サイゲームス×草薙イラストレーター対談 ゲームとアニメの背景制作の共通点と違いとは!?

ありがたいことに、サイゲームスのゲーム背景は、多くのユーザーのみなさんからご好評いただいています。今年7月に開催した、主要ゲームタイトルの背景イラストを展示するという初の試み「Cygames背景美術展」も、多くの方にご来場いただくことができました。
また、グループ会社のひとつである草薙は、TVアニメや映画などの背景美術を専門に手掛けており、著名な作品にも数多く携わっています。
今回は、「サイ技(わざ)」特集企画として、サイゲームスと草薙のイラストレーターに、背景制作のプロセスや大切にしていること、そして背景イラストレーターを目指す方へのメッセージを語ってもらいました。

サイゲームス イラストチームヒロアキ
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2014年にサイゲームス入社。『Shadowverse』のコンセプトアートや、ストーリーモードの背景アート監修と制作を担当。現在は背景イラストチームのリーダーとして人材育成にも携わる。
株式会社 草薙 背景美術統括ユウキ
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2015年に草薙入社。現在は美術背景統括を務める。代表作はTVアニメ『CHAOS;CHILD』(美術監督)、Netflixオリジナルアニメシリーズ『Levius』(美術監督)、劇場アニメ『二ノ国』(美術補佐)など。

人々の心に刺さる背景とは?
背景イラスト制作に込める想い

サイゲームスの作品も草薙の作品も、背景のクオリティーの高さをよく評価いただきますよね。どういう部分が人々の心に刺さっているのだと思いますか?何か心がけていることはありますか?

サイゲームス・ヒロアキ まず、ユーザーのみなさんにゲームを楽しんでもらいたいという想いが根底にあります。そのために、ユーザーの方がゲームの世界に入り込んで、それが体験として心に残るような、キャラクターの気持ちとか、その場の空気感までが伝わるような、印象的な背景を作りたいと思っています。その気持ちが背景から伝わっているのだとしたらうれしいですね。

▲『Shadowverse』より「アイアロン 全景」

キャラクターの気持ちや空気感のような、目に見えないものを絵にするのは難しそうですね。

ヒロアキ そうですね。それを培うには、日々の観察かなと思います。あとはスタッフ間でもノウハウを共有していますね。『グランブルーファンタジー』の背景が象徴的だと思います。空の距離感や建物のスケール感といった、サイゲームスらしい世界観を演出する要素がいくつかあって、それを他のプロジェクトとも共有しています。
背景チーム全体で、お互いのプロジェクトをリスペクトしながら、良いものを共有しようという雰囲気ですね。

草薙・ユウキ アニメですと、原作がある場合は基本的に原作のファンがアニメを見てくれることを考えて、再現度をどれくらいにするかは意識しますね。それから、キャラクターが映える場面作りを意識します。見終わったときに印象に残らない絵にはしたくないので、大事にしたいところはしっかりと描きます。その一方で、キャラクターを引き立てたい場面では描き込みを抑えるなど、バランスもとりながら。
また、キャラクターが動いたり音楽が付いたりすると見え方も変わってくるので、途中で映像化したものを見て色味を変えるなどの調整を加えることもあります。全体的に振り返って、良い作品だったと思ってもらえる背景を描きたいと思っています。

▲Netflixオリジナルアニメシリーズ『Levius』より ※2019年11月28日配信開始

ゲーム業界とアニメ業界、お互いの業界の背景イラスト制作についてどんな印象を持っていますか?

ユウキ 私もゲームは結構やりますが、サイゲームスの作品を見ると、かなり時間をかけて作っているのだろうなと感じます。1枚の絵に詰まった情報量がすごいなと。アニメは全体を通しての出来という見方なのに対して、ゲームの背景は1枚で全部を伝えているのが素晴らしいですね。

ヒロアキ 私からすると、アニメはクオリティーラインの統一や、スケジュールに対する感覚が研ぎ澄まされていると思います。短い納期の中で、たくさんの人が関わって膨大な作業をされていて、それで意思の統一がちゃんとできていることが驚異的ですね。
あと、キャラクターの動きがあるから面白くなるカットや、カメラアングルが大きく変わるカットなど、アニメならではの動きがある中でその1カットをどう見せるのかというのは、自分たちの画作りとは違う魅力があると思います。

ちなみに、サイゲームスの場合、ゲームの背景1点を作るのにどれくらいの時間をかけているのでしょうか?

ヒロアキ ものによって違いますが……早いものは7日くらい、長いものだと20日以上かかるケースもあります。単に絵を描く時間だけでなく、デザインの試行錯誤や監修等の時間も含みます。特に、ユーザーの方々の目に留まる時間が長いものは、試行錯誤を重ねます。キービジュアルや地図など、長く使い続けるものですね。場合によっては雑誌広告や駅貼りのポスターなどにも使われますし。ぱっと見のインパクトと、ずっと見ていても飽きないことを両立できるデザインを心がけています。

お二人にとって、アニメやゲームにおける理想の背景イラストとはどんなものでしょうか?

ユウキ アニメの背景は、ぱっと見の伝わりやすさが重要だと思っています。画面に映る時間が極端に短かったり長かったりとまちまちなので。例えば、瞬間的に映るシーンなら、シルエットを強調してそこに何があるのかが一瞬で伝わるような絵、キャラクターが登場せずに背景だけが映るシーンなら、印象に残り、現実のものを基にして描き込まれた説得力がある絵ですね。

ヒロアキ 背景を含むゲーム全体を通じて、この世界を体験できて良かったと思ってもらえるものを描くのが理想です。
アニメもそうだと思いますが、ゲーム上でユーザーのみなさんが目にする絵は、背景が部分的にキャラクターで隠れてしまうことを前提に描かれています。その隠れた部分も含めて楽しんでいただいて、ゲームの世界を旅行しているかのような、思い出に残る体験をしてもらえたらうれしいですね。

まずは意図の汲み取りから
背景イラストレーターが最初に担うこと

背景イラストレーターの仕事内容について、ゲーム、アニメそれぞれ具体的に教えていただけますか?

ヒロアキ サイゲームスの背景イラストレーターはまず、プロデューサー、ディレクター、プランナー、シナリオ担当などがイメージするものを共有してもらい、ゲームの世界観をビジュアル面からどう表現するかを決めていきます。
具体的には、最初にゲームの方向性を表現したコンセプトアートやイメージボードを作成します。それができたら、個々の背景アートを描いていくというのが基本的な流れです。細かいものだと、地図やアイコンなどを制作することもあります。最近は3D向けのデザイン画などを作成する機会も増えてきましたが、メインは2Dの背景アートの作成ですね。

ユウキ 最初に監督の意図を汲み取るのはアニメも同じです。原作がある作品の場合はまず原作に目を通して、監督との打ち合わせをしてアニメをどういうテイストにするのかを詰めていきます。原作と雰囲気を変える場合はどう変えるか、原作よりも細かく描くとか、逆にライトに描くとか、明るい話にしたいからポップなタッチで描くといった感じですね。

確かにアニメ作品には原作とテイストが違うものもよくありますね。アニメの方向性に合わせて、背景のテイストも変えるということでしょうか。

ユウキ そうです。そうやって方向性を決めたら、メインとなるイメージボードや、よく出てくるシーンを美術監督が描いていき、絵のテイストを固めます。本格的な制作工程に入る前に、この作業をしっかりやっておくことが大事です。
その後、各話のシーンに必要な背景の作成に入ります。毎回350カットくらい作ります。このあたりのスケジュール感とか制作点数が、ゲームの背景と一番違うところかもしれませんね。

350カット!?それって1作品ではなく、1話ごとにですか?

ユウキ はい。それくらいが標準ですね。週1回30分の放送だと毎週350カット描くことになるので、いかに効率的に作業するかが重要事項となります。一定のクオリティーを保ちつつ、背景が重要なシーンとそうでないシーンを判断して、それぞれにかける労力を調整していきます。最近は、学園ものなど1つの場所が舞台の作品では、3DCGソフトで背景を作って、バリエーションを作りやすくするなどの工夫をしています。

すごいペースですね。どれくらいの人数で作業されているのですか?

ユウキ 現状は1話あたり、協力会社の方やフリーランスの方を含め、総勢10人前後というところでしょうか。

10人で350枚……!その中で、ユウキさんの役職である「背景統括」とはどんな役割なのでしょうか?

ユウキ 草薙の背景統括は、会社が受けている全体の仕事量やクオリティーなどを見て、美術監督や背景スタッフを割り振るのが役目です。
美術監督は1つの作品に1人就いていて、背景美術をディレクションするのが仕事で、イメージボードを描いて作品の方向性や雰囲気を決める他、実作業にあたる背景スタッフの取りまとめも行います。
アニメの背景制作では1作品ごとに美術監督と背景スタッフが配置されるのですが、背景統括はそれを横断的に指揮するイメージですね。

なるほど。スケジュール通りの進行やクオリティーの担保に欠かせない、重要な役割ですね。

「1枚の絵としての完成度」と「カロリーの配分」
作品全体のイメージを決める要素

『Shadowverse』のようなゲームの運用タイトルで新しい背景が必要になるのは、例えば新しいストーリーなどが追加されるときでしょうか?

ヒロアキ そうですね。とはいえ、もっと早い段階から用意したほうが良いので、プロットの段階からイメージボードを作っておくことも多いです。『Shadowverse』だとリリースの1~2年前からコンセプトが決まるコンテンツもあるので、可能な限り先々の予定を聞いておいて、準備しておきます。

ゲームもアニメも制作に入る前にコンセプトアートやイメージボードを描かれるということですが、作品全体のイメージを決めるのに必要な要素とは何でしょうか?

ユウキ アニメの場合、私は「カロリー」と呼んでいるのですが、「全体の描き込みの密度の総量」に一番気を使います。
作品の雰囲気やキャラクターと合っているかはもちろん大切ですし、印象的な絵にしなければならない一方で、あまり描き込み過ぎて高カロリーになると、限られたスケジュールの中で、その後の作業が大変になってしまうので、そのあたりのバランスをとるようにしています。

ヒロアキ 作品やキャラクターのイメージに合わせるのはゲームも同じですね。あとは見た目の面白さとか、ユーザーの方々が体験して楽しそうかとか、その場所に行ってみたいと思えるかといった点を考慮しながら作っています。

アニメは「見られる」のに対し、ゲームは「プレイされる」という要素がありますよね。同じ背景でもお客さまからの視点が違うのかなという気がします。そのあたりで意識することはありますか?

ヒロアキ 恐らく「見られる時間」が全然違うかなと。ゲームはユーザーのみなさんが自分のペースで操作して進行するので、必然的に背景が目に入る時間も長くなりますよね。アニメは自動的にシーンが進行するので、ものによっては1秒くらいしか映らない背景もあるかと思います。
そういう意味でサイゲームスの背景で重視しているのは、1枚の絵としてのクオリティーです。ユーザーの方々が飽きずに眺められることを意識して、背景1枚1枚にキャラクター性を持たせて、ゲームの各場面が印象的になるような画作りを心がけています。その点で、アニメの背景よりも1枚にかける時間と試行錯誤が多いのではないでしょうか。

ユウキ 確かにそうですね。アニメだと基本、絵は流れていくものなので、1枚ごとの完成度よりもメリハリのほうが大切になります。そこで、あらかじめコンテの段階で重要なシーンを見つけておいて、見せ場となるカットを決めるんです。これも先ほどのカロリーと同じで、キャラクターメインで背景が引き立て役であるシーンにはあまり労力をかけず、背景を際立たせたいシーンに注力できるようにしています。

なるほど。アニメでは膨大なカット数がある中で、いかにメリハリをつけるかがカギになるのですね。

ユウキ はい。そういう労力の配分の意味で、どのスタッフにどのシーンを描いてもらうか、人によって得意・不得意もあるので、適したスタッフに仕事を振ることが重要になってきます。

大変なことや課題もある
それでも背景を描くのはやっぱり楽しい

お二人が絵を描く仕事をしていて一番楽しいときはどんなときですか?

ユウキ 頭に思い描いていたものが出来上がったときや、描いているうちに筆が進んで、それがかっちりはまって思い通りの絵になったときですね。見せ場のカットを描いたときは達成感があるし、それが評価されるとうれしいです。

ヒロアキ ゲームがリリースされたときですかね(笑)。絵を描いていますけど、ゲームを作っているという意識が強いので。ゲームを作っているいちクリエイターとして、ゲームがリリースされてユーザーのみなさんに楽しんでもらえたときがうれしいですね。

これから背景イラストレーターを職業として目指している人たちへのメッセージをお願いします。

ユウキ 今、アニメの背景では単純に「絵を描ける」以上のものが求められるようになっています。例えば、先ほどの話に出てきたように3DCGソフトでリアルな建物や部屋を構築して、作品の「舞台」を作れるような人です。2Dの絵だけではなくて、3Dも扱える人が重宝されているのは確かです。
それから、日常的にさまざまなものを観察して、研究して、絵作りに役立てることができる人。ものの構造を理解して、説得力のある絵を描ける人ですね。そこから想像力を膨らませて、現実にはないファンタジーの風景も描けるような想像力も大事です。

ヒロアキ ほぼ同じですね。知識は大事だと思います。建築の様式とか、地理的なものとか、世界史的なものとか、ものの仕組み、社会の仕組み⋯⋯。ありとあらゆるものについて、なぜそれがその形なのかを知っておかないと、絵に説得力がなくなってしまいますから。
ユーザーの方がその場にいるように感じる背景はどうしたら作り出せるのか。世界観を演出するために何が必要かを日々調べるなど、自分の知らないものごとに興味を持って取り組むことが大事ですね。知識に貪欲で、それを絵にできる喜びを感じられる人が向いているのではないかと思います。

最後に、今回の対談の感想を一言ずついただけますか?

ヒロアキ 実は今日初めてお会いしたんですが、楽しかったです。対談をさせていただいたことで、自分の仕事に対しても整理できましたし、やっぱり背景描くのは楽しいなと再確認できたのが良かったです。
質問に対する回答や考え方が同じところも結構あって、ユーザーのみなさんに対して良いものを届けたいという気持ちは変わらないんだなと感じました。真剣さも大変さも、同じ想いを持って仕事をしている同志という気がします。

ユウキ 私はゲームに対してはクオリティーや見せ方は絶対かなわないと感じていて、どうやって描いているんだろうとずっと思っていたんです。でも、お話を聞くと、描くフロー自体はだいたい同じということがわかりました。アニメという仕事の性質上、ゲームと同じ作り方はできないにしても、仕事に対する情熱とか向き合い方とか、そういった部分で刺激になりました。

今日お話いただいたことが、今後それぞれの制作によい影響や刺激を与えるきっかけになると幸いです!今日はありがとうございました。