『グランブルーファンタジー リリンク』世界観とリンクするサウンド制作 フォーリー&フィールドレコーディング事例
ゲームへの没入感を高める上で重要な役割を果たす、BGMや効果音、音声といった「サウンド」。2024年2月に発売し、約2週間で世界累計セールス100万本を達成した『グランブルーファンタジー リリンク(以下、リリンク)』では、『グランブルーファンタジー(以下、グラブル)』を3Dアクションゲームとして制作するにあたり、『グラブル』の世界観を感じさせると同時に、魅力あふれるキャラクター達の爽快なアクション操作を引き立てるサウンド制作に注力しました。
今回は、リリンクのサウンドデザインを担当したスタッフ2名にインタビューを実施。「フォーリー」「フィールドレコーディング」の二つの手法を中心に、サウンド制作のこだわりや裏話、印象的なエピソードなどについて聞きました!
※記事にネタバレを含みますのでご注意ください
※記事内の一部の動画は、サウンドが聴き取りやすくなるよう音量を調整しています
※今回の記事は音のサンプルを多数掲載しています。ぜひヘッドフォンをつけてお聴きください
- サウンドデザイナーチーム サブマネージャー / リードサウンドデザイナータクマ
- コンシューマーゲームのサウンドデザイナー職を経て、2019年にサイゲームスに合流。『グランブルーファンタジー リリンク』では主にバトルパートのサウンドデザインやリーダーを務めた。2024年よりサウンドデザインチーム サブマネージャーに就任。
- サウンドデザイナーチーム リードサウンドデザイナーマサタカ
- アクションゲームのサウンドデザイナー職を経て、2019年にサイゲームスに合流。『グランブルーファンタジー リリンク』のサウンドデザインチームのリーダーを務めながら、カットシーンのサウンド演出や制作を担当した。
遊ぶ人の感情や感覚に働きかけて
没入感を高める「サウンド」
ゲームにおけるサウンドの役割とはなんでしょうか?
タクマ サウンドはゲームの世界観を演出する要素の一つで、中でも特にプレイヤーの感覚に訴えかけることが得意です。例えば、そよ風や吹きすさぶ風など、様々なパターンの風音を状況に応じて鳴らし分けることで広大な空の世界を感じさせたり、ゲームの状況に沿った楽曲によって物語を引き立てたりします。様々な映像と合わせてプレイヤーの聴覚に働きかけることで、ゲームへの没入感を高める役割があると考えています。
マサタカ 今見ている場面がどういう状況なのかを伝え、主にプレイヤーの「感情」に作用するのが「楽曲」。一方、例えば敵から攻撃された際にプレイヤーへ痛覚を伝えるような、「感覚」に作用するのが「サウンドエフェクト(以下、SE)」という位置付けですね。
※ サウンドエフェクト……銃撃音、打撃音、道路で車が走る音、動物の鳴き声、風の音、ユーザーが画面をタップしたときの音など、ゲームの演出として付け加えられるあらゆる音のこと
お二人が担当した「サウンドデザイン」とは、具体的にどのような仕事なのでしょうか。
タクマ すごく簡単に言うと、ゲーム内の楽曲を除くすべての音(サウンド)を作る仕事です。ゲームの中でどのような音を流すか設計したら、実際にSEや音声を収録・制作します。
マサタカ 設計の段階では最初に、サウンド制作の方向性を定める事からスタートしました。定めた軸は以下の三つです。
- 原作キャラクターの魅力を再現する「全キャラクターが主役」を感じさせるサウンド
- キャラクターやフィールドのディテールに合わせたリアリティーあふれるサウンド
- アクションゲームらしい迫力あるサウンド
この3軸に基づいて、バトルに適した演出や、キャラクターの魅力を引き立てる武器や装飾物をサウンドでどう表現するか決めました。
『リリンク』のサウンドデザインで目指したものやこだわりを教えてください。
タクマ 『リリンク』は、2Dで描かれた原作『グラブル』の美しい世界を、3DCGで極限まで再現したアクションRPG作品で、仲間と協力して戦うバトルアクションが特徴です。ゲームの特徴を引き立てて深みを与えるため、『グラブル』独自の世界観にしっかり踏み込んだ上で、キャラクターの個性やシーンの魅力を感じさせるサウンド制作を心掛けました。
マサタカ スマートフォン向けゲームからコンシューマーゲームとなったことで、サウンドで表現できる幅が広がりました。最大限に良いものを目指そうと採用した手法が「フォーリー」と「フィールドレコーディング」の二つです。これらを目一杯に使うことで、現実世界で収録した音をベースに、臨場感あふれるリアルなサウンドを制作して『リリンク』独自の世界観をサウンド面でも実現しようと決めました。
装飾品やステージの質感を様々な素材で表現
「フォーリーサウンド」
『リリンク』のサウンド収録で採用した手法の一つ、フォーリーとはどのようなものなのでしょうか?
タクマ フォーリーは映像に合った動作音を、様々な道具を用いて作る(演技する)手法です。例えば、キャラクターの足音や大きくアクションしたときの衣擦れの音を作るために、映像に合わせて実際に歩いたり布を擦り合わせたりしながら音を作り上げます。音を鳴らすというよりは、映像に合わせて「音の演技」をするのがフォーリーで、そのプロとして「フォーリーアーティスト」という職業があります。『リリンク』のサウンド開発では、キャラクターの個性をより引き立てるためフォーリーアーティストに協力していただきました。
フォーリーサウンドの収録で特に印象に残っているエピソードを教えてください。
タクマ 特に難度が高く何度もディレクションを重ねた収録が、ゲーム終盤のステージ「ヴァヨイの塔」をキャラクターたちが進むときの足音です。このステージの足音に関するサウンドはアートディレクターから直々に、以下のような要望がありました。
このステージの地形は、アンラ・マンユや星のゲートなどの影響により、周囲の島々のあらゆるもの──鉱物や植物、家屋などが歪に融合してできています。風化した様々な残骸が折り重なって地形を作り上げているバックグラウンドを基にサウンドを制作してください。
(サウンドイメージ)
・柔らかめの卵の殻が敷き詰められたような音:サクサク、ザクザク
・細く繊細な飴細工のように、繊維質な物質でしつらえられたような音:パリパリ、サクサク
どのような材質で表現するか考えたとき、アートディレクターから「常に卵の殻を踏んでいるような音で」という話があったので、まず卵の殻で試したのですが、踏んだときの質感が軽くてマッチしませんでした。それで、もっと中身の詰まった音が作れる素材はないかと試行錯誤して、最終的に行き着いたのがバークチップ(木の樹皮をチップ状に砕いた園芸資材)でした。バークチップと木炭をミックスしたものを踏んで、サクサク・パキパキとした質感のある足音がようやく実現できました。
タクマ ここからは、『リリンク』でのフォーリーサウンド活用事例を紹介します。
■フォーリーサウンド活用事例1:キャラクター
1. サンダルフォン
サンダルフォンや女性キャラクターの足音の素材にはヒール付きの靴やブーツを採用しています。それぞれの性格や設定に合わせてサウンドに変化を加えるべく、様々な演技を試みたり靴を変えたりしながら制作しました。
また、サンダルフォンは羽の厚さ・重みを表現するため、布製のマントに革製のカバンを取り付けて収録しました。
2. 四騎士(ランスロット、ヴェイン、パーシヴァル、ジークフリート)
普段の生活において、靴の音の違いや歩き方のリズムなどによって誰が歩いているかを判別できることがあります。四騎士の足音はこれを表現したいと考えました。
全身に甲冑をまとい、靴まで金属が覆う装備を着けている彼らの足音の硬い質感を表現するために、皮のブーツやミリタリーブーツなど様々なものを試し、最終的には数々のスキーブーツで音を作ることにしました。フォーリーアーティストにブーツを履いて演技をしてもらい、四騎士それぞれの性格に合わせた足音を演出しています。
3. バザラガ
巨大なドラフ族の戦士・バザラガ。鎧のサウンドに四騎士以上の重厚感が必要だったので、ビルの工事などで使う固定用器具のクランプを詰めたランドセルを揺らして収録しました。金属同士が擦れたりぶつかったりする音にランドセルの重みが加わって、ずっしりとした鎧のサウンドを表現しています。
タクマ フォーリーサウンドは様々なシーンに独自の特徴を与えることができるので、キャラクター以外にも駆使しています。続いて、フィールドやステージギミックを表現するために活用した事例を2点ご紹介します。
■フォーリーサウンド活用事例2:フィールドの表現
1. 溶岩・マグマ
プレイヤーが溶岩の上を移動するサウンドや、マグマが飛び散るサウンドを作るため、素材にはスライム状の液体を使用。ビニールプールいっぱいに作り、叩いたり握り潰したりしながら、濃厚な粘り気のあるサウンドを制作しました。時間が経つとゴムのように固くなるので、収録は時間との勝負でした。
2. 水辺
水たまりの上を歩く音や水しぶきの音、巨大な敵が水に入ってくる音などを収録するため、溶岩・マグマのサウンド制作で使ったものより深めのビニールプールを使用。水を入れて中を歩いたり、板で水をかき出したりして収録しました。ビニールプールのメリットは反響音をおさえられることで、非常にクリアな水の音を収録できました。
環境音を収録し空間を音で表現
「フィールドレコーディング」
サウンド収録で用いられたもう一つの手法、フィールドレコーディングとはどのようなものでしょうか?
マサタカ スタジオ以外の環境で音を収録する手法です。風や雨などの自然音や街中の交通音や工事音、映画やテレビ番組など幅広く活用されている手法でもあります。『リリンク』は空の世界が舞台なので風の音には特にこだわりたいと思い、ゲーム内で使う自然音を中心に高原や山でのフィールドレコーディングを行いました。
■フィールドレコーディング活用事例
1. 上空1000メートル 気球での収録
騎空艇グランサイファーの甲板上や、エインステッド群島の丘陵といった場所のサウンドを制作するため、スタッフが気球に乗って上空1000メートルで風の音を収録。風速4メートル以上の場合は飛行ができない、日中は上昇気流が発生するので飛べるのは早朝か夕方のみ……といった条件の中、当日は早朝4時から機材の準備や身支度を整え、6時頃からフライトしました。現場で苦心したのはマイクの位置。気球に熱を供給するバーナーの駆動音が入らないよう、気球のかごの穴にケーブルを通してマイクを気球から垂らして収録しました。
2. 満奇洞(岡山県新見市)での収録
エインステッド群島・飛竜の谷エリアで使用する岩に囲まれた通路の環境音を収録するため、岡山県の天然記念物に指定されている鍾乳洞「満奇洞(まきどう)」の中で収録を行いました。観光スポットですので、人の話し声や足音が入らないよう入洞者があまりいないタイミングを狙ってレコーディングを実施。鍾乳洞独特の静かでひんやりとした空気感に加え、水の滴る音などを録音しました。
『リリンク』全体のフィールドレコーディングのスケジュールは、どのようなものでしたか?
マサタカ フィールドレコーディングは収録する季節が重要です。春夏は鳥の繁殖期で虫なども多く、特に夏は収録してもセミの鳴き声しか聞こえない……という事態になりがちなので、レコーディングは基本的に冬に行いました。
収録する時間帯でこだわったのは、可能な限りゲーム内で音が流れるシチュエーションと同じ時間にすること。『リリンク』は夜のシチュエーションが少ないので、日中をメインに録音を行いました。
収録用の機材や道具はどのようなものを揃えましたか?
マサタカ 4.0~5.1チャンネル(※)を収音できるサラウンド対応のマイクと、それらを録音できるレコーダーを揃えました。機材を担いで山中を移動するので、できるだけ疲れない機材編成を考えて、持ち運びやすいマイクスタンドや軽くて扱いやすいキャンプ用の椅子なども持っていきましたね。
※ チャンネル……マイクが音を拾う方向のこと。「4チャンネル」であれば、4方向を収音する
ロケーションの現場は、実際どのようなものでしたか?
マサタカ 屋外で環境音を収録すると、どうしても飛行機の通過音や船の汽笛、人の話し声などが混ざってしまいます。それを踏まえてきちんと使える音を多めに確保するため、一度録音を始めたら30分~1時間ほど継続し、その間スタッフは何も音を立てずに待機する……という感じで作業を行いました。冬の寒い現場でじっとしていないといけないときもあり、フィールドレコーディングは体力勝負、かつ忍耐力が鍛えられる仕事でもあると思います。
冒険の道中で響くサウンドに
耳を傾けてほしい
ゲームのサウンドデザイナーを目指す上で必要なことは、どのようなことだと思いますか?
タクマ サウンドデザイナーは、プレイヤーの聴覚に働きかける「音」の効果を最大限に活かす仕事です。「このゲームにはどのようなサウンドが合うのか」と考えるところから始まり、「重たい足音を作るために何を用意すれば良いか?」⇒「スキーブーツが良いかもしれない」といった発想を重ねて、最終的に理想のサウンドを実現しなくてはいけません。したがって、試行錯誤を重ねるチャレンジ精神が必要になってくると思います。
マサタカ 「音」そのものに対して興味があることが大切だと思います。私自身、元々は楽曲の領域が好きだったのですが、今はSEを作る仕事に夢中になって取り組んでいます。「音」に関心があったり惹かれる気持ちがあったりする方ならば、きっと面白さを感じられると思うので、一度、音づくりにチャレンジしてみてほしいです。
最後に、ユーザーのみなさんに向けて『リリンク』のサウンドの楽しみ方を教えてください。
マサタカ 『リリンク』はアクションバトルやキャラクター同士の掛け合いが魅力的な作品ですが、世界観を伝えるためにバトル以外の街中の音やステージを移動するときの環境音などにもこだわり抜いています。より一層物語を楽しめると思いますので、冒険の道中で響くサウンドにもぜひ耳を傾けてほしいです。
タクマ テレビ、ヘッドフォン、ホームシアターなど、ゲームのサウンドを聴くスタイルは様々だと思います。『リリンク』のサウンドはどのような環境でも迫力や臨場感を得られるように仕上げていますが、その上で、さらなる楽しみ方としておすすめしたいのは立体音響のモード。ぜひ、ヘッドフォンを装着して立体音を感じていただきです。テレビの音やスピーカーと比較してみるとより楽しいと思います。
以上、『グランブルーファンタジー リリンク』サウンド制作についてのご紹介でした。
ゲームにおけるサウンド表現の手法は日々進化しています。今後も最新技術を追求し、細部までこだわり抜いたサイゲームスの作品内の「サウンド」に、ぜひご注目ください!
『グランブルーファンタジー リリンク』公式サイト※協力
・株式会社AZSTOKE 武田紗吏奈 様 (公式サイト)
・新見市産業部商工観光課 様 (公式サイト)
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