背景美術『ウマ娘』編 2Dと3Dで表現するウマ娘たちの実在感

「最高のコンテンツを作る会社」をビジョンに掲げるサイゲームスでは、ゲームの背景美術も最高のクオリティーを目指します。本記事は、ゲーム『ウマ娘 プリティーダービー(以下、ウマ娘)』の背景美術に注目。『ウマ娘』の背景美術では、育成中やメインストーリーなどにおける、ウマ娘たちの会話シーンを中心とした日常的な場面を主に2Dで、レース後のウイニングライブやレース中のスキルカットインなどの非日常的な場面を主に3Dで表現することで、ウマ娘たちの実在感を高めています。今回は、作品の魅力を引き立てるために大切にしていることや、制作のこだわりについて、2D・3Dそれぞれの制作担当者がご紹介します。
- 背景イラストレータータクミ
- アニメ制作会社で10年ほど 美術設定・美術監督補佐・美術監督などを経験し、2018年にサイゲームスに合流。背景イラストレーターとして『ウマ娘 プリティーダービー』の背景イラスト・コンセプトアート制作やデザインチェックに携わっている。
- 3DCGアーティストマサヒデ
- ゲーム会社にて4年ほど大型筐体向けの3Dゲーム制作を経験し、その後コンシューマーゲーム開発などに16年ほど従事した後、2013年にサイゲームス合流。3D背景のリーダーとして『ウマ娘 プリティーダービー』の背景CG制作や監修に携わっている。
『ウマ娘』の背景はいかにして作られているか
担当者が語る制作現場
『ウマ娘』がリリースされてから4年が経ちました。あらためて、『ウマ娘』の背景の特徴はどんなところにあるのか教えてください。
タクミ 背景イラストは、キャラクターやシナリオの情感を第一印象で伝える「舞台装置」だと考えています。ゲームをプレイしているとき、イベントが起きた際や会話シーンなどでは、まずキャラクターと背景が表示されますよね。背景は最初にユーザーの目に映るものの一つなので、これからどういうお話が展開されていくのかが、ぱっと見て雰囲気が伝わるものにしたいと考えています。
『ウマ娘』はトレーナーさん(プレイヤー)とウマ娘の二人三脚の成長の物語であり、青春の一コマを扱った作品です。スポーツのような熱い要素もあるんですが、2Dイラストの方向性としては、あまり汗臭く、泥くさくならないように、爽やかな画面づくりを意識しています。
マサヒデ 基本的な考え方は3Dでの背景制作でも同じです。レース場以外の場面については最終イメージの参考となる2Dのアートがあるので、それに準じた3D背景を制作します。レース場については、実際の競馬場をベースにしつつ、トゥーン調で描かれたウマ娘のキャラクターを配置したときに違和感が出ないように気を付けています。
タクミ 3Dのウマ娘が前に配置されたときに違和感が出ないようにするのは、2Dでも気を付けています。例えば背景の影の色が強く出るとキャラクターのテイストから離れてしまうので、『ウマ娘』の背景イラストでは影を濃い黒で塗ることはほとんどありません。キャラクターの柔らかい色合いに添うように、影の色や鮮やかさには気を使っています。
マサヒデ 3Dでも極端にコントラストが強くならないように意識しています。3DCGの場合、ライティングは細かく設定してやらないとどうしても硬い印象になってしまうんです。デフォルトの状態だと影が濃く出ることがあるので、そういう部分は後から柔らかい色になるように明度などを調整しますね。
『ウマ娘』を特徴づける要素として、レース中のスキルカットインやウイニングライブなど、3Dのダイナミックなシーンがあります。こうしたシーンの制作は、どんな手順で進めるのでしょうか?
タクミ 制作の流れはどのシーンもだいたい同じですが、ここではスキルカットイン演出を例に説明しますね。最初に大まかなアイディアとして、プランナーが用意した「こういうカットインを作ります」という文字ベースの情報があり、それを基にインタラクションデザイン アニメーションチームのコンテ担当者がコンテ(※)を描きます。コンテができたら2D、3Dの担当者を交えてミーティングを開き、イメージを共有します。
続いて、コンテを基に2Dチームがコンセプトアートを描きます。3D制作の補助となるようコンテの中の1カットのデザインを詳細に詰めるのですが、例えば場所(舞台)のイメージをラフとして描き起こしたり、キャラクターが映像内の演技で使用する小物をデザインしたりします。場合によっては背景素材としてそのまま使用できる、しっかりしたイラストを作成することもあります。
※ コンテ……映像制作において、シーンごとの構図や動き、セリフ、カメラワークを絵と簡単なテキストで示した設計図のようなもの


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マサヒデ コンセプトアートができたら、それを基に3Dの背景を制作します。容量などの関係でそのまま3D化するのが難しい表現もあるので、そのような場合はイラストチームと相談します。
タクミ 限られた期間の中でコンスタントに制作していく必要があるので、作業が効率的に進むように、最初のミーティングの時点で相手がどこまでを求めているのかを確認し、細かい疑問点をなるべく解消するようにしていますね。
2D+3Dで描き出す
ウマ娘たちが生きる舞台
背景制作におけるこだわりポイントはなんですか?また、苦労する部分はどんなところでしょうか?
タクミ 実例を見せながらご説明しますね。下図の倉庫は「ウマ娘たちが普段どんなトレーニングをしているのか、想像をかき立てるような背景」というコンセプトで描いたものです。トレーニング機材の他に、学園を舞台にした作品らしく、ボールや得点板など普通の体育の授業で使うものも置いてあります。トレーナーの方が見たときに、ちょっと懐かしいと思えるような要素も入れたいなと思って描きました。

タクミ こちらも一見、普通の洋服店ですが、帽子に耳用の穴や、スカートに尻尾用の穴が空いていて、『ウマ娘』らしさがちりばめられています。ファッションが好きなウマ娘・ノースフライトのために帽子をたくさん置いてほしい、というシナリオチーム側からの要望を反映した背景イラストです。洋服店の背景は他にも数点あり、いずれのカットも帽子や服に耳や尻尾の穴が空いています。

次に、3Dの注目ポイントを教えてください。
マサヒデ レース場は現実の競馬場を基に制作しています。制作前には写真や映像などの資料集めにかなりの時間をかけました。他の業務と並行して行ったため、資料集めには1か月以上かかったと思います。


マサヒデ オブジェクトのデザインや配置などは、ウマ娘の実在感を演出しながらも、現実の設定に準じたリアルなものに仕上げています。例えば、ハロン棒やラチ(柵)の他、スターティングゲートやゴール板などについては、ウマ娘たちのサイズ感に合わせて高さを調整しています。元々馬の体格に合わせて設計されているので、そのままの大きさだとウマ娘たちが小さく見えてしまうからです。一方で、全体のコースの距離は実際の競馬場と同じにしてあります。
レース時やキャラクター解放時にも使用されているスキルカットイン演出に関して苦労したポイントなどはありますか?
マサヒデ まず、スキルカットイン演出に使えるメモリー容量はかなり少ないという制限があります。初期に作ったカットインの容量が基準になっているのですが、最近では複数の背景を使いたいなど、色々と凝った演出が増えてきたので、基準のサイズ内にどう収めるか模索しています。
また、カットインの種類によってはかなり「補間」が必要なこともあります。例えば[Clear Bliss]ミスターシービーのスキルのカットイン演出では、結構な距離を彼女が疾走します。描かれたカットイメージは、奥に山が見える草原の晴れバージョンと曇りバージョンが1点ずつ、そして草花がアップになるものが1点でした。絵コンテ時点でカメラが回り込む演出になることはわかっていましたので、これらのカットイメージを基に雰囲気を掴み、彼女の横や背後に見える麓を中心に、カットイメージで描かれていない部分を3Dで補っています。


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— ウマ娘プロジェクト公式アカウント (@uma_musu) February 24, 2023
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続いて、ウイニングライブのステージ制作に関するエピソードを聞かせてください。
タクミ 最近のステージ制作の中から、特に印象深った事例として「O – ロライズ」をご紹介しますね。まず、この楽曲が使用される『メカウマ娘編(※)』とは一体何だろう、というところから制作が始まりました(笑)。どれくらいメカ感を出したら良いのか加減がわからなかったので、初期案でかなりメカに振り切った雰囲気でステージのコンセプトアートを描いたところ、それはちょっとやりすぎだよね、と「待った」がかかりました。そこでややメカらしさを抑えつつ、メカウマ娘・「ST-2(サティ)」のデザイン要素を採り入れて、最終の形に落ち着きました。最適な「メカ感」を掴むのが一番苦労した部分かもしれません。
※ 『メカウマ娘編』……『ウマ娘』の育成シナリオの一つ「走れ!メカウマ娘 -夢繋ぐ発明-」のこと




『ウマ娘』のステージは、トラス(骨組み)などの構造がかなりリアルに再現されていると聞いたことがあります。実際はいかがですか?
タクミ はい、その通りです。『ウマ娘』プロジェクト全体の方針として、ウマ娘たちの実在感を持たせるためにもリアルな構造に寄せることを重視していて、しっかり作り込んでいます。トラスの構造なども研究して、実際に同じステージのセットを組めるくらいのクオリティーを目指しています。とはいえ、我々は現実の舞台美術の専門家ではないので、本当に組めるかどうかは自信ありませんが……(笑)。
マサヒデ 『メカウマ娘編』に限らず、ライブステージは楽曲の進行とともにリアルタイムでライティング(被写体を照らす光の使い方や配置)が変わるので、照明が当たったときに「変な色だな」「ステージのイメージと違うな」などの違和感が出ないように3D背景を制作しています。あらかじめイラストレーターからライティングイメージを提出してもらって、光が当たったときに色が破綻しないようテクスチャーの色味などを決めています。
ウイニングライブのステージ制作で工夫した点や、印象に残っているエピソードなどはありますか?
タクミ 先ほどステージ制作について触れた「O – ロライズ」に関して、この楽曲は、主人公が失意から立ち上がり、後半で夢に向かって感情を爆発させるという歌詞になっています。それに合わせてステージのライティングも、前半は全体的に暗めかつ寒色系にして、後半では色彩豊かな明るい光があふれるという構成にしました。
なるほど、『メカウマ娘編』のストーリーにリンクしているんですね!
マサヒデ 3Dですと、3.5周年記念イベントで実装した「UMA Summer」のミニキャラライブで、ミニキャラ用のステージを作ったのが印象に残っています。ミニキャラは通常のウマ娘のモデルと違ってディテールの描写が簡素になっているので、ステージもそれに合わせてデフォルメしました。
実を言うと、ミニキャラの画面は基本的にカメラの位置が固定されているので、背景を3Dで描く必要はないのです。ただ、最後までそのステージのどの角度から映した背景にするか決まらないこともあるので、だったら3Dで作ったほうが調整しやすいよねということで制作しました。ミニキャラとのテイスト合わせは我々のさじ加減で決められたので、担当者は悩みながらも楽しんで制作していました。


『ウマ娘』らしい世界観を作り出す秘訣
続いての質問です。2D、3Dという異なるチーム間で連携して絵を作る際、上手く進めるためのコツはなんでしょうか?
タクミ やっぱりリスペクトですかね。相手の仕事の仕方を見たり想像したりして、どういう描き方なら相手に伝わりやすいか、やりやすいかを意識しています。
マサヒデ 我々3DCGアーティストの仕事は2Dのイラストありきの部分が大きいので、相手へのリスペクトや感謝を持って仕事をするようにしています。また、2Dのイラストを確認して「これは3Dで表現するのは難しいな」と思ったことは、なるべく早い段階で相談するようにしています。
業務の中で具体的にリスペクトや感謝の気持ちを表しているということでしょうか?
マサヒデ そうですね。イラストを上げてもらったら、毎回一言添えるようにしています。絵を見ての率直な感想や、3D化ができそうかのコメントなどですね。
タクミ そういうフィードバックがあると単純にうれしいですし、「この方向性で良かったんだ」っていう安心感が生まれるので、とても助かります。
アーティストとして、『ウマ娘』プロジェクトに合流してから増やしたインプットはありますか?
タクミ 所属プロジェクトに関係なく、インプットは常にしていかなければいけないものなので、いつも心掛けています。背景を描く仕事なので、いろんなところに出掛けて、建築物や風景のディテール・構造などをしっかり観察することが基本ですね。家屋の建築様式なんかも、気になったものは全部調べています。
『ウマ娘』の背景を描くようになってからは、以前よりもライブ会場やステージなどを詳細に観察するようになりました。様々なテイストの引き出しを持てるように、海外のライブ映像を見たり、オペラや舞台、音楽以外のステージもチェックしたりしています。
マサヒデ 『ウマ娘』関連のインプットは増えましたね。合流する前までは競馬について全く知識がなかったんですが、この仕事をするうちに競馬に興味が出てきて、競馬場に関する知識なども自然と身に付きました。
ありがとうございます。それでは最後に、背景アーティストのやりがいや、この仕事に向いている方を教えてください。
タクミ 自分が描いた舞台でキャラクターたちが活き活きと動いているのを見ると、背景アーティストとして大きな幸せを感じます。そういったところに面白さを感じられる方には向いている仕事だと思います。背景がメインとはいえ、我々もスキルカットイン演出の中で動物を描いたり小物を描いたりしますし、なんでもデザインできるスキルは必要です。この道を目指す人は、背景以外にもいろんなことに興味を持ってインプットしていくと良いのではないでしょうか。
マサヒデ ゲームの背景を作っていて喜びを感じたのは、自分が作った背景がその後の工程を経てゲーム内で使われている場面を見たときですね。キャラクターが入って、演出が入って、カメラワークがあって、エフェクトが入って……そういった使われ方をしているのを見たときに、「この仕事、面白いな!」と思ったんです。背景ってゲーム画面の中でかなりの面積を占めるものなので、プレイヤーの目に触れる機会も多いですし、やりがいのある仕事だと思います。
以上、『ウマ娘』背景美術についてのご紹介でした。
ゲームをプレイする際は、ぜひ背景にもご注目ください。
サイゲ―ムスは『ウマ娘』を含むゲームに登場する背景イラストを集めた展覧会「Cygames背景美術展 2024-2025」を、全国6都市の大学で開催しています。
ご興味を持たれた方はぜひお越しください。
「Cygames背景美術展 2024-2025」
■期間 2024年5月 ~ 2025年5月
■開催期間
京都芸術大学 2024年5月30日(木)〜 6月6日(木) ※終了しました
東北芸術工科大学 2024年7月23日(火) 〜 7月28日(日) ※終了しました
金沢美術工芸大学 2024年10月2日(水)〜10月6日(日) ※終了しました
九州産業大学 2024年11月14日(木) 〜 11月20日(水) ※終了しました
名古屋芸術大学 2025年1月8日(水)〜 1月15日(水) ※終了しました
武蔵野美術大学 2025年5月2日(金)〜 5月13日(火)
※開催場所や開場時間等の詳細は公式サイトをご確認ください
■入場料 無料
※一般の方もご来場いただけます
※一部の企画は学生のみが対象です
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