ゲームの背景美術を作る上で大切なこと 『グラブル』『シャドバ』『プリコネR』『ウマ娘』背景の注目ポイント

ゲームの世界観を表現する上で欠かせない背景美術。サイゲームスのビジョン「最高のコンテンツを作る会社」のもと、イラストレーターたちがビジュアルの細部までこだわりながらキャラクターが生きる世界を作り上げています。
今回の「サイ技(わざ)」では、サイゲームスの背景制作に注目。仕事の特徴や各タイトルの背景美術の注目ポイント、背景アーティストを目指す上で必要なことについて話を聞きました。

イラストチーム 背景班リーダーメグミ
gutenberg-examples
アニメ背景制作の仕事を経て、2016年合流。担当タイトルの背景班のリーダーを務め、複数のプロジェクトで背景イラストの制作を担う。現在は背景イラストレーターのアドバイザーを務め、新規プロジェクトにも携わっている。

エンタメの世界観を強固にする背景美術
ゲーム背景では没入感を重視

背景美術はゲームにもアニメにも欠かせないものです。エンタメ作品において、背景はどのような役割を果たすと考えていますか?

背景の役割は作品の世界観をより強固にすることです。エンタメは私たちが暮らす日常とは違う世界を楽しませてくれるもので、その世界が実在しているかのように感じてもらうために背景アートは欠かせません。物語の時代背景やその世界の文明、文化を細かく掘り下げて背景に落とし込むことで、作品全体のクオリティーを高められると考えています。説得力あるビジュアルを生み出すのは大変な作業ではありますが、それが楽しくてやりがいもありますね。

背景美術の中でも、ゲーム背景ならではの特徴はどんなところでしょうか?

よりコンセプトを突き詰めているところです。ゲーム背景とアニメ背景で何が違うのかはよく聞かれます。もちろんアニメにもコンセプトはありますが、アニメで重視されるのは映像としての見やすさや繋がりやすさ。一方、ゲームではキャラクターを操作して遊ぶときの没入感を高めることが重視され、そのためにコンセプトに沿った背景をしっかり作り込んでいきます。

以前、中世ヨーロッパの街並みを描いたときには、気候が良くて心地良い街という設定を表すために建物の窓の数を増やしたり、一階部分を吹き抜けやすいピロティにしてみたりしていました。さらには「気候が良いならば自然が豊かで緑が多くて、市場にも新鮮な野菜が売っているのでは?」というように世界観を広げていきました。「描かれたものすべてに意味がある」というほどに追求して作り込んでいくのがゲーム背景の大きな特徴ですね。

サイゲームスの背景づくりで大切にしていること、モットーはなんでしょうか?

会社のビジョンである「最高のコンテンツを作る会社」をスタッフ全員が強く意識していて、私も「どこにも負けない最高の背景イラストを描く!」という想いで仕事をしています。モットーは、ゲームを遊ぶ人がワクワクするような世界を表現すること。この「ワクワク」を追求していくのが背景アーティストの面白さでもありますね。

「ワクワク」を突き詰める仕事は、実際どのように行われているのでしょうか?

例えば、「どこまでも行けそうな広いフィールドが作りたい」という目標があったら、物の対比や画面の圧縮など、それに必要な知識や描画技術を習得する……といったように、日々表現力を高めるために勉強を続けます。定期的に勉強会を開いて話し合うチームもありますね。「今描いているこの部分で悩んでいるけれど、どう思う?」と、気になることをスタッフたちの間で共有してチーム全体で表現力の向上に繋げています。

背景アーティストに必要なスキル、マインドはどのようなものだと思いますか?

デッサン力はあるに越したことはなく、正しくスピーディーに描ける技術があると非常に役立ちます。とはいえ、やはり色々なことに興味を持つマインドが一番大切だと思いますね。

例えば、建築物を描くときは、いつの時代のどのような様式かを調べないと描けないですし、和室を表現するなら畳の敷き方や障子の向きをわかっておくことが必要です。知らないと描けないものが本当にたくさんあります。だからこそ、なんでも知ろうとする姿勢が大事ですし、興味を持って調べて理解することが背景アーティストとして制作を続けていく上での財産にもなっていきます。

メグミさん自身、背景アーティストとしてのセンスを磨くために心掛けていることはありますか?

普段からゲームをしたり、アニメや映画を見たりしていますね。技術的な部分で作品を見るだけでなく、スタッフと感想や考察を語って共通言語のようにできるので、色々な作品に触れるようにしています。

あとは散歩もよくしていて、古い建物などを見つけて撮影することもありますね。建物は画像で調べることもできるけれど、やはり実物を見たほうが木と木の繋ぎ目など細かい部分の構造がわかります。外を歩いているだけで「夏と冬で夕方の色味って違うよなあ」のような発見もあり、自分の目で見ることがセンスを磨き、それが描く際のリアリティーにも繋がってくるかと思います。

大切なのは「見せたいものを見せる」表現
各タイトル背景の注目ポイント

ここからは、サイゲームスの各タイトルの背景についてお聞きします。背景アドバイザーとしてメグミさんが印象に残っている背景とともに注目ポイントを教えてください。

■『グランブルーファンタジー』

▲「リゾート島の開拓」 マップ背景

『グランブルーファンタジー』は空の世界を旅する物語で、「どこまでも広がる美しい空の世界」をコンセプトとしています。上記の背景は「これぞ『グラブル』」という要素が詰まった一枚。果てしない広さが感じられる空間や美しく迫力のある雲、地形の面白さなどを描いて、ダイナミックさと繊細さを併せ持つビジュアルに仕上がっています。なお、この背景は上部にアイコンが置かれる仕様なので、アイコンが見えにくくならない距離感も考慮して描かれました。

■『Shadowverse』

▲「天象旅籠・アメツチ」

『Shadowverse』は、「重厚な世界観を持つダークファンタジー」というコンセプトがあります。上記の背景で描かれている「アメツチ」は、死んだ人が転生するまでの時間を過ごす場所のはずが悪いボスのたくらみで永遠の宴が続いている……という設定。だからこそ、にぎやかさや居心地の良さが感じられる一方で、この世のものではない儚さも伝わってくる絵になっています。絞るところをしっかり絞って重要な部分だけを繊細に描き込んで美しく仕上がっている一枚です。

■『プリンセスコネクト!Re:Dive』

▲「スペシャルダンジョン・天上の浮城 マップ背景」

『プリンセスコネクト!Re:Dive(以下、プリコネR)』の背景デザインは、丸みのあるかわいらしいシルエットが特徴。上記の背景は高難度クエストのマップイラストです。かわいらしいデザインと破片の鋭利さのコントラストで『プリコネR』らしさを出しつつも、通常のダンジョンと違う特別な感じが表現されています。世界観をまとめるため、登場するボス「白陽の守護像」「黒月の守護像」のカラーを絵に取り入れているのも特徴的なところです。

■『ウマ娘 プリティーダービー』

▲「昔ながらの商店街(夕)」

『ウマ娘 プリティーダービー(以下、ウマ娘)』の背景で大切にしているのは、かわいらしさや爽やかさ。明るいカラーで描かれるキャラクターが多いので、背景は彼女たちが載ったときに違和感のない色使いを心掛けて制作されています。
この背景は夕暮れどきですが、決して暗くなり過ぎない色使いを用いてノスタルジーのある絵に仕上がっています。ウマ娘たちがトレーニングやレースを終えた後に使われる場面であり、疲労を感じながらも「明日また頑張ろう」と思える温かみのあるビジュアルですね。

『グランブルーファンタジー』のようなファンタジー作品から競馬場を舞台にした『ウマ娘』まで、幅広いジャンルのゲーム背景を制作する上で、サイゲームスとして大切にしていることはありますか?

サイゲームスの背景で大事にしているのは、当たり前にその世界が存在しているように見せることです。ファンタジーでも現代の世界でも、キャラクターたちがそこで生活をしているのに違和感がないようにするのをとても大切にしています。「文明的にこの世界に機械が存在したら変だよね」とか「もっともっと広大さを感じるフィールドのほうがこの世界っぽい!」などを徹底して考えながら制作していきます。

ゲームの背景イラストは風景画ではありません。重要なのはやはり何を一番見せたいか。
ジャンルは違っても、すべてを描くのではなく描き過ぎずに「見せたいものを見せる」アプローチが、各タイトルで共通するサイゲームスの「らしさ」になっていると思います。

イメージした世界がかたちになり共有される
ゲーム背景制作の楽しさ

メグミさん自身のキャリアについて聞きたいと思います。背景美術の仕事に目覚めたきっかけはなんでしょうか?

アニメに関われる仕事がしたくて、アニメ制作会社で背景美術の仕事に就いたことです。アニメが好きで学生の頃から絵は描いていたものの、キャラクターが描けなくて、「背景ならなんとかなるんじゃないか」と軽い気持ちで始めました。そのため、ゲームの背景イラストについても本格的に学んだのは、サイゲームスに合流してからですね。

背景制作の知識がなくて最初はかなり苦労しましたが、学び始めてからは背景を描くことにどんどん魅力を感じてきまして。キャラクターと同じくらい奥が深くて、背景美術を追求するのが楽しくなってきました。

背景アーティストとして成長するため、どうやってスキルを磨きましたか?

やはり、たくさんイラストを見て学ぶことです。弊社で制作している背景イラストを見てかっこいいと思ったら「なぜかっこよく見えるのか」を分析して、かっこよく見える理由を突き詰めていきます。そうやって自分なりに理由を探して言語化することを繰り返していくと、自分が描く絵にもかっこよさの説得力が出てくるのです。

背景の仕事をしていく上で、特に大変なのはどんなところですか?

インプットを続けないといけないところですね。0から1を生み出す仕事で多くの引き出しが求められ、何もしないでいるとあっという間に描けなくなったり似通った絵ばかりになったりしてしまいます。これは、仕事をする上でずっと向き合わなければならないことです。

背景アーティストに向いているのは、どんな人だと思いますか?

絵を描くのが好きな人や物語の世界を作りたい人はぜひ挑戦してみてほしいです。
描くのが好きなことに加えて、会社の中で背景の仕事をしていくときに大事なのは、シンプルに「人の話を聞く」ことだと感じますね。制作の現場ではリーダーや先輩の監修を受けて、自分の意図とは異なる指摘を受けることがあります。現場で働きだしたら、作品に必要なものを理解しつつ柔軟に対応することが求められますので、適応力も大事だと思います。

ゲームの背景制作で、喜びを感じるのはどんなときでしょうか?

イメージした世界がかたちになって共有される瞬間が一番うれしくて楽しいです。同じチームのスタッフが作ったキャラクターが自分が描いた背景の中で生きていて、世界中のユーザーの方々がそこで旅をしてくれる……。そのような広がりを想像すると、とてもやりがいを感じます。

あとは、背景制作はチームプレイなので、周りに相談して見落としている部分に気付けたり、自分だけでは思い付かないアイディアをもらえたりするのも良いところですね。多くの人が関わって緻密で広大な世界を作ることがゲーム制作の楽しさであり、それが作品全体の面白さにも繋がっていくと思います。

ゲームの中に入り込んだ気持ちで
背景の世界を楽しんでほしい

2024年5月から全国の大学で開催される「Cygames背景美術展 2024-2025」の見どころについて教えてください。

大きな背景イラストが展示されるので、細かい部分まで鑑賞しやすいと思います。背景に描かれているものには意味や意図があるので、ゲームをやり込んでいるユーザーの方が背景を単独で見たとき、隠された裏設定や作り手のこだわりが発見できるはずです。

また、『グランブルーファンタジー リリンク』の3D背景や背景のジオラマなどの展示も予定しているので、ぜひじっくり見てほしいですね。プレイしているときとはまた違う没入感や、実際にゲームの世界に足を踏み入れたような感覚を味わえると思います。

「Cygames背景美術展 2024-2025」

ゲームの背景で注目してほしいのは、どんなところですか?

描く側としては、背景イラストを見て何かしらの感想を持っていただけるだけで十分うれしいです!美術としてさらに深く味わってもらえるなら、ゲームの中に入り込んだ気持ちになって鑑賞するとより楽しめると思います。好きなキャラクターが生きる世界の空気感や光、香りなどまで想像して鑑賞し、ゲームへの没入感を深めていただけたらうれしいです。

最後に、これから背景アーティストを目指す方たちに向けてメッセージをお願いします。

世界観を作る役割には多くの知識と技術が必要ですが、だからこそ自身の成長を感じられる充実感があります。
背景を仕事にしたい方は、楽しいことや好きなものをたくさん見つけてほしいですね。インプットしたものが必ず役に立ちますし、好きという熱量が日々の制作を支える力になると思います。


以上、サイゲームスの背景美術についてのご紹介でした。
サイゲ―ムスはゲームに登場する背景イラストを集めた展覧会「Cygames背景美術展 2024-2025」を、全国5都市の大学で開催します。
ご興味を持たれた方はぜひお越しください。

「Cygames背景美術展 2024-2025」

■期間 2024年5月 ~ 2025年5月

■開催期間
京都芸術大学 2024年5月30日(木)〜 6月6日(木)
東北芸術工科大学 2024年7月23日(火) 〜 7月28日(日)
九州産業大学 2024年11月14日(木) 〜 11月20日(水)
名古屋芸術大学 2025年1月8日(水)〜 1月15日(水)
武蔵野美術大学 2025年5月2日(金)〜 5月13日(火)
※開催場所や開場時間等の詳細は公式サイトをご確認ください

■入場料 無料
※一般の方もご来場いただけます
※一部の企画は学生のみが対象です

Cygames背景美術展 2024-2025 公式サイト