『グランブルーファンタジー リリンク』背景美術 背景アーティストとエンジニアが連携して創り出した『グラブル』の3DCG世界

2024年2月に発売された『グランブルーファンタジー リリンク(以下、リリンク)』。『グランブルーファンタジー(以下、グラブル)』の2Dイラストの世界観を3DCGで構築することを目指した本作は、「背景アーティスト」と「アートパートのエンジニア」が密に連携しながら、壮大な空や雲が広がる美しいフィールドづくりに挑みました。
今回は背景制作の担当者たちにインタビュー。『グラブル』から『リリンク』へ、3DCGで世界観を表現する上でのこだわりに迫ります。

コンシューマーデザイナーチーム / サブマネージャーヤスアキ
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ゲームパブリッシャーでの業務を経て2018年にサイゲームスへ合流。『グランブルーファンタジー リリンク』背景パートのリーダーを担当した。
コンシューマーデザイナーチーム (3DCG)スグル
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ゲームデベロッパーでの背景制作の業務を経て2020年にサイゲームスへ合流。『グランブルーファンタジー リリンク』において、プロシージャルツール作成やカットシーンの空や雲の背景を担当した。
大阪コンシューマー部 ゲームエンジニアダイキ
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ゲームデベロッパーで経験を積み、2016年にサイゲームスへ合流。『グランブルーファンタジー リリンク』では、雲や草花のアート表現検証に携わり、後にアートパートのリーダーを担当した。
大阪コンシューマー部 ゲームエンジニアコウタ
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2019年にサイゲームスへ新卒入社。『グランブルーファンタジー リリンク』アートパートのエンジニアとして、主にライティング周りのグラフィックやポストプロセス(画面効果の設定)周りを担当した。

『グラブル』の世界を極限まで再現
『リリンク』の3DCG背景はいかにして作られたか

『リリンク』の背景の特徴はなんですか?

ヤスアキ 原作『グラブル』の世界観を3DCGで表現しているところです。2Dで描かれた『グラブル』の美しい世界を、3DCGで極限まで再現することを目指しました。どこから見ても『グラブル』らしい背景にするため、単に背景を3DCGで再現するだけではなく、『グラブル』のデザインに対する考え方や全体のステージ構成など、すべて含めて『リリンク』へ引き継ぐことに挑戦しました。

スグル 『リリンク』の背景は、手描きのような優しい色彩と画面構成が特徴的ですね。3DCG背景を制作する際は作中のシーンやシチュエーションにふさわしい、さりげない演出にこだわりました。色や物が物理的に正しいかどうかではなく、各シチュエーションで求められるものに相応しい印象になる背景を目指しています。

▲原作『グラブル』らしい雲の表現を追求

ダイキ エンジニアの観点から言うと、最近は自動化を取り入れて背景の大部分を一括で作成することが多いです。しかし、『グラブル』の世界観を極限まで再現するという目標に反して、自動化では『グラブル』らしさを表現しきれませんでした。そこで、アーティストが一つひとつ手作業で見え方を調整して、『グラブル』らしい美しさを追求していったんです。これも本作の特徴といえます。

コウタ 現実世界では正しくない表現でも、『グラブル』らしさを表現する上で正しいのならば採用……というかたちで制作しましたね。例えば現実ではあり得ないライティング(光の当て方)になっても、『グラブル』らしい表現になるように光と影のコントロールをしています。

▲原作『グラブル』らしいライティングを追求

空気感や物の配置などを丁寧に表現しているのも『リリンク』らしいところだと思いますね。小物が背景の中になじむように置かれていたり、近くと遠くで空気の層が分かれていたりして、まるで2Dイラストのような仕上がりになっています。

▲小物を背景になじませた例

どのような工程で2Dイラストの『グラブル』から、3DCGの『リリンク』を制作したのでしょうか?

ヤスアキ 工程には複数のパターンがありました。『グラブル』は世界設定が確立されているため、主要な背景は2Dアーティストが用意し、それを基に3DCGの背景を再現しています。とはいえ、背景は膨大な量に及ぶため、すべてをこのフローで進めるのは難しく、2Dアーティストが対応しきれない部分を、3DCG側で補完しながら進めることもありました。

スグル 3DCGアーティストが2Dイラストの背景を作ってみて、アートディレクターから色彩や情報量、質感などについてのフィードバックを受けて調整して……というのを繰り返しましたね。地道なやり取りを何度も重ねるこの作業は、『グラブル』背景のコンセプトやタッチを本質的に理解する上で非常に役立ちました。

エンジニアの業務はどのようなものでしたか?

ダイキ 私たちエンジニアの仕事は、アーティストが望む表現を可能にするツールを開発することです。『リリンク』の背景制作にあたり、アートディレクターから「2D専門のイラストレーターでも3D空間上で絵を描けるようなツールが欲しい」という強い希望がありました。『グラブル』らしさを追求するためには自動化できない作業が多く、アーティストの仕事量が膨大になることが予想されたため、できるだけ描きやすいツールを設計しました。

▲2D専門のイラストレーターがツールを使用して描いた背景の一例

アーティストとエンジニアの連携はどのように行っていったのでしょうか?

ダイキ ツールを開発する際はその都度アーティストにも確認してもらい、方向性や使い勝手に関するフィードバックを受けてブラッシュアップを重ねました。スグルさんが担当した雲の表現などは、特に時間をかけた部分ですね。

コウタ 私は主にライティング周りのグラフィックを担当しており、ライティングに関する相談窓口や作業内容の整理をしていました。ライティングに関することは、エンジニアの業務領域外も含めてアーティストとしっかりと連携を取って会話して、認識を揃えるようにしていましたね。週次定例があったので、そこでアーティストから要望やフィードバックをもらってツールの制作を進めました。

エンジニアとして、連携していく上で特に気を付けたのは、どのような部分でしょうか?

ダイキ アーティストと認識を揃えることです。我々エンジニアは絵に関する専門知識が十分ではないので、「『グラブル』の絵とはどのような表現なのか」「ここにこの色が入るのはなぜ?」など、『グラブル』の世界を描く上での基本法則を教えてもらいました。そういった前提知識をインプットし、認識を揃えた上で、「それならば、こういうものが必要ですよね」とエンジニアから提案をしていきました。

コウタ 「何かあればいつでも相談してください」というスタンスで開発に臨みました。連絡を受けたらとにかく何か反応したり進捗共有をしたりと、信頼関係の構築に気を配ったことも大切だったと思います。

▲特にライティングに注力した場面

雲や風の表現を徹底追求
対象物の特徴を理解しながら美しさを描き出す

『リリンク』の3DCG背景を制作しながら、こだわったことや苦心した点を教えてください。

スグル こだわったのは先程も話した色彩や画面構成ですね。『リリンク』にはカラフルなキャラクターが多数登場するので、キャラクターと背景のバランスに配慮しました。例えば、シアン(青緑)系の髪色のルリアがいる場面では背景のシアンを青寄りの色相に変更するというように、キャラクターを引き立たせるための調整を加えています。

▲キャラクターと背景のバランスに配慮

コウタ 私たちエンジニアが背景制作でこだわったのは、表示された絵が大きく崩れないようにすることです。例えば、ゲームをプレイしていてロードが間に合わなかった場合でも、背景の絵の見え方や印象が変わらないよう気を付けました。また、3DCGゲームでは角度を変えると絵が崩れてしまうことがありますが、『リリンク』ではどの角度から見てもきれいな背景に見えるようにこだわっています。ライティングもいきなり画面が明るくなったり暗くなったりしないよう、自然な明暗に調整しています。

苦心したのは処理負荷の軽減ですね。背景の質を上げるほど描画処理の負荷がかかってしまうため、クオリティーを下げずにいかに軽くするか、アーティストとも相談して取り組みました。

▲処理負荷を軽減することに注力したシーン

『グラブル』『リリンク』の重要な要素である雲の表現は、どのように作られたのでしょうか?

スグル 雲を描く際に意識したのは、まず、その特徴をしっかり理解することです。雲の大きさは山のように巨大なものから岩のように小さなものまであります。また、色は太陽の光が水や氷の粒に当たって拡散、減衰していくことで変化します。大きさや形は自在で、色は太陽の光とともに変化する。こうした雲の特徴をきちんと把握した上で、『リリンク』内の演出に合わせ、かつ画面になじむようなものを作っていくのにかなり苦心しました。

ダイキ 雲の表現は我々エンジニア側も相当検証を繰り返したところです。3D空間上にふわっとした雲を表す方法を考えて、ゲームの進行に合わせて「どんな雲が必要か」も考慮しながら試行錯誤していましたね。空を舞台に360度展開する場面もあるので、シチュエーションごとにポリゴンの雲や3Dモデルの雲など様々なアプローチを試みて、最終的にいくつかの表現に絞っていきました。『リリンク』制作の中で最もこだわり、苦心した部分だったと思います。

▲ツールを用いて繊細な雲を表現

雲の他に特にこだわった表現などはありますか?

ヤスアキ 風の表現ですね。ツール上に専用の「風のテスト部屋」を用意して、相当こだわって仕上げた要素の一つです。ゲーム内のシチュエーションごとにふさわしい風を設定するため、テスト部屋に木を並べて風の受け方を計測しながら様々なパターンを用意しました。一つのステージの中で「ここは高台なので強風」「ここは遮蔽が多いので弱風」のようにエリアごとに細かく風を設定したり、カットシーン内でも場面や演出意図に合わせて風の強弱を細かく調整したりしています。

▲ツール上に作った専用の「風のテスト部屋」

ゲームをもっと楽しんでいただきたい!
アーティストとエンジニアが選ぶ背景の注目ポイント

ここからは、『リリンク』の背景を構成している空や街、草花など様々な要素について聞いていきます。場面の絵とともに注目ポイントを教えてください。

■空、雲の表現

スグル 空、雲の場面で注目いただきたいのは、オープニングと、ステージ移行の際に騎空艇グランサイファーが進んでいくシーンです。オープニングはゲームの始まりで、アートディレクターのコンセプトアートもあり、ここでの表現を最高のクオリティーにすべく、全力で取り組みました。
ステージ移行の場面については、グランサイファー以外に見せるのは空だけですが、単に雲の流れをループさせているわけではありません。船が進み始めるところと映像が終わるところで印象を変え、ステージが変わる期待感を持っていただけるようにと空を描いていきました。

▲オープニング
▲ステージ移行の際の騎空艇グランサイファー飛行シーン

■街並みの表現

ヤスアキ 『リリンク』世界の主な拠点である辺境の街フォルカと花都シードホルムは、対照的な場所で見どころが多くあります。のどかな田舎町である辺境の街フォルカは、不揃いな建物が自然に溶け込んでいるデザイン。一方で都会かつ歴史的な街である花都シードホルムは、都市計画に基づいた構築を感じさせる直線的なデザインの中に、一部住民たちの生活感を残すかたちで制作しました。この2拠点の違いを比較しながら楽しんでもらえたらと思います。

▲辺境の街フォルカ
▲花都シードホルム

■風の表現

ダイキ 風が吹いているステージは風の様子が視覚的に伝わるよう、草原が風で波打つ表現にしました。チーム内ではこの表現手法を「草波」と言っています。草花のざわめく姿を通して風が吹いている様やその強弱、ステージの雰囲気を表現しています。

コウタ キャラクターたちの足元に生えている草を揺らす一方、遠方の風はそこまで強くないように見せていますね。同じステージで全く違う風を表現しているところがあるので、その演出に注目いただければと思います。

▲風の表現が特徴的なステージ

■草花の表現

スグル 現実では当たり前なのですが、草花は種類が違えば色や質感が違い、同じ種類でも個体差があります。それを前提に、『リリンク』の草花は『グラブル』らしい表現になるようにバランスを取っています。

草花が印象的な場面は、やはりフォルカとシードホルム。豊かな自然が残るフォルカでは草花が町中に溶け込んでいます。シードホルムでは同じ草花でもフォルカと種類が異なり、針葉樹や葉が大きい観葉植物などを置き、レイアウトもフォルカとは違った管理されている雰囲気が出るようにしています。

▲フォルカの草花
▲シードホルムの草花

■光の表現

コウタ ゲーム序盤に訪れる教会は、光の差し込み方にもかなり気が配られていますのでご覧いただきたいです。キャラクターが部屋を歩き回ったときにどの角度からもきれいに見えるよう、小物一つひとつにまでこだわってライティングがされています。

▲部屋のライティング

花都シードホルムの地面も、光を使った表現がわかりやすいです。広場のような開けた場所の影には空の青い色が入っていますが、路地裏の影は黒に近い色になっています。光の入り方だけを見てもどのようなエリアなのか、雰囲気が伝わってきますね。
光の配置で場面を演出していますので、注目いただければと思います。

▲シードホルムの広場
▲シードホルムの路地裏

『リリンク』の背景の中に盛り込んだ隠し設定などがあれば、教えてください。

スグル フォルカの教会のレリーフや装飾物は、キャラクターの一人であるローランの衣装がモチーフになっています。

ヤスアキ 同じくフォルカの教会は外観の雰囲気が周りと違っていて、実は星の民の高度な技術で造られた建造物である、という設定があります。

スグル グランサイファーでステージ移行する場面では、画面の中に前後のステージの要素を盛り込んでいます。例えば、雪山に向かうときは重い雪雲があり、雪山から出てシードホルムへ行くときは開始時に重い雲があるようにしました。

また、砂漠から距離が近いという設定の溶岩地帯では遠くに火山が見え、シードホルムの空からヴァヨイの塔へ向かうときは場面の終わりにヴァヨイの塔が遠くにちらっと見えるようにしています。

ヤスアキ その他にも、砂漠のステージ「ダリ遺跡帯」にあるレリーフが後に登場する敵を暗示していたり、ヴァヨイの塔でこれまでの冒険を思い出させるモチーフが出てきたりしています。
このように細部まで色々な要素を盛り込んでいますので、プレイ中に探してみていただけるとうれしいです。

背景アーティストとエンジニア
チームワークを良くするコツは?

『リリンク』背景は、背景アーティストとエンジニアのチームワークで作り上げてきたということですが、異なる部署同士で協力して上手くいくコツはなんでしょうか?

ダイキ 先に話したように認識を揃えること。そして、相手に対するリスペクトですね。エンジニアが開発したツールは、アーティストが使ってくれて初めて絵づくりの役に立ちますから。アーティストの仕事を尊敬しつつ、日頃から作業内容も見て、使いやすいツールの作成を心掛けています。

ヤスアキ ダイキさんが言うようにお互いを尊重して、なおかつコミュニケーションのための時間や労力を抑えることが大切だと思いますね。ゲーム制作はいかにトライ&エラーを繰り返すかが成功の鍵なので、ざっくばらんに相談をしてアイディアを試し合える関係を早めに作ったほうが良いです。そのためにも、まず自分自身が相談しやすい人でいようと意識しています。

そして、自分の仕事を守ろうとしすぎないこと。ゲーム開発の現場では型破りな要求も珍しくありません。忙しいからといって非協力的にならず、「とりあえず話を聞きます」という姿勢、サービス精神を維持することが上手くいくコツだと思っています。

最後に、背景アーティスト・エンジニアを目指す方へ向けて、仕事のやりがいや楽しさを教えてください。

コウタ エンジニアの仕事の魅力は、自分が開発したツールで他の誰かがすごいものを作っていることです。アーティストがツールを使うことで自分の仕事が10倍にも100倍にも広がっていくのが非常に面白く、やりがいのあることだと思います。

ダイキ 自分一人では絶対にできないものをみんなと一緒に作り上げられることにやりがいを感じます。絵も描けないし3DCGも全く作れない自分が、アートパートのエンジニアとして『リリンク』のような背景美術に関わる仕事をしています。仲間と協力して大きなことを成し遂げたいなら、ゲームづくりはぴったりの仕事ではないでしょうか。

スグル ゲーム背景の仕事を続けていて面白いのは、発見がたくさんあることです。描くために色々と調べたり、普段何気なく見ているものをあらためて観察したりするのが楽しいですね。知っているつもりでも意外と知らないことが多いのを実感しますし、開発の工程で新しい技術や未知のものに触れられるのも興味深いです。さらにはエンジニアと連携しながら「そんなことができるんだ」と驚きつつ、自分の想像を超えたものを一緒に作ることができる。非常に魅力的な仕事だと思います。

ヤスアキ ゲームに限りませんが、背景はコンテンツ画面の大部分を占める要素です。背景の品質が作品全体の世界観やクオリティーに大きく影響するため、プレッシャーも大きい。だからこそやりがいがある仕事でもあります。

背景に関する仕事は絵づくり以外に受け持つ範囲が広く、他部署と関わる機会が多いため周りの人の考えを吸収でき、ゲーム制作の流れを把握しやすい業務でもあります。ゲームのディレクションを仕事にしたい方にもおすすめですね。背景制作で経験を積むと、きっと大きく成長できると思います!

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以上、『リリンク』背景美術についてのご紹介でした。
ゲームをプレイする際は、ぜひ背景にもご注目ください。

サイゲ―ムスは『リリンク』を含むゲームに登場する背景イラストを集めた展覧会「Cygames背景美術展 2024-2025」を、全国6都市の大学で開催しています。
ご興味を持たれた方はぜひお越しください。

「Cygames背景美術展 2024-2025」

■期間 2024年5月 ~ 2025年5月

■開催期間
京都芸術大学 2024年5月30日(木)〜 6月6日(木) ※終了しました
東北芸術工科大学 2024年7月23日(火) 〜 7月28日(日) ※終了しました
金沢美術工芸大学 2024年10月2日(水)〜10月6日(日) ※終了しました
九州産業大学 2024年11月14日(木) 〜 11月20日(水) ※終了しました
名古屋芸術大学 2025年1月8日(水)〜 1月15日(水)
武蔵野美術大学 2025年5月2日(金)〜 5月13日(火)
※開催場所や開場時間等の詳細は公式サイトをご確認ください

■入場料 無料
※一般の方もご来場いただけます
※一部の企画は学生のみが対象です

Cygames背景美術展 2024-2025 公式サイト

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