが感じられて、アーティスト自身が「生き物だ」と信じて描くと活き活きとしたデザインに仕上がると教えてくれたイラストです。
『グラブル』の背景を描く際に、隠し設定を盛り込んだことなどはあるのでしょうか?
イルムラ 隠し設定といえば、なんといってもイベント「拝啓、大切な君へ。」の背景に潜ませた“隠れビィ”ですね。
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コウヘイ 現代を舞台にした背景を制作する際、「『グラブル』らしさをどこで出すか?」とみんなで相談して、主人公の相棒であるビィを絵の中に盛り込んでみました。田んぼのあぜ道を描いた背景では、田んぼに立っているかかしや鉄塔の上の部分などがビィの形になっています。ぜひ目を凝らして探してみてください。
ウシ ビィの他には、「拝啓、大切な君へ。」の実施がちょうど「グラブルEXTRAフェス2022」開催時期と重なったので、同イベントのポスターやグランサイファーのイラストを入れた背景なども制作しましたね。このときは普段のグラブル世界とは全く異なる現代風なデザインで色々なものを描けて楽しかったです。
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世界観を守るために大切なのは
『グラブル』世界の中に生活感を盛り込むこと
多種多様な背景を描く中で、『グラブル』らしさを失わないために気を付けているのは、どのようなことでしょうか?
ウシ ファンタジー以外の要素を描く際、現代が舞台の設定以外では元々の『グラブル』世界の水準を超えたものは描かない、という決まりがあります。例えば、電気製品など現代的なものを描く際、素材を木材に置き換えてなじませているんです。
イルムラ 『グラブル』らしさを表すために大切なのは、生活感ですね。わかりやすい例を挙げると、背景の中で新品のピカピカしているものを描くことはほぼなく、基本は『グラブル』世界の誰かが作ったもの、使っているものを描くようにしています。
コウヘイ そこは確かに大事ですよね。他にも、例えば、テーブルと椅子を描くときに、椅子が全部同じ方向にきっちり並んでいるような描写は『グラブル』の世界観に合わないので、いくつか傾かせたり誰かが座った形跡を残したり……のように、住人たちの実在感を表現しています。
イルムラ 『グラブル』の世界に雲があり、風が吹いて天候が変わるといった自然現象もあり、その中でキャラクターたちが生きていて、生活をしています。背景アーティストがそれらを意識して描くことが世界観を守るために大切だと思います。
最後に背景アーティストを目指そうと思う方々にメッセージをお願いします。
ウシ 背景を描く際は色々な情報を収集してインプットすることが大切です。また、「良いな」と思うものに出会ったとき、「なぜ、これが良いのだろう」と考え、論理的に理解していく姿勢も大切ですね。背景アーティストを目指す方は絵の技術を磨くだけでなく、多くのことを吸収していってほしいです。
コウヘイ 背景の仕事の面白さは、世界観を構築できることです。自分で考えて描きながら、それこそ一から世界を創り上げるような楽しさが味わえます。背景アーティストになりたいと思う方はこれからたくさん絵を描いて励んでいってほしいと思います。
イルムラ 背景アーティストは世界を作ることができ、ときにはキャラクターデザインよりも自由度が高いこともある非常に楽しい仕事です。自身の様々な経験を活かすこともできるので、描いてみたいと思う方はぜひ頑張ってください。
以上、『グラブル』背景美術についてのご紹介でした。
ゲームをプレイする際は、ぜひ背景にもご注目ください。
サイゲ―ムスは『グラブル』を含むゲームに登場する背景イラストを集めた展覧会「Cygames背景美術展 2024-2025」を、全国6都市の大学で開催しています。
ご興味を持たれた方はぜひお越しください。
「Cygames背景美術展 2024-2025」
■期間 2024年5月 ~ 2025年5月
■開催期間
京都芸術大学 2024年5月30日(木)〜 6月6日(木) ※終了しました
東北芸術工科大学 2024年7月23日(火) 〜 7月28日(日) ※終了しました
金沢美術工芸大学 2024年10月2日(水)〜10月6日(日) ※終了しました
九州産業大学 2024年11月14日(木) 〜 11月20日(水) ※終了しました
名古屋芸術大学 2025年1月8日(水)〜 1月15日(水) ※終了しました
武蔵野美術大学 2025年5月2日(金)〜 5月13日(火)
※開催場所や開場時間等の詳細は公式サイトをご確認ください
■入場料 無料
※一般の方もご来場いただけます
※一部の企画は学生のみが対象です