世界中で遊んでもらえるリアルカードゲームを目指して 海外スタッフインタビュー『Shadowverse EVOLVE』編

デジタルカードゲーム『Shadowverse (以下、シャドバ)』のリアルカードゲーム版として2022年に登場した『Shadowverse EVOLVE(以下、エボルヴ)』。日本国内にとどまらず、英語圏や簡体字圏へ展開を広げています。
今回は、海外に向けた『エボルヴ』の開発やマーケティングに携わるスタッフたちにインタビュー。コンテンツを世界に広げるための工夫やこだわりについて語ってもらいました。

グローバルアライアンスジョシン
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アメリカ出身。建設機械のエンジニア職を経て、2022年に合流。『Shadowverse EVOLVE』英語版・簡体字版の海外言語版リーダーとして、開発やマーケティング、進行管理などを担当している。
ローカライゼーションエルバート
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オーストラリア出身。大学卒業後、2019年に合流。『Shadowverse』『Shadowverse EVOLVE』英語版のLQA(言語品質保証)チームのリーダーとして、翻訳のチェックや監修業務を担当。『Shadowverse EVOLVE』には初期リリース時から携わっている。
ローカライゼーションケビン
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アメリカ出身。大学院卒業後、2022年に合流。『Shadowverse EVOLVE』英語版で、主にカードのテキスト翻訳を担当している。
グローバルアライアンス
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中国出身。中国のテレビ業界でのプロモーション職を経て日本の大学院に留学・卒業し、2020年に合流。『Shadowverse』のパブリッシングに携わった後、現在は『Shadowverse EVOLVE』のパブリッシングを担当している。

リアルカードゲームを海外に翻訳展開
翻訳から印刷までこだわり抜いて開発

『エボルヴ』は日本語版の他に、英語版と簡体字版があります。そもそもなぜ海外展開を行うことになったのかと、現在どのように展開しているか教えてください。

ジョシン 日本語版『エボルヴ』の成功を受け、海外展開を行うことになりました。日本語版『エボルヴ』は株式会社ブシロードと共同制作したコンテンツで、企画や開発をサイゲームス、製造や営業をブシロード、そしてプロモーションや公式大会運営を両社で担っています。
英語版『エボルヴ』についても、ブシロードの海外支社であるBushiroad International Pte. Ltd. と英語版を制作することが決定し、サイゲームスはIP監修に加え、ローカライゼーションやサポートアプリの開発を行うかたちで共同制作しています。

 簡体字版『エボルヴ』は、簡体字版『シャドバ』のパブリッシャーであるNetEase Gamesに販売・頒布などのパブリッシングを委託していますね。サイゲームスはIP監修のみの立場で携わっています。

『エボルヴ』の英語版・簡体字版を開発する際、苦心した点はどのようなところでしょうか?

エルバート 一番気を使ったのは、何より印刷物であることです。デジタルであれば、万一リリース後に不具合を発見しても修正できますが、印刷物だと製品をすべて回収して修正し……と、あまり現実的ではありません。もちろん将来的に新たなカードや能力が追加された際に、既定の内容と矛盾せずに整合性のとれる対応ができるようにしておく必要もありました。そのため、しっかり時間をかけて慎重に翻訳や監修を進めました。

 印刷物という点では、簡体字版も最初はかなり大変でしたね。国が変わると工場の印刷技術や使用するインクも変わるので、印刷の仕上がりや色彩などを日本版と一致させるのに苦心しました。とはいえ、工場にもご協力いただいて何度も色校正を重ねたおかげで、第一弾のリリース以来、非常に高いクオリティーで製品を仕上げられています。

色々と苦心したところがあったのですね。翻訳についてもう少しお聞きしたいのですが、実際はどのような流れで進めていったのでしょうか?

エルバート 当初、英語版では『シャドバ』の英語版テキストを採用することも考えたのですが、早い段階でそれではだめだと気付きました。というのも、リアルカードゲームはアプリ版のように自動処理でゲームが進まない分、プレイヤーがより明確にルールを理解する必要があるからです。
そこで『シャドバ』からの転用や『エボルヴ』日本語版の直訳ではなく、英語のテキストを一から作成して、初心者でもルールを理解しやすいものを目指しました。

ケビン カードに記載された情報から正確に能力や効果を読み取ってもらうため、英訳する際はわかりやすさに特にこだわっています。例えば、日本語版でものちに調整が入った「これがいる限り」という文言に対しては、英語版では初回翻訳時にすでに「これが場にいる限り」と有効範囲をより明確にする対応がされました。

ジョシン 英語版の翻訳には、英語が日本語より長くなりがちという課題もありました。文章が長いとカード上の文字を小さくせざるを得ない。それは極力避けたかったので、ゲーム内容には影響しないフレーバーテキストを削ったり、英語版独自のキーワードを作成したりという工夫もしましたね。

ケビン 英語版で工夫を凝らした一例としてご紹介したいのが、《ゴッドコロシアムマンモス》(Mammoth God’s Colosseum)(※)です。

※ カード詳細……日本語版 英語版

▲《ゴッドコロシアムマンモス》(Mammoth God’s Colosseum)(左が日本語版、右が英語版)

まず《ファンファーレ》能力のテキスト。

・日本語版:各プレイヤーは、自身の場のフォロワー1体を残し、それ以外の自身の場のフォロワーすべてを墓場に置く。
・英語版:Each player buries each follower on their field except for one of their choice.

こちらは言葉選びでの工夫と、英語版独自のキーワード「bury」の設定によってテキストを日本語より短くできたケースです。「墓場に置く」という表現は元々「put (it) into its owner’s cemetery」と直訳されていましたが、「bury」の一単語でキーワード化をしたことで文字数を抑えつつ、簡潔で読みやすい文章にすることができています。

続いて《ラストワード》能力のテキスト。

・日本語版:自分のデッキから《頂きの闘技場》1枚を探し、場に出す。
・英語版:Search your deck for a Colosseum on High, summon it, then shuffle your deck.

こちらはプレイヤーがより明確にルールを理解できるように日本語版と異なる書き方をしたケースです。ルール上必ず実行する必要があるため、日本語版ではいつも記載が省略されている「デッキをシャッフルする」という行為を「shuffle your deck」と明記することで、カードゲーム初心者でも混乱なくプレイを楽しんでもらえるようになっています。

 簡体字は日本語と同様に漢字を使う言語なので、翻訳やレイアウトで英語版ほどの大変さはなかったです。NetEase Gamesにはアプリ版『シャドバ』の翻訳をご担当いただいていたので『エボルヴ』も引き続きお願いして、サイゲームスのほうで翻訳が合っているか、文字の配置に問題ないか、といった監修を行いました。

コラボや限定品など海外独自の施策を展開
店頭販促物にも注力

『エボルヴ』を海外に展開する際、気を付けていることや工夫点などはありますか?

 簡体字版は「日本語版に追い付きたい」というニーズが中国のプレイヤーのみなさんにあるとNetEase Gamesから意見をいただき、第2弾以降は日本で販売されているブースターパックを1弾ずつではなく、二つの弾を一つの商品として合体して発売しています。また、中国だけの独自の製品も出していて、能力は日本版のまま絵柄を変更したカードやオリジナルデザインのラバーマットなども販売しています。

▲簡体字版の商品。右から二つめのブースターパックは二つの弾の合体商品

ジョシン 英語版はアメリカ、ヨーロッパをはじめ展開する国が多いこともあって、各国の傾向を把握しつつ不公平が生じないよう気を付けていますね。例えば、「このカードが欲しいけど、あの国でしか手に入らない」といったことにならないよう、大会やイベントなどは原則すべての国で同じ内容を実施するようにしています。

海外における『エボルヴ』プレイヤーのコミュニティーはどのようなかたちで運営されているのでしょうか。

ジョシン 英語版は前述したように展開地域が広いので、プレイヤー同士はネットでの交流が多いです。公式の情報発信はXとFacebook、Instagramで行っていますが、プレイヤー同士のやり取りはビデオ通話を活用したオンライン対戦で遊ぶ方が日本語版と比べて多いです。

 中国ではカードを販売する店舗がコミュニティーを運営していることが多いですね。また、プレイヤー同士の交流は中国本土で普及しているグループチャット機能を中心に行われています。

プレイヤーのみなさんを盛り上げるための宣伝施策などはあるのでしょうか?

 宣伝のために意識しているのは店頭の陳列ですね。中国では目立つアピールをしないとお店に入ってもらえない傾向があるので、ジャンボカードやポスターなど販促物を多く置いて、絶対に『エボルヴ』がお客さんの目に留まるように、強くアピールしています。

▲実際の様子。店舗の陳列棚にカードがずらりと並べられている

ジョシン 英語版でも公認販売店で活用してもらえるよう、ポスターやスタンドポップなどを制作していますね。リアルカードゲームは実物を見てもらうと魅力が伝わりやすいので、来店者の目に留まるよう店頭販促物には力を入れています。

▲実際の様子。店舗の陳列棚の一区画にPOPやスタンディが飾ってある

担当地域の施策で反応が良かったものや興味深い事例などがあれば、教えてください。

ジョシン 英語版の限定商品として、3人以上の多人数戦ができる「グローリーファインダー」用のカードを出しています。リアルカードゲームは、日本では1対1の競技的な遊び方が主流なのに対して、英語圏では「金曜の夜に4人集まってカードゲームしよう」といったカジュアルな楽しみ方が好きなユーザーの割合が多いです。それに合わせて、競技性よりもワイワイ面白く遊べることを重視した製品ですね。同じゲームでも国や文化によって楽しみ方に違いがある事例かなと思います。

▲How to play Shadowverse: Evolve Gloryfinder
多人数戦「グローリーファインダー」ルール / Q&A(リンク先は日本語です)

 簡体字版の独自施策で好評だったのが、簡体字版『シャドバ』の大会オリジナルキャラクターを起用した施策です。彼女のリーダーカードやUR(アルティメットレア)カードを制作したり、『エボルヴ』のサポートアプリでボイスを公開したりしました。その結果、既存プレイヤーだけでなく、この施策をきっかけに『エボルヴ』を新たに始めた方もいて、多方面に訴求できました。

▲簡体字版の独自施策。オリジナルキャラクターを起用したカードを制作した
▲(左)リーダーカード (右)SPカード

『エボルヴ』の魅力は人と繋がれる楽しさ
社内大会も開催

『エボルヴ』のカードを揃えたり実際に遊んだりした際の感想やエピソードを教えてください。

ケビン 初めてカードを揃えるとき、《不思議の探求者・アリス》がかわいいと思ってブースターパック第3弾 「FLAME OF LAEVATEINN / フレイム・オブ・レーヴァテイン」を買ったら、すぐにアリスのURカードを引けたのが印象的な思い出ですね。

▲《不思議の探求者・アリス》

ジョシン 自分はスターターデッキを買ってまず家で弟と対戦して、それが非常に面白くてはまってしまいました。それから、社内でスタッフのプレイ会を主催するようになり、公認ジャッジの資格も取得しました。ただし、最強デッキではなく中堅の強さのデッキを使うのが好きなこともあってあまり強くはなく、社内大会で全敗したこともありました(笑)。

エルバート 開発や翻訳に携わっていたので、ルールやカード能力は把握している自負があったのですが、実際に遊んでみたら戦略を立てるのが難しかったです。リアルカードゲームには対面での触れ合いがあって、デジタルとはまた違った楽しさがありますね。好きなカードはかっこいい《レヴィオンセイバー・アルベール》や面白い《タルトマン》などでしょうか。

▲《タルトマン》

 私も『エボルヴ』は人としっかり繋がれるのが良いなと思っています。対面で雑談をしながらできるので、間違えたときに「それ、違うよ」と指摘してもらえたり、場合によっては「ごめん、ちょっとやりなおしていい?」みたいな融通を利かせたりすることもできて、誰かと一緒にできるのが非常に楽しいです。シンプルにダメージを与えられるカードが好きで、遊ぶときは《ダークドラグーン・フォルテ》をよく使います。

▲《ダークドラグーン・フォルテ》

喜びや達成感があるのはどのようなときでしょうか?

エルバート 製品が発売されたときですね。無事に仕事をやり終えた達成感がありますし、その上でプレイヤーの方々が翻訳を理解して問題なくゲームを楽しんでくれたら、もう大満足です。

ケビン 翻訳が上手くできたときでしょうか。英語に翻訳するとテキストは長くなりがちなので、工夫して英訳テキストを短くできると非常に達成感があります。

 製品をリリースできたときですね。先に話したように簡体字版は第1弾の開発が本当に大変で、完成までに9か月近くもかかったので、出来上がったものを手にしたとき「みんなで頑張ったからこそ、このカードができた」という感動がありました。また、その苦労があったおかげで仕事にも慣れて、第2弾は2か月半とかなり短期間でリリースできて、そのときも「ここまで短縮できた!」という達成感がありました。

ジョシン 海外言語版リーダーとして『シャドバ』ブランドを広げていきたい想いがあるので、製品の認知度が上がっていくことに喜びを感じますね。以前、私が開発に携わった製品をイベントでプレイヤーのみなさんが使っているのを見かけたときは大変うれしくて、プレイする姿を見ながら「そうそう、ここはこうなんだよね」と心の中でうなずいていました。

海外展開を通して学んだ
「翻訳の奥深さ」「現地プレイヤーファースト」

サイゲームスで『エボルヴ』の仕事をしながら、どのような学びがありましたか?

エルバート ゲームの開発段階から関わるのは『エボルヴ』が初めてだったので、勉強になることが多くありました。例えば、リーダーシップ。タスクを進めたりスタッフたちの意見をまとめたり、話し合いで結論が出ないときには自分で判断したりといったスキルが鍛えられたと思います。

ケビン 『エボルヴ』を通して学んだのは翻訳の奥深さです。ストーリーや会話の翻訳を担当することが多かったため、能力テキストの翻訳は形式重視型の統一性が強く求められる非クリエイティブな印象がありました。しかし、実際には定型文に従うだけでなく、様々なパターンを分析し、より簡潔かつ正確な表現の仕方を導き出していく仕事で、創作性が求められることに変わりはないとわかりました。

 サイゲームスの仕事を通して学んだのは「プレイヤーファースト」の視点ですね。『エボルヴ』はリアルカードゲームですので、実際にカードを手に取る現地プレイヤーの視点を非常に重視しています。簡体字圏プレイヤーからのニーズに応えて実施している、二つの弾を一つの商品として発売することは、まさにプレイヤーファーストの施策です。プレイヤーの方々に喜んでもらえることをどんどんやっていこう!という姿勢を大切にしています。

ジョシン ゲーム業界は未経験だったので、合流以来、経験豊富なスタッフから業界の知識を多く学んできました。最初のうちは具体的に何をやりたいか定まらない部分もあったのですが、上司に相談したり社内で多くの情報に触れたりしながら、歩みたいキャリアを少しずつかたちにできていますね。

働く職場、所属するチームはどのような雰囲気ですか?

ジョシン 働きやすく、やりたいことを主張しやすい職場ですね。仕事しながら冗談を言い合うこともあります。趣味やこだわりを楽しそうに語ってくれたり、最新情報をいち早く見つけてくれたりする、「何かが好き」という気持ちが強い人が多いです。

 親切で話しやすい人が多いですね。海外の人気ゲームをプレイしてその良さを語ってくれる人もいて、ゲーム全般に対する熱量の高さを感じます。定例会議でもみな積極的に意見を出し合っていますね。

ケビン 案件ごとのチームは比較的少人数なのですが、だからこそのやりやすさがありますね。例えば、何かがあったときにわざわざ会議などを設けることなくその場で話して決めていける、そのような風通しの良さを感じています。

エルバート 優秀な翻訳者が揃っていて、ローカライゼーションの基準が高いチームです。自分はどちらかというとシャイな性格なのですが、色々な国から集まったスタッフがみんな優しくて、このチームにいられることがサイゲームスに入って一番良かった点だと思っています。

最後に、サイゲームスで働くことを検討している方々へメッセージをお願いします。

 色々な方と関わって話すことができる会社です。合流したらどんどん新しい知識を吸収できて、きっと毎日楽しいと思います。

ケビン 『エボルヴ』でテキスト翻訳に携わって非常に新鮮な体験ができました。ゲーム好きな人が揃っている職場です。

エルバート 業界での経験がなくても、翻訳や言語学に自信がある方は大歓迎です。みんなゲームが好きで高いクオリティーを目指している職場なので、ゲームの開発に興味がある方、品質にこだわった業務をしてみたい方はぜひ応募してみてください。

ジョシン ゲームに詳しくないといけない、経験が必要と思う方もいるかもしれませんが、そこはあまり心配の必要はなく、むしろ多種多様なコンテンツを開発するために様々な方面の有識者を求めています。「最高のコンテンツを作る会社」というビジョンに共感していただけたら、ぜひ募集中の業種を調べてみてください。


以上、『エボルヴ』に携わる海外スタッフのインタビューをお届けしました。
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海外プロモーション担当/東京 『Shadowverse EVOLVE』公式サイト